主砲を撃てB03
その後、時間が許す限りアーレスとカイドウに質問を繰り返した。
ふたりは俺が本気だとわかると、本気の返答をしてくれる。そこに一切の妥協はなかったが、望むところだ。
途中、クランドに申請していた主砲の試射演習をしてくれた。実際にレイライトリアクターを動かし、エネルギーを砲に集中させるのだ。
剥き出しとは呼べないが、ガリウスと比較してもどうしても物足りない外装。防護服を着用した砲術長率いる砲術士たちがコンソールを操作している。
俺たちは離れたところから、監視カメラ越しにそれを見た。その間にも質問をする。アーレスはなんでも教えてくれた。
そしてカウントダウン後『発射!』と叫んだ砲術長の合図で、主砲が閃光を散らす。
レイライトリアクターは回転数を徐々に弱め、次第に停止した。
今のが発射までのプロセスだ。経験できたのは大きい。
ちなみに、今回の演習で発生したエネルギーは、グラディオスに供給されるらしい。無駄のない演習だった。
だがこれで、少しだけわかった気がする。
なにを、どう改善すればいいのかを。
ビームシールドの時とは違い、実物を改善するだけだ。やれないこともない。………多分。
じゃ、今日はこれで終わり。解散。お前は部屋に戻ってよし。と早退を強制され、ドッグに戻ろうとしたところ、蹴り出される。
抗議の目を向けようとしたのだが、俺を受け止めた存在がいた。
「エー先輩。カイドウさんを怒らせちゃったの? 蹴られちゃったけど」
「ひ、ヒナ………いや、今日はもう上がれって言われてさ」
「そっか。私と同じだね」
後ろからギュッと抱きしめてくるヒナ。
そういえば、最近はヒナから避けられていて、それで僻んでいたのだったと思い出す。
しかしこれはなんだ? ヒナは怒っていたのではないのか? 急に優しくなりやがって。俺だって耐性のない男なんだからな。コロッと絆されちまうぞ?
「シドウ少尉が、そう簡単に早退を許すはずねぇだろ?」
「ううん? みんなに早退するように言ってたよ。最近、働いたり鍛えたりしてばかりだし、それじゃ精神的に辛いだろうからって、みんなでレクリエーションルームで過ごすように提案してくれたの。でもそれって、エー先輩を拘束するためだよね」
「え、俺? なんで?」
「カイドウさんから通信があったみたい。新しいおもちゃに目を輝かせてる問題児のクールダウンをさせろって」
カイドウめ。言ってくれるじゃないか。まったくそのとおり。
でもそれだけのためにパイロットまで休ませるかな普通………いや、前科しかない俺を拘束してまでも休息を取らせたかったのだろうな。でなければ、今すぐにでも自室で缶詰状態になって、また体調を崩すところだった。
「シドウ少尉は?」
「レイシアさんのところ。なんだか最近、レイシアさんが悩んでるみたいだから相談に乗ってあげたらどうですかって発破かけといたよ。レイシアさん、シドウ隊長のこと絶対大好きだよね。いつ襲おうかって画策してたみたいだし」
「ナイスな判断だ。いや、マジで」
ヒナは案外、観察眼がある。
俺の傾向を見抜いたり、レイシアの長年の悩みのタネを除去というか、解消しようとしたりと。行動力があるって素晴らしい。
これで俺も嫉妬の延長で八つ当たり同然の刑罰に処され、ぶっ殺されずに済むってわけだ。
「さ。行こうエー先輩」
俺はヒナに手を引かれ、通路を行く。
けれども、ますます意味がわからない。これでは以前とまったく同じなのに、なぜヒナは俺のことを避けていたのか。
「押してダメなら引いてみろ」
「え?」
「ジャパニーズの言葉なんだってね。だから、思い切り接触を絶ってみたんだ。効果抜群だね。私が辛かったみたいに、エー先輩も辛かったんだ?」
「お前、なに言って………」
「顔に書いてあるよ? 嬉しいって」
チクショウ! 最近のヒナがマジで怖ぇ!
