どうせみんな死ぬA07
港は巨大な隔壁を有し、外界とコロニー内部を遮断していた。
複数の層があるのだ。コロニーの空気を可能な限り逃がさないため、巨大な隔壁を順番に開けては後ろを降ろす。そうすることで接舷後、数十分でノーマルスーツを着用せずに外に出ることができる。
かけられたタラップを歩く複数の足音。ソータたちではない。
なんか久しぶりに会った気がする。サフラビオロスのアスクノーツ学園に通っていた1年生たちだ。軍に志願せず、保護されていたため、俺とはどうしても会う機会がなかった。
みんな、俺の姿を見て息を呑んだ。それから大きく息を吐く。それだけでわかる。「ああ、軍人にならなくてよかった」という安堵のため息だ。明日は我が身というように、軍人に志願すれば、いつこんな状態になっても不思議ではなかったからな。
俺は彼らを責めるつもりはない。誰だって辛い目に遭ったり、激痛を伴う怪我をするのは嫌だからだ。
そしてなにより彼らは、グラディオスで過ごした数ヶ月こそ地獄だっただろう。
男女別に狭い場所で集団生活をし、衣食住こそ提供されたが移動は制限され、自由こそ少ない。娯楽もないしな。俺たちのように端末は貸与されないし。毎日誰でもできるような軽作業を与えられ、その成果として食事が与えられたようなものだ。
グラディオスという刑務所に収容された虜囚と、なんら変わりない。
彼らは彼らで、地獄を耐えてきた。その苦痛を否定するつもりはない。
そしてなにより、今日が数ヶ月という刑期を満了した囚人が釈放される記念日───などと勘違いしている彼らが可哀想でならなかった。
実はまだ終わりではない。よく考えれば当然だ。
タラップを降りた先にいるのは彼らを待っている家族ではない。ペンタリブルの連合軍だ。彼らはまた軍の施設に保護という名目で収容されてしまう。とは言っても数日だ。グラディオスは連合軍の最新鋭にして多くの機密を所有する艦で、そこに乗艦したとなれば、避難民であろうと守秘義務が発生する。簡潔に述べれば「これから誰になにを問われても黙ってます」という内容で、しかも気が遠くなるくらいの誓約書にサインしなければならない。
それらは嫌だと訴えたところで軍人らが「あら、嫌なの? じゃあ書かずに帰っていいよお疲れさん」と朗らかに笑って釈放するはずがない。精々「あら、嫌なの? いいよ。俺らはきみらがサインするまで何日でも待つから」とか言って、すべてに目を通してサインするまで帰さない。
そしてサインが終われば釈放ではない。サフラビオロスに帰属する彼らは、すぐに両親とは会えない。サフラビオロスから脱出した避難民がどこにいるか調べないといけない。すぐにでも会う旨を伝えようにも時間がかかる。
その間、彼らは軍の施設に収容されるわけだ。
しかし、グラディオスにいた時よりも自由は保証されている。グラディオスで毎日行った軽作業は、実は給料が発生する。学生が持つには多い賃金だ。グラディオスから出た瞬間に彼らに入金される。申請すれば施設の外に出られるだろう。食事をしたり買い物をしたり、遊びにも行ける。なんならどこかに一泊できるんじゃないかな。
そして、その誓約は俺も同じ。俺はこのまま医療機関に収容され、リハビリをして、ある程度体の機能が回復したところで誓約書にサインをする。
うわぁ………と嫌気が差す。未だ顔には出ていないけど。
「エースくん。左腕、ちょっとごめんね」
「………?」
レイシアがやっと喋る。
俺はまだ喋れない。左腕になにかが巻かれる。ベルトのような。でもその重さは覚えがあった。
「ハルモニ。ウェイクアップ」
『イェス。ドクター・レイシア』
「エースくんの体の機能を制限付きで起動して」
『イェス。シビリアン・エースの身体機能を様々な制限をつけた上で一部起動します』
そして、俺はやっと目を開けた。
『………え?』
左腕に装着されていたのはカイドウが持っていったはずの新品の端末だ。
いや、それよりも、俺の目の前にいた人員に驚いた。
「おはよ。エー先輩」
「やっと来たか」
「待ってたっすよエー先輩」
「一緒に遊びに行きましょ」
ヒナたちがいた。パイロット6人。クスド、アイリ。
………そうだ。原作とは違い、死傷者が出なかったから、ソータたちを縛るものはなにもないのか。気兼ねなく自由時間を満喫できる。
いつもの部屋着ではなく、一足先に服屋で私服を購入したのだろう。それぞれの個性が出るコーディネートをしていた。そしてまた、俺もそういう服を着せられていた。誰かが買ってきてくれたのだろう。
『………ああ。行こうか』
「そう来なくっちゃ」
「あ、そうだみんな。4時間後には帰ってきてね。自由時間は交代制なんだから。帰って来なかったら後続の時間が短縮されちゃうからね」
レイシアが修学旅行などの引率の教員みたいなことを言う。ソータたちは「はーい」と応えた。
4時間か。それが俺が、ソータたちと一緒にいられる最後の時間になるかもしれない。───わけがない。
レイシアめ。わかっててやったな?
さすがはカウンセラー。鋭い観察眼を持ち、最善を選ぶことができる女。
俺に端末を貸与することだけではない。
そのなかになにがあるか。それが一番重要なのだ。
《久しぶりだな。ハルモニ》
《イェス。シビリアン・エース。約2週間ぶりの会話となります》
『おっ………』
「あ、ごめんねエー先輩。発進する時は声をかければよかったね」
『いや、大丈夫だ。なんでもないよ』
つい端末で機会音声による感嘆が漏れてしまった。
すごいな、これ。これまでの比ではない。
お互いの通信がたった一瞬で交わされる。コンマ1秒ほど。
俺は試しに脳内でハルモニに語りかけてみたところ、ハルモニは脳内チップを介して、文字と音声を伝えてきた。
とても便利だ。今なら長文も一瞬で書けそう。しかもタイピングの必要なし!
使う機会はそうそう無いだろうけど。
まぁそんなことはどうでもいいんだ。
今、俺の手元にはハルモニがいる。これが重要だ。
ある程度制限が解除されたので、レイシアを振り返ってみる。
「………」
レイシアは無言で俺を見ていた。
はは、そういうことね。
レイシアはすでに、ソータたちと同じ派閥にいるってことだ。だから見送りと言っても別れの挨拶もしないのね。
「エースくん。これからが大変だよ。それでも………」
『わかってます。ありがとうございます。レイシアさん』
「………ごめんね。私は医者としても、カウンセラーとしても、失格だね」
『だとしても、ソータたちの味方だ。今はそれで十分です。感謝してます。さ、行こうかみんな。短い時間だけどオフを楽しもう』
ヒナが再び車椅子を押す。タラップの傾斜は、俺のサイドにコウとハーモンがついて降った。
ペンタリブルのコロニーの内部はアニメで見たが、体感するのは初めてだ。
せっかくのオフだ。飯でも食べて、楽しませてもらうとしよう。
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