戸塚健二の日記
戸塚健二の日記
戸塚健二の日記
◾️5月18日
アパートに新しい住人が引っ越してきた。
僕の右隣の部屋だ。
20代前半の若い男だった。
笑顔だったが、目が笑っていない気がして少し気味が悪かった。
挨拶にと、クッキーを寄越した。
甘いものは好きでは無いが、ありがたく受け取った。
天気が良い。洗濯物を干した。
◾️5月26日
仕事で帰りが遅くなった。郵便受けに封筒が入っている。差出人の名前が無い。
部屋で封を開けてみると、実家に住む母親からの手紙だった。
くれぐれも無理はしないように、と締めくくられている。
明日にでも電話をかけようと思う。
◾️6月5日
隣の住人と階段で鉢合わせた。
少し違和感を感じたが、髪型が変わっていたからだと思い至る。
美容院にでも行ったのだろう。
職場の同僚からいただいたインスタントのコーヒーを淹れた。
ベランダに出てコーヒーを飲む。
今夜は月がよく見える。
◾️6月9日
休日だったので、シーツを洗濯してから趣味のドライブに出かけた。
お気に入りのプレイリストをかけながら車を走らせていると、嫌なことも忘れる。
◾️6月17日
仕事帰りに定食屋で飯を食べていると、見知った顔を見かけた。
アパートの隣人だ。生活圏が同じなら、まあ会うこともあるだろう。
細身のように見えていたが、随分がっしりとしている。
ジムにでも通い出したのかもしれない。
◾️6月30日
月末で仕事が忙しかった。何だか熱っぽい感じもする。
帰って熱を測ると、37.5度。
うとうとしていると、隣の部屋からさざなみの音が聞こえる。
だめだ、幻聴まで聞こえ始めた。今日は早めに寝るとする。
◾️7月4日
今日は早めに帰ることができた。
階段を登って部屋まで行こうとすると、廊下がびしょ濡れだった。
大家が掃除でもしたのだろうか?それにしても随分びしょ濡れだった。
つま先立ちで部屋まで入った。
◾️7月5日
久しぶりのドライブ。向こうに積乱雲が見える。夏が本気を出してきているのを感じる。
コンビニでアイスコーヒーを買った。
接客してくれた店員が可愛かった。
◾️7月12日
熟睡していたはずだが、目が覚めた。
何だか何かに見られているような視線を感じる。
冷蔵庫に入っている麦茶を飲んだら、気分がすっきりした。
まあ、たぶん気のせいだろう。
◾️7月20日
スーパーで買い物をしていたら、声をかけられたので見てみるとアパートの隣人だった。
メガネをかけていたので最初は分からなかった。
帰って来てみたら残念。
麻婆豆腐を作ろうと思っていたのに豆腐を買い忘れた。
◾️7月24日
疲れ切って風呂でも沸かそうと風呂場に入ったら、なんと湯船に水が溜まっていた。
お湯ではなく、水。
最近疲れているのか、何だかよく分からないことが多い。
近頃よく眠れていないのも要因の一つだろう。
次の休みは温泉にでも行こう。
◾️7月28日
朝、ベッドから起きあがって歩こうとしたら、すっ転んで大変な目に遭った。
何かと思ったら寝室の床が濡れている。
もしかして、雨漏りでもしているのか?
僕は慌てて大家に電話をかけた。
「床が濡れているので、もしかしたら雨漏りしているのかも」
「いやあ、この間屋根は補修工事したばかりだから、そんなはずは無いんだけどねえ。まあ、明日にでも見てみるね」
「お願いします」
「濡れているのは一箇所だけ?」
「はい」
「そうかあ、まあ明日見てみるね。しかし弱ったなあ、最近入居希望もいないし、また修理なんてことになったら、ねえ」
「2ヶ月前に入った人いましたが、まだ空いている部屋あるんですね」
「2ヶ月前?」
「5月に。若い男性が。僕の部屋の右隣に越してきてますよね」
「いや、馬鹿言っちゃいけねえよ」
「え?」
「あんたんところの右隣は、1年空室のままだろうよ」