なにか? いつまでも逡巡している俺に決意させるのではなく、あえて距離を取ることで、思考をヒナ一色にする誘導を行なっていたと?
なんていう心理的な戦術を使いやがる。お陰でまんまと誘導に乗っちまった。
ヒナに後ろから抱きしめられた時、全力で喜んでしまった。顔に現れるくらい。
こわぁい。ヒナが、怖ぁい。
これで俺より年下で、天使みたいな笑顔とモデル顔負けのスタイルをして、平然と俺の心を鷲掴みにしてくるんだもんなぁ。生殺しもいいところだ。
「………む? 準天使と………チッ。ゴキブリではないか。貴様、なにをしている」
「あ、デーテル副艦長殿。ご機嫌よう」
「虫ケラさん。こんにちは」
「ああ、こんにちは準てん………は?」
通路の曲がり角で漫画やアニメみたいな芸術的タイミングでエンカウントしたデーテル。俺は特に喧嘩する気力もなくて、適当な挨拶をする。ヒナは真夏の海のようなキラキラと輝く笑顔で頭を下げた。
うわぁ。と俺が引き攣ると、デーテルは硬直したあと、プルプルと震えながらヒナを見る。
「え、えっと………聞き間違いかな? 準天使。今、私のことをむ、むむ、虫ケラ? と呼んだ気が………」
「聞き間違いではありませんよ。虫ケラさん」
「な、なぜだ!? ありえん! 貴様、私に惚れていたのではなかったのか!? あれだけ気にかけてやったというのに………!」
「え? 惚れる? ナニソレ。意味わからないです虫ケラさん。聞けばエー先輩を銃殺刑にしようとしたらしいじゃないですか。ふざけてるんですか? 私の大切なひとを奪おうとする虫ケラは、私の敵です」
辛辣ぅっ!
デーテルの求愛行動って独特だからなぁ。なんていうか、鳥とか虫みたいな? 人間で言えば下心しかないスケベの勘違いだろうか。
そりゃヒナだってブチギレる。俺の前だからか、拍車をかけるともう止まらない。
「気にかけるって、もしかして用もないのに会いに来ることのことですか? この際だから言いますけど、あれ、かなり迷惑なんですよね。私だって暇じゃないですし。貴重な休憩時間を、なんで虫ケラさんのために割かなければならないんですか? あと、一々近づくのもやめてください。腰に手を回さないでください。過剰なくらい振りかけたコロンが臭くて不愉快です。誤魔化してないでちゃんとシャワー浴びてください。1メートル以上の距離を保って話しかけてください。隣に並ばないでください。あと、事故を装って後ろから抱きついてきたことがありますけど、あれ演技ですよね? 殴りたかったけど我慢したんです。あと、その気持ち悪い視線どうにかなりません? 会いにくる度に私の全身をネチョネチョと舐め回すように見てますよね? 一番いやなのは、一々胸を見てることです。え、気付いてないとでも思ってました? バカにしてるんですか虫ケラさん? 本当に気持ち悪いです。私のおっぱいはエー先輩のものなので、もう見ないでください」
「あ、あぅ、あぅ、ぇあ………そんなぁ」
こんな酷いオーバーキル、見たことがない。
俺がこんなこと言われたら、瞬時にメンタルブレイクする。
「私の………準天使が………え? 大切な、ひと………そのゴキブリ、が?」
「そうです。エー先輩。ちょっとごめんなさい」
「え? あむぅ!?」
ヒナに手繰り寄せられると、ブチューと優しさで唇どころか口腔を舌で蹂躙された。約2週間ぶりの衝動に、ビクンと体が跳ねる。
よりにもよって、デーテルの目の前で。
「ぷはぁ………こういうことです」
「あ、あぅ、ぁう、あう………」
「う、わぁ、あ、ああ、あ………私の準天使が………ゴキブリと………あろうことか………うわああああああああ!」
あーあ。ついに号泣して逃げ出した。
可哀想とも思わないんだけど、やり過ぎというか、ヒナが過激になってて、もう怖いどころじゃ済まなくなってきた。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
この作品はエー先輩総受けで間違いないかもしれません。
次回は13時頃に更新します!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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