凶器はどこに消えた?
コボルトは改めて魔王様の死体に目をやった。
ベッドの上には魔王様の死体と、胸元までめくられた状態の掛け布団しかない。
「そもそも魔王様の命を奪った凶器はどこに消えたのだろうか?」
「ああ? そりゃあ犯人が持ち去ったんじゃねえのか?」
「ふむ……、しかし、それでも施錠の謎は残ったままだな」
それに、もし計画的な犯行ならば、犯人は特定されないような凶器を用いたはずなのだが。
わざわざ凶器を持ち去るほうがリスクが高い行為だろう。
「……施錠に関してはさておき、鎧の置物が持っている剣はレプリカではなく本物のはずロボ。
あれが凶器だという可能性はないロボ?」
そんなロボット娘の推理に対して、リザードマンは間抜け面で言う。
「あ? 剣に血痕なんかついてないだろ」
「阿呆。犯人が拭き取った可能性はあるだろう」
コボルトはそう応えながらも、そんなことをする意味があったとは思えないと考えた。
仮に置物の剣が凶器であり血痕が付いたままだったとして、それが犯人の特定につながることなどあるだろうか。
「ウィッチ様を呼んでくるロボ。
彼女が持つ薬品で、血液反応を調べることができるはずロボ」
ロボット娘はそう言うと、寝室から出ていった。
ただ待っているのも時間がもったいないので、コボルトとリザードマンは他に凶器になりそうなものを探すことにした。
「待てよ、閃いたぜ!」
「……なんだ? 嫌な予感がするが、聞くだけ聞いてやろう」
「部屋だよ、部屋! この部屋そのものが犯人かもしれねえ!!
それなら施錠と凶器の謎は一気に解決するだろ!!」
要するに、家具が勝手に動いて魔王様を刺し殺したとか、実はこの部屋そのものがミミックのようなものになっており魔王様を噛み殺したとか、そういう可能性があると言いたいらしい。
「ふん、突飛な発想だな」
「だが、否定する根拠もねえだろ?
魔王様ほどの魔力があれば、意図せず物に命を吹き込んじまうことだってあるらしいじゃねえか。
この部屋の家具、あるいは部屋そのものが犯人だった可能性だってあるだろ!」
自信満々に吼えるリザードマンに、コボルトは肩をすくめた。
あらゆる可能性を考慮すべきだが、さすがにそれは考え過ぎだろう。そこにロボット娘がウィッチを連れて戻ってくる。
「それで? この剣の血液反応を調べればいいってこと?」
ウィッチの手にはなんらかの薬品が注がれた三角フラスコが握られていた。
「いや、剣だけではなく、怪しげな刃物や先端の尖ったものをすべて調べてくれ。念のためな」
「ええ……、人使い荒いなあ。まあ、そう言われるかもしれないと思って検査薬はたくさん持ってきたけどさ」
一方で、ロボット娘は大量のビンを抱えていた。その中身が検査薬だということだろう。
「我々も何か凶器になり得るものがないか探してみよう」
「よっしゃ、この俺様に任せろ!」
コボルトとリザードマンは寝室を中心に調べ、ウィッチとロボット娘は浴室とトイレを調べることにした。
それから30分後、現場検証が終了する。
「結論から言うよ。……というか、結論以外言うことないんだけど、どこからも血液反応は出なかったよ。
もちろん魔王様の死体とベッドの上は除いてだけどね」
そんなウィッチの報告にコボルトは付け加える。
「部屋には荒れた形跡も特になかった。どうやらこの部屋に魔王様の命を奪った凶器はないようだな」