010. 動機という名の優しさ
「あれだけじゃない、とはどういう意味ですか?」
「もちろん、あれも動機の一つなんでしょう。でも、あれとは別に、あの事件をおこして成し遂げたかったことがあったんじゃないですか?」
「 ... そんなもの、あるわけないじゃないですか。」
「 ... ユウヒさん、もう嘘つくのやめにしませんか。どうせ、あなたの計画は失敗したんですし。 ... あんなことしたって、フウちゃんは諦めませんよ。」
ソラがそう言うと、
「 ... もう言い訳はできなさそうですね。」
と諦めたように苦笑していった。
「ユウヒさん、あなたの本来の目的はフウちゃんが人間の世界に行くのをとめることですよね。 ... フウちゃんがあなたの友人のようになるのを避けるために。」
「 ... えぇ、そうです。全部お見通しって訳ですか。 ... 私は偶然見てしまったんです。フウ殿が人間と人間の世界に行く約束をしているところを。あのときのフウ殿はとても楽しそうで、まるで、人間の世界のことを話しているときの友人のようでした。」
ユウヒはそう言って悲しそうに笑った。
「あれさえ見ていなければ、私は事件を起こしていなかったかもしれません。でも見てしまった以上、どうにかして引きとめなければならないと思いました。村長の補佐として、ソウの友人として ... 。」
「なんでわざわざ火事をおこしたんですか?方法ならいくらでもあるのに。」
「フウ殿には言って聞かせても、無意味だとわかっていました。だから、火事をおこすことで、命の危険を知ってもらおうと思ったんです。人間の世界が安全とは限らない。それを自覚してもらうためにこの計画を立てたんです。 ... まあ、まさかソラ殿に阻まれるなんて思わなかったですけどね。」
「私はフウちゃんのためならなんでもするって決めたんです。たとえフウちゃんが危険なことをしようとしていたとしても、フウちゃんが選んだことなんだから、私はできるだけその危険を取り除いて、応援していこうと思っています。」
「そうですか ... 。友人関係にもいろいろあるんですね。 ... それはともかく、私もソラ殿にお聞きしたいことがあるんです。」
「なんですか?」
「ソラ殿は私の計画をどうやって知ったんですか?」
「それは ... 。」
(言えない ... 。この能力のことは言えない。)
ソラが黙っていると、ユウヒは、
「まあ、いいです、言わなくて。誰にだって、一つや二つ、嘘や隠し事を抱えているものです。 ... でも、これだけは覚えておいてください。その隠し事を打ち明けられるくらいに信頼できる人をつくっておくことも大切ですよ。そうでないと、私のようになってしまいますからね。」
と自嘲するように言った。
「あぁ、それから、誰にもこの計画の目的は言わないでください。フウ殿を守ろうとして、それが空振りに終わった話なんて恥ずかしいですからね。そこは私の顔を立てていただけると嬉しいです。」
「 ... わかりました。誰にも言いません。」
*~~~~~~~~~~~~~~~~~~*
(まさか、ユウヒさんが父様への復讐を考えていたなんて ... 。)
フウは、はぁ、とため息をついた。
("友人"って、コウキさんのことだよね。もし、私がコウキさんみたいになったら、みんなは、ソラはどう思うんだろ ... 。)
そのとき、フウの部屋の窓に"こんこん"と何かが当たる音がした。