主砲を撃てA10
退院が許された。
長く続いた苦痛ともこれでおさらばだ。
延々と続くレイシアの説教。動かすことが許されない体。漬物になるくらい治療ポッドにジャブジャブと漬けられた全身。健康の代償に半端ないストレスを与えられた。意味なくね?
でもレイシアの不満もわかる。面会謝絶にしていない限り、どうしてもヒナはメディカルルームを訪れる。
メディカルルームはそれなりの広さがあり、レイシア以外の軍医も勤務していることもあり、ひとの目があってはヒナも羞恥心があるのか俺への接触は短時間。自室でやらかそうとしたことを、メディカルルームでおっ始めようとはしない。
安心したが、ここ最近別の意味でイライラしてきた。ずっとお預けだもんなぁ。健全な17歳にとってはキツイものがある。
やっと退院して、翌日から正式に職場復帰。クランドからの通達は、イリス同様自室での謹慎で終わり、メディカルルームに移されたことでレイシアを筆頭に衛生兵たちの厳然たる監視下におかれ、とても窮屈な思いをしていたのだ。
退院時間に合わせてヒナが来るかと思ったが、ガリウスの演習で艦の外にいるらしい。
俺はまっすぐ自室に戻るよう言われているが、どうしても寄りたいところがあって、ハルモニの制止を無視して足を運んだ。
「おーっす。やってるかぁ?」
「あ、エース先輩だ」
「退院できたんですか?」
「おめでとうございます!」
「はは、ありがとな。ついさっき退院したよ。クスドはどこだ?」
向かった先はパイロットと予備パイロットが使うシミュレーションルームだった。
避難民から学徒兵になった学生は、整備士とパイロットになった。これからさらに振り分けられ、移動となる。俺が会いにきたクスドもその例に該当する。
「あそこです。ずっとシミュレーションで頑張ってますよ。でも、もう終わると思います」
予備パイロットは全員1年生で、俺を慕ってくれていた。ミチザネ隊の副隊長になってから、特に。ネームドキャラは少ないが、グラディオスで行動を共にするようになり顔と名前を覚えた。
男女の比率は半々。判定は平均でCで、クスドのようにBを超えた者はいない。正規パイロットになるには最低でもAを得なければならないし、そこからシドウの試験とクランドの面接がある。厳しい審査だが、クリアできなければ戦死は免れないし、貴重な第七世代機を失いかねない。
しばらく予備パイロットたちと会話して、アドバイスを送るなりしていると、数分後に目的のコクピットブロックのハッチが開いた。
「ダメだ………ダメだダメだ! なんでいつも失敗するんだ! こんな結果じゃ、いつまで経っても褒めてもらえない!」
「そうかそうか。じゃあ先に褒めてやるよ。よしよし」
「ミ゛!?」
「変な声」
ヒステリック気味になりながら飛び出したクスドを受け止め、汗まみれな頭を撫でる。
クスドはしばらく硬直していたが、俺の顔を見るなりパァと明るく笑った。
「エー先輩! 退院したんですか? おめでとうございます!」
「ありがとよ。で、なんで叫んでたんだ?」
「あ、ああ………実はエー先輩からのオーダーを基に、先週の大規模な防衛戦を、他の方法で突破できないか色々試してたんですけど………どうもうまくいかなくて」
「ふむふむ」
よしよし。いい子じゃないか。
俺が渡した宿題に取り組み始めたなら、すぐに解決することはないだろうが、きっと第1クール終盤には仕上がっているはずだ。
クスドは戦術を組み上げられる参謀となれる。パイロットでもなく、整備士でもない。オペレーションルームでクランドの横にいる存在になれるのだ。
今からもっと内容の濃い、高難易度の戦闘攻略を経験させておけば、彼の出番が回ってくる頃には、きっとクランドの役に立つ。
「難易度ぶち上げて………C判定か。よくやったな」
「S判定をもらわないと満足できません!」
「そういやお前、成績良かったもんなぁ。学園ではハーモンにも教えてたっけ。向上心があるのは良いことだけど、そう無理矢理結果を出そうとするんじゃないよ。俺の無理難題に短時間でC判定を叩き出すなんて大したもんじゃないか」
「けど」
「クスド。俺みたいになりたいか? ぶっ倒れるまで研究するか? 涙が止まらなくて、ゲロ吐きながらシミュレーションしたいと? 周りのみんなに迷惑をかけたいと? ふーん? へーん? ほーん?」
「い、いや。そこまでは」
「だろ? この前の戦いの難易度マックスのシミュレーションで結果を出せたし、今はこれでいいよ。それより………先にこっちをやってもらいたいんだ」
「え? もう新しいものができたんですか?」
俺はぶっ倒れる前、シドウとカイドウに無理を言って、シミュレーションにも携われるようになった。すべてはクスドのレベルアップのために。ゆえにこうして、実戦データを仮想空間に移行させ、クスドに全体の指揮を取らせていた。
クスドの周囲に予備パイロットが集まる。クスドはシミュレーションルームの中央にあるコンソールに、俺の端末から送信した新しい任務をインストールすると、全員一斉に息を呑む。
「………僕に、これを?」
「ああ」
コンソールのモニターには、俺が設定した仮想の敵がいた。
いつものBタイプとCタイプだけではない。一際大きな敵も設置してある。
「………これって、Eタイプ………ですか?」
「ああ。俺も詳しくは知らないし、攻撃パターンも俺の偏見でしかないけどさ。やっておいて損はない。でもEタイプは今やらなくてもいい。ついでに挑戦するってレベルだ。………それよりもお前に最優先にやってみてほしい敵がいる。………こいつだ」
「え、えっ!?」
クスドだけでなく、予備パイロットも混乱する。
無理もない。
仮想の敵は、誰もが日々目にしているものだったからだ。
「敵が………グラディオス? いや違う。こちらの旗艦にもグラディオスがいる。ってことは………エー先輩? まさか………この敵の旗艦って………クランド艦長が仰っていた、二番艦ですか!?」
「………うん」
やらせてみて損はないはずだ。
まだ戦うと決まったわけではないが、将来的にぶつかる可能性の方が高い。
ゆえに先にクスドに経験させておいた方が、実戦で役に立つだろう。
「二番艦───アリスランドはグラディオスの兄弟だ。武装も同等なものにしてある。ただ艦載機だけは不明だったからな。どんな奴を載せてるやら。だからソータたち一号機から六号機、シドウ隊長のガリウスFを6機。布陣しておいた。クスド。これをやってみておいてくれ」
「エー先輩は………アリスランドと戦うつもりなんですか? 友軍なのに!?」
「わからねぇ。でもなんでかな。アリスランドって聞いてから、嫌な予感しかしねぇんだよ。もしかするとってこともある。今はひとりでも、グラディオス級の戦艦を相手に戦える戦術パターンがほしい。クランド艦長だって、アリスランドと戦うなんて考えちゃいねぇだろうからな。俺たちでその穴を埋めるんだ。頼むよ。クスド。お前にしか頼めねぇんだ」
クスドは黙考し、しかししばらくして浮かない表情ではあったが、首肯を返してくれた。
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日曜日だけは毎回勝負ですが、多分………7回………できるかな?
というわけで次回は翌日0時過ぎくらいに更新します!
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