vsイーレット
「ドババババババ!」
「キャー!」
ありえないほどの爆音に、建物内に悲鳴が鳴る。
「やったか!?」
その少女は確実に仕留めたというような態度で、あたりを見回した。
「ちょっとー。いきなり困りますね。モラルをわきまえてくれないと」
イーレットはその光線を避けていた。確実に直撃したと思った少女は少し焦った。
「お前が言ってんじゃねえよ」
イーレットは理由を問いただす。
「あなた何を企んでるんですか?」
「何も企んでなどいませんよ」
どうしても理由を知らせたくない少女は、その質問に拒絶した。
「捕まえて吐かせてもらいます」
「そんなうまくはいかないよ。私だって魔術師なんですから」
「私からは逃げられませんよ」
イーレットは余裕である。少女の攻撃は並みの魔術師ならいちころだったのだが、イーレットは確実に勝つことが出来る自信がある。
「いきますよ」
「ビュッ」
「つかまえた!」
イーレットはその少女の袖を掴んだ感触を感じたのだが、それは外れだった。
「ん?」
「全然私を捕まえられませんね。イーレットさんは案外遅いのですね」
なんとその少女はイーレットから容易に逃れられたのである。
「挑発的ですね」
イーレットは少女の挑発を受け取る。
「そう聞こえるならそのように解釈してくれても構いません」
その少女の目的はイーレットと戯れることではない。イーレットとの会話を好まない。
「では私からいきますよ」
「ビュッ」
「ドオオンッ」
その少女はイーレットよりも数段早く動き、強い一撃を与えた。この建物を数千回破壊できるだけの威力だった。
「まあこれを受ければいくら一流魔術師といってもひとたまりもあるまい」
「ん?」
しかしイーレットは間一髪でひらりとかわし、平気そうに立っていた。まるで何事も受けなかったかのように。
「ギリギリでしたが、私にそんな攻撃は通用しません」
「まさか避けたのか?」
「はい」
イーレットの返答に、その少女の感情はヒートアップし、戦闘スタイルにチェンジした。間違いなくその少女の顔が前とは違った。
「ふっ。面白くなってきましたね」
「私はまったく楽しくありませんが」
イーレットは戦的交渉を望まない。
「あなたの意見なんて聞いていませんよ!」
「はあっ!」
彼女の手の甲から光の線が無数に散らかり、一斉にイーレットめがけて直進した。
「ビリビリビリッ」
「ビシャーン!」
イーレットは今度はかわすことが出来ず、麻痺してしまった。火属性魔法を操る彼女に麻痺耐性などない。
「う、体がマヒしてしまったようですね。何かの魔法ですか?」
「私は光属性魔術師ですからね。麻痺魔法も行使できます」
「そうですか......」
「この状態でこのホーリーライトを受ければ、どうなるのかな?」
その少女はこう言って掌を頭上に置いた。それはホーリーライトの合図であった。
「その魔法はおやめください。この建物が倒壊しますよ」
必死に彼女の制止を試みるイーレットであったが、
「あなたを仕留められるのであれば、どんなことでもなしてやるんだよ」
「ホーリーライト」
「ピカッピカピカッ」
「ぐわーーーー!!」
イーレットは白色光を一気に浴びた。その光は天界の光であり、地上世界の者が浴びれば一瞬で消滅すると言われているほどのものであった。
「はははどうだ!?」
「ううぅ」
しかしイーレットは消えなかった。それに少し動揺した少女はもう一度ホーリーライトを浴びせた。
「まだまだ耐えられそうじゃないか?」
「ならばもう一度使えばいいだけだ」
「ホーリーライト」
「ピカピカッピカ」
「ぐわーーーー!」
「ぐわーーーー!」
2回ホーリーライトを浴びたイーレットは明らかに疲労がたまっていた。
「今回が2連撃だ。どうだ!」
「うう......」
「まあダメージは与えられたか。もう一度でフィニッシュだ。一生戦えないようにしてやる」
するとイーレットが絶叫して、周りを炎が包む。
「うおお!」
「はあ!」
イーレットは炎に包まれて一定時間が経過し完全に麻痺をなくすことに成功した。
「なぜ麻痺を解くことが出来ているのだ。この魔法は24時間持続させることが出来るんだ」
「私を舐めてもらったら困りますよ。私も特異魔法を行使できるのですから」
「ちっ」
その少女は少し残念そうな雰囲気を出している。
「すこし戦闘モードに入らせてもらいます」
「ボボッ」
「ボオオオオオオオ」
「なんだ!?」
彼女の周りに膨大な量の炎が出現し、それらはすべてイーレットに集中した。
「炎を身にまとう普通の特異魔法ですよ。あなたほどの人ならだれでも使えます」
「ふっ、やるじゃねえか。上位の特異魔法を行使するとは。おっと触れたらあぶないぜ。さあどうやって戦うか」
