みんな大好きC03
『人生をやり直しますか? 継続しますか?』
またこのくだりかよ。
確かヒナを守れたんだったな。
俺たちを絶望させた第6話。すべてはこの時のために計画したビームシールド。無茶で無謀なプロトタイプガリウスGでの突撃。
我ながら笑えてしまう。
だって俺、ただの………ファンだった一般人だぜ?
文系で、数学も理科も苦手。機械工学なんて手を出したことはない。文献は少し読んだだけで眠くなる。
そんな俺が、よくやったよなぁ………。
『人生をやり直しますか? 継続しますか?』
さっきからうるせぇな。このハルモニもどきの機械音声め。
過労でぶっ倒れた日も聞こえたけど、もうあの時とは違うんだぞ?
俺はヒナを助けられた。死ぬはずだったヒナを無傷で生還させた。………代わりに俺が死にかけてるけど。
いや、まだ死んでたまるか。やることはまだある。山積みだよ。困ったもんだよ。
ほら、ライトノベルの主人公ってさ、転生したら大抵チート能力もらって無双してハーレム築くじゃん?
俺、魔法もスキルも使えないし。無力な一般人として転生した結果、努力ですべてを覆すしかなかった。
けどすべてが無駄ではなかったんだ。
さぁ、こんな茶番は終わりだ。
この、とんだセルフブラック企業の温床みたいな人生は継続に決まってんだろ馬鹿野郎。
いつまで呑気に寝てやがる。
アンノウンはマジで最悪。空気読まないし。襲撃タイミングだって狙ってるとしか思えない。
いざ目を覚ましたら、グラディオスが半壊してました、なんて洒落にならないんだ。
とっとと覚醒して、運命の分岐点みたいな、ヒナ生存ifルートを堪能させてくれや───
───って、強く願ってはいたけどね?
あ、はい。ハルモニもどきの機械音声クン? 聞こえますか?
誰が「ヒナ生存ifルートを堪能したいから、早速会わせろ」って願ったよ? 後半は願ってねぇんだわ。
目を開いて、まずびっくり。
涙目になってたヒナが目の前にいたんだもんな!
「エー先輩? 起きた? 本当に、起きた?」
「あぇ………ヒナ?」
「良かった………ほんとに、よかった………」
いやぁ、素晴らしいですねぇ。
なんたって、目が覚めたらまだ夢を見ているのかと錯覚する、この絶景!
ご覧ください。メディカルルームの奥のベッドで、横になっていた俺に覆いかぶさるこの可愛い子!
レイシアでさえ嫉妬する豊満な胸が押し当てられて変形してますやん。素晴らしいですね、まったく。押し広げられた胸の圧なら圧死してもいいと思ってしまうほどですもん。
身体中痛くて仕方なかったんだけど、俺も健全な男の子! 首の筋肉を最大まで活用してさ、重たい顔を持ち上げて、密着する胸と胸を凝視してしまいました!
