主砲を撃てA01
ここを訪れるのは3回目だ。
最初はソータとともにサフラビオロスから物資運搬任務の参加を言い渡された時。
次はミチザネ隊の副隊長に任命された時に。
そして今回は、グラディオスの各セクションのリーダーと、艦長のクランド、副艦長のデーテルが揃った会議にて、俺は艦長室に出頭を命じられた。
ヒナがアンノウンDタイプによって殺されそうになったあの日から2週間が経過した。サフラビオロスを出発して1ヶ月半か2ヶ月くらいか。
長いようで短い日々。
エース・ノギとして覚醒した俺こと小此木瑛亮が、天破のグラディオスというアニメの世界に転生した日数。
第1話から最終話まで視聴。雑誌など様々なジャンルを漁り外伝も手を出す。
そんな俺が、ついに物語の根幹となる、ネームドキャラクターの死に介入し、回避した。
ファンたちが夢にまで見たネームドキャラクターの生存ifルート。
俺にとっては夢のような日々だったが、現実である。ここはアニメの世界であって、現実なのだ。
さて、その現実となったアニメの世界にて、俺を囲むグラディオスを管理する数人が、鋭い視線で睨みつけている。
理由はわかっている。
俺の軍規違反についてだ。
「───然るに、このエース・ノギはグラディオスを危険に晒した罪を、どう罰したものかというものだが。各々方はどう考えているね?」
機関部門の主任が、視線を方々に飛ばす。
長々と並べられた俺の罪状。未成年だからとて容赦はされない。民間人ならまだしも、俺は志願した兵だからだ。
「決まっている」
声を上げたのは俺のおもちゃ、デーテルだ。
「子供とて容赦していては示しがつかない。度重なる著しい軍規の違反は、もはや黙認できる範疇になく、徴兵した学徒兵の暴走に直結しかねない由々しき問題だ。ゆえに、銃殺刑とするのが妥当です。何卒、英断を。クランド艦長」
ニタァと気持ち悪い笑顔をむけてくれやがって。
散々煮湯を飲ませた鬱憤を晴らそうとしてやがる。
ただ、俺のおもちゃ同然となったとはいえ、これでも副艦長。各セクションの主任らより一回り歳が下ではあるが、発言権は強い。
このまま誰もが黙ってしまえば、俺の銃殺刑が確定する。
額から冷や汗が伝う。デーテルは俺の反応を見て、愉快そうにしていた。「許して欲しければ跪いて謝罪しろ」と顔に書いてやがる。
グラディオスの臨時軍法会議も終盤だ。俺の弁護人はいない。処罰は投票で決まる。
すると、罪状を述べただけで、意見を発さなかったクランドが、やっと口を開く。
「英断か」
「そうです。そもそもこのグラディオスは、連合軍でも選りすぐりのエリートを集めた完璧な布陣を成す艦のはず。本来なら学徒兵など言語道断。いらぬ存在です。いや、誤解しないでいただきたい。私とて子供を処刑するのはしのびない。けれどもこの者は、自ら軍に従事すると志願したのです。で、あるならば。一人前の軍人として扱い、乱れそうになった風紀を正すべく、我々が子供に軍人のあるべき姿を教導しなければなりません。整備士の分際で機体へ搭乗し、無断出撃。これを許せば、もはや軍人として機能しますまい」
今日はペラペラと饒舌に語ってくれるじゃないか。ヘタレ副隊長め。
言っていることは正しい。正論であるがゆえに、反論できない。
いつもはその策を利用して逆転しているが、今回ばかりは軍配がデーテルに上がる。
だが、反論は意外なところで発生した。
「デーテル副隊長。よろしいですかな?」
「なにかね」
「エース・ノギは確かに整備士でした。そう、過去形です。ですが現在は、パイロットに所属していますな」
「っ………それが、どうした」
反論したのは反デーテル派の重鎮だ。名札がないから顔と名前と所属が一致しない。どこかで見たことがある。
「そう。パイロットが機体に搭乗することは罪ではない」
「か、艦長!? しかしこの者は無断出撃をしております!」
「そう。きみの言うとおり、無断出撃が咎められている。私も失念していたな。エース・ノギはすでに整備部門ではなく、パイロット部門にいるのだと。とあれば………」
クランドはパソコンから立体投影されているモニターの、いくつかの罪状を消していく。
「整備士ゆえに許されなかった行為も、パイロットならば問題あるまい。プロトタイプガリウスGは正式にエース・ノギの搭乗機である。試作していたビームシールドの強奪は、エース・ノギ式とされており、彼が開発に携わった以上実証実験も兼ねた」
「結果論です!」
「そうかね? 事実だと思うのだがね」
「艦長っ!」
「きみは差別が過ぎる。私怨による執着により、私刑に処したいという印象が強まるだけだ。控えたまえ。デーテル副艦長」
クランドはデーテルを黙らせた。
結果として、複数あった罪状も片手の指で足りるほどまで削除される。
おいおい、なんかすっげぇ強引だぞ。ご都合主義全開で、そこまで俺を守ろうとすると、逆にクランドが贔屓している印象を持たれかねない───あれ?
おかしいな。終始俺を睨んでいた主任たちの視線が、若干緩んでいるような?
「エース・ノギ」
「は、はい」
「確かに無断出撃の罪は軽くはない。しかし、きみの功績が大きいのは確かなのだ」
「参考までに教えていただきたいのですが………功績、とは?」
「うむ。………まずは、これを見たまえ」
クランドのパソコンのモニターに、銀色のシルエットが表示される。
「アンノウン………Dタイプですか」
「そうだ。正体不明、かつ攻撃方法も未だよくわかっていなかった未知の敵。その正体と攻撃方法を、こうして記録し、本部に通達。全軍に共有することができた。確かに俊敏性が高いが、直線でしか進めないのだろう。本部は早急に対策を講じる。それを可能にしたのが、まずひとつ目の功績だ。今後、Dタイプの被害は減ることになる。大勢のパイロットが死なずに済む」
ひとつ目ってことは、まだあるのか。
「ビームシールドはDタイプの阻止に有効だ。このデータはエース・ノギ式として本部に送らせてもらう。完全阻止とはいかなかったが、学徒兵の身でありながら大したものだ。本部の優秀な技術者が改良するだろう。これがふたつ目」
ビームシールドの改良版が、今後Dタイプの攻略の糸口となって、ガリウスに正式に配備されるかもしれないってことか。ファンとしては嬉しいことだ。
「そしてなにより、きみは我が同胞の命を救った。きみが立ち向かわなければ、ヒナ・ワルステッドが搭乗した六号機は大破し、パイロットの命は失われた。………艦を代表し、感謝する」
クランドは起立し、敬礼する。他の主任も倣う。デーテルは渋々と。
壮観だった。右腕の負傷が完治していないため、不敬を承知で左手で敬礼する。
「だが、きみの罪状が失効したわけではない。それは追って通達する。他に意見がある者は? ………なんだ。カイドウ」
会議に同席していた主任整備士であるカイドウ。それからパイロットリーダーであるシドウも続き、臨時で追加し、馬蹄形にあつらえたテーブルではなく、俺の隣に並んだ。
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