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双子の魔法

作者: 百日紅

2作目の投稿です。

温かい目でご覧ください。


これは、むかしむかしのお話。

ある所に、2人の少女がいました。2人は双子で、とても仲良しでした。母は2人が小さな頃に死んでしまい、彼女たちには様々な困難がふりかかります。それでも2人は力を合わせ、幸せになりました。

そんなお話。


-----------------------------


ある雪の日、バートン伯爵家に双子の姉妹が生まれた。バートン家当主のサイラスは妻であるアナベルを愛していなかったので、子どもができるまで4年もかかった。不運なことに、2人が生まれたウレアン王国では双子は不幸を呼ぶと言われていたため、出産を祝福する者は誰もいなかった。


双子の姉はリリアナ、妹はルリアナと名付けられ、1歳までは母親と3人で暮らしていた。


2人が1歳になってすぐ、母アナベルは亡くなった。随分と古い記憶なので2人は母のことを覚えていないだろう。


その後父は男爵家から後妻をもらい、ふたりの間には男児が生まれた。これで家は安泰、とばかりに、双子が5歳になった時、2人は別々の場所で生きていくよう決められ、離れ離れになった。



「はあ…」

16歳になったルリアナは、これまでの人生を思い出しながらため息をついた。実家から約10年ぶりに手紙が届いたのだ。


《16歳になった貴族はデビュタントに参加しなければならない。エスコート役は適当に用意してやるから3ヶ月後にかえってくるように。》


10年も会っていないというのに、気遣う言葉も何もない短い手紙を手にしながらもう一度ため息をつきたくなる。


「だめだめ、ため息をつくと幸せが逃げちゃう。リリアナがいっていたわ」

5歳で離れ離れになったリリアナとは、月に1回ほど手紙で連絡をとりあっている。双子は不幸を呼ぶなんていうバカバカしい迷信のせいで、私は自分の片割れに会うことすら許されない。


家には帰りたくないが、帰ったらリリアナに会える。不安と期待を胸に、ボロボロの布団で眠りについた。


朝起きて、仕事に出かける。

この国の人々は魔力を持って生まれてくる。父は火属性、母は確か風属性の魔力を持っていた。私やリリアナは、珍しい癒しの属性を持っている。


しかし、2人とも魔力が少なかった。父や義弟は魔力が多い。これも私たちが父や世間から虐げられる原因のひとつだ。


不幸を呼ぶ悪魔であり、魔力もない役立たずの双子。この国の人々はみんな私たちを蔑んだ目で見て、虐げてもいい存在だと認識し、そのように扱う。


今私は軍の施設で働いている。怪我をした軍人の手当てが主な仕事とされているが、魔力が低いので1日に3人治せればいい方だ。治したとしても、これだから魔力のないやつは仕事が遅い、と言われ感謝もされない。


どう扱ってもいいと思われている私の待遇はとてもひどく、朝は日が昇る前に起きて掃除や洗濯、食事作りをし、昼間は細々とした家事と軍人の治療。それが終われば夕食や風呂の支度をし、夜中に残飯を食べてから屋根裏の小さな隙間で眠る。衣服はお仕着せがあるので何とかなっているが、食事代や家賃と称して賃金からいくらか差し引かれ、自由に使えるお金はほぼない。


リリアナとの手紙のやり取りがなければ、とっくに人生を諦めていただろう。


リリアナは私と違って前向きな性格で、同じような境遇にいても負けない強い心を持っている。私も少しはリリアナの心の救いになっていればいいのだけれど。


「おいっ!邪魔だよどけ!」

考え事をしていると、1人の男にぶつかった。この人は軍人ではなく、ここで雇われている平民だ。


「貴族の癖に魔力がすくない愚図、それに加えて双子。お前がいると空気が悪くなる」

仮にも貴族だというのに平民に侮られ、暴言を吐かれるのも日常茶飯事だった。大人がこんなことを言うものだから、子どもだって真似をする。この前は子どもたちの遊びのひとつなのか、笑いながら石を投げられた。


「申し訳ありません。すぐに立ち去ります」

「はやく消えろ。不幸を撒き散らすな」

魔力が少なく生まれたのは私のせいじゃない。リリアナと私は不幸を撒き散らしてなんかいない。そう思っていたとしても、口答えをせず謝るようにしている。寒い中外に出されたり、叩かれたりするよりましだ。


