主砲を撃てB04
本来の第7話本編は、ヒナが犠牲になった次の話ゆえ、終始ギスっていた。視聴していて心苦しくなった覚えがある。誰が悪いわけではないのに、誰かが誰かを責める。
主に被害に遭ったのが、ヒナの近くにいたソータだ。ハーモンから責められ、周りからはフォローされず、孤独になっていく。
アイリの言葉は届かずすれ違い、アイリを見かねたコウが、なんと彼女に接近する。コウはアイリに懸想していた。偶然にも、現場を目撃してしまったソータが勘違いして距離を置く。コウはアイリの相談に乗っていただけなのだが、距離が近過ぎた。
そんな傷心のソータに接近したのが、バスターコールみたいな女であるユリンで、メンタルが限界だったソータを壊そうと画策する。
ユリンは歪んでいた。
他人には明かせない趣向をしていた。
壊れていく人間を見るのが好きなのだ。強ければ強いほどいい。強固、あるいは凄まじいなにかを持っている人間を壊す瞬間の心臓の高鳴り。それを恋であると錯覚していた。
ソータは壊れていく。すでに原型を失い、戦うだけに存在しているような、それ以外のことは考えられなくなるのだ。ユリンは陰から見て楽しんでいた。
………だというのに、だよ?
これ、なに? どういうこと?
「はい、エー先輩。アーン」
「エー先輩。飲み物どうぞ」
「エース先輩はモテるのねぇ」
俺は今、手足を縛られた状態でレクリエーションルームに浮かんでいた。
右からヒナが菓子を差し出して、左からシェリーがジュースのボトルに挿したストローを差し出す。ユリンは俺の正面にいて愉快そうにしていた。
「楽しそうね。私もやってみようかしら。はいエース先輩。手持ちのもので申し訳ないのだけど、私の体温で温められたエネルギーバーですよ。召し上がってくださいな」
お、お戯れを………核弾頭みたいな女が、俺でお戯れなさっている!
ちなみに俺に拒否権はない。食べなかったり飲まなかったりすると、強引に口にねじ込まれる。おかしいよな、これ。
一見、美少女たちのご奉仕を受ける王様の気分になれるけどさ。拒否権がないってどういうこと? しかも、なんで手足を縛られてるわけ?
「ま、待って………待ってくれって! そんな早いスパンで全部食えるわけないだろ!?」
「いいですよエー先輩。食べ終わるまで付き合いますから」
ニコニコしているシェリーが、より距離を詰める。縛られて動けないのに腕に密着しやがった。ムッとしたヒナも密着。うわぁ、両サイドから幸せな感触。これでユリンにも抱きつかれてみ? あとでヒナになにされるかわかったもんじゃない。
「た、助け………」
「おうテメェら! エー先輩が困ってんだろうがいい加減にしやがれ!」
「ハーモンの言うとおりだ。なにもそこまでしろと隊長は言っていなかっただろうが」
意外な場所から救いの手が差し伸べられる。
ハーモンとコウが、腕力にものを言わせてヒナたちから俺を引き剥がしたのだ。
「なにするのかな。ふたりとも?」
「さては死にたいのね?」
「一度、殴り合いってものをしてみたかったのよねぇ」
ああ、女子たちはいつからこんな過激になってしまったんだ?
椅子取りゲームの椅子になった気分だ。全員で俺の接待権を巡って喧嘩し始めた。
「いいぜ。来いよ」
「2対3か。相手は女だ。いいハンデになるだろう」
「ま、待て待て待て! こら! ハーモン! コウも! 女子に平然と暴力を使おうとするんじゃねぇ!」
「なに言ってんだエー先輩。こりゃあ、あー、あれだ。自己防衛の一環だろ」
「相手が平然と暴力を選ぶなら、正当防衛ともなる」
「時と場合によっちゃそうなるけど、基本的に暴力はダメ絶対! 副隊長命令だ! 男子も女子も、デフォルトみたいに暴力を選択するの禁止! 喧嘩するなら、なんかのゲームで争え!」
なんでミチザネ隊って、特定の条件下にあると、こうもポンコツになるんだ?
