どうせみんな死ぬB01
グラディオスのレーダーが、その艦を捉えた。
クランドたちは腰を上げ、ドッグに集合する。
エースからのエマージェンシーコールをシドウが受け、気が気ではなかったが、アーレスまで出たのだ。きっと無傷で生還する。
元々アーレスは特殊部隊の出だ。その後、色々あって、それこそカイドウとほぼ同じ、民間人の命を軽視する上官を半殺しにした経緯があって左遷。クランドが拾った。今も現役時代から変わらぬ筋肉をしている。ならば、心配することこそ間違っているのだ。
ペンタリブルの第1シャッターが開く。そこに収容された黒い艦影。続いて第2が開くと第1が閉まる。緊急時以外はすべてが全開になることはない。漆黒の宇宙戦艦が、グラディオスの隣につけた。
数十分後、酸素が満ちたと告げられ、漆黒の宇宙戦艦から人員が現れる。
「………来やがったぜ」
「………ああ」
ドッグの巨大なモニターを見上げるカイドウとクランド。
外に出た人員は、色違いではあるがクランドたちとほぼ同じ装いをしていた。
特殊強襲特装艦グラディオス級二番艦アリスランド。そのトップらが、一番艦グラディオスへと接近していた。
「………待て。なにかがおかしい」
「だな。艦長服着てる奴、若すぎやしねぇか? なんならエースとそう変わらねえぞ」
アリスランドもまた連合軍の機密である。舵を取れるトップも、グラディオスに劣らぬエリートを揃えているはずだ。
ならば───とクランドの脳裏に、それだけのことを可能にする人員がリストアップされ、削除を続け、ひとりだけが残った。クランドの同期である恰幅のいい士官だ。ただ、能力は極めて高いが、人望が比例して高いわけではない。出世する度に部下を使い潰しては捨て、新しい人員を潰している。クランドはその男、テンプスを軽蔑し、毛嫌いしていた。
テンプスはクランドとは真逆な人物で、有用性があれば子供だろうと武器を持たせて戦わせる主義だ。子供の命が散ろうと、心を痛めるはずもなく、あろうことか唾を吐く。
きっとアリスランドの艦長になっている──と予想したが、その艦長がとても若くて驚いた。
ドッグの隔壁を潜って、ついにクランドたちはアリスランドの人員と対峙する。
「特殊強襲特装艦グラディオス級、一番艦グラディオス艦長、クランド・デネトリアだ」
「同じく、特殊強襲特装艦グラディオス級二番艦アリスランドの艦長代理をしております、ビーツ・クノと申します。お会いできて光栄です。クランド艦長。この度は救援要請に応じていただき感謝します」
「………ああ」
ふたりは背後に部下を従え、対面と同時に敬礼する。
するとビーツ・クノという若すぎる艦長は、人懐こい笑顔を浮かべ、クランドに握手を求めた。握手に応じる。歳のわりにはゴツゴツした手だったのが印象的だった。まるで使い続けた末に皮膚が硬化し筋肉が発達したような手だ。クランドもそれなりに硬いが、これはどちらかといえば、カイドウに似ている。
「いやぁ、本当に光栄ですよ。あなたほど優秀な艦長を、私は知りません。できれば、当艦の艦長席に座ってほしいものです」
「残念だが、私はここを離れるわけにはいかん。それよりも、きみは艦長代理と言ったな? 本来の艦長はどうした? いや、二番艦の艦長は誰なのだ?」
「あなたの同期だと言っていたのを覚えています。テンプス・オーノルです」
「………やはりあいつか。で、テンプスは今どこにいる?」
「先の戦闘で、艦長は………名誉の戦死を遂げられました。立派な最後でした。軍人として、冥利に尽きる死に様でしたよ」
「………そうか」
特に悲しくはならなかった。テンプスは、いつか誰かに刺されて死ぬだろうとさえ思っていたからだ。意外にも戦闘で死ねるなら、テンプスも軍人として不満はないだろう。………と思っておくことにする。実際は周囲を「この無能どもが!」と罵りながら死んだに違いない。
「きみは艦長代理と言ったが、もしや副官か?」
「いえ。メカニックです」
「………そうか」
クランドだけではない。カイドウも眉根を寄せる。
差別をするつもりはないが、整備科の人間が、それもこんな若くして艦長代理を務められるとは思えない。
実際、グラディオスにもそういう人員がいたことはいたのだが、クランドがもし戦死してしまったとしても、彼が艦長代理をすることはないだろう。適任を据える。副艦長に任せればテンプスの二の舞だ。各セクションのリーダーのなかから選ばれる。
「きみは優秀で、人望が厚いようだ」
「クランド艦長のような立派なお方に評価していただけるなんて、光栄です。ありがとうございます。………さて、こうしていつまでも雑談をしていても私は楽しいので構わないのですが………」
「………ああ。そちらの損害の件だな。しかし、こうしてお互いに港に降り、連合軍の支部も近くにある。そこから人員や物資を補填した方がいいのではないのかね? 実際、我が艦も補給や物資調達を進めている」
救助要請が届いたゆえに、グラディオスはアリスランドの救助に参上した。
しかし、いざ目的のポイントに到着してみれば、ペンタリブルが近くにあり、港につけて落ち着いた場所で対談を可能にしたのである。
これでもし仮に、ペンタリブルのような連合軍の支部のあるコロニーが近くにない場合に限っては、一時的な人員の貸出だったり、修理の援助だったり、航行不能であれば牽引もする。
アリスランドの要求は、あまりにも無理難題だった。人員の補填を、つまり艦から艦へ移籍するよう要求してきたのだから。
「いえ。実はそういうわけにはいかぬのです」
「なぜだね?」
「艦長もご存じのとおり、グラディオスならびアリスランドは連合軍のなかでも異色たる最新鋭の艦。であるならば、対応できる軍人がどれだけいるのでしょうか? グラディオスとて、最初から満足がいくクルーが集まったわけでもありますまい?」
「………確かに、な」
「ならば、グラディオスで研鑽を積んだ優秀なるクルーを、アリスランドに補填していただきたいのです。お恥ずかしい話、我が艦の艦長は優秀ではありましたが、あくまで業務上結果を出せる実力があっただけで、人員育成の才能はなかった。結果として………我が艦が幾多もの戦闘で負ったダメージは計り知れません。何卒、ご了承願いたい」
艦長代理たるビーツという少年は、テンプスよりも話がわかる男だ。
そして柔軟にして、説得力がある。合理的かつクルーの命を軽視せず、理不尽を突きつける上官であっても、戦死を遂げれば汚点とせず尊重する。
ある意味で理想的な艦長なのかもしれない。
けど、なぜなのかはわからないが、先程からクランドの脳裏には、あの少年のことが思い浮かんでばかりで、即決せずにはいられない。
もしあの少年がこの場にいたら、なんて言うのだろうかと、気になって仕方がなかった。
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