リリアナに早く会いたい。

それだけを支えに毎日を過ごした。


そして3ヶ月後、私はバートン伯爵家に戻った。ほとんど記憶にないが、私たちが住んでいた頃よりきらびやかになっている気がする。

それに対し、母や乳母と過ごした離宮はボロボロになっていて寂しさを感じた。


「ルリアナ!!!」

振り返ると、私と同じくすんだ金髪にオレンジがかった瞳の痩せた少女が走ってきた。そのまま飛び込むように抱きしめてきたので、2人で地面に転がった。


「リリアナ…!会いたかったわ!」

「10年も経っているから、ルリアナのことわからなかったらどうしようって不安だったの。でも、そんな心配する必要なかった!すぐわかったよ!」

「私もよ。こんなことを言うのは変だけれど、随分おおきくなったわね!」

「それはお互い様!」

2人で笑いあって、このために生きてきたと思えるほど幸せだった。


「リリアナ、ルリアナ」

エントランスからお父様が歩いてきた。私たちを見つめる瞳は冷えていて、どれだけ私たちを嫌っているのか、蔑んでいるのかひと目でわかった。


その目に怯えて私は体が竦んでしまった。先に立ち上がったのはリリアナだった。


「お久しぶりです、お父様」

「お前たちにお父様と呼ばれたくはない。」

「…では、バートン伯爵様とお呼び致します」


私も立ち上がり、挨拶をしようとしたところ、1人の男の子が走ってきた。


「とうさま!!」

「おお!ニコラス!ここに来てはいけないと言ったじゃないか!」

驚いた。そんな報せはなかったが、いつの間にかもう1人弟が出来ていたのか。義弟を見る目は温かく、間違いなく彼は父親の顔をしていた。


「ニコラス、戻りなさい」

義弟の後ろから早足で近づいてきた義母が、強い声で義弟を呼んだ。

「かあさま、なぜですか?このひとたちはだれですか?」

不思議そうな顔でこちらを見る義弟に、義母は言った。

「何度も話したことがあるでしょう。そいつらが不幸を呼ぶ悪魔よ。近寄ると不幸が移るわ」

義弟は飛び上がって驚き、私たちが恐ろしいと泣きながら義母と共に本邸に戻って行った。


やはりこうなるとは思っていた。歓迎されるはずがない。でも、心の中で少し期待をしていた自分がいて、そんな自分が嫌になった。


俯いた私に気づいたのか、リリアナが優しく手を握ってくれた。


「わかっているだろうが、本邸にお前たちの過ごす場所はない。デビュタントまでの5日間、昔と同じように離宮で過ごせ」

『わかりました』


こうして私たちは生まれ育った離宮へと向かった。

離宮はツタだらけになっていて、入口を開けるのも大変だった。中もホコリが溜まっていたが、今まで住んでいた屋根裏よりはずっとましだ。2人で離宮を整えているうちに、1日が終わった。


その夜は、2人で同じベッドに入って長い間お喋りをしていた。人と長く喋ること自体が久しぶりで喉が枯れそうになりながらも、今までの生活や境遇について話した。リリアナも私と同じような生活をしていて、味方は誰も居なかったと言う。久しぶりの人の温かさを感じながら、2人で抱き合って眠った。


次の日、リリアナが探検をしようと提案してきた。ここで過ごしたのは5歳までで、覚えていることも少なかったため2人で思い出を辿りながら探検することにした。


「ここでルリアナが走って転んだ」「ここでリリアナが虫を捕まえた」そんな微笑ましい思い出を語りながら歩いていると、今まで入ったことがない、お母様の部屋の前についた。


私たちはお母様についてよく知らない。1歳の時に亡くなったと聞いている。その後は父の用意した乳母に世話をしてもらった。


私たちは、お母様の部屋のドアを開けた。


『わあ…!』

お母様の部屋は、たくさんの本棚があった。私たちは貴族としての教育は受けていないが、読み書き計算くらいはできる。難しい言葉が使われているのかタイトルのわからない本もいくつかあったが、本棚の中に1冊の日記帳をみつけた。見てもいいかな?というように2人で目を合わせてから、ゆっくりと日記帳を開いた。