これを統率しているシドウってすごいな。
副隊長命令によって殴り合う寸前だった5人が止まり「ボードゲームでもいいから探せ!」と一丸になる。
「みんな大変だね」
「じゃあソータは俺が大変だと思わないんだ?」
「思ってるよ? だからみんなから引き剥がしてあげたんじゃない」
あえて全員から一歩下がったところで傍観していたソータは、絶妙なタイミングを逃さなかった。5人がギャンギャンと吠えている隙に、俺を掻っ攫ったのだ。四肢が拘束され動けない俺を掴んで離れていく。
「ねぇエー先輩。エーってさ」
「うん?」
「俺とキスしても喜ぶの?」
………こいつ、なに言ってんの?
意味ワカラナイ。
「いや、なんでそうなる?」
「だって前に俺にキスしようとしてたじゃん」
思い出した。アレね。第3話の序盤で、嫉妬するアイリが可愛いからソータにキスしようとしたやつだ。
確かに俺はあの時、なんならディープなキスをしてやろうとしたけど………予想外の衝撃をヒナから与えられた後じゃ、ソータからキスされてもなぁって感じ。
「いいよ。エー先輩が喜ぶなら、キスしても」
おい。ほっぺを赤らめるな。色っぽい表情をするな。そんなのアイリにやってやれ。きっと喜んで襲ってくれるから。
なんてこった。ソータはすっかりその気になってやがる。腐女子の方々が喜びそうなご尊顔だこと。
「あ、あの時はアイリをからかおうとして───ん?」
ソータからとんでもない提案を受け、勘違いを指摘しようとすると、周囲がシンと静まってることに気付いた。
チンピラの縄張り争いがごとくギャーギャーとやっていた5人が、ただただ沈黙して、俺を凝視していた。
次いで、ボキッとなにかが折れる音がやけに耳に響く。
ボードゲームの類いがないから、メモ用紙にマルバツゲームを興じようとしていたヒナが、ボールペンを片手の指だけでへし折っていた。
「………エー、先輩?」
もし、サウンドエフェクトが可視化できたとしよう。
多分、ヒナが纏うそれは「ゴゴゴゴゴッ」だったり「ギギギギッ」かな。地獄の門が開く感じ。まさにそれ。我ながら適切な表現。いつもより冴えてるねぇ。つまり、死にそう。
「え、エー先輩っ! キスで喜ぶなら、ソータとかじゃなくて、わ、私が立候補します!」
言ってることは可愛いんだけどなぁ。
ただでさえもその目付きのせいで友達ができなかったというシェリーが、いつもより迫力を増して鋭くさせている。顔を真っ赤にしているのはいい。けど鋭い三白眼のせいで猛烈に怒っているという印象。怖いけど可愛いを兼ね備えている。俺はいつからこんな特殊なソムリエになった?
「エー先輩は野郎ともキスできんのか!?」
「凄まじいな。いつかやりそうだとは思っていたが」
ハーモンとコウの勘違いが加速する。やめてくれ。
「あら、面白そう。そっちの駆け引きにも参加してみようかしら」
アラート! 核弾頭みたいな女から、またロックオンされた。逃げられない。
「させないよぉ、シェリーちゃん。ユリンちゃんも」
ヒナがシェリーとユリンを阻止する。この様子じゃ、ヒナはまだ俺との関係を周囲に告げていないようだ。
というか、俺とヒナの関係って? 一応、俺もヒナのことしか考えられなくなった時期もあったけど、それはヒナの心理作戦であって、まだ俺は告白の返答をしていないし。一方的に貞操を奪われそうだったけど。一応、まだお互いにピュアなままだ。
「エー先輩。逃げよう。あいつらちょっと危ない」
ソータは俺を抱えて逃げようとする。
ああ、なんでなのかなぁ。
これがもしかして、原作破壊行為のツケ?
なんで推しアニメの世界で推しカプ崇拝したかっただけなのに、勝手に人間関係が崩壊していくの?
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