プロローグ
魔王様が死んだ。その信じられない情報は瞬く間に魔王城全体へと広がった。
第一発見者はメイドを務めるロボット娘だった。彼女の証言は以下の通りである。
「ロボは朝食の準備ができたので寝室まで魔王様を呼びに来たロボ。
しかし、ドアベルを鳴らしても一向に魔王様が出てこなかったので心配になり、マスターキーを使って中に入ったロボ。
そうしたら、魔王様が、……し、死んでいたロボ! しかも部屋の扉は間違いなく施錠されていたロボ!!」
一方、城の外ではコボルトとリザードマンが城門を見張り、その上空ではドラゴンが飛び回っていた。
「おい、警戒を怠るなよ」
コボルトは退屈そうに欠伸をするリザードマンを時折小突きながら、侵入者が来ないか辺りを見回す。
そしてリザードマンが本日何度目かの欠伸をしたとき、何やら城内が俄かに騒がしくなる。
「なんだなんだ、何事だぁ?」
リザードマンは城外の見張りをしていることも忘れ、城門を開けて中の様子を窺う。
コボルトは初めそれを注意しようかと思ったが、デュラハンとミノタウロスが興奮した様子で城内を駆けていく様子を見て、彼らに事情を訊くのが先だと思い直した。
「どうした、何があった?」
コボルトの問いかけにデュラハンが答える。
「信じられぬことだが、魔王様が寝室にて何者かに殺されたよう也」
その隣で、まるで沸騰したティーポットから湯気が吹き出すように、ミノタウロスが鼻息を荒くしている。
「ぶほもっー! 犯人め、よくも! 許せんモー!!」
ただでさえ赤みがかったミノタウロスの顔は、もはやゆでだこのように真っ赤になっていた。
「な、なんだと……?」
「おいおい、そりゃあなんの冗談だ?」
普段は冷静沈着なコボルトでさえ、その報告はとても受け入れ難いものであった。
……魔王様が殺された? そんな馬鹿な。あり得ないことだ。
リザードマンは落ち着きなく腰に構えた剣の鞘を触って、次の言葉を待った。
だが、どうやらデュラハンとミノタウロスはそれ以上のことはまだ知らないようだった。
「我々で状況を確認しに行ったほうが早いかもしれんな。
すまないが、デュラハン、ミノタウロス。城門の見張りを代わってくれないか?」
「む。了解した也」
デュラハンは即答した。無論、彼にもすぐに寝室に向かいたい気持ちはあったはずだ。
しかし、魔王様の側近として、仲間に動揺した姿を見せるわけにもいかなかったのだろう。
ともかくコボルトとリザードマンは魔王様の寝室へと急いで向かった。
――そして、そこにはベッドの上に仰向けで横たわる魔王様の死体があった。