それは、お母様がこの家に嫁いできてからのことが細かく書いてあった。


《9/18 この国に嫁いで初めての日、あの人と愛し合うことはきっとないと直感的に思った。》

《9/20 サイラスもそうだけれど、彼の両親もあまり私に好意的じゃない。あの戦争は私のせいで起きたわけじゃないのに。》

《11/9 なぜ私だったの?お姉様でも良かったじゃない。私はルードリヒと結婚すると思っていたのに。》


「なにこれ、どういうこと?お母様はこの国の人ではないの?」

リリアナがそう言うが、私にもわからない。日記を読み進めると、お母様が隣国アイーツェの第4王女だったことがわかった。この国との戦争でアイーツェが敗れ、戦果をあげたお父様に嫁がされたようだ。ルードリヒというのは、お母様の国にいたお母様の想い人だろうか。


「お母様、隣国のお姫様だったのね…。愛する人と引き裂かれて侍女も連れずにこの国にきて、お父様にこの離宮にいれられて、きっとつらい思いをしたわね」

今まで知らなかったお母様のことを知って、胸が締め付けられる思いだった。


お母様の日記には続きがあるようだったが見つからず、また明日探してみようということになった。


3日目、気になる本をみつけた。

タイトルは《双子と魔術の関係》

アイーツェの言葉で書かれており、私たちは辞書を使いながら一日がかりで解読した。


解読した内容によると、双子は魔力を分け合って生まれることがあるらしい。そして、魔力を分け合った双子が意思の疎通をおこなうことなく、同じことを強く願い口に出すと、願いに応じた強力な魔法を使うことができる。過去にアイーツェではこの力を用いて自国の兵を癒し、力を強化したこともあったと書いてある。その事から、アイーツェでは双子は幸運の象徴となっているようだ。


「私たち、アイーツェで生まれていたらもっと違う人生を送れていたかな」

確かにリリアナの言う通りかもしれない。でも、お父様とお母様が結ばれなければ私たちはそもそも生まれてこなかった。


アイーツェに移り住むことが出来ればとも思うが、戦争をしていた両国の間には互いに干渉できないよう魔法による強力な結界が張られており、許可証がないと通ることが出来ない。私たちには無理だろう。


「ウレアンは長いことアイーツェと戦争をしていたから、アイーツェの双子の力で不利になったことがあったのかもしれないわ。それで、双子は不幸を呼ぶと言われるようになったのかしらね」


私たちは、自分の境遇を嘆いた。しかし、リリアンは明るく言った。

「でも、アイーツェでは双子が幸運の象徴とされていたなら、お母様はきっと私たちが生まれた時嬉しかったはずよ!お母様のためにも、精一杯生きなくちゃ!」


リリアンの明るさには本当に救われる。

そう思いつつ本を閉じようとした時、何かがカチャリと音を立てて本から落ちた。


「なにかしら、これ?」

「小さいけど、鍵じゃない?たしか、そこの机に鍵のかかっている引き出しがあった気がする」

確かに、昨日日記を探している時に鍵のかかった引き出しがあった。

「そうね。でも、もう暗くなってしまうから明日にしない?」

「仕方ない、そうしようか」


ふたつの国での双子の扱いの差や、双子の魔法。色々なことを知ったけれど、それをどう今後に活かしていけばいいかはわからない。たくさんの情報や考えが頭に浮かんでは消えていく。ただ、自分の未来が少し明るくなった気がして、疲れつつも心地よい眠りについた。


4日目、お母様の机の引き出しを開けることにした。

そこには、2冊目の日記が入っていた。

《3/5 義両親が早く後継を産めと毎日のように言ってくる。愛してもいない人と身体を繋げるなんて嫌。》

《4/12 ついに初めてを捧げてしまった。》

《8/8 懐妊したらしい。立派な子どもを産めば、この家の人達も認めてくれるはず。あの人との子どもを愛せるか不安な気持ちもあったけれど、新しく宿った命をとても愛しく感じる。》

