マキュール魔術学校
マキュール魔術学校の首席のカリフォルトは17で魔術師試験に合格した。この代は少し戦力に欠けるが、一応この学校のエースになる。
彼は魔術師にはなっていないが、学校を卒業して魔術師になるだろう。すると年齢はおなじ18歳である。
すなわちマキュール魔術学校のエース級が光属性魔法を行使し、尚且つイーレットを襲ったのである。
意図はわからないが、少女がイーレットを襲う理由が見当たらない。恐らく仲間に根本的理由が隠されている。
イーレットは仲間の情報を彼女から聞き出すことで理由を突き詰めようとしたがうまくいかなかった。
メリーは寮に戻り、当日のパーティーのイーレットの不可解な行動についてあれこれと思い悩む最中であった。
一流魔術学校の寮だけあって室内は広く設備も充実しており、学生は毎日学業や訓練に励むことが出来ている。
寮は10階建ての構造になっていて、学生が全員のびのびと過ごすことが出来る。
大衆浴場はもちろん、トレーニングルームや魔術訓練場の設備も一流で、魔術師の使用するものと比べても遜色がない。
それに図書館の蔵書数は3000万冊を誇り、マキュールにある本の約3分の1がこの図書館に集まっているもと言われている。
魔術訓練場は主に魔法の実践授業に用いられる。この学校の実践授業は通常授業に比べ1対1の割合であり、基本的に10クラス以上が使用しているため、広大な面積を占めている。
学生たちはこの設備に怠けて遊びまわる者もいれば、懸命に勉強に取り組む者もいる。割合は6対4で遊ぶ者の方が多い。
しかし学年が上がり魔術師試験が近づくにつれ、生徒は勉強に専念する者も増える。この学校に来たからには魔術師になるのが適当だからだ。
魔術師試験の合格率は学術都市マキュール魔術学校の卒業生でも2割ほどである。在学中に取得できる者に至っては極僅かだ。
カリフォルトは2年次に合格した。魔術師に卒業後なれるというのは稀で、マキュール魔術学校でも1年に一人か二人いるかいないか程度で推移している。
単純な戦闘力では彼に勝る者はいても、魔術師になることだけで言えば魔術師試験合格が最も現実的かつ効果的な実力を示す方法なのである。
マキュール魔術学校以外にもカリフォルトに戦力的に及ぶ者は幾らでもいるが、彼の魔術師試験合格が彼の評価を飛躍的に向上させている。
人はわかりやすい評価に惹かれやすい生き物である。実力が一目で判断できない場合、試験合格などのわかりやすい基準で判断する場合があり、それはエルフも同様だ。
エルフは人間と違う感性を持つ。この世界では現実主義的なエルフが空気を支配している。
表面的に人間とエルフが異なる生き物だとしても根本的な面で異なるとは言い切れず、共通点もないとはいえない。
エルフ共同体と人間共同体は地上世界の二つの支配的共同体だ。この二つの意志において地上世界の意志は決定する。
しかしこの共同体同士の繋がりは薄くお互いに協力している風を装っている。
エルフは争いを望まない。人間は平和の為であればどちらでもと考えている。
ちなみに地上世界の支配的共同体は魔族一択で天界も神々ということになる。
この世界は3つに分けられているのではなく、4つに分けられていると解釈することもできる。
人間共同体の中にも、エルフ共同体の中にもお互いの平和を望む者も数多く、平和団体などが協力を呼び掛けているのだが、そう簡単にはいかない。
なぜなら平和的な声は大衆意識には案外少なく、なによりも現実性に乏しいからである。誰が何のためにどのように実行するのかというプロセスの議論が進んでいない。
具体的な方法論を用いた解決法を広く公開している研究者や学者なども確かにいるが、具体的でないものを挙げている方が圧倒的に多いのが実情である。
一向に進まない議論を展開するために尽力するのが、魔術師イーレットを筆頭に有力魔術師の参加している、全国的に広く受け入れられている国と魔術学校主導の魔術師の育成の企画である。
しかしそれだけでは全く効果がないといってもいい。イーレットの目標はそこにはなく、裏で進められている魔術師育成計画の実行だ。
カルバーテルは規範的な国民と慎重な政府もあって、魔術師の育成には慎重な意見も多く、大幅な予算をかけることが出来ていない。
また、有力魔術師であっても一流魔術師の参加は少なく、いまだにはっきりとした効果は上がっていない。有力魔術師の中にも一流魔術師はいるが、少数である。
イーレットはやがて痺れを切らしたのか、途中からカルバーテル主催の企画だけでなく、魔術師育成計画の方に携わるようになった。
しかし、魔術師育成計画は個人的な投資によりなんとか維持できているという側面もあり、国主導の企画に比べれば圧倒的に規模は小さい。
なぜ魔術師育成計画は小さい規模ながら、イーレットから多大な期待がされているのかというと、倫理上の問題を個人的な力量でクリアできるからだ。
慎重なカルバーテルは現実的観点でも慎重だ。カルバーテルは全国の決定における裁量が一つに集約しているので、小さな決断でもとてつもなく大きな決定になり得るからだ。
その点個人的投資により運営される魔術師育成計画は、自由な裁量で決めることが出来る。
しかし世間のチェックを潜り抜けていない側面もあり、危険な点もある。特に力を持っていない子供などは危険にさらされる恐れがあるとして、世間は否定信号を出している。
危険度で言えば圧倒的に魔術師育成計画に旗が上がる。危険なものを受け入れる者は限られる。
長い時間をかけて育成するのだから確実な成果を得られないといけないとの意見もあり、魔術師育成計画は表舞台から姿を消した。
世の中には発展に意欲的な者と否定的な者とそれに関与せず気ままに生きるものの3パターンで構成される。
わからないことには触れないでおこう、臭い物には蓋をしようとする者も知れば、革新的なことに一心不乱に取り組む者もいるからバランスは保たれている。
シーソーで例えるならば、両方に台座に人が乗っているからお互いに宙に浮けるのであり、片方が台座から外れると一方は完全に地面に沈む。
お互いがいるからお互いが成り立っている。両者のバランスが崩れてしまうと、片方やもう片方も崩れてしまう恐れがあるということである。
そう考えると世の中はとても不思議だ。ここまでうまくいっているのだから。




