メドゥーサやウィッチが犯人の可能性は?
「もしくは『消える凶器』だったんじゃねえか?
たとえば氷柱で魔王様の胸を刺して、そのまま放置しておけば、溶けて水になるはずだろ?」
「なるほど……、確かにそれで魔王様の装束が妙に湿っていた理由にも説明がつくが……」
リザードマンが唱えた『消える凶器』説のメリットは、凶器を処分する必要もないということだ。
しかし問題となるのは、果たして本当にそんな凶器を作り上げることができたのかという点だ。
胸を貫けるような氷柱を作れるほど、器用な者など限られているだろう。
「メドゥーサなら、水を石化させて凶器にできたかもな」
「いや……、奴の石化能力は生物にしか効かないはずだ」
「『魔法で作り出された凶器』なら、話はさらにシンプルだぜ?
そこのウィッチが魔法のナイフを生み出し、魔王様を刺し殺したとすれば、すべての謎は解決だな!」
突然犯人扱いされたウィッチは心底腑に落ちないという様子で、頬を膨らませた。
「ななな!? ボクのことを疑うつもり!?
現場の状況はさっきロボット娘に聞いたけどさ、施錠の謎はどうなるのさ!」
「室外からでも、壁や扉をそのまますり抜ける魔法だとすれば解決だろ!?
あるいは、魔法を使って施錠したとかな! わははは、こりゃウィッチが犯人で決まりだな!!」
「魔女狩りはんたーい!! ボクの魔法だって万能じゃないよ!
扉を施錠する魔法なんか使えないし!!」
両手を上げて猛抗議するウィッチは、さらに続けて言った。
「それに部屋を貫通する攻撃魔法だって多分無理じゃないかな」
「無理? どういうことだ?」
コボルトの疑問を受けて、ウィッチは説明し始めた。
そもそもこの寝室は、魔王様が勇者の侵攻を警戒して、半年前に増設した部屋だという。
そして、あらゆる攻撃を防ぐために、魔王様自身が強力な結界を張ったのである。
「その話は、ロボの耳にも入っているロボ。間違いないロボ」
そのうえ半年前と言えば、妃様が魔王様に愛想を尽かせて別宅に住まうようになった頃でもある。
「……勇者に対する異常なまでの警戒心、か」
物思いにふけるように呟いたコボルトにリザードマンも同調する。
「あの頃の魔王様が一番ヤバかったな。むしろ最近は落ち着いてきてたぜ」
急成長を遂げる勇者への恐怖から心神喪失になった魔王様は、配下のモンスターに対して八つ当たりをすることもたびたびあった。
それを思えば、魔王様を殺害する動機は、この城内の誰にもあると言えるかもしれない。
「話を戻そう。つまりこの寝室の外から魔法で攻撃することは不可能ということだな?」
「少なくともボクなんかの魔力じゃね。魔王様の結界は貫けないよ」
コボルトはひとまず、そのウィッチの言葉を信じることにした。