みんな大好きC02
「私、なにしてたんだろう」
ヒナは大量の涙をヘルメット内に漂わせながら嘆き続ける。
「エー先輩が他の子たちと一緒にいて、それが悔しくて、ノギ先輩だなんて呼んじゃって………でもエー先輩は私のために頑張ってて………は、はは………バチが当たったのかなぁ………私が、いけなかったのかなぁ?」
「そんなことない。そんなことないよヒナ。自分を責めなくていいんだよ」
「アイリちゃ………うぁぁあああああああああああ!!」
金切り声のような泣き声がドッグに響き渡る。
もう誰も、なにも言えなかった。
そしてまた、誰も知らない事実として、その悲痛な空気は原作と比較しても、ただただ居た堪れないだけで、誰も誰かを責めようとしなかった。
原作ではヒナの近くにいたソータをハーモンが殴り、責める。ソータが精神を壊し、そこにユリンが覚醒し魔のような毒を滴らせ、壊れていく様を猟奇的な嗜好で楽しむ。
だが、そんな奇行に出るはずのユリンは沈痛な面持ちをしたまま動こうとしない。
「………お前ら、そろそろ仕事だ。ガリウスの整備を始めろ! それから………イリスは拘束するが、営倉に入れなくていい。別室にぶち込んどけ」
カイドウは軍規を嫌うが、否定はしていない。主任整備士となってからは、その必要性に気付いた。
しかし人情に厚い性格が、厳罰を与えなければならない整備士見習いに対し、それでいいのかと自問した末に、刑罰を甘くしてしまう。
なにより聴取せねばならない容疑者が重傷を負った。イリスから聴取しても、詳しいことはわからないだろう。
『カイドウ』
「クランドか………」
部下たちがいつもどおりの作業に入るなかで、腕の端末に通信が入る。
『エースは?』
「レイシアが連れてったぜ。オペをするそうだ。………ぶっとい鉄が脇腹にぶっ刺さっててよぉ。腕にも………くそ」
『そうか。………レイシアたちなら大丈夫だ。きっと彼を治す。こちらはそろそろ終わりそうだ。そちらは?』
「全然終わんねえよ。ガリウスの整備があるし、プロトタイプだって………くそ。ついにスクラップにしちまった」
『わかった。なら終わったら私の部屋に来い。今晩はスコッチを出してやる』
「ケッ。艦長が堂々と艦内で酒飲むのかよ」
『勤務時間外だ。それに、残業という名目のミーティングをするのだぞ? お前はなにを勘違いしている?』
「あー、はいはい。そうだったなぁ。じゃ、切るぞぉ」
先程まで沈んでいた声が、若干力が戻る。酒を飲むことに活力を見出しただけではない。旧友のお陰で、いつの間にか調子が戻っていたのだ。
「お前ら、エースが戻って来た時に思い切り叱ってやれ! その時にドッグがこの有様じゃ台無しだ。とっとと片付けんぞぉ!」
「はい!」
まだ生きている。エースは戻ってくる。
それだけが全員の活力だ。
ただ、パイロットは精神的なショックが大きい。カイドウから見ても心の拠り所となり、近くにいるだけで精神安定を促していた。
レイシアが死なせないと断言したからのは、おそらく助かる。だがわかっていてもあの大怪我だ。シドウ以外は子供で、心の整理がすぐにできない。自分を誤魔化すことはできない。その点でいえばエースは自分を誤魔化すのがとてもうまかった。
「シドウ」
「ああ。イリスも連れていく。………ノギの代わりにはなれないだろうが、レビンスたちにとっては必要だろう」
「頼んだぜ。レイシアもかなり忙しいだろうから、しばらくカウンセリングもできねえ。俺らでこのガキどもをどうにかするしかねぇな」
「………大任だな」
ガリウスF・Sカスタムを降りたシドウが、ソータたちを連れてドッグから出る。イリスは営倉入りの代わりに謹慎という名のパイロットのケアを任され、疼くまるヒナをアイリと補助しながら歩かせる。
「………最悪な気分だぜ。なぁ、エースよ。お前………」
ほぼスクラップと化したプロトタイプガリウスGを見上げる。
「おやっさん。このプロトタイプ、ナンバーズのパーツの予備に使いますか?」
部下のひとりが尋ねる。数年の付き合いがある弟子のひとりだ。
「………いや、このまま様子見だな」
「なぜです? もうエースが乗れる状態じゃない。二度とガリウスとしても機能しないでしょう。試作ビームシールドは壊れましたが、レコーダーは取り出しましたし、使えるところだけ回収した方が効率がいいのでは?」
彼が言いたいこともわかる。実際、そうした方がいいのはカイドウ自身もわかっていたし、断言できるようになった弟子の成長を喜べる。
ところが、
「痛っ」
「俺が様子見っつったら様子見だ」
カイドウは弟子の尻を軽く蹴り上げた。
「なぜかな。本当、わからねぇんだけどよ。………そうした方がいいんじゃねぇかって、俺の勘がほざいてやがらぁ」
「………確かに、おやっさんのシックスセンスは、これまで間違ったことがありませんでしたね。わかりました。できるだけ保存してみます」
「悪いな。頼むわ」
「いえ。それよりおやっさん。顔色がよくないですよ。今日はこのまま上がってください」
弟子が唐突に休むよう言ったので、カイドウは目を丸くする。普段ならすぐ憤るところ、息を呑んだまま硬直した。なぜなら、多くの弟子が「大丈夫っす」と早退を推奨したためだ。
「ここにはおやっさんが手塩にかけて育てた整備士たちが揃ってます。それに、弟弟子がああなったんだ。おやっさんが参らないはずがない。エースは特に可愛がってたでしょ。気持ちは俺たちも同じですが、おやっさんの方がショックは大きいはずです。これから艦長とミーティングもありますし。ここは俺たちに任せてください」
「………テメェら………悪い。恩にきる」
「なんのこれしき。完璧に仕上げておきます。いつもどおりにね」
カイドウは弟子たちに背中を押され、踵を返す。
あんなトラブルがあった直後だというのに、不謹慎にも微笑してしまう。
カイドウにとって嬉しいことは、ちゃんと機能する機体を完成させることと、弟子たちの成長を目の当たりにすることだ。それを実感した時「ああ、この仕事を選んでよかった」と思えるのだ。
「クソ生意気な馬鹿息子どもと馬鹿娘どもめ。明日までに仕上げておかなかったら、ただじゃおかねえぞ!」
「はい! おやっさん!」
ドッグにいつもの活気が戻る。すべてはパイロットを助けたエースのために。なんとしても個人個人ができることで示したかったのだ。
カイドウは教会の懺悔室に赴く心持ちで、少し前に艦長室に戻ったというクランドに会いに行くのだった。
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6回目………よし。ここまで書けました。すぐに7回目に取り掛かります!
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