主砲を撃てC01
特殊強襲特装艦グラディオス級一番艦グラディオスが誇る主砲の威力は、絶大だった。
いかに最新鋭機第七世代ガリウスGであっても、250メートル級の敵を相手にすれば質量が違いすぎる。防衛網も硬く、突破できたとしても致命打となる一撃を与えられるとは思えない。
そこでグラディオスの主砲を発射した。巨大なレイライトリアクターから供給される一撃は、敵防衛網を一掃。アンノウンEタイプを撤退まで追い込んだ。かつてEタイプに殲滅された連合艦隊ではできなかった。これは快挙である。
オペレーションルームは拍手喝采に包まれる───はずだった。
連合軍本部に戦果を通達し、これからグラディオスは主砲を修理しつつ、逃亡したEタイプを追って、本格的な戦いを挑むのだ。
だが、オペレーションルームを含め、各所では妙な喧騒に包まれた。
整備士たちがいるドッグがその例だ。
死線をくぐり抜け、軽微な損傷をしても生還を遂げたガリウス部隊がガイドビーコンに従い帰投。クレーンに懸架されて所定のポジションに設置される。
コクピットから飛び出したハーモンが「やったぜぇえええ!」と雄叫びを上げる。ソータたちも生きて帰ってきたことを喜んでいた。出撃前に与えられた失望のことなど、決死の覚悟で挑んだ戦いを前にすっかり消えていた。
だが、そんなソータの胸にアイリが号泣しながら飛びついた。
「ソータ!」
「おっと、あ、アイリ。みんな見てる………あ、あれ? なんでみんな、忙しそうにしてるの? 戦いが終わったにしては、まだ焦ってる感じ………もしかして、どこかやられた?」
「違う………違うんだよ。………エー先輩が………」
「え」
ガンと頭を殴られたような衝撃が、パイロット7人を襲う。
「アイリちゃん! エー先輩がどうかしたの!?」
「まさかデーテルの奴が先走ったか!?」
都合、パイロットにはドッグと基本通信が取れない。アイリもドローンカメラの操縦で、それどころではなかった。オペレーターが余計な情報を与えるはずもない。
アイリにヒナとシドウが詰問する。
それでもアイリは涙を止めることはできなかった。
「全部、演技だったの………整備士と砲雷科を巻き込まないようにって………エー先輩は、私たちの代わりに………」
「おい、意味がわからんぞ。………親父はどこだ!?」
シドウは右往左往する整備士のひとりを捕まえて尋ねる。
「お、おやっさんなら防護服を着て、数名とともにメンテナンスブースからレイライトブラスターの区画に行ったんだよ!」
「な、なぜだ? まさか異常が? 火災か!」
「違う。もう火災は消化装置で消えたけど………エースが………」
「………おい、おかしいだろ。なぜそこでエースの名が出る?」
「わからねぇんだ。俺にだって、なにがどうなったのかわからねぇんだよ! でもエースがあの区画でひとりで作業してたってのは聞いた。さっき主砲が放たれたけど、どうやら砲雷科を追い出して、爆発に巻き込まれたんじゃないかって………考えたくねぇけどさ。あいつ………もう無事じゃ………」
「縁起でもないことを言うな! 大丈夫だ。きっとあいつは生きている! 生きて、いる………呼び止めて済まない。作業を続けてくれ」
「ああ。お前も思い詰めるなよ? きっとこれは、誰のせいでもねぇんだからさ」
「ああ………」
ドッグが混乱している原因は、やはりエースにあった。
シドウはパイロットたちを振り返る。会話は聞こえていただろう。誰もが悄然としながら、人集りがある方へとゆっくりと足を運ぶ。シドウもそれに続いた。アイリは動けなくなり、ソータが抱きかかえている。
ドッグの壁の一部が外されていた。見覚えがある。サフラビオロスに到着する前にアンノウンの襲撃で主砲の区画で事故があり、カイドウとアーレスがここから潜り込んだ。ドッグと近い場所にあるがゆえ、その区画の下まで侵入することができるのだ。
「し、シドウ隊長………エー先輩………大丈夫………」
「わからん。気休めなことは言えん………だが今は、奴の生命力に賭けるほか………来たぞ!」
ヒナがガクガクと震えながらシドウに縋る。支えつつも人集りから「おおっ!」と反応があったことで、エースの救出が完了したと判断し、より接近して───
「見るなぁあッ!! ガキどもは絶対に近寄らせるんじゃねぇえッ!!」
カイドウの咆哮に、最悪のパターンが脳裏に過ぎる。しかし瞬時に駆け寄ろうとするヒナを抑え込むことができた。
ブルーシートに包まれた赤い物体が、カイドウ率いる数人の手によって運ばれる。整備士たちは表情を歪め、駆け寄ろうとする学徒兵たちを、シドウのように押さえ込むしかできなかった。
「エー先輩………エー先輩っ」
泣き叫ぶヒナ。その声に気付いたカイドウが、疲弊した表情をしながら怒鳴る。
「生きてる。エースは生きてるから、そこは心配すんな! ハルモニ、ドッグの隔壁開けろ! レイシアを待たなくていい。このまま運ぶ。途中で合流するだろ。その方が時短になる」
『イェス。マスター・カイドウ』
カイドウの指示で6人がかりでエースが運ばれていく。ブルーシートで包まれてなにも見えなかった。ヒナの脳裏に、あの日のことがフラッシュバックし、錯乱状態に陥った。金切り声をあげて悶える。大人たち数名で押さえ込み、鎮静剤の投与の準備をした。軍医がいないこの状況なら、超常的措置が許される。大人たちはとても慣れていた。
「………親父」
「………俺ぁ、エースってガキを………まったく理解しちゃいなかったようだ」
立ち尽くすカイドウに、シドウが歩み寄る。
「あれを正しく完全に理解できる人間が、いると思うか?」
「いねぇだろうなぁ………希望の光。自分で言っておいてなんだがよ、あいつ………なんで、あそこまでできるんだろうなぁ」
「………なにがあった?」
「主砲の暴発を前提で考えて行動。被害を最小限にとどめ、自分もメンテナンスブースに避難したが………間に合わなかった………」
「………まさか、死んだのか………っ!?」
「………辛うじて息はあった。だが………応急処置しようにもよ、なにをどう手をつけていいのやら………わかんなかったぜ。………はは。でもよ、ひとつだけ………助かる方法が、あるんだよなぁ」
シドウは、カイドウがこれだけやつれた顔をするのを初めて見た。
無表情になりながら、唇だけが歪んでいる。空虚な笑み。
「俺もどうやら………ケイスマンの野郎と同じく………悪魔に魂を売る時が来やがったみたいだぜ………シドウ。俺の部下に伝えといてくれや。俺はこれから、エースを蘇生するもんを揃えるから………あとは頼むとよ………」
フラフラしながら踵を返すカイドウ。
シドウはカイドウの言葉を半分も理解できなかったが、きっと助けると確信を持っていた。ゆえに、カイドウの部下のひとりに、ありのままを伝える。
それですべてが解決するわけではない。
しかし、それでも進むしかないのだ。
シドウはパイロットたちを振り返る。
絶望一色に染められた、悲痛な面持ちのまま、整備士たちに慰められ、暴れそうになって鎮静剤を投与されていた。
今はただ、無力感に打ちひしがれていた。
ブクマ、リアクション、感想ありがとうございます! テンションぶち上がります!
間に合いました7回目! そんでもってすげぇ鬱!
エースは本編でアイリが犠牲になるのが嫌で身代わりになりました。生きていればいいなぁと思うところです。
明日から1日2回更新に戻ります!
作者からのお願いです。
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