どうせみんな死ぬA02
俺の視界がブラックアウトしてから218秒後。
脳内チップがなにかシグナルを送る。ええと、回復完了? 調教準備完了の間違いなんじゃないか?
目の前が真っ暗になり、体が動かせなくなっても耳だけははっきり機能していて、誰の会話も一言も漏らさずに聞くことができた。
パイロット7人。整備士。整備長。軍医ふたり。砲雷長。
合計12人。あ、途中でもっと増えた。13人。不思議だよな。みんなの声と会話がわかる。聖徳太子もこんな気分だったのだろうか。
回復が完了した旨を受けたカイドウは、コンソールで覚醒シグナルを送る。そこでやっと目を開くことができた。
「レイシア。また頼むぜ」
「はい。………さ、自分の名前言ってみてー?」
「っ、っ」
「意識レベル良好。反応もあり。ここまではさっきと同じです」
「だろうな。じゃあ、違ったアプローチから始めるぜ。レイシアは質問と触診をしてくれや」
「はい」
レイシアは様々な質問をしながら、俺の手足に触れて反応を確かめる。
すると、最初こそ動かせなかった唇───違うな。身体中の筋肉が微々たる運動を始め、凝り固まっていたものをほぐすように、しなやかに動き始める。
カイドウのみならず、アーレスも参加して厳重な調整を行い、数分後にやっと身体の自由を手に入れた。
ただし、
「あ………ぅ゛、あ?」
先程はスムーズに喋れたはずが、今はうまく発声することができなかった。
酷く喉が痛む。もしかして失敗したのだろうか? 左手で喉を摩る。
「心配すんな。声帯はあとで調整する。まずはお前の体の機能を、軽めな運動を可能にしておいた。少しは起き上がれるはずだ。レイシア。頼む」
「はい」
レイシアの介助により上体を起こす。
「っあ!?」
「ゆっくりでいいからねー。はい。ベッドも起こすよー。もたれかかってねー」
これじゃ老人のそれだ。
背中が痛くて叫びそうになるも、声が出ない。カイドウが「待ってろ」と言ってコンソールを操作すると痛みが消えた。
呼吸を整える。
周囲を見渡した。全員がいて、涙を浮かべている。
いったい、なにがどうなった?
と尋ねようとして、声はまだ出せなかったと思い出し、そして、
「済まなかった! エース!」
「聖職に殉じるきみを、私は誤解していた!」
ダゴン! と床が鳴る。あまりの大声に、そこらにあるものがビリビリと振動した。
カイドウとアーレスの謝罪に、今だけはドクターとレイシアは目を瞑るらしい。口出しはしなかった。
見事な土下座だ。アーレスはカイドウから教わったのか。膝を突いて、額を床に叩き付けたからあんなすごい音が鳴ったんだな。
沈黙が続く。俺はなにも言えない。みんなも言わない。眼球を動かして観察してみた。
ハーモンとコウとユリンが、怒れる龍の目みたいなそれで、土下座するふたりを睨みつけている。3人とも手に負傷してる。ここに来る前からカイドウとアーレスは負傷していた。ああ………そういうことか。
『───すでに罰は受けてたみたいですね。あれ?』
喋りたいと願った末、その声は俺の喉ではなく、ベッドの近くにあったコンソールから、ハルモニに似た、しかしどこか歪な機械音声となって全員の耳に届いた。
『なんだこりゃ』
「エース。このコンソールにスピーカー機能はねぇよ。喋るなら、この端末を使えばいい」
『あ、どうも。………お、ぉお? あー。あ、ああ。んあ。よし。俺の声っぽくなった。へぇ。便利ですね、これ』
「………ぶっ壊れてるレベルのメンタルしてるのは知ってるけどよ。なに呑気に感心してやがる。自分の状態がどうなってんのか、もうわかってんだろ?」
『………ええ、まぁ』
カイドウは上体を起こして、ポケットから全員に貸与される端末を取り出すと、ベッドの上に置いた。それから土下座を再開。
『とりあえず、起き上がってくださいよ。おやっさん。アーレスさんも』
