咲いては散って、また白いキャンバスに ep1
1番最初にこの場所へ着いたときは、これからの生活に一方的な希望を見出していた
不安ももちろんあったけど、受験も終わって望み通りの大学へ入学できたことで、楽しい未来がある、なんて想像ばかり膨らんだ
友達つくって、サークル入って、これからバイトも始めないと
服もたくさん買いたいし、化粧ももっとうまくなりたい
何かができる、何かの私になりたい
絵を描くことが褒められたこともあるから、バイトして機材買ってイラスト製作もしてみたい
ポジティブな欲望だけで満たされていて、この時の私が1番好きだった
これからの大学生活と、それ以降の人生も楽しい生活を送れるのだと、勝手な欲望だけの自信
何かを疑うことができなかった、幼稚な時代の私
そんな私が、好きだったよ
好きな自分に向けて、過ぎ去った時間以上の虚しさを感じるなんて
社会人になってからまた母校に来たことで、当時の瞬間を思い出した
周囲を歩く彼らたちは、どんな心持ちなのだろうか
全く知らない人たちと、私は同じ大学に通ったというだけの先輩だけど、楽しい生活を送れていればいいと祈る
かつては私も同じように生活をしたけど、結局のところ毎日明確な意思を持って過ごしてなかったと思う
友達と気ままに会っていて、それに意味があるような、そこまで無いような
私はそんな時間を過ごしているだけで楽しかった
少しは好きな人もできた時期だったし、付き合った人もいた
私も「普通には」、一人の大学生として楽しめたと思う
就職活動はやっぱり苦労したけど、なんとか就職もできたし、苦しいときもあるけど一人暮らしを続けられている
こんなにも仕事ってうまくいかないことの連続だと思わなかった
実は、職種に適正があって、知らず知らずのうちに活躍…なんて夢見てたよ
実際はそんなことはなくて、何も考えなくても、ただ楽しいことをほしいと願って生きてることは、もうないよ
平凡であることを、毎日思い知らされる
今はね、そんな毎日を今過ごしている
そして、もう滅多なことでは来ると思ってなかった母校に、私は今いる
卒業証明書を取りに来たとか、そんな普通の理由でもなく
なんでと自分でも疑問に思ってしまうけど、あるサークルを頼りにしたからだった
なんとかしてしがみついている平凡でさえも、その中のほんの小さな楽しみだけでも、守りたいから
一般的に大学のサークルと聞くと、とある楽しいことや、大人になる前の大人っぽい集まりというか
私は、社会人になった今だからそう感じている
決めてることもあるけど、細かいところまではまとめられてなくて、仮に失敗しても社会的な責任まではなくて
もちろん活動内容にもよるけど、誰かを陥れるとか迷惑をかけないことを守ればいい
要するに、もっとふわっとしてるいるはずで
年齢不詳のサークル会長を前にして、私はここへ本当に相談してよかったのかと、最初はただ不安しかなかった
怪しい雰囲気が満々なのに、果たしてこれがこの大学では、知る人ぞ知る問題解決サークルなのかと疑ってしまう
会長は佐倉と名乗る女の子?女性?なのか
大学のサークルにいるのだから私より歳下のはずなのに、なんだか歳下とは思えない
凄みというか、圧というか、妖艶さというか
それでいて幼さも感じさせるかわいらしさもある
芸能人と言われても、納得してしまうようで
もう社会人になっている私も、それなりに苦労はしているし、まだ学生気分でいる若造には負けないなんて思っているけど
目の前の佐倉……さんの威圧に圧倒される
私をこのサークルに連れて来てくれた男の子は、なんだか普通の大学生だったし、佐倉さんの隣で一緒に話を聞いている「アイリ」と名乗る(恐らく女の子と呼べるだろう)この子も、失礼ながら普通という印象だった
だからなのか、歪なこのサークルは何を目的にしてるのかがまるでわからなかった
サークル部室の前に掲げられた「サクラレンタルサークル」という言葉から察して、佐倉さんというカリスマ的な存在がいるから、成り立っているサークルなのかと思った
そしてそれは最初の印象だけで、私はこの認識を改めることになる
部分的には間違ってもなかったけど、正解でもなかった
最終的にはだけど私はこのサークルを、佐倉さんを信じていんだって思えた
だって、周囲からみれば大したことない問題だけど、私からすると深く心を曇らせる問題を、私に向き合って解決してくれたのだから