プロローグ
『天破のグラディオス』
これは間違いなく俺の人生のなかにおける、最高傑作と称するに相応しい名作となった。
神作として挙げられるアニメはいくつかあれど、ここまで俺の心を揺さぶり、くすぐり、燃え上がらせ、絶望させ、そして再び燃え上がらせたのはこれしかない。
思えば、最初期からここまで期待され、そして期待に応えたアニメというのも珍しいのではないだろうか。
「う、っは………」
エンドロールを見終えた俺は、椅子の背もたれに身を投げ出した。
名曲とも思える素晴らしいエンディングテーマが、さながら瀑布から濁流に直結し、上下左右となくシェイクするような興奮を、しっとりと抱擁し温めて落ち着かせてくれるようだった。
されども一旦落ち着いたところで、体内から噴火するマグマのごとく、興奮が押し寄せて冷める気配がなかった。
全身の毛穴が開き、目が充血し、鼓動が早まる。まるでエネルギードリンク漬けにした体を動かしているような苦痛。しかし快感的でもあった。俺はこの快楽に身を委ねて、エンディングを見届けた。
天破のグラディオス。全26話からなる壮大なストーリー。すべてが完璧だった。脚本、作画、声優───このアニメに携わったプロフェッショナルたちの魂の咆哮を、間近で受けたようだ。
複雑なストーリーにふんだんに散りばめられた伏線。感動と絶望。俺たちファンの喜ばせ方を知っているような運び方。
「ハァ、ハァ………すげぇ。すげぇよ天破。こんなの見たことねぇよ」
難解なストーリーのすべてが集約し、強大な敵へと立ち向かう主人公たちの勇姿を、俺は忘れることがないだろう。
「よかった。よかったなぁ、ソータ。アイリと手を繋げるようになったんだなぁ」
いつしか俺は、涙していた。ソータとは主人公で、アイリとはヒロインのことだ。
このふたりは幼馴染であり、荒波のような怒涛の展開のなかで複雑な関係となりながら、再構築の道を選ぶことになる。その流れがとても尊い。………一部のファン、腐女子たちからはあまり喜ばれていないけど。
有名な歌手が奏でるエンディングテーマも泣けてくる。オープニングテーマはカラオケで叫びたくなるほど熱いビートと、楽器が壊れそうになるくらいのメロディを奏でているのに、なぜエンディングテーマはバラード調だけど熱くなれるのだろう。
「すごかった………すっげぇキャラが死にまくったけど」
ファンを絶望の坩堝に叩き落とした要因がそれだ。開始6話で、まさか死ぬはずがないだろと思っていたキャラが死んだ。それが俺たちファンを狂わせる始まりで、しかし悼むとともに強烈なインパクトを与えた。イラスト投稿サイトなんて、毎回誰かが死ぬ度に悼む絵がアップされてるくらいだ。
みんないい子で、いい大人だった。作中では、それが理解できなかったからすれ違いが起きた。悲劇も起きた。
今でも覚えている。第2クールの中盤で、主人公のソータが「もし、みんなが生きてここにいてくれたら………」と儚げな表情で語るのだ。
俺も思った。ていうか、全員思ったよ。みんながいてくれればって。
不満はあった。けど口を出すのは間違っている。俺たちはファンであり、二次元にはどうしても介入できないのだから。
「あぁぁ………来週からなにを生き甲斐にすればいいんだ? こんな神作、滅多に出ないだろうしな。ハァ。仕方ない。またファンアートを見て、ソーアイの二次漫画でも探して、寝る………カァアッ!?」
エンディングも終盤に差し掛かる。
すると、天破のグラディオスで幾度となく見た宇宙空間が映り、惑星さえも飛び抜けて───淡いピンク色の光で溢れたと思えば、次に広がったのは触手がうごめく異様な空間だった。見たことはない。こんなの作中にはないはず。
絡み合う触手の奥底で、またピンク色のなにかが光る。ズームアップしていくと、光のなかで影が強調されていく。
とあるシルエットが浮かんだ。マッシュボブの髪。わずかにある胸から女の子であるとわかる。
しかし俺たちファンなら知っている。この子が誰なのか。
「え、え………っ!?」
もう終わったと思っていたアニメの、わずかな間隙にねじ込まれた情報で思考が馬鹿になっていく。
『失ったの、悲しいね………ソータ』
あの子の声がした。もういないキャラだ。声優に抜擢されたのは新人だが演技力のある実力派。歌唱力も然り。
『取り戻したい?』
意味ありげな言葉。
呼吸を忘れた。馬鹿みたくなっていた思考がフル回転を始める。
終わりを告げたアニメが、またなにかやらかそうとしている。
まったくどうして、このアニメはファンを熱狂させるのか!
『劇場版 天破のグラディオス───製作決定』
「うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
叫んだ。力の限り。声の限り。肺の空気をすべて排出して。
なんてサプライズ!!
これで俺は絶望せずに済むんだ。
これは総集編とか、本編を参考に作ったパラレルワールドでもない。
続編だ。きっとそうだ。そうでなきゃ、あのキャラが出るはずがない!
「………ぁぁぁぁ………神様、ありがとう………俺の寿命、半分くらい持って行って、いいよ………」
初めて捧げる神への感謝。大学に合格した時の比ではない。
俺は倒れた。絶対に生きる。劇場版を見るまで、生き続ける。なにがあっても。
でもまず、そのためには睡眠が先だ。寝なきゃ生きられない。
明日から忙しくなる。なにをするかは決まっている。考察勢のコメントを身漁ったり、録画した最終回をもう一度酎ハイを片手に鑑賞するのだ。そうだ。あいつも呼ぼう。天破に関しては俺に負けない熱意を持っている友人と一緒に、なんなら第2クールから視聴してやる。
ああ。なんて幸せなんだ。できるなら今すぐSNSにこの感動をぶち込みたい。
けどなんでだろう。利尿作用が怖くて酒を絶っていたのに、泥酔したあとみたく眠いんだ。
クッションが気持ちいい。もういいや。このまま、寝て───
初めましての方は初めまして。
衝動的に書いてしまう桐生落陽と申します。
これまでとはまた異なる作品です。なにが違うって、まぁ………色々と。異世界転生は書いたことのないジャンルでありましたが、年末を利用して書き溜めていたものを一気に放出しようと決意しました。
そんな作者からのお願いです。
まだ序盤ではありますが、「面白そう」だとか「期待したい」と思われましたら、お気軽に☆とブクマを抉ってくださると、桐生は喜びのあまり普段はやらない毎日投稿をするかもしれません。
応援してくださる皆様のすべてがモチベーションに直結しますので、何卒よろしくお願いします!
年末年始、大量に更新します!
ちなみに作者は1月1日から仕事が始まります!




