どうせみんな死ぬA03
「起きたか。エース・ノギ。体調はどう………いや、良いはずがないか」
『おやっさんのお陰で不快感は消えました。………便利な体ですよ。これ』
「っ………そ、そうか」
唇だけで笑ってみせる。新しい端末から発せられる俺の声に、クランドの表情はより曇った。
俺は嫌味を述べたつもりはない。けれど、大人たちはそう聞こえてはいないのだ。
『艦長』
「………なにかね?」
『いいんですよ。俺の責任ですから。誰も恨んじゃいません』
「………しかし!」
『誰も死んじゃいないんだ。だから、いいんです。これは俺が望んだ結果でもあります』
「そういうわけにはいかんのだ!」
珍しいな。あの鉄人みたいなクランドが、ここまで感情的に叫ぶなんて。
なんならカイドウとアーレスだけでは殴り足りなかったハーモンとコウとユリンが、クランドに詰め寄ろうとしたが、咆哮につい足を止めてしまう。
「………確かにきみにとっては最善なのだろう。だが、我々にとっては最悪だ。我々は、子供をこんな姿にするために戦い続けてきたわけではないんだ。………すでにカイドウとアーレスは筋を通そうとした後らしい。なら、私も通させてもらう。………申し訳なかった。エース・ノギ。そして………艦とクルーの命を助けてくれて、感謝するっ………!」
クランドは帽子を外して深々と頭を下げた。
艦を預かる最大責任者にあるまじき姿だ。俺は志願したとはいえ未成年。こんな子供に、本来なら艦長が軽々と頭を下げてはいけない。
けど、それでそクランドだ。俺はますます惚れたね。これが責任を取ろうとする大人の姿だって。
数秒の沈黙。クランドが頭を上げてから、尋ねる。
『あれから、どうなったのか聞いても?』
「ああ。隠さず話そう。………きみの働きでレイライトブラスターのある区画への被害は最小限に留められた。リアクターと主砲は無事だ。修理もそこまで時間がかからないだろう」
『それはよかった。何度もハルモニと計算したのですが、やっぱり不安で』
「なにも良いことなどないっ! ………済まない。まだ冷静になれていないようだ。………ふぅ。だがきみは、メンテナンスブースへ退避する途中、主砲発射の衝撃と、爆発によって吹き飛んだメインコンソールを後頭部に直撃した。その際、ヘルメットは砕け頭蓋も割れた。辛うじて退避に成功したが、右腕が間に合わず爆発に巻き込まれ吹き飛んだ。………消火装置によって二酸化炭素が散布され、二酸化炭素中毒に陥った。その後カイドウが回収するも、間に合わず、脳死と判断された」
『へぇ。脳死ねぇ………脳死だって!?』
「そうだ。驚くのも無理もない。ではなぜきみは今、覚醒を遂げたか。その答えは………カイドウ」
「ん。………ケイスマンの野郎の遺産のなかに、治療を目的とした脳内チップを開発するもんがあった。障害者や怪我人を正しく社会復帰させるもんだ」
そりゃまた。と目を丸くする。
けどなぁ。そうじゃないことくらい、予想できていた。
だってケイスマンだし。みんなの反応からして、全体的に治療が目的ではないくらいわかる。
『おやっさん』
「なんだ?」
『艦長は隠さず教えてくれるって仰いましたし。おやっさんも隠しごとは無しでお願いします。俺の頭のなかにある脳内チップってのは、俺の脳を刺激して覚醒を促したり、日常生活や社会復帰を目的としただけじゃないんでしょ? それくらいわかります』
「………機械と一体化を可能にしてやがる」
『ガリウスですね?』
「っ………そうだ」
血を吐くような返答。カイドウはとても辛そうにしていた。
でも、これで判明した。
俺の予想は正しかった。
そして、諦めたルートのなかに、思わぬ産物を生み出せる機会も得られる可能性を見出した。
本編では、この第8話の序盤でアイリが目を覚ます。俺と同じように右腕を失って。体や顔にも消えない傷を負って。だが脳内チップはなかった。
アイリには才能があった。空間認識能力が極めて高く、傷をある程度治したら、ガリウスGに乗る。そこで培った戦闘データで新たなジャケットを製造。無線兵器を多数搭載し、そしてそれらすべてをフィードバックしカイドウのオリジナルガリウスであるソータの後継機「イレイザー」が完成する。
天破のグラディオスの作中に登場する最強の機体のひとつだ。
俺はアイリの身代わりになって、こうして傷を負い、イレイザーの製造を諦めようとしたのだが、俺の努力次第ではイレイザーの製造も可能になるかもしれない。
なら、やってやろうじゃないの。
たったひとりの少女の命と、世界の存亡。どっちも選んでやるよ。
「だが………きみは、十分に戦ってくれた。傷付いた。傷付き過ぎた。腕部の欠損。頭部へのダメージ。………すでに退役条件は満ちている」
『え?』
「グラディオスの進路はペンタリブルというコロニーへ向けられている。そこで避難民を降ろす手続きをする。………エース・ノギ。きみもそこで降ろす」
しまった。と失態を悟る。
俺にとっては最善のルートでも、クランドたちにとっては違うのだ。
「そんな!」
「ちょ、ちょっと待ってください艦長!」
「エー先輩を退役させるって、正気ですか!?」
当然、ソータたちは反発する。
愕然とする俺の代わりに猛抗議を始めた。
「至って正気だ。これはグラディオスクルーの総意であると考えてほしい」
「こんな状態のエー先輩を、放置しようってのかよテメェ!」
「ペンタリブルには最高の医療機関がある。そこでリハビリを行い、ペンタリブルで暮らしてもらう。治安、経済ともにサフラビオロスと同等だ。保険もきくし、手当てもつく。そしてなにより、我々個人からもまとまった資金を提供しよう。いきなり社会復帰をしなくてもいい。当面の暮らしには困らない額だ。それを数年、私、カイドウ、アーレスが送り続けると約束する」
「無責任ではないかしら? 怪我をしたからお金で解決するのはわかるけど、それでエース先輩が、そして私たちが納得するとお思いなのかしらね───」
「テメェらは、これ以上エースに地獄を見せてぇのかっ!!」
各々の否定が、カイドウの一喝により封じられる。
「ガリウスと接続するってことが、どれだけ危険なのかわからねぇだろ? いや、そもそもだ。右腕を失って、脳までいじられて、それでもまだテメェらは、こいつを戦わせてぇのかっ!? そりゃあ、俺だってテメェらと同じよ。クランドも、アーレスも、まだこいつと一緒にいてぇよ。一緒に戦いてぇよ! でもな………エースがこのまま軍人でいるとなると………とある特定の条件を満たさなきゃならねぇんだ。そしたらこいつは死ぬまで消耗し続ける! 俺ぁ………廃人になるまでボロボロになったエースを、見たくねぇんだよ………わかってくれ………頼むっ」
カイドウは再び土下座した。
俺だけではない。ここにいる全員に懇願した。
また誰も、なにも言えなくなった。俺でさえも。
カイドウの、大人たちの気持ちもわかるのだ。
俺はみんなを救いたい一心で働いた。欺き、自己犠牲に特化した。
つまり、やり過ぎた。
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