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事件の真相②

 コボルトが推理した事件の真相は以下の通りだ。


 まず犯人の侵入経路について。

 寝室の鍵は魔王様、マスターキーはロボット娘が管理し、予め複製されていた可能性もない。

 つまり鍵を使って入室したとは考えられない。


 また、魔王様が犯人を寝室に招いた可能性もない。

 何故ならすでに寝室には秘密の愛人であるメドゥーサがいたからだ。


 そしてドラゴンが上空から見張っていた以上、窓からの侵入もできない。

 壁などにも破壊された跡はなく、秘密の通路も発見されなかった。

 つまり犯人は"施錠されたままの扉"から寝室に侵入したことになる。


 コボルトたちが得た手掛かりで考えられる範囲では、そんな芸当ができるのはスライムだけだ。

 そう、スライムは扉の下のわずかな隙間から、寝室に侵入したのだ……!


 次にスライムは、どのようにして魔王様を殺害したのか考えてみよう。

 スライム自身は半液体の身体でわずかな隙間でも侵入が可能だが、凶器を持った状態ではつっかえてしまう。

 最初から寝室内にあったものを凶器にした可能性はない。

 魔王様の死体とベッドの上以外からは血液反応が出なかったからだ。


「おそらくスライムは自分の身体を凶器にするつもりだったのだ」

 犯行時、魔王様は睡眠薬により深い眠りについていたと推察される。

 スライムはそのタイミングを狙って寝室に侵入したのだ。

 そのタイミングならスライムは、魔王様の口元を自分の身体で塞ぐだけで窒息死させることができただろう。

 そうするためにスライムはベッドに上り、仰向けに眠る魔王様の胸元あたりに乗ったのだ。

 そして半液体の身体であるスライムが長時間乗っていたことで、魔王様の装束は寝汗をかいたかのように湿っぽくなっていたのだろう。


「だが、スライムにはひとつ誤算があった。メドゥーサ、貴様が寝室にいたことだ」

「正確には、あちきは浴室の洗面台の前で化粧をしていたでありんす」

 メドゥーサが化粧を終え、浴室から出てきたとき、まさにスライムが犯行に及ぼうとしているところだったのだ。

 それはさぞお互い驚いたことだろう。

 見つめ合った状態で硬直していたことで、メドゥーサの石化の能力が発動したのだ。


「自分の身体が石化し始めたスライムは焦ったはずだ。

 すぐに現場を離れなければ全身が石化して捕まってしまう。

 だが、魔王様を窒息死させるするつもりなら時間がかかるだろう」

 そこでスライムは自分の身体を細長い針のように変形させた。

 その状態で石化されたなら、"魔王様を刺殺すること"が可能になる。

 そして素早く魔王様の心臓を貫き、石化した部分を身体から切り離す。

 そうして、また扉の下の隙間を通って寝室から脱出したのだ。


「なるほどな……。それなら施錠の謎も凶器の謎もすべて解決するってわけか!」

 リザードマンは納得したように膝を打つ。

 だが、コボルトの推理はそれで終わりではなかった。

「いや、まだだ。今度はメドゥーサが寝室に取り残されてしまう。

 それにスライムが切り離した身体の一部もまだ発見されていない」

 すでに観念しているメドゥーサはおずおずと申し出る。

「ここから先はあちきが説明したほうがいいでありんすか?」

「必要ない。貴様の脱出方法についてもすでに見当がついている」


 事件時、メドゥーサもまた混乱と焦りの感情に包まれたのだ。

 慌てて魔王様に駆け寄るも、そのときにはすでに息がなかったのだろう。


 次にメドゥーサが考えたのは、"このまま自分が犯人だと疑われるかもしれない"ということだ。

「そのとき貴様はスライムの置き土産を利用する方法を思い付いた」

 魔王様の胸元から寝室の鍵を取り出し、切り残されてからしばらく経って石化が解除されたスライムの身体の一部に押し当てる。

 その状態でスライムの身体の一部を石化させれば、鍵の型が取れるのだ。

 そして鍵を戻して、まだ半液体になっている部分を型に流し込み石化させれば、鍵の複製が完成する。

 本体から切り離されているとは言え、スライムの身体の一部は生物である。

 それを利用すれば、寝室からの脱出後に密室を構築することが可能となるのだ……!


「寝室が完全なる密室だったということになれば、鍵を持たない者は疑われることはない。

 メドゥーサ、貴様はそう考えたのだろう?」

「ご名答でありんす……」

 スライムの身体の一部を処分することはさほど難しくはない。

 最悪トイレにでも流してしまえばいいだけだ。

 しかし、メドゥーサは焦りのあまり、ひとつの失敗を犯した。

 浴室にマニキュアを置き忘れてしまったのだ。

 そして、それは今回の事件を解き明かす、最後の手掛かりとなった。


「こ、これがこの事件の真相ってことか……」

「妃様にとっては、愛人の実在と魔王様の死を同時に知ることになり、大変おつらい話になるロボ……」

 リザードマンとロボット娘にとっては、ただただ圧倒されるばかりの推理であった。

 そして、これが事件の真相であるならば、メドゥーサは決して魔王軍を裏切ったわけではなかったのだ。

 コボルトは慈悲を込めてメドゥーサに言ってやった。

「安心しろ、メドゥーサ。

 愛人の件については、妃様にはなんとか誤魔化してやろう」

「あ、ありがとうでありんす……」


 それよりも最後の後始末が必要だ。

 魔王様殺害の犯人が明らかになった以上、そいつをこのまま生かしておくわけにはいかない。

 犯人を始末することで初めてこの事件は決着を迎えることになるのだ。

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