どうせみんな死ぬA08
「ガキどもは行ったぜ」
「ああ」
カイドウはオペレーションルームのモニターのひとつを艦外カメラに接続して、タラップから降りていく子供たちを見送った。
サプライズではあったが、退役させる予定のエースと、子供たちの最後の時間を過ごさせてやりたくて、スケジュールを強引に調整した。各科の主任たちが同意して、パイロットを中心とした人員を無理矢理外に出したのだ。
理由はもうひとつある。
エースの拘束は子供たちなら可能だろう。彼らはクランドの本意を知らぬまま、自由時間に没入するはずだ。
その間に大人たちは自分の仕事をしなければならない。
前回の戦闘でグラディオスも軽微であるがダメージを負っている。コロニーの港に入り、ある程度安全を確保したところで艦の全体的な整備と修理を、整備科と砲雷科が努めた。
「カイドウ。お前は見送りに行くべきだった。数十分なら問題はない。お前はエースを可愛がっていただろう」
「会えば別れが余計に辛くなるだけだ。一生会えないってわけでもねぇよ。それでも会える確率は、俺に残された時間では一度あるか無いかだろうが………これでエースが苦しまずに済むってなら、問題ねぇ」
「………そうか」
クランドは薄く笑う。自嘲めいた笑い方だった。
カイドウはモニターを消す。操作をオペレーターに返した。
ただ、ここでひとつミスをした。もしエースを見送りに行ったり、カメラ越しでも注意深く凝視さえしていれば、永久にエースをペンタリブルに縛り付けることができたのだ。
「ランデブーまでの時間は?」
「未だ望遠カメラに艦影はないことから、予定どおり3時間後であると考えられます」
「ギリギリだな。せめてパイロットたちの自由時間を半日まで伸ばしてやれれば………いや、それでは不満が募るか。できれば全員羽を伸ばさせてやりたい。カイドウ。合流し次第、1時間で済ませるぞ」
「あいよぅ」
これから会う予定の人物から、なぜかエースを遠ざけたくなったのだ。
それは直感に近い。カイドウも同意見だった。詳細は知らないし、存在すら知らされていなかった。クランドは恐怖にも似た感情を抱くも、子供たちにそれを背負わせたくない一心で、自らを律して立ち向かうと決めた。
コロニーも宇宙船も、どちらも宇宙を航行する乗り物だ。
戦いになれば壊れるし、揺れる。
明確な違いがあるとすれば、解放感のある広域や、空気だろうか。あとはどれだけ手を伸ばしても届かなさそうな空。本物の空ではなく、擬似的に青空を映し出しているに過ぎないが、風と、大地さえあれば艦内とは違ってストレスもいくらか緩和される。
『ソータたちは………本物の空や風を知っているか?』
交代制で車椅子を押す後輩たちに尋ねてみた。今はソータの時間だ。甲斐甲斐しく押してくれるから嬉しいったらもう。あとで撫でてやらないと。
「なにそれ。エー先輩、いつのまに詩人っぽくなったの?」
ソータが年相応の顔をして笑う。
「俺たちは全員、サフラビオロス出身だ。エー先輩の言う空と風は、本物といえば地球のことだろう? なら、一度だって本物を体感したことなどあるはずがない」
「そうねぇ。なんなら、海だって見たことがないわ」
後ろを歩くコウとユリンが言う。
「エー先輩も、確かサフラビオロス出身ですよね? やっぱり本物が見たいですか?」
さらに後ろにいたクスドが問う。
『さぁなぁ。でも、グラディオスに乗っていれば、いずれ地球に行く機会があるだろうし。その時に体で感じればいいさ』
「そうだね。いつか本物の海で泳いでみたいなぁ。しょっぱいんだってね」
クスドの隣にいたヒナが笑う。
宇宙に浮かぶコロニーに、海はない。余程裕福なコロニーでなければ、そんな膨大な水を所有することはできないし、もし海の一部を模した海水浴場があったって、塩分濃度など知れたものだ。
