主砲を撃てA03
「おっ、来たな」
「ハァ………ワルステッド。俺はパイロット全員でシミュレーションをするようにと通達したのだが、堂々と抜け出しやがって………いや、無理もないか」
カイドウはニヤニヤし、シドウは呆れていたが俺を商品のように差し出す。
そう。悩みのタネちゃんこと、ヒナに。
ヒナはパッと俺を強奪。傷にさわるからもうちょっと丁寧に扱ってほしいのに。プロトタイプガリウスGの加速にも劣らない速度だったぞ。
「エー先輩。会議はどうでしたか?」
「デーテル副艦長がここぞって畳み掛けてきて、危うく銃殺刑になりそうだったよ」
多分、ヒナなら「まっさかー」なんて笑いながら受け流すと思った。そういう性格をしているからな。いくらデーテルだとしても、ある程度の慈悲を───
「………え?」
───ヒナの瞳からハイライトが消えた。
なんだろう。なんかのイラスト投稿サイトとかでも見たことあるぞ。
とあるライトノベル原作アニメなんだけど、登場する女の子全員を改造し、ユリンみたいな恐ろしい女が跋扈する人外魔境みたいなファンアートだったかな。
あれと同じような、選択肢ひとつ間違えただけで殺されるゲームのヤンデレヒロインみたいな表情をしていた。
「シドウ隊長」
「………な、なんだ?」
「デーテル副艦長って、まだ艦長室ですよね?」
「………それを知ってどうする?」
あのシドウでさえ戦慄している。カイドウなんてパッと離れた。
「息の根を止めてきます」
「待て待て待てっ! お、おいヒナ!? ヒナさん!? なにをどう考えたら、そんな物騒な結果になる!?」
「止めないでエー先輩。私の大切なものを奪おうとする虫ケラは、ちゃんと殺虫剤を脳髄に注入しないといけないの」
「お前そんな性格だったか!? ちょ、力強っ………少尉! シドウ少尉も止めて………おやっさん!」
片腕でだけじゃヒナを止められなかった。
もう立派なパイロットだもんな。パイロットは操縦技術や反射神経や思考だけでは成り立たない。体力がなければ機体を長時間操縦することなんてできやしない。
ゆえにシドウはシミュレーション、演習、座学の他に身体能力の強化をカリキュラムに取り入れて、徹底的にしごき上げた。
腹に腕を回して体重をかけるも、俺の体重やグリップなど抑止にならず、シドウとカイドウも慌てて止めに入って、やっと停止した。
「離してください隊長! カイドウさんも! やられる前にやれって、隊長はずっと教えてくださったじゃないですか!」
「ば、馬鹿者! 敵に限った話だ!」
「エー先輩の敵は私の敵です」
「だからって殺す奴があるか!」
「隊長は悔しくないんですか!?」
「軍法会議に私情など持ち込めるはずがないだろう。とはいえ、奴が銃殺刑を進言した時には、俺が奴をその場で撃ち殺してやりたくもなったが」
「俺もぶん殴ってやりたかったけどなぁ」
「ほらやっぱり! じゃあ今からみんなでカチコミしましょ! エー先輩を処刑しようとする奴なんて、いらないって、艦長に直談判するんです!」
………嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
シドウとカイドウがあの時そんなことを考えていてくれたとは。けど殴られたのは実際には俺だけど。
「………ぐっ」
「エー先輩っ!?」
「あ、無理するな馬鹿者。全快ではないのだぞ。ワルステッドもここまでにしておけ。騒ぐとノギの傷が開く」
「………はい」
長く引きずられたせいで腹が伸びて、傷口が痛みを訴え、蹲る。
シドウは俺の状態を理由にヒナをうまく鎮静させた。カイドウはまたすぐに離れた。
「これでは、今日はお前も訓練どころではないな。数時間の休憩をやる。ノギをメディカルルームに連れていき、看病するなりして平常心を取り戻せ。いいな?」
「ありがとうございます。隊長」
「………構わんさ」
柔らかい笑みを浮かべるシドウ。こりゃ珍しい。なのでパシャリと。
なにを考えているかは手に取るようにわかる。
あの時───2週間前のあの日、Dタイプに狙われたヒナは危うく命を落とすところだった。
俺が運命に介入したからヒナは助かった。もし俺が行かなければ、こうしてヒナと話すこともできない。
シドウも彼なりに、ミチザネ隊に愛着がわいたのだろう。全員が個性豊かどころか激しすぎて殴り合いみたいなメンバーにはなったが、今はうまく連携ができている。あの事件の直前に、シドウは全員を一人前と認めた。手塩にかけて育てた弟子たちの成長は、さぞ嬉しかろうね。
「ノギ。お前が全快するにはあと2週間はかかる。その間になんらかの処罰が下ることになるだろうが、心配することはない。艦長はお前を評価している。お前にとって制限のある罰にはならないだろう」
「そうであることを祈ります。ところで、俺の仕事は………」
「お前のプロトタイプガリウスGは、見事なまでにスクラップになっちまったからなぁ。けどようシドウ。こいつパイロットに移動したんだしよぅ………どうするよ? 別に俺ぁ、整備士の仕事させながら、これまでと同じくドローンカメラの操縦をさせてもいいんだが」
「そうだな。ノギはプロトタイプではなく、七号機以降のナンバーズを与えれば、それこそなにを仕出かすかわからない。ドローンカメラの操縦士と整備士の仕事を兼業させるさ」
やることはこれまでと、そう変わらないってことか。
ジャケットの設計や、ガリウスGの整備くらいか。
もうビームシールド以外の装備を作るつもりもないから、なんだか急に寂しくなってきた。
………いや、待て。なにを呑気にしているんだ?
俺はまだ、命を懸けるくらいの大勝負があったじゃないか。それもかなり時間がない。
「おやっさん」
「ぁん?」
「全快したら、主砲を見せてもらえませんか?」
「………かーっ。これだよ。やっぱそう来るかい。お前、今度は艦でなにをやらかそうとしてんだ? ぁあん?」
やはり読まれていたか。
それでも構わない。
「デーテル副艦長に見学ツアーを頼んだ時に、俺なりに考えたことが………ちょっ、ヒナ!?」
「そういうのは退院してからやるべきだよ、エー先輩。それではシドウ隊長。カイドウさん。これで失礼します」
話しの途中でヒナに担がれた俺。しかも重力発生区画で。
「お、おう」
「また、な」
見ろよ。シドウとカイドウが面白い顔して固まってらぁ。パシャリと。
自分よりも身長が低い小柄な歳下の少女に担がれ、男として自信を無くす代わりに、レイシアに賄賂が用意できた。
なんて考えていると、ヒナはすぐにメディカルルームに直行し、俺をベッドの上に降ろすのだった。
「ただいま、レイシアさん」
「おかえりヒナちゃん。無事にエースくんを連れて帰れたね。じゃ、そろそろ手続き始めちゃうね」
「はーい」
相変わらず仲がいいな、このふたり。
なんて微笑ましげに見ていたら、レイシアの端末のモニターに表示されていたものに目がいった。
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