主砲を撃てB09
主砲見学ツアーその2から2週間が経過した頃。カイドウがアーレスとともに、ついに発見してしまった。
俺はその区画にあるセーフティルーム兼簡易指揮所のパソコンに、とあるプログラムを仕込んだのだ。
アーレスが定期的にそのパソコンで作業をしていることは知っていた。まさかこんな早く見つかるとは思っていなかったが。
ハルモニに協力してもらって、かなり工夫して、奥の方に隠していたのだが。アーレスは予想以上にやり手だ。
いや、ハルモニはカイドウが作ったAIだ。ログを消去してもマスター権限でバレてしまうのも仕方ない。
今回の俺は、一線を越えてしまった。元整備士のパイロットが、特別に出入りできるようになった主砲に、正規整備士でもない見習いの分際で、色々と勝手にいじってしまった。
そりゃあ、カイドウだってブチギレる。吊し上げ大会に同席していたアーレスも、もう交友的な視線を向けてはくれなかった。失望の念が強い。
「残念だよ。ガッカリだ。まさか、こんな愚かな子だったとは………悪魔だよきみは。デーテルの警鐘が正しかったというのかい? 銃殺刑を阻止した私が、間違っていたというのかい?」
「ブッ………へへ。いいえ………間違ってないですよ。俺を信じてくださいって」
アーレスにも手を上げられた。本人にとっては軽い、お仕置きのようなビンタのつもりだろうけど、熊と人間じゃ筋力も体重も違う。顔を叩かれた途端に壁にビュンと飛んで打ち付けられた。
「まだ笑っているなんて………信じられない。きみは、私たちを殺すところだったのだよ? なぜ笑っていられるんだい? 私たちを殺すのが、そんなに面白いのかい?」
悲しそうな表情をするアーレスが接近する。とんでもない迫力に、失禁しそうだった。
「逆ですよ………」
「なにがだい?」
「俺は、なにがなんでも、みんなを助けます。これはその布石なんです。信じてもらえませんか?」
「………きみへの信頼も、信用も、ゼロだよ。きみがそうした! きみが私たちを裏切った! なぜきみは私のパソコンに、あんなわけのわからないプログラムを仕込んだのだね!? もしレイライトリアクターが停止でもすれば、どれだけの被害が出たのか、わからない………なんだね、きみたちは?」
肌の色は異なるが、どこぞの「エーメン」が決め台詞のローマカトリックの神父みたいな出立ちで俺に手を伸ばそうとするアーレスの前に、パイロットたちが立ち塞がる。
吊し上げ大会は不運なことに整備士とパイロットと、アーレス率いる砲雷科の面々が居合わせていた。
針の筵パート3に陥った時、味方についたのはソータたちだ。シドウはカイドウの側にいて渋面している。
「面白えことほざくじゃねぇか、おっさん。もう一回言ってみろや。エー先輩の信頼と信用がゼロだぁ? ふっざけんじゃねぇぞヒグマ野郎ッ!」
「少なくとも、エー先輩はふざけ半分で命を弄ぶクズではない。それは俺たちが証明する」
ハーモンとコウがアーレスに立ち向かう。パイロットのなかでも高身長かつ筋肉のあるふたりだが、2メートルを超える体格のアーレスと比較すると、どうしても一回り小さく見える。
「退きたまえ子供たち。聖職に殉じる諸君らを傷つけたくはないのだよ」
「寝言は寝て仰ってくださる? 私たちの副隊長に対する暴挙は見逃せないわね」
ユリンまで臨戦の構えだ。そういえば本編でも、体術はめっぽう強かった。ハーモンですらボコボコにしてたっけ。実はこのなかで一番強いかもしれない。普段は手を抜いているだけで。
「隊長! こんなのあんまりです!」
「おやっさんも! 一方的な処罰は間違っていると思います! エー先輩はいつだって、私たちのために動いていました。だから、きっと今回だって!」
俺を抱き起こすヒナだけでなく、アイリも加わって、シドウとカイドウに中止を要請した。
ところが、アーレスは嘆息し、腕の───俺たちのと同じなのに、彼が装着すると半分くらいのサイズに見えてしまう端末を、太い指先で器用にタップし、起動する。
「ならこれを聞きたまえ。彼が私のパソコンに送ったシステムだ。どうやら………アラートに介入したかったようだね。無駄だったけど」
端末から流れたのは、ハルモニを使って自作したBGMだ。前世では日曜日の夕方に放送されていた漫才の番組の、オープニングテーマを参考した楽曲。「これから楽しい時間が始まるよ」と告げるような、グラディオスの艦内では場違いに等しいものを、アンノウン発生時のアラートにすり替えておいた。
「………ふざけているとしか思えない。もし、スクランブルになったとしたまえ。こんな曲が流れて、我が砲雷科の人間が逃げ遅れたら、どう責任を取るつもりだ? エース・ノギ」
「それは………言い訳ができませんね。本当はすぐに消して、元に戻しておくつもりだったんですよ。でもまさか、残っていたなんて。いやはや、とんだミスをしてしまいました」
「………許し難い。こんな男がグラディオスに乗艦していたなんて! カイドウ! 止めてくれるなよ? 彼は即刻、この場で私が処刑する!」
本当にあの神父みたいだな。迫力が増すとそっくりだ。「かかって来いよハリィィイ!」なんて叫びそう。叫ばれたら俺の終わりだ。
一方でヒナたちは、俺が本当にふざけてこんなことをしたのかと知って、愕然としていた。
誰もが無言になって、信じられないものを見る目をしていた。………失望されたかな。
「待てデブ」
「待たないよ」
「………このクソガキは、クランドが裁く」
「くっ………デーテルの意見が正しかったと思わされる日が来ようとは。とんだ屈辱だよ! ………ぁあああ! 最悪だ! こんな心境なのに本当にアラートが鳴った! 我が聖域のアラートを正常に戻しておいて良かったと、心底思ったよ! エース・ノギ! きみが僕たちを救えるとは思えない。救えるはずがないんだ。その資格すらない! きみはパイロットも、整備士も、いや人間としても失格だ。即刻死んで欲しいと心の底から思うよ。軽蔑に値する!」
アーレスは喚き散らして、敵襲を告げるアラートと、艦内放送に耳を傾けてつつ、ドッグを出ようとした。砲雷科の面々も俺に唾を吐き捨て、サムズダウンしながら続く。
ところが、そんな連中が、一瞬で怒りを忘れるほどの内容が響き渡った。オペレーターが極限の緊張を湛えて叫んだ。
『敵襲! パイロットはすぐに出撃してください! 各員所定のポジションへ! 敵は多数! そしてその奥に………異常な熱源を感知! CタイプでもDタイプでもありません! これは………Eタイプです! 全長200メートルと推定! 連合艦隊を壊滅させた個体と同一のものであると考えられます!』
「イッ………Eタイプ………っ!?」
「200メートルだぁ!? 100メートルじゃなかったのかよ!」
アーレスとカイドウは愕然とした。
「………来たか」
今回は前触れこそなかったが、本編にない流れのなかで、いきなり本編に合流した。
第7話で登場するEタイプこそ、第1クールのラスボス。前哨戦が、始まろうとしていた。
リアクションありがとうございます!
エースはクズ野郎になりました。洒落にならないことをしています。
2回目!
次は12時を予定しております!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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