確かに本編ではグラディオスは地球に進路を向け、降下する。本物の空と海を知ったのは、このなかでは6人だ。そして地球の海や大地で永遠に眠ることになる奴もいる。
俺がグラディオスに戻らなければ、きっと本編と同じ運命を辿ることになるだろう。ヒナもどこかで死ぬ確率の方が高い。
「エー先輩も見ましょうね。本物を。絶対に」
『そうだな。見たいな』
俺の前を歩くシェリーが振り返る。ハーモンも一瞬振り返り、笑いながら首肯した。
しかし、そんなハーモンの視界に、また興味を唆られる店が入ってしまう。
「お、あれいいじゃねぇか! 食おうぜ!」
「ハーモン。さっきお昼ご飯食べたばかりでしょ? いったい、何回食べれば気が済むわけ?」
食欲旺盛なハーモンは先程から露店を発見しては食べ歩いている。シェリーが呆れて、ハーモンのレザージャケットを引っ叩いた。
陽気なイタリアンレストランのバルコニー席を陣取って食事をしたあと、一軒目は手軽なスイーツの露店に立ち寄った。
デザートが重なるが成長期かつ普段から食べることも仕事にしているパイロットたちが揃っていたため、誰も反対せずにアイスを堪能する。かなり散財したのだが、俺たちは軍人として雇われている身であり、給金も出ている。その上パイロットには緊急出撃手当ても出るから、サフラビオロスにいた頃よりも所持金の桁が3つくらい多い。外食と食べ歩きをしたところでさしたる散財にもならない。
観光気分で歩いては露店を発見し、ハーモンは目を輝かせては片っ端から網羅する勢いで購入し、貪っている。たくさん食べるきみが好き、というニュアンスのフレーズを前世で聞いたが、さすがに俺も食べ過ぎではないかと心配になってきた。
「いくらでも食えるぜ。お? シェリーよぉ。まさかお前、この程度で限界ってかぁ? 弱っちいなぁ」
「………調子に乗ってんじゃないわよ馬鹿猿が」
「おぅおぅ。怖ぇ面がもっと怖くなりやがった。顔面破壊兵器かテメェ。今ならアンノウンを眼力だけで殺せるんじゃね?」
「面白いことほざくのね。その前にあんたを破壊してやるわ」
バチバチしてんなぁ。このふたり。
いつの間に仲良くなったんだ?
………案外、こういうカップルも有りなのか?
ほら、ファンって、公式の予想外のカップルで盛り上がる時があるし。
けれども時と場所を選ばなくてはな。仲がいいのはよろしいけど、喧嘩しそうになっているふたりを往来のひとたちが迷惑そうにしながら遠ざかっているし。
『こらこらきみたち。イチャつくのはいいけど、帰ってからにしたまえ?』
「イチャついてなんかねぇっすよ先輩!」
「そうですよ! 誰がこんな馬鹿猿と!」
「なんだと顔面破壊兵器!」
「やるのか馬鹿猿!」
ふむふむ?
火に油を注いでみたけど、面白いリアクションだこと。
こりゃあ、推せるかも?
《───シビリアン・エース。前方に警告》
《警告?》
やり取りとしては一瞬。ハルモニからの通信がダイレクトで頭で響いた。いきなりのレッドアラートだ。
直後、車椅子の車輪に手をかける。車輪の外側には搭乗者が握って回す輪があり、前後左右の他にブレーキの役割があった。その動きを察知したソータが車椅子を停止させる。
「先輩? ………うん?」
ソータが気付くと、全員が停止する。
ハーモンとシェリーは喧嘩を中断。極めて軍人らしい動きで俺の前を固める。コウとユリンが後方を。ソータとヒナが俺を固め、クスドとアイリは周囲を見渡した。
「………囲まれてるね」
「チッ。なんだこいつら」
クスドの意見に、ハーモンはたまらず舌打ちした。
その前方。ハルモニがレッドアラートを発した対象がふたり。俺たちへ躊躇いもなく歩いてきた。
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