みんな大好きC01
激戦から数分後のこと。
シドウの機体に、父親であるカイドウより『早く戻れ! エースが死ぬぞ!』と焦った声の通信が届き、シドウは心胆を寒からしめた。
確かに、Dタイプを倒して以降、ヒナやソータが何度も呼びかけているのに返事がない。機体すら動かない。
「まさか………シドウ・ミチザネの権限を行使! 副隊長エース・ノギのバイタルチェック! ………うっ」
モニターに表示されたのは、予想を上回る悲惨な情報だった。
「お前たち、戻るぞ! レビンスがノギをドッグに運べ! ただしあまり振動させるな! デクスター、タイタンジャケットの冷却剤をプロトタイプガリウスGに移せ! エフナールが作業をしろ。ギグスとダルシャナは周囲を警戒!」
『了解!』
隊員たちは声音に焦りが滲むほどの返答をする。
グラディオスまで距離があるため、自分の知識の限りを引きだしてプロトタイプガリウスGの応急処置をするしかなかった。
『隊長! エー先輩のガリウスの電源がイカれて冷却剤の補給を受け付けねぇ!』
「なら俺が外部から修理を試みる! なにをしているワルステッド! プロトタイプを揺らそうとするな!」
『でも、でもぉ!』
「ギグス、六号機を拘束しろ。隊列を乱さず帰投させるんだ!」
隊員は経験の浅い子供だったと、今さら思い出したシドウ。
泣き噦るヒナをコウが取り押さえ、ともにグラディオスまで飛翔する。
同時進行で修理を行い、なんとか予備電源を作動させて冷却剤を注入。装甲から激しく軋むが、今はこれしかない。
ガイドビーコンに従って、順次グラディオスに収容される。応急処置の甲斐あって、プロトタイプガリウスGの発熱は最大時の半分まで抑えられた。
だが───
「冷却剤足りねえぞ! 早く持ってこいガキども!」
「レイライトリアクターを停止させろ! 暴発させてぇのか!」
「これでも全力でやっている!」
「熱で装甲が歪んでハッチが開かねえ!」
「パイロットのバイタル低下! 時間がないわよ!」
「いいからぶっ壊してでも外せ! エースが死ぬぞ!!」
「死なせやしねぇよ馬鹿野郎! パイロットを救うために勝手やらかした、このクソ生意気なクソガキをぶん殴るまで、死なせてたまるかってんだァッ!」
ドッグが異常なほどの熱で満たされるなか、整備士たちは命を懸けた。
艦の外がパイロットの戦場なら、艦のなかが整備士の戦場である。
学徒兵たちには補給の手伝いをさせても、絶対に近寄らせなかった。経験の浅い彼らには無理だし、ノーマルスーツ越しでも侵入する熱に耐えられるはずがない。
大人たちは必死に奮闘した。
このプロトタイプガリウスGのパイロットは、たったひとりのパイロットを助けるために危険な戦場に出た。
明確な軍規違反。軍法会議は免れない。
されども、誰もがこのパイロット───エースという子供を認め、尊敬した。自分には決してできないことだと。
また、発進時には「ぶち殺すぞ」と言わんばかりの睥睨をしたカイドウも、今はエースをなんとしても助けるべく、凶悪な熱の中心に立って救出に没頭していた。
「いいから装甲ごとぶっ壊せ!」
「レイライトリアクター停止! いけます!」
「よし、シドウ!」
『ああ。下がっていろ!』
シドウはドッグに戻ってもガリウスFから降りずに近くで待機していた。
いかにプロトタイプとはいえ最新鋭機。熱で変形するまで歪んだ装甲は、もはや人力ではどうにもならない。
冷却も進み、マニュピレーターで掴んでも問題はない。カイドウが部下に退避を命じ、一定の距離を取ったところで装甲を破壊。強引にコクピットブロックを掴んで、しかし潰さないよう繊細な動きで引き抜き、かなり距離のある場所に降ろす。
「エー先輩っ!」
「先輩!」
「下がってろガキども! コクピットブロックのハッチも歪んでる。ぶっ壊せ!」
