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ゴブリンが犯人の可能性は?

 やはり最大の謎は施錠の方法なのだ。

 もしも鍵を使わずとも、外から扉を施錠できる方法があったのなら、他の謎はすべて解決するのだ。

「寝室の鍵が複製された可能性はないのだろうか」

「……否定はできないロボ」


 そうだ、そもそも"マスターキーと、魔王様が持つ鍵以外で寝室の施錠は不可能"という前提が誤っているのではないか?

 しかし、"鍵が製造された時点"で、2本以上鍵があった可能性は低いだろう。

 魔王様は自分の身を勇者から守るために、この寝室を増設したのだから。

 鍵の製造に関しても魔王様が監督し、その管理は徹底させたはずだ。

 となれば、あとは魔王様の意思に反して鍵が複製された可能性しかない。


「つっても、ロボが常に持ってるマスターキーの複製は無理だろ?

 魔王様の持つ鍵のほうにしても、複製のチャンスなんかあったのか?」

 そのリザードマンの疑問は尤もだ。しかし――、

「ないだろうな。それはあくまで"事件が起きる以前"の話だが」

「どういうことだよ?」

「簡単なことだ。まず犯人は魔王様に招かれて、この寝室に入った。

 そして、魔王様の殺害後、"この場で鍵を複製した"のだ。

 ならば、この事件の謎はすべて解決できる」


「こ、この場で鍵を複製? けどよ、道具もなしにそんなことできるのかよ」

「この部屋に何か複製のための道具が隠されているのかもしれない。

 先程は凶器の捜索をしただけだったからな。改めて調べてみる必要がある」


 どのような道具があれば、鍵の複製ができるのかは『専門家』の意見を聞いてみれば分かるだろう。

「道具の捜索の前に、ゴブリンに話を訊いてみるとするか」

「あたしはドラゴンとともに、上空からの見張りをするわ。

 犯人はまだ城内にいる可能性が高いんでしょ? なら、絶対に逃がすわけにはいかないから」

 ハーピーは鳥のような両手の爪を尖らせながら、決意にも似た宣言をした。

「そうだな。それではロボット娘とウィッチは、ここに残ってくれ。

 犯人が戻ってきて新たな工作をする可能性もゼロではないからな」

「分かりましたロボ」

「ほいほーい」


 そうしてコボルトとリザードマンは『工房』に向かう。

 そこはゴブリンの棲み処であると同時に作業場であった。

 剣や鎧などの武具から、食器や鍵などの道具まで、ゴブリンが製造しているのだ。


「ああ? 鍵を複製するにはどうすればいいかって?

 てやんでぇ! んなもん、元となる鍵の型取りをすりゃいいだけさ。

 寝室の鍵にゃ特殊な仕掛けがあるわけではないからな。

 道具さえあれば素人でも複製は可能だったはずだぜ」


 ゴブリンは剣の鋳造をしているところだった。

 コボルトはこんなときにまでと思ったが、やがてこんなときだからこそ、平静に努めているのだろうと思い直した。

「つまり、その鋳造のやり方と同じだな?

 元の鍵の型を取り、そこに液体あるいは半液体のものを流し込んで固めれば、もう1本別の鍵が手に入るというわけだ」

「単純に言やあ、そういうことだな」

 ゴブリンは視線も動かさずに応えた。その目はまさに職人のものであった。


「ちなみに、その元の鍵は貴様が製造したもので間違いないな」

「ああ、俺っちが確かに、1本だけ製造した。スペアの鍵なんかは一切ないぜ。

 しかも、そのときの型は魔王様に処分するように命じられたから、もう残っちゃいねえ」

 つまり鍵を複製するには、新たに型を作らなければならなかったことになる。


 コボルトとリザードマンは、それだけ訊くと、ゴブリンの『工房』をあとにした。

「あいつの証言を信じるつもりか?

 もしかしたらこっそりスペアを作ってたかもしれねえだろ?」

「しかし、それだと半年前から犯行が計画されていたということになるな。

 確かな根拠はないが、私にはそうだとは思えん。

 寝室の鍵を作るよう命じられるほどに信頼されていたゴブリンが、魔王様に殺意を抱くとは考えにくいからだ」

「ふーん、そんなもんかねえ」


 そうしてふたりは寝室に戻る。しかし、そこにロボット娘とウィッチの姿はなかった。

 気配を探ると、どうやら浴室のほうにいるようだった。

「貴様たち、一体何をしている?」

「鍵を複製できる道具がないか探してるとこ!」

「しかし、見つかるのはタオルやボディソープ、シャンプーなどばかりロボ。

 食事の用意は常にロボがしていたから、冷凍庫の類もないロボ。

 これでは液体を固めて鍵にすることも困難かと」


 そのとき、コボルトは洗面台の横の物置に並べられたものに気付き、その中のひとつを取り上げた。

「おい、なんだ、このマニキュアは」

「うん? そんなの凶器にも、鍵の複製の道具にもならないでしょ?」

「しかし、これは……、女性もののマニキュアではないのか?

 魔王様の所持品だったとは思えんが」

「だったら妃様のものだろ、コボルト?」

「……いえ、その可能性はないロボ。この寝室が増設されたとき、すでに妃様は別宅で暮らされていたロボ。

 そして、それから今まで妃様がこの城に訪れたことは一度もないロボ」

 つまりこのマニキュアは妃様のものではない。

 しかし、魔王様にマニキュアを塗る趣味があったという話も聞いたことがない。


 ……じゃあ、一体なんだ? このマニキュアは一体誰が、この浴室に持ち込んだというのだ?

 このマニキュアの持ち主として考えられる人物は――。


「…………あ。そ、そういうことだったのかッ!!」

「うおっ!? なんだよ、いきなり大声出して!」

「まさか何かに気が付いたロボ?」

「なになに!? そんなにそのマニキュアが重要な手掛かりなの!?」


 コボルトの頭の中で、パズルのピースがひとつ、またひとつと見事にはまっていく。

 そして、次の瞬間には、事件の全容が思い浮かんでいた。

「……ああ。こいつは、この事件の謎を解明するための"最後の手掛かり"だ。

 犯人の動機までははっきりと分からんが、これまでに得たすべての手掛かりと照らし合わせれば……。

 誰が魔王様を殺害したのかは特定可能だ」

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