新品の端末に接続すると、より鮮明な音声となる。俺の声に似せることも可能だった。まるで超能力みたいだと心が弾むも、カイドウたちからすれば、そんな場合じゃないよな。
「いいや、私たちは顔を上げるわけにはいかない! きみに顔向けができない! エースくん。きみがいなければ、私の部下は全員死んでいた!」
「俺の部下たちもな。俺たちを欺いてでも助けようとするなんてよ………ハァ。まんまと騙されて、お前ひとりを犠牲にしちまった。どう償えばいいのかわからなかった。だから………悪魔に魂を売るしかなかった」
『その結果が、これだと?』
「………ああ。お前が覚醒するにゃ、ケイスマンのクソ野郎が遺した遺産を使って、俺はそれを実行した、よりクソッタレな野郎になるしかなかった! すまねぇ………すまねぇ、エース。許してくれ………いや、許さなくていい。今回ばかりは俺たちを好きなだけ憎め!」
「同感だ。こんな傷では、なんの償いにもならないのは承知している。けれど、私たちはこれ以上にきみに償う理由を知らないんだ!」
カイドウとアーレスは涙を流しながら訴える。男泣きというやつだ。
『償いねぇ。うーん。特にそんなの思いつかないなぁ』
「俺らのどっちかを銃で撃ち殺せばいい。ただ、どっちかはこの艦に必要だ。ひとりの命で勘弁してやってくれや」
『物騒だなぁ。そういうのやめましょうよ。悲嘆してばかりじゃ、なにも始まりませんよ?』
「お前………マジでぶっ飛んでるよ。普通、憎くてたまらねぇだろ。俺がお前だったら、リンチした末に体をいじり回した元凶をぶっ殺してやりたくなるぜ?」
『残念でした。俺はおやっさんもアーレスさんも大好きなので。銃殺刑は没収します』
「ぐ、ぐぅぅぅ………私は、こんな子になんていうことを………」
アーレスがまた号泣する。
それを鬱陶しく睨む3人。こりゃ、動き出す前に釘を刺すか。
『やめな、ハーモン。コウとユリンも。どうせドッグで、みんながいる前でタコ殴りにしたんだろ?』
「な、なんでわかるんすか?」
『便利だろ? なんか前より色々理解できるようになった。………さ、おいで。みんな。そんな目してないで。今なら触っても平気だから』
両腕───片方がない腕を持ち上げる。すると、封印が解けたように、後輩たちが押し寄せた。
「エー先輩!」
「よかった………目が覚めて」
「うえ、ぅぁああああ!」
「目が覚めなかったら、絶対に許さなかった!」
『あー、はいはい。きついの見せちゃったなぁ。でももう大丈夫………とも言えないか。ごめんな、みんな。もう俺………片手でしか、お前たちの頭を撫でてやれない。満足に抱きしめてもやれないなぁ』
俺の声を模した機械音声は、俺の感情を反映されているようだ。物悲しくなってくる。
「構う………もんか」
『おっ?』
「片手があれば、それで十分だ」
珍しいな。ツンデレ猫みたいな性格をしているコウが、俺の左手を持ち上げて、自分の頭の上に乗せやがった。
まだ指先はうまく動かせないので、手のひらで摩るような撫で方だが、コウは抵抗もしないし逃げもしない。
不便ではあるけど、義手を付ければ生活できるだろう。ドローンカメラ4機同時操縦なんかより楽だろう。比較しても、なんてこともないマルチタスクだ。
そんな楽観視をしていると、新たな足音を感知。
俺に残酷な現実を突きつけにきたクランドだった。顔色でわかった。
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そして誤字報告もいただき、修正させていただきました。ありがとうございます!
エー先輩、そろそろ人間やめるってよ。次回は19時頃を予定しております!
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