《9/25 魔力解析によると、この子達は双子みたい。可愛い子どもが2人も産まれるなんて、夢のようだわ。》


「お母様、私たちのことを愛していたのね」

日記は母の愛に溢れていて、知らず知らずのうちに私たちは涙を流していた。

拭っても拭っても涙は止まらず、抱き合って泣いた。


泣きすぎて目を腫らした私たちは、1度休憩をしてからもう一度読み進めていった。

《1/25 もうすぐこの子達にあえる。服やおもちゃもたくさん準備したわ。気に入るといいのだけど。》

《2/1 名前はどうしようかしら。私の名前の響きに似せたいわ。マリーベル、リリアナ、ルリアナ、ローズベル…何がいいかしら。》

《2/6 双子が生まれた。幸運を呼ぶといわれているのに、誰も嬉しそうじゃない。どうして?》


この日を最後に、日記は終わっている。

ああ、私たちだけではなく、母も誰からも祝福されなかったのか。

双子が生まれてこの国の人がどんな反応をするかは、今までの私たちへの仕打ちを考えても想像に難くない。


「お母様、かわいそうね」

「そうね。それでもお母様は私たちを愛してくれていたはずよ」


お母様の気持ちを考えると心が沈んだが、私たちはお母様の部屋から続いている隣の部屋に行くことにした。


「なに、これ…」

その部屋は、酷い有り様だった。

私たちのものだったであろうベビーベッドや洋服はズタズタに切り裂かれていて、絵本やおもちゃは見るも無惨な姿でそこら中に転がっていた。


「あの乳母だわ。あの人がこんなひどいことをしたのよ!いくら不幸を呼ぶ子どもだからって、こんなの…!」

リリアナは叫ぶように言った。


あの乳母は私たちを5歳まで育ててくれたけれど、扱いは酷かった。いつも無表情でできるだけ私たちに触れないようにしていたし、泣いたり笑ったりすると叩かれた。食事を抜かれたこともある。


小さな頃の私たちを癒すように絵本やおもちゃを拾い集め、片付けていった。


すると、破かれた絵本たちに隠れて、書きなぐったような紙切れがあることに気がついた。

《誰も認めてくれない》《つらい》《この子達は幸運の子なのに》


きっと、これを書いたのはお母様だ。

お母様の悲痛な声が聞こえてくるようで、私もリリアナもつらかった。


全て片付け終わったあと、ふたつのベッドの間にもう1枚紙切れが落ちているのに気がついた。今までで1番ひどい字で、こう書かれていた。




《あんな子どもたち産まなければよかったもうあの子たちを愛さない愛したくなんかない》




それをみた瞬間、心の中の黒いもやが一気に広がった。私たちは不幸を呼ぶ子どものくせに、一体何を期待していたんだろう。


リリアナの表情にも絶望が浮かんでいた。




[私たちなんて生まれて来なければよかったの?][誰にも望まれていない][誰にも愛されない][許せない][あいつは私たちを捨てた][あいつは私を殴った][あいつは私を外に出した][あいつらは私たちを踏みつけた][あいつらは自分だけ幸せそうにしていた][私たちを不幸に追い込んで][私たちを嫌って][あいつらが憎い][あいつらなんて嫌い][幸せになりたい][不幸になりたくない][これ以上はもう耐えられない][なんで私たちは幸せになれないの][なんで私たちだけこんな扱いを受けるの][私たちが何をしたの][ただ双子に生まれただけの私たちが][でもリリアナだけは私の支え][でもルリアナだけは私の救い]




2人とも感情がぐちゃぐちゃになって、近くのものに当たり散らして、ボロボロに泣いて、




2人は手を繋ぎ、声を揃えてこう言った。




『 』



その瞬間、辺りは真っ白な光に包まれた。



----------------------------------


魔力でできた結界がなくなったウレアンに、視察にやってきた人間がいた。



そこでその人が見たのは、手を繋ぎながら柔らかい花の上に横たわる2人の少女だった。

評価や感想、大変励みになっています。

ありがとうございます。


この物語をハッピーエンドと捉えるか、バッドエンドととらえるか。

2人は何を願ったのか。

皆さんの考察お待ちしてます。

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[一言] 救いが無い。 2人が死ぬことが幸せなのが辛い。
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