どうせみんな死ぬA05
「じゃあ、することはひとつだね。エー先輩。端末、ちょっと借りるよ」
『どうしたソータ?』
「エー先輩の副隊長権限っての、借りるね」
ソータは俺の端末を操作して、なにかを抽出して自分の端末に移す。
「これでよし。夜間のシミュレーションルームの使用許可、隊長か副隊長の権限で取れるんだ。………来なよ、みんな。今日から何十倍も強くなるんでしょ? 鍛えてあげる。何十、何百と落としてあげるよ。全員でかかって来て。本気で来ていいよ。俺も本気でやる」
俺の隣にいたソータがゆらりと立ち上がる。
こんな表情は初めて見た。
怒っているわけではない。かといって乱暴でも乱雑でもない。
静かにそこに君臨した、絶対的実力者の片鱗。その圧。オーラ。ソータから放出されていた。
「いいわね。今日から強くなるのだものね。やるしかないわ。全員でひとりを攻撃するの。ローテを組んで、全員でやりましょう」
ユリンも同じ空気を纏う。
すげぇ迫力だ。つい息を呑んでしまう。
パイロットたちは立ち上がる。
するとアイリも立ち上がった。ソータの腕を掴む。いいぞキスしろ………違うのか。チッ。
「待ってソータ」
「止めないでアイリ」
「止めないよ。私も連れて行って」
「え?」
これには全員、意外そうな表情をした。
「エー先輩がこうなった以上、ドローンカメラの操縦は私がやるしかない。でも、まだ私はエー先輩みたくうまくできないから。1秒も無駄にできない。4機同時操縦しながら、攻められるひとりのフォローをする。みんなは私も攻撃して。みんなの本気を潜り抜けられなきゃ、私もいつまで経ってもエー先輩に追いつけないの! だからソータ。私も連れて行って!」
アイリは確固たる意志を持っていた。
アイリはひとりだけパイロットになれなかった。予備パイロットの適正もなかった。しかし俺の席が空き、リモートとはいえ全員と同じ場所に立てたのだ。日々蓄積していた鬱憤や負い目などない。単純に強くなりたい。その色が瞳に現れていた。
全員が首肯する。
ソータがアイリの手を握り返す。いいぞそのままディープなキスをしろ………あ、違うのね。チッ。
「いいよアイリ。アイリの言うとおりだ。一緒に強くなろう」
「うん!」
第2クールの最終回以来かな。アイリの純粋な笑顔が見れたのは。
よかった。
「じゃ、エー先輩。行ってきます」
「行ってくるっす」
「お休み。エー先輩」
ソータを先頭に、全員がメディカルルームから出ていく。最後に残ったヒナは、ゆっくりと腰を上げ、頬を伝っていた涙を袖で強引に拭った。
「いい子で待てっててね。絶対、エー先輩と離れ離れになんかさせないからね」
『あぅ』
酸素マスクで口は塞がれているから、頬にキスしてくれやがった。端末が俺の声を拾う。
こんにゃろ。ソータとアイリのキスを願望してたのに、まさか俺にしてくれるとは。
しかし次の瞬間、ヒナもまた覚悟を決めた表情となり、凛としてメディカルルームを出る。
俺はその背中を、見えなくなるまで見送った。
同時刻。
腕の端末が反応し、グラスを傾けつつも内容を確認したクランド。
ソータ・レビンスからのシミュレーションルームを使用するという旨だ。使用許可は副隊長の名がある。どうせ彼が動けない副隊長の端末を操作して認可したものだろうが、構いはしない。
子供たちは今、かつてないほど不安定な状態にある。ならば、少しでも気が紛れ、自暴自棄ではないなにかに集中できるなら、いくらでもシミュレーションルームを使わせてやるつもりだった。
そう。少なくとも、目の前の男のようにならなければ、彼と誰かが性交渉しようが黙認するだろう。それがこれからの彼の生きる希望になるならば。
「クランドォ………俺はよぅ、本当に………ドクズ野郎だぜぇ。情けねえ。俺らがまだ若い頃によう、誓いを立てたことがあったじゃねぇか。ああ、アーレスもいたっけなぁ。ケイスマンはもう離れてて………」
「あったな。そんなことも」
「けど今はなんだぁ? 俺ぁ、若い頃に立てた誓いとは真逆なことをしてやがる。若い頃の俺が見たら、絶対に失望してるだろうぜぇ」
「………最終的な認可を出したのは私だ」