するとねぇ、いやぁヒナはいい子だね。下心しかない俺が起き上がりたいのかと勘違いしたのかな? 助け起こしてくれましたよ。
バチが当たったけどね。
「ングッ………ぁ、ぐ」
「エー先輩っ!」
上体を起こした途端に、ズグンと右の脇腹が激痛を発した。ビクンと体が跳ねる。言葉にならない呻きしか声が出せない。シーツを掻きむしるように握る。
「はぐ、フーッ、フーッ、ぁ、フッ、フーッ」
声が出ない。ヒナの前で叫んではいけない。声を噛み殺す。
ズグンズグンと傷口が脈動し、その度に激痛を生み出すようだ。顔から脂汗が滴り落ちる。
「エー先輩………!」
何度かの大きな痙攣でベッドから落ちそうになると、ヒナが全身で受け止めた。その大きな胸に顔を埋める。飛び上がりそうになるくらい嬉しい感触のはずなのに、激痛のせいで喜ぶ余裕がない。
けど、次第に痛みも引く。慣れたか、麻痺したか。呼吸も落ち着いた。
「エー先輩………ごめんね、ごめんなさい………」
「ヒナ?」
「エー先輩は頑張って守ってくれたのに、私………あんな酷いことしちゃった」
「………いや、それはどうでもいい」
「どうでもよくないよ。よくないんだよ………」
ヒナは俺の頭を抱きかかえて泣き続ける。
痛みが引くと、やっとヒナの感触と体温を感じることができた。
なにかで読んだことがある。男にとって女の胸とはセックスシンボルで、なにより落ち着く対象であると。こうして顔を包まれると、性的な興奮のほかに、なによりの鎮静の効果が望める。
だからかな。俺の俺がアンノウンDタイプになりそうで、そしてなにより、ヒナの鼓動を聞くと安心というよりも達成感を実感できる。
「もうあんな酷いことは二度としないから、いなくならないで………」
「俺はここにいるよ。ヒナ。それよりもお前、怪我してないか?」
「うん。エー先輩が守ってくれたよ」
「生きてるんだよな?」
「うん。生きてるよ。エー先輩も生きてるよ。死んじゃったかと思って不安だった。4日も眠ったままだったんだもん」
俺も生きてて、ヒナも生きている。
守れた。絶対に死なせないと誓ったヒナが、こうして近くにいる。
俺はやりとげた。不可能だと思われたことを、可能にしてみせたんだ。
「わ、わっ!?」
「ごめん、ヒナ。………ちょっと、このままで。嫌ならいいけど」
「う、ううん。嫌じゃない。嫌じゃないよ」
ファンとして推し活対象はお触り厳禁という自分ルールを、今だけは消去した。
ヒナの腰を抱き寄せた。ヒナも拒否せず、彼女も応えてくれる。
「………エー先輩、泣いてるの?」
「ちょっと、な………」
前世ではできることの方が少なかった。エース・ノギに転生してから可能性が拡張したが、それでも確実性には欠ける。万能を装っているだけの中途半端な男こそ、俺そのものだ。
でも、そんな俺でもできることがあった。
ヒナの全身を堪能することで、本編には無い奇跡を起こしたのだと、やっと自覚したのだ。
「ヒナ」
「うん」
「生きててくれて、ありがとう………」
「それはこっちの台詞だよぉ。守ってくれて、ありがとうね。エー先輩」
守ってくれてありがとう。この一言ですべてが報われる。
ヒナから少しだけ顔を離す。彼女の顔を見たくなった。
しかし、ここから先の彼女の行動は、俺の予想を遥かに上回るイレギュラーそのものだった。
「んむぉあ!?」
にゅろん、と口のなかになにかが滑り込む。無防備だった唇から割り込んで、上下の歯を開き、舌を撫で回す。
「も、ぁ」
たまらず変な声が出た。
無防備かつ無警戒な人物を優しさで蹂躙した際に、こんな声が出そう。
「ぷぁ」
にゅろん、と舌を滑り、口から優しさの蹂躙が去ると、ヒナが止めていた呼吸を再開する。
「守ってくれてありがとう。目が覚めてよかった。大好きだよ。エー先輩」
「う、ぁ、ぁう、あぅ、あう………」
あまりの衝撃に、アシカの鳴き声みたいな声しか出なかった。
まさか、推し活対象から先にやられるとは思いもしなかった。
ムチューッと。
「ひ、ひひひ、ひ、な、さん………?」
もう傷の痛みなど忘れた。もしかしてあれか? 麻酔でも打たれた?
酷い混乱に陥ると、「えへへ」と笑ったヒナにもう一発、優しさで口をディープなほど蹂躙される。
逃げようとしたけど逃げられない。
俺の顔は彼女の大きな胸で挟まれて圧迫固定され、両腕で上体を掴まれている。
助けを求められず、俺はヒナが飽きるまで、優しさで口のなかを蹂躙され続けた。
ブクマ、評価、感想、リアクションありがとうございます!
それを励みに変え、無事に7回目の更新をすることができました!
本当にありがとうございます! お陰様でエースを無事ぶっ壊すことができました!
次回から第7話となります。エースの苦難はまだ続くのです。原作破壊行為は終わらない!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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