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コロニー崩壊B01

「エー先輩っ!」


 半泣きで接近するヒナ。艦内は重力がないため、斜め上にならないよう、うまく跳ぶ必要がある。ヒナは講義をよく聞いていたし、演習の結果も上々。一発で前進を成功させた。


「おっと………おいおい。無茶すんなよ」


 ヒナを抱き止める。スルーなどできるはずがない。だって、浮いてるし。もし小此木瑛亮の頃だったらヒナに衝突された瞬間に、うまく衝撃を緩和できず、背後にあるプロトタイプのガリウスに激突していたかもしれない。


 ただ、そんな感心は俺の心に5パーセントほどしかなかった。


 残りの95パーセントはなにかって? 決まってる。



 ヒナの匂いが、うますぎる! 生きててよかった! これを堪能できるなら、俺は喜んで変態になれるぞ!



 小此木瑛亮時代は異性関係なんて寂れたもので、楠木が量産した信者のなかにも女性がいたが、うまく打ち解けられなかった。


 そんな閑散とした暗黒時代を打ち破る衝撃ときたらもう───たまらねぇなっ!


 ヒナを演じた声優も大好きだ。それが今、そのままの肉声で俺の鼓膜を甘く撫で上げて脳を蕩けさせようとしている。もちろんそれだけではない。声の次は感触だ。異性の体の柔らかさときたら、もう、ね。下っ腹に注力していなければ、今頃「ヌェヘヘェ」と下卑たように笑っていたかもしれない。


「無茶なのはエー先輩でしょ! なにやってんの!? あんな………」


 ヒナの視線が中破したプロトタイプへと向かう。


 彼女もわかっていた。パイロット科の生徒だ。普段演習で使う機体よりも上等なものだが、この非常時で使用するには程遠い。銃弾飛び交う戦場で、全裸装備におたまとおぼんを持って奇声を上げながら敵陣に突っ込むようなものだった。それを咎められている。


「それについては、俺も聞かせてもらいたいもんだぜぇ」


 その横からひょっこりと現れたのは小柄にしては筋骨隆々な中年男性だった。その厳つい表情に、ヒナはつい一歩後退る。俺は慣れていたし、なにより会いたいと思っていたから耐える───というよりも内心ではとても喜んでいた。


「おいガキ。テメェ………あの機体で、いったいなにしやがった?」


「なにがです?」


 睨まれても笑顔を維持できる。怖いけど喜びの方が大きい。


 それにしても往年の声優をキャスティングしたせいもあってか、声が渋くてかっこよすぎる。採用した運営陣には感謝しかない。鼓膜を喜ばせてくれる。


「このスラスターのぶっ壊れ方よぉ。………俺の目を欺こうだなんて、馬鹿なこたぁ考えない方がいいぜぇ」


「欺くなんて。とんでもない」


 俺はこの男を知っている。ヒナはもちろん知らない。


 今は舞台裏の会話だ。本編にはない。そこがアニメとは違うところだな。


「まぁいい。後でしっかりと話を聞くとして───」



「ふさけんじゃねぇぞテメェ、おいコラァッ!!」



「あん?」


 中年男性の細められた瞳が、罵声の方へと移動する。


 来た。これで本編が始まる。ここまでは予定どおり。俺の選択は間違ってはいなかったようだ。多分、今後はこんなイベントがあるのだろう。


「サフラビオロスに戻れないたぁ、どういう了見だコラァッ!」


「それについては先程説明したな。あのモニターを見たまえ。あのコロニーは中破───いや、大破も同然だ。もう人間どころか、全生命が生活できる環境ではない」


「ざっけんな! それを決めるのはテメェじゃ」


「その制服はサフラビオロスの学園の生徒のものだな。腕章はパイロット科か。………まさか、パイロット科に属していながら、あのコロニーの状況を分析できぬはずがあるまい」


「………クソがっ」


「納得したようだな。………この学生に諭したように、サフラビオロスはもう機能しないどころか、爆発する可能性も大きい。しかし、不幸中の幸いにしてか、すべての救命ポッドはサフラビオロスを脱している。諸君らの家族は、そこにいるだろう。それらの救命ポッドは、距離があるものの、確実に隣のコロニーに漂着する予定である」


 ハーモンが噛み付いた、長身の中年男性が、安然の地たる住処を奪われ、難民となった俺たちに言う。


 家族は無事と聞かされた大勢が「おお」だったり「よかったぁ」だったりと、各々の安堵を示す。俺とソータとハーモンは違うので、なにも反応しなかった。ソータは静かに全員を見渡し、ハーモンは興味のない目をしている。


 改めてエイスマン教授が救命ポッドに乗せた面々を見てみよう。


 全員が学生だ。知っている顔が7割。見たことがあるような顔が2割。知らない顔が1割。


 腕章は半分がパイロット科。もう半分が整備科だ。


 ちなみに俺は整備科である。知っているような顔と知らない顔のブレザー、あるいはつなぎにあるピンバッジにある数字で学年を視認できるが、ソータたちメインキャスト以外は俺も含め上の学年だった。ケイスマン教授のゼミにいる先輩たちか。優秀な人材が揃ったものだ。


 なるほど。見えてきたぞ。作中では顔も出さなかったケイスマン教授の采配が。大したもんだ。


「私は特殊強襲特装艦グラディオスの艦長、クランド・デネトリアである。現在、ある任務のためサフラビオロスに立ち寄るつもりだったのだが………予定が変わってしまったな」


 クランドという艦長は、先程俺にメンチを切った身長が低いわりには横幅が広い男に視線を移す。視線を受けた男は「やれやれ」といった感じで肩をすくめた。


作者からのお願いです。

皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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