魔術師試験
魔術学校は世界から魔術師志望が集う場所だ。魔術師はこの世界では最上位の職業として位置付けられており、それ故に競争が激しい業界でもある。
魔術師は国を安定させるために必須な職業で需要が高く、一度免許を取得すると、職に困ることがないと言われている。
それに職業カラーが良く、人気のある職業である。それ故にたくさんの志望者が少数の枠を狙って競い合う。
しかし近年、魔王復活による魔族侵攻の影響から、魔術師の数を大幅に増やさなければならなくなっている。
しかし国には予算がなく、魔術師の数を大きく増やせない。そこで国がとった策が魔術師の質の大幅引き上げだ。
全国の魔術学校に通達し、より才覚に溢れた人材を採っていこうという流れが出来つつある。その中の一つが魔術師試験の免除だ。
才覚に溢れた人やエルフの魔術師試験を免除することによって、いち早く戦力を増強させることが出来る。
国はそのような対策をとっているのである。しかしその策では問題がある。
この制度はそこまでの有用性はなく、応急措置にしかならないと専門家内では議論になっている。
所詮付け焼刃の対策では長くは持たない。根本的な解決には至っていないのだ。
このまま魔王の勢力が人間を上回れば、国の存続にかかわる大問題だというのだが、国に打つ手建てはほとんど残っていない。
この暗黒たる状況を打開する手が一つだけある。それは天才魔術師の養成だ。国の序列一位、マキュール魔術学校に在籍するイーレットのような魔術師が一人でも増えてくれれば、国としては大助かりというものである。
しかし皆が自分の身を顧みずに魔術師という存在になりたいとは言い難い。世間には自分の命を犠牲にする人も中にはいるが、大半は大事と考える方が自然だ。
どれもこれも現実的ではないことは言うまでもない。
となれば魔王が滅ぼされることを待つということになる。魔王は並大抵の人間が敵う相手ではない。天才魔術師イーレットでも足元にも及ばないだろう。
基本的には勇者という存在が魔王に立ち向かうことになる。だから勇者という存在は皆のあこがれの的なのだろう。
当然、メリーも圧倒的な能力を保持しているのだが、彼女の夢はあくまでスローライフ。彼女に期待するのは筋違いだ。
魔術師というのは平和を守るための最終兵器みたいなものだ。皆にはこの事実は知らされていない。皆が知らない方が戦力を獲得することが出来るのだから。
「ふああ」
メリーは予定通り朝に目を覚ますことが出来た。遅刻をすれば学校での評判が下がるかもしれないから気を抜くわけにはいかないのだ。
「朝か」
既に日は昇っていた。
「今日は確か10時始業だったかな。今は8時か」
「プルルルル」
朝からの電話は珍しい。メリーは電話に出た。言っていなかったのだがこの世界には電話がある。
「はい」
「今日オーク狩ってきたんだけど、見に来て」
電話の向こう側にはあのエルフがいた。今日も昨日と同じような感じだ。
「こんな朝早くからですか?」
「探偵団の仕事入ったよ」
昨日の御馳走をごちそうしてもらったのもあり断るのは悪いと思い、そのエルフの部屋に向かうことになった。
「ピンポン」
玄関の呼び鈴を鳴らす。
「ガチャ」
「さあはいって」
「ほら、オークの佃煮。召し上がれ」
すると唐突に何かから作った佃煮がフリーザーから姿を現した。メリーにはフリーザーとの仲介業者がそのエルフに見えている。
「これも探偵団のお仕事だよ」
探偵団にも様々な仕事があるらしい。分ったことはオークの討伐依頼を受けていることである。
「こんなお仕事あるの?」
モンスターを狩ったことのなかったメリーはまだ耐性がついていない。
「パク」
「どう、おいしい」
そのエルフは彼女の評価を知りたいようだ。
「案外うまいね」
その言葉を聞いて安心したような顔をした彼女はあたりを走り回った。
「そうでしょそうでしょ」
「魔法パウダーで出来上がり」
そう言って調味料コーナーから瓶のようなものを取り出してメリーに見せた。
「え?」
「その魔法パウダーって」
「私が魔法でつくったパウダー。見る?」
「ほー」
「そうそうこれこれ」
そのエルフは魔法パウダーと自称する物を手に取り笑みを浮かべながらそれを眺めた。
「これ、私の一番のお気に入りのパウダー」
「これを振りかけて作った佃煮、それ以外の調味料もほどほどに」
「魔法パウダーのつくり方って?」
その魔法パウダーなる物に興味深々なメリー。
「それ私だけの秘密」
考えもつかない返しであった。
「えー探偵団はお互いに秘密を隠してやっていけるの?」
「秘密を隠すのも仕事の一部」
「なにそれ」
「私の理論。反論求む」
反論を真剣に求めている様子にメリーは圧倒された。
「いいや反論はないんだけど、なんだか不思議だなーって」
「じゃあ教えなくてもいい」
安心しきった様子でそのエルフが吐露した。
(ちぇっ教えてもらいたかったなー)
そのエルフはある条件をメリーに提示した。
「私への信頼を獲得してからだったら教える」
「約束してくれる?」
約束を締結することがメリーの責務のような気がして彼女は承諾した。
「うん」
「ちょっと気になったんだけど、まさか呼んだのってオークの佃煮を食べさせるためだけに!?」
「コク」
「明日はバンパイアの炒めものをごちそうする。楽しみにしてて」
「帰りますよ」
一貫してメリーに興味津々のエルフだが、理由を突き止めることが出来ないメリー。
なぜこの小さなエルフはここまでにメリーに興味を持っているのか、同族エルフだからなのか、それともほかの理由があるのだろうか。
「またね」
と宣ってそのエルフが自室の扉を閉めた。
「ガチャ」
メリーは今日のオークの佃煮にご執心なようだ。
(えええあの佃煮めっちゃ美味しかったんだけど!!)
(ホロホロととろける肉と油が特製スープが絡んで最高にうまかった)
「まさかあの人、いやエルフは前世は料理長やってたんじゃないか?」
この時のあのエルフの夢は料理長だとメリーは考えていた。その後彼女の名前を聞いてから仲間として協力してから彼女の事を知るまで。
自室に戻った彼女にはあのエルフの存在が頭の大部分を占めていた。