「悪魔みたいなプランを見つけて、製造しちまったのは俺だぁ………本当、最悪だぜぇ」
目の前で酒に浸る小柄だが恰幅のいい中年男性、カイドウは珍しく顔を赤くして、もう何杯目だかも忘れたスコッチを飲み干した。
暴力的な自棄酒だった。顔中に作った傷の手当てもしないまま、カイドウはまたグラスにスコッチをしこたま注ごうとして、空だったことに気付き、唸りながら乱暴に酒瓶をテーブルに叩きつける。
クランドは今、カイドウの部屋に来ていた。
相変わらず整理整頓とは無縁で、オイルと汗の匂いがしみついた部屋だ。なんなら下着すら床に放置してある。あとでシドウに片付けさせようと心のなかで呟いた。
どうせ、カイドウはしばらく役に立たない。クランドの部屋で飲むのも悪くはないが、数時間後には酒で潰れて寝入るだろうカイドウを担いで部屋まで送るのはごめん被る。なら最初から彼の男臭い部屋で飲んだ方が、潰れたら適当にベッドに放り込めるので楽だ。悪臭など慣れたものだ。その臭いに耐えられないようではカイドウの親友などやっていられない。
「カイドウ」
「あん?」
「エースは………この艦に残ると言うだろう。腕を失っても、必ずなにかで貢献しようとする。我々はその働きに必ず感謝する時が来るだろう。だが………その時、彼は………」
「………今度こそ死ぬかもしれねぇ。今回だってそうだ。ポッドの再生治療さえ間に合わねぇ傷。脳に障害。俺は、真っ黒になったあいつを発見した時、今度こそダメだと思ったが、しぶとく生きてやがった。………だがよう。あれをも上回るなにかが起きた時………死ぬよ。絶対。俺ぁそんなの見たくねぇ!」
「私もだ。だが子供たちは反発する。エースの並ならぬ発想と人望。おそらく明日、なにか仕掛けるぞ」
「デーテルの野郎を先に始末しておいて正解だったな………」
「気の毒なことだが、アーレスが全面的な罪を背負ってくれた。デーテルを公開処刑するような動きはなくなるだろう」
クランドとカイドウは子供たちの動きさえ予想していた。
その上で、エースが覚醒する前に発生した事件を思い出す。
それはデーテルが堂々と食堂で食事ついでに演説したことにある。すでに彼の派閥は艦長命令で解散しているが、個人的な付き合いまでは制限できない。委員会という公な動きがなくなっただけで、デーテル派の人間は、中枢だけが未だ彼を慕って、暇さえあれば行動を共にした。
食堂でデーテルはエースを非難したのだ。それはもう殺意を込めたくなるような中傷だった。
だが場所が悪かった。いや、デーテルはあえてその人員が、エースを主幹とする学徒兵がいる時間帯で中傷したのだ。「ざまぁみろ」と。これで子供たちがデーテルを殴ろうものなら、罪を着せ、許してほしければ屈服しろと強制できたかもしれない。
が───デーテルを私刑に処したのは子供たちではなかった。
偶然居合わせたアーレスだった。
エースを断罪してしまったことを気にかけた彼は、食事もろくに喉を通らず、いつも肩を縮めて、食堂でも圧縮されたように野菜を齧っていたのだが、デーテルの中傷を耳にした途端にヒグマのように変貌。あの太い腕から繰り出されたラリアットで、重力発生区画であるにも関わらず、無重力区画を思わせるような回転数を叩き出し、半殺しにしてしまったのだ。
無論、副艦長への暴行は厳罰だ。するとアーレスの減刑の嘆願書を作るでもない砲雷科の人間が、罪を分配するかのように倒れたデーテルを次々に足蹴にする。
クランドはボロ雑巾より酷い姿になったデーテルを、一応は治療して、治療ポッドに浸けたあとは自室謹慎とし、アーレスたちはどう裁くかと迷った末、減俸処分とした。
第三者が知れば、艦長がそんな適当な仕事をしていいのかと問われるかもしれないが、デーテルも何度も忠告を出したのに無視をしたのだ。自業自得。喧嘩両成敗で決着とした。
感想、リアクションありがとうございます!
今作は子供たちが主人公ではありますが、情けなくともかっこいい大人たちを書きたいと思っております。今は酒に溺れていますが、いずれ………
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