カイドウが迫ろうとするソータたちを全身で受け止める。
その間に工具を使ってハッチをこじ開けた整備士たち。たまらずソータたちはカイドウをすり抜け、コクピットブロックに駆け寄った。
「見るな! 見るんじゃねぇテメェら!」
カイドウはハルモニを通じて、エースがどんな状態なのか先知していた。
息はある。だが、
「あ、あ………あ………」
「せん、ぱい?」
「エー………せんぱ………」
「う、あ、ぁ………」
「いやだ………そんなの嫌だよ………ねぇ、目を開けてよ………先輩………エー先輩っ!」
ソータ、ハーモン、コウ、シェリー、そしてヒナ。
悲痛な面持ちをしながら、まだ熱のあるコクピットブロックを覗き込む。
アイリや、拘束されていたイリスも駆け寄り、絶句した。
「エー先輩………そんな………そんなのって………ひっ」
ヒナがゆっくりとコクピットブロックに入る。
手をかけた場所がヌルッとしていた。ノーマルスーツの手袋が赤黒く染まる。
血液だ。
「エー先輩………ねぇ、エー先輩ってば」
項垂れて、ピクリともしないエースに手を伸ばす。薄暗い空間に目が慣れると、より凄惨な光景を目の当たりにした。
しかし、それ以上の侵入を阻む手が、奥に侵入しようとしたヒナを強引に引き戻す。
「退きなさい!!」
「あ………レイシア、さ………エー先輩が、エー先輩がぁ」
ノーマルスーツを着用した、レイシア率いる衛生兵たちだった。彼女たちもまた、自分の戦場のために馳せ参上した。ドッグに未だ満ちる熱気に臆さず、患者に集中する。
「わかってる。でも、今ならまだ間に合うから。………すぐにメディカルルームに移動させて! オペの準備を!」
「はい!」
軍医たちが迅速にコクピットブロックからエースを持ち上げる。
その際にベリベリベリッとテープを引き剥がすような音が鳴る。血液がシートとノーマルスーツの間で熱で癒着したものを剥がす音だった。
明るみに晒されたエース。
右半身が酷いことになっていた。
コクピット内でどこかが爆発したのか、鉄の破片が腕や脇腹に突き刺さり、ノーマルスーツを赤く染めていたのだ。出血は今も続き、無重量空間に血の珠が拡散し漂う。
全員が息を呑む。学徒兵にとっては、初となる負傷者だ。
「エー、先輩………レイシアさん………エー先輩、助かるんです、か?」
「大丈夫。必ず助ける。だからヒナちゃんは、みんなと一緒に待っててね。みんな、行くわよ!」
レイシアは衛生兵たちとともに担架に乗せたエースをメディカルルームまで運ぶ。重力発生区画からはストレッチャーだ。切り替わる寸前で乗せる手筈となっている。
「………エー先輩、もしかして、この時のために………頑張ってたの?」
「ヒナ………」
膝を床に突き、嘆くヒナにアイリが歩み寄り、抱き寄せる。
そう。エースはヒナが生き残るべく奮闘した。誰も知らない事実だった。
そしてまた、彼らは知らない。
ヒナが最初の犠牲となった時、ドッグに漂う空気を。誰もなにも発せない。喪に伏すでもなく、呆然としたような無言。カイドウでさえ回復するのに数分を要した。
それと比較すれば、今は悲痛な泣き声があるだけマシだ。負傷者が出たが犠牲者は出ていない。
間違いなく、エースが手繰り寄せた奇跡だった。
やっと第6話も終わります。長かったです。
で、エースも生きていました。よかったよかった。となればいいのですが…
次回は19時に更新し………たいところなのですがストックが切れました。これから書き溜めますが、皆様の応援があればきっと2話分書けるはず! 作者に元気を、ください!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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