ゴーレムやミノタウロスが犯人の可能性は?
「あ、そう言えば……」
セイレーンは何かを思い出すように、美しい右手で髪をかき上げた。
「何か気付いたことがあるのか?」
「ええ、ミノちゃんに聞いた話なんだけど~」
「ミノちゃん……、ミノタウロスか……」
それは2週間ほど前のことだったという。
寝ぼけたミノタウロスが魔王様の寝室の近くを通りかかったとき、小柄な人型の影が入っていく様子を目撃したらしい。
少なくともそれは魔王様の影ではなかったという。
「そりゃロボ娘じゃあないのか?」とリザードマンが訊ねる。
「わたしもロボちゃんだろうと思ったから、今まで気にしていなかったのだけど……」
他に考えられる可能性はウィッチ、あるいはメドゥーサくらいだろうか。
だが、寝ぼけていたうえに一瞬のことなら確実に見分けられたとは言えないかもしれない。
「一度確認する必要があるな」
「ミノタウロスにか?」
「いや、それよりまずその人影がロボ娘ではないことを確認しよう」
そう言ってコボルトはリザードマンとともに寝室に戻る。
その途中、大きな破壊音と大声が広間のほうから聞こえてきた。
「んごごっー! 犯人め、よくも! 許せんゴー!!」
こいつ、ミノタウロスとキャラ被ってんな。
それは魔王様の死を知り興奮し、暴れ回って壁を壊しているゴーレムであった。
「落ち着け、ゴーレム。そんなことをしても魔王様のためにはならん」
しかし、コボルトの静止にもゴーレムの暴走は止まらない。
次々と広間の壁が破壊されていき、もはや天井が落ちてきそうな勢いだった。
「ここはあたしに任せなさい!」
そこに突然現れたハーピーが癒しの歌を歌い、コボルトとリザードマンは咄嗟に耳を塞ぐ。
それと同時にゴーレムはすんなりと眠りについた。
「たいしたものだな、貴様の歌は」
「別に。セイレーンの死の歌と違って耳を塞げば簡単に防げるし、ウィッチが調合したっていう睡眠薬ほど深い眠りにつけられるわけじゃないし。
多分そいつ30分くらいしたら起きるわよ」
尤もハーピーの癒しの歌には、即効性がある。
セイレーンの死の歌は効果が現れるまで時間がかかるのが難点だ。
強力な効果ほど効き目が出るのが遅くなるのは魔法の常である。
「しかし、壁破壊ってのはとんでもねえな。
これなら魔王様の寝室の壁も破壊できたんじゃねえか?」
「それで? そんな破壊の跡がどこにある?」
「ゴーレムなら自分の身体を使って修復できたとか!」
「馬鹿馬鹿しいな。奴にそんな器用な真似ができるはずがないだろう」
「じゃあ、ミノタウロスが自慢の怪力で扉をこじ開けたとか!」
「だから、どうやって元通り修復するのだ……」