フウ
「人間の前に姿を表してはいけない。もし見せれば恐ろしいことになる。」
これが、今から何千年も前から精霊達に伝わる言い伝えだった。
そして、それはいつしか精霊達の間でルールとなってしまい、人間に姿を見せることは「違反」と見なされ、厳しい罰を受けなければならなかった。
しかし、そんな状況を変えようと立ち上がったある精霊と人間がいた。
これは、そんな二人の話である。
「ねぇ、おばあさまぁ~。人間を見てみたいよぉ~。」
「だめだっていってるだろう。これは、「決まり」なんだよ。」
「「決まり」っていってもただの言い伝えがいつのまにか決まりになっちゃったってだけでしょ!」
「だめなものはだめだよ!」
「もうっ、おばあさまのけちっ!」
「ふん、なんとでも言いな。」
またやってるよ、と二人の様子を見ていた精霊たちが苦笑している。
「ほら、フウちゃん、カスミソウの髪飾りあげるから機嫌直しなよ。人間を見に行ける日がきっとくるからさ。」
と、友達のソラが言う。
「そう言ってくれるのはソラだけだよ~。」
とフウが言う。
「でも、なんで人間に姿を見せたらいけないんだろう。「恐ろしいこと」になるっていってもどうなるのか詳しく言われてないし、そもそもただの言い伝えだし。」
「きっと、言い伝えを信じなかったフウちゃんみたいな精霊が考えなしに人間に姿を見せてが「恐ろしいこと」になったんだよ。」
「それって、私が考えなしだってこと?」
「あはは、どうかな。まぁ、私はフウちゃんを応援するよ。」
「ありがと。」
じゃあまたね、と二人は別れた。
ソラと別れたあと、フウは考えた。
「はぁ、人間ってどんな見た目をしてるんだろう。人間の世界にはどんなものがあるんだろう。もし、人間に会えたら ... 」
「人間に会えたら、なんだって?」
(まずい声に出てたのか ... 。しかも、よりによって父様に聞かれるなんて。)
「またよからぬことを考えているようだな。」
「別に ... 。」
「お前が「違反」をしたら、また家に迷惑がかかるということがわからないのか。」
父はいつもそう言う。父はこの村の精霊と土地を治めるリーダー、つまり村長なのだ。
そして、私たちの家系は代々長男が村長を務めることになっている。
しかし、父には子が二人おり、二人とも女であるため、長女であるフウ、つまり私が次の村長になる。
そんな私が何か「よくないこと」をしたら、それがいくら小さなことでも大事になってしまうのである。
ましてや、「違反」なんてした日には一家一同で責任取らねばならないため、家の顔にどろをぬることになってしまうのだ。
( ... でも、それがなんだっていうの?)
「迷惑だと思うならどこかに養子に出して、ライを次の村長にすればいいでしょ。」
妹のライは活発で友達も多く、人をまとめる力がある、まさに長になるために産まれてきたような子だ。
それに比べて私は自分で言うのなんだが、あまり人と関わるのが得意でなく友達はソラだけ、また、自分が興味のあることにならないとしゃべらない。そんな私に長になれと言うほうがどうかしているのだ。
「そうはいかん。これは一番に産まれたお前の責務なのだ。それに ... 。」
「あぁ、もういいよ。」
そう言って、フウは勢いよく羽を動かして、その場から飛び去った。
「待て、フウ!話はまだ ... !」
「あーあ。なんでみんな私の考えを否定するんだろう。これが私、フウっていう精霊なのに。」
フウがそう言ったとき、ガサッという音とともに「羽のない精霊」があらわれた。
「 ... あなた、何?人間 ... じゃないわよね、羽があるし。」
と、「羽のない精霊」が言った。
フウは「羽のない精霊」が言った言葉を聞き逃さなかった。
「人間?あなた人間なの?」
と、フウが聞いた。
そうよ、と「羽のない精霊」、人間が答えた。
フウは人間に会えた喜びで、「人間に姿を表してはいけない」という「決まり」を忘れて、思わず尋ねた。
「名前、なんて言うの?」
すると人間は答えた。
「私の名前は ... アスカ、アスカって言うの。」
と。