どうせみんな死ぬB02
砲雷科の狙撃班は建造物の屋上をパルクールのように移動しながら俺たちに接近する第2の敵影がいないか、探りつつ進路を確保する。
俺たちは地上を全力で走った。
アーレスはシドウが捕縛したふたりの男を担いでいる。とんでもない筋力だ。ちなみに他になにか隠し持っていないか厳重にチェックを済ませている。奥歯に自決用の毒を仕込んでいないかなども。
「港まであとどれくらいだ?」
『このままのペースを維持すれば8分で到着します』
「よし。港の前にはロータリーがあり、大通りも面している。開けた場所ではあるがペンタリブルの住民の往来や、支部の軍人も常駐しているところで堂々と仕掛けるような馬鹿な真似はしないだろう。このままグラディオスに向かうぞ!」
「はい!」
「了解だぜ!」
シドウが拳銃を構えながら先導する。こういう任務も経験したのだろうか、ペースに乱れはないし、乱暴な警戒でもない。地上と上空からのダブルチェック。そして俺の監視カメラのハッキングでトリプルチェック。進路にハルモニのレッドアラートの要因もない。このまま直進しても問題はない。
《ハルモニ。グラディオスには今、来客がいるな?》
《その回答をすることはできません》
俺は軍籍を抜かれてこそいないが、グラディオスでは退役扱いだ。新たにインストールされたハルモニも、前のと同じく融通がきかない。
だが、それでも回答にはなっている。
肯定でも否定でもない。だが来客が無ければ否定する。つまり絶対にいる。
クランドの采配だ。俺が不在の時に処理しようとしたのだろう。
けどそれは失着だ。
「………っぁ」
「エー先輩? まだ痛むの?」
ソータが俺を覗き込む。
『ちょっとな。嫌な予感がしっ放しだよ』
けどこの症状は、先程の刺客たちの腕の端末から情報を抜き取る際に過負荷を掛けたことによる後遺症だと思わせておけばいい。
実際は異なる。
ハッキングの対象にした監視カメラが、港に接近するほど、不快感が増していく。
まるで眼球を裏側から舐められているような悪寒。吐きそうになる。
とにかく急がなければ。ここで捕まるより、グラディオスで真意を確かめた方がいい。その方がまだ俺の安全は確保されている───
「っ………!」
「どうした?」
ゾッとするような悪寒が強くなる。その正体が上にいる気がした。見られているような。
バッと顔を上げると、振り返ったシドウに見られた。
『………すみません。気のせいだったようです』
「だが今のお前が言うなら、可能性は否めんだろう。………狙撃班、数名ここに残ってくれ。エースが建物の上に敵影、もしくは気配を感知した。周囲の警戒を」
アーレスは両腕が塞がっているゆえ、シドウが全体的な指揮を執る。『了解』と返答があり、3人が立ち止まって周囲の警戒に当たる。
「アーレスさん。そのひとたち、エー先輩が狙いみたいだったんです。ビームシールドの製造のことについて聞きたいようでした。でも………」
「おそらくきみの思っているとおりだ。しかし今は、一刻も早くグラディオスに戻ることが優先される。集中しながら、様々な可能性を模索するんだ」
クスドの質問に、アーレスは優しい笑みを浮かべて優先事項を守らせる。筋肉はまったく優しくなく、男たちを落とさぬよう隆々と動いていた。あれで死んでないのが不思議だ。
けれど、あれで死んでないということは、相当鍛えているという証拠。
きっとそれは、重要なヒントになるだろう。
「見えたぞ。港だ!」
大通りを縦断して、俺たちはやっと港に駆け込む。警備員に事情を説明してあったのか、手続きせぬまま内部へと駆け込むことができた。
「───待ちな。若い艦長殿。俺はグラディオスの整備科主任のカイドウっていうんだが、俺からも質問いいか?」
「もちろんです。私で答えられるものであれば、すべてお答えしますよ」
クランドに対峙しているビーツに、鋭い視線を叩きつけるカイドウ。
初見なら、その迫力に圧されて多少は言葉に詰まるところ、ビーツはその様子もなく、社交の心得があるようで、礼儀を尽くした出立ちでカイドウを向く。
「なら、最初によぅ………人員を貸し出す、つまり移籍させるってことだが………俺ぁ、どうしてもその必要があるたぁ思えねぇんだ」
「ほう。それは、なぜでしょう?」
「俺らの目は誤魔化せねぇぜ? お前ら、かなりの激戦をくぐり抜けて、艦だって損傷したって言ってたらしいじゃねぇか。けどおかしいよな? 今、隣にいるアリスランドはまったくの無傷だぜ? 修理したって形跡もねぇくらいだ。俺らは初期の古参メンバーだからよ、グラディオスのこともよーく知ってらぁ。装甲や銃火器。ありゃあ何回か取り替えてはいるけどよぉ。激しく壊れたようには見えねぇんだわな」
カイドウの鋭い眼光が、ビーツを撃ち抜こうとする。
しかしビーツは、それでも臆しはしなかった。
「艦に問題はありません。しかしパイロットを多く失いましてね」
平然と、それも自然に損害ポイントを切り替える。
「アリスランドのガリウスとパイロットかね?」
「はい。テンプス艦長が揃えた選りすぐりですが、やはりガリウスFでは性能も限界でした。その点、グラディオスはとても幸運でしたね。まさか第七世代ガリウスGを、すぐに受領できたのですから。こちらはすでに、半分以上を失っていて、いざアンノウンに囲まれたらと思うと、生きた心地がしません」
「そうかい。そりゃ気の毒にな。だがこちとら、パイロットも新人でな。正規軍ではあるが、まだまだ未熟よ。それがいきなり環境の異なる艦へ移動しろだなんて言われれば、本来のスペックなど発揮できるはずがねぇ。いったい誰を欲しがってる?」
高度な心理戦で、ビーツの思惑を読もうとしたクランドとは対照に、カイドウは包み隠すことなく、ズバッと本題に入る。
「数名。アリスランドへ移動していただくだけでいいのです。そうですね………例えば………うん?」
ビーツはドッグを見渡し、それらを目にして、初めて双眸を見開いた。
「………どうしたのかね?」
「………六号機が………健在している!? それにタイタンジャケットがふたつ。製造ラインには………パピヨンジャケットまで!? ………ふ、はは………なんということだ」
「ビーツ艦長代理。体調が悪いなら、無理に話を続けることはないと思うが?」
ビーツの反応を訝しむクランド。胸騒ぎがしていた。
ビーツは顔面を手で覆い、しばらく自分の世界に浸ったあと、呼吸を整えて───先程と同じ、社交に優れた笑みを浮かべるのだった。
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