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探偵団

「メリーさん!?」

「私にお任せください」

その学生とは、メリーだった。飛竜を追い払おうというのである。

(よし、これでぎりぎりで負けて帰ってきたら何とかごまかせるだろう)

「私が飛竜を追っ払います」

「本当ですか!」

その時のイーレットの顔は顔面蒼白状態となっていた。何も考えることが出来なかったのであろう。

「はい!」

「グオッ」

メリーは窓の淵に飛び乗り、飛竜めがけて両足を軸に一斉に飛び出した。その姿は離陸時の戦闘機のようで、疾風のごとくあたり一面に風をなびかせた。

メリーが学校の前に飛竜を出現させたのだが、その飛竜はまさに彼女のペットだ。

メリーの暮らしたエルフ村では、同種族だけでなく多種族と共に暮らしている。

暮らし方にも様々な形があるが、彼女の相棒の飛竜は彼女のペットという体裁になっている。

飛竜は優れた飛行能力を持ち戦闘能力にも優れているモンスターであるが、誰もが使役できるものではない。

エルフ族で使役するものに限定すればかなり少なく、世界全体で100人前後だと同族エルフ内では囁かれている。

相棒の飛竜の名はライス。名は食欲旺盛で活発な性格だから。ライスには食事が日常のビッグイベントとなっているのである。

名に反して驚愕の戦闘能力を秘めており、ひとたび激怒すれば世界に混沌を引き起こす、闇の飛竜として変化する。

必殺技には闇のブレスというものがある。並みの魔術師では決して対応することのできない闇属性の最上位魔法だ。

ライスは穏やかでとても優しい。しかし激怒してしまえば世界は絶望の淵へと落とされる。

これもメリーのペットだという。メリーはなんて恐ろしい生き物を飼っているのだろう。

いかんいかん。下界のものに干渉しないのが神としての定めだ。しかしどうしてもメリーのことだけは気になって仕方がないのだ。

「こい!」

メリーはその大きな飛竜に合図をする。

「グピーーーー!」

飛竜はメリーにアタックした。

「ドンッ」

その攻撃はメリーに接触し、メリーは空中で揺れる。

「ウワッ」

(どうだ、迫真の演技!)

「プッ」

しかし彼女の迫真の演技はイーレットには通用しなかった。彼女は完全に演技だと見抜いていた。

(イーレットさん笑ってる!)

(じゃあこれならどうだ!)

