主砲を撃てB11
「やることはわかってるな?」
『イェス。すべてバックアップデータに保存されております』
「よし。まずはドッグの隔壁をロック。暗証番号を変更」
『その権限は与えられておりませ───』
「急を要するんだ。ドッグにいる整備士の命を最優先する。これから主砲で起こるアクシデントで、この通路にも熱が充満するからだ。整備士たちもレイライトリアクターから放射されるそれを浴びて無事でいられるはずがない。優先順位を再設定。命令に従え」
『───イェス。メカニック・エース』
多分、ミチザネ小隊の副隊長の権限とかも加味してるのかな。あとはレイシアが改造してくれたし。必要以上の権限が揃って、勝手ができるに違いない。詳しくは知らないけど。
「………おやっさん。アイリ。………ヒナ。多分、生きてるだろうから。また会おうな。………行くぞハルモニ! 次は主砲の区画だ! 予定通りダミーが発見された。合図したら本命の音声を流せ!」
『イェス。メカニック・エース』
戦局は芳しくない。圧倒的不利。
カイドウは、アイリが飛ばすドローンカメラと現場を交互に観察した。コンテナに積載する銃弾や、予備ライフルとロングソードをありったけ出して、アイリが必死に探るポイントに次々と射出するのだが、敵の趨勢は傾くことはない。
『Eタイプ、依然として速度が衰えません!』
『味方機損害率5パーセント。しかし敵防衛線を突破できません』
オペレーターの女性たちの実況で、カイドウは心を焦らせる。だがそこは往年のベテラン。深呼吸一回で動悸を収めた。
「アイリッ! 次はどこに飛ばせばいい!?」
「ま、待ってください! 私だって精一杯で、あぁっ!」
乱戦状態となればドローンカメラも狙われる。すでに5番と6番を失い、9番を射出するも7番がすぐに撃墜されてしまう。
「落ち着け! お前ならできる!」
「簡単に言わないでください! ただでさえも乱戦になって、縦横無尽でっ………こんなのエー先輩にしかできません!」
「………クソッ。やっぱりあいつじゃなきゃ無理か。………ハルモニ! エースはどこにいる!?」
アイリには荷が重かった。以前の大規模な防衛線でも自分には不可能だと思っていたが、あれ以上の数に囲まれてしまえば、エースに見込まれた才能と感性を持つ彼女でも、後継者を務めるのは不可能だった。
エースがあんな奇行に走らなければ、今頃もっとマシなダイレクトサポートができていたはずなのだ。カイドウは複数の意味を込めて舌打ちし、苦渋の決断の末、再びエースをプロトタイプガリウスGのコクピットブロックに座らせることにした。
さもなくば、Eタイプに取りつかれ、グラディオスは大破してしまう。
ところが───
『メカニック・エースはパイロットの更衣室にいます』
「あいつノーマルスーツ着てただろ………いや、今なんつった? メカニック? それに、なんで移動権限奪ってんのに、パイロットの更衣室なんざ入れる?」
『メカニック・エースは私を使用しております』
「は、はぁっ!? 取り上げたはずだぞ!」
『独自にバックアップデータを保存していた模様』
「あのクソガキィッ! やっぱぶっ殺してやらァッ!」
憤慨するカイドウ。周囲はビクッと震えた。
作業を部下に任せて、悪童に引導を渡すべく隔壁に向かうが───隔壁は開く様子はない。
「おいハルモニ。隔壁開け。エースをぶっ殺す!」
『隔壁の暗証番号が変更されております』
「あのクソガキの仕業かぁぁああああああああ!! 暗証番号を解析! 急げぇぇえええ!!」
『イェス。マスター・カイドウ』
怒りに任せてダゴダゴと隔壁を殴り続ける。途中で衝撃を感知したハルモニが安全確認を優先したため解析が中断し、やり直すことになり、さらに憤慨。より時間をロスする。
「エースはなにをやらかそうてんだぁ………っ」
『レイライトブラスター区画で放送が流れました。これはメカニック・エースの手元にある私が、パソコンに隠蔽したフォルダからです』
「は、はぁ? なに言って………まさか………俺とアーレスのデブが見つけたのは………ブラフ?」
『イェス。マスター・カイドウ。メカニック・エースは、そのブラフをあえて発見させることで、本命となるフォルダを隠していました。もう無いだろうという、油断を誘ったのです』
「クソがぁ………なにを流した?」
『再生します。───砲雷科、砲術長ならび砲術士に通達』
「アーレスの声をハルモニで模倣しやがったのか!?」
『総員、砲雷長のもとへ集合せよ。これは命令である』
「あの野郎………主砲の区画をもぬけの殻にするのが目的か! おい! 監視カメラでエースを追跡しろ!」
端末で監視カメラの映像を映す。そこには丁度、砲術長率いる砲術士たちが駆け足で全員去っていくところだった。全員怪訝そうな面持ちをしている。
数秒後にエースが現れた。やはり区画に侵入する。
「ヤベェ………あいつ、なに仕出かすかわかんねぇ! クランドに言って、主砲だけは使うなって伝えねぇと」
『グラディオス全クルーに告げる。これより当艦はレイライトブラスターを使用し、敵主力艦もろとも敵勢力を一網打尽にする! レイライトリアクター出力上昇! カウントダウン開始!』
『宙域の友軍に告げる! これよりグラディオスはレイライトブラスターを使用する! カウントダウンは始まっている。射線より退避せよ!』
「ぁぁああ………ヤベェ! クランド! おい、クランド! やめろ! 主砲を撃つなぁああああ!」
『───マスター・カイドウが、キャプテン・クランドに通信を入れました』
「ま、そうだよなぁ」
監視されているんだ。俺が砲雷科の人間をこの区画から追い出したことも、すでに知られていて当然だろう。
しかしもう遅い。すでにレイライトリアクターの回転数は徐々に上げている。あと少しで主砲に用いるだけの最低の回転数に届く。
メインコンソールの管理は一旦ハルモニに任せた。とある数値に達したら、それとカイドウが主砲を撃つなとクランドに連絡を入れたら、俺に伝えるよう命じてある。
俺はこの時のために計画を練った。入念に。ヒナから心理学を学んだのでここで活かした。
結果、全員を裏切るような道化になると決めた。
ここまでうまくいくとは思わなかったけどな。
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