メリーは本気度を演出するために叫んだ。

「ウオオオオオオオ!」

「ハアッ」

しかしあるエルフが飛竜との行く手を拒んできた。

「メリー、助けに来た」

「ネヨ!」

その人物とはネヨであった。

「どうしたの」

「どうしたじゃなくて助けに来た。ついでに今日の御馳走にする」

「ごちそうにする!?」

「ちょっとまってこれは......」

「ひっさつー、ドリームサンダー」

ネヨはメリーの言うことを聞かず常時技を繰り出した。

「ゴロゴロゴロ」

「ピシャーッ」

「ドッパーン」

天から降り注ぐ雷がその飛竜に直撃してしまった。

「グピーーーー!」

「ん?」

しかし飛竜は全然ダメージを受けていない様子だ。

「グピーーーー!」

「まだ全然平気みたい」

「でも負けない」

ネヨは飛竜の頑丈さをもろともせずに立ち向かった。

「だからあの飛竜は......」

メリーの言葉はネヨには届かない。ネヨはもう一度ドリームサンダーを出そうとした。

「グピーーーー!」

「ドドドドドドド!」

しかし飛竜は猛スピードでネヨに向かった。

「ネヨ!」

もしこの攻撃を受けたなら確実に命の保証はなくなるので、メリーは懸命に飛竜を止めた。

「ライス、従って。この人は私の友達なの。傷つけちゃダメ」

「わかった」

「グワングワングワン」

メリーは学校にあの強力な飛竜を呼んでしまったことを後悔した。

つい遊び心のつもりで呼んだ相棒の飛竜が、友達であるネヨに危害を加えてしまったのかもしれないと思うと、彼女の心にその時の記憶が重しとなってのしかかっていく。

あの時に戻れるのならと後悔するメリー。もしあの時に戻れるのなら必ず私は、と彼女は自問自答する。

後悔の念は長い間冷めないものだ。深くえぐられた傷ほど強く、そして長く我々の心を襲い続ける。

長い間苦しんだ記憶は、やがて自分に対する憎悪として向けられることになる。あの時なぜ私は僕はこうしなかったのかと自分自身を恨み続ける。

その恨みが社会への恨みへと変貌する。なぜ社会は私を苦しませ続けたのか。なぜ僕をこのまま放置し続けたのか、と。

純粋な彼女には相棒が友達を襲ったという事実は重すぎる。彼女はその後の授業はあまりにもつらく、途中早退することになった。

寮の自室に戻り、鍵をかけ机につく。顔をうつぶせて今日の事件について必死に忘れようとするメリー。どうしようもなかったんだ。自分にもどうしようもなかったんだ、と。

記憶のフラッシュバックはしばしば彼女の脳内に再生され続けた。忘れようとしても忘れられない記憶として彼女の記憶を上書きするくらいに流され続けている。

やがて玄関のベルが鳴った。苛まれ続けた彼女は鍵を開けることを拒んだが、訪問した人物はドアの前でこう言った。

「メリー、私。探偵団の使命」

「......」

「私のテレパシー、受け取ってくれた?」

「......」

「探偵団の団長の到着」

「......」

「メリー、何かあった?」

ネヨは今日のことを何も思っていない。大丈夫だから、飛竜に挑んだのだ。

メリーはネヨに取り返しのつかないことをしたと憂いている。しかしネヨはまるっきりメリーに大して恨んでもなんでもなかった。

思い返すと、メリーが襲われていたからネヨが助けただけで、ネヨが飛竜に殺されることは万が一にもなかったのだ。

なぜなら彼女は対戦相手の力量を見てから戦いを挑む。ネヨはメリーと戦っているのを見て、彼の力量を把握していたのだ。

飛竜のライスも同様、ネヨの実力を見切っていた。また、戦いの最中テレパシーを解していた。なので戦いで死ぬことはまるっきりなかったのである。

飛竜に単身で挑んだネヨもネヨである。いくら自身があるからと言ってメリーに何も言わずに立ち向かうなんて、誤解してくださいと言っているようなものである。

なにはともあれ、メリーは学校側を少し困らせるだけで、無用な心配をしていたのであった。

「開けて」

「......」

「開けて」

「......」

「開けて開けて開けて開けて」

メリーは自分のしてしまったことにネヨに会えないらしい。

「開けて開けて開けて開けて」

しかしネヨは諦めない。

(何?。何なの?)

(私がネヨを危険にさらせたのよ。なんでまだ仲良くしてくれるの?)

「悪かった。私一人であんな危険なのに立ち向かった」

ドアの前で伝えるネヨ。メリーはなぜだかわからないが次第にドアを開こうという気持ちになった。

「ガチャ」

メリーがドアを開けた瞬間ネヨが入ってきてメリーに抱き着いた。

「悪かったー」

「なにネヨちゃん。ちょっと抱き着かないでよ!」

メリーには

「それに悪いのは私だよ。ネヨちゃんをあんな危険な目にさらして」

「探偵団にいい悪いはない。何ができるのかを考えること、それが探偵団の仕事」

「ごめんね、ごめんね」

メリーは罪悪感からネヨに謝罪をした。

「いいってことよ」

ネヨは気にも留めずメリーの謝罪を受け入れた。

「プルルルルルル」

「プルルルルルル」

二人が仲を取り戻し意気揚々とはしゃいでいたところ受話器から音が聞こえる。メリーはすかさず受話器を取った。

(誰からだろう)

「ガチャ」

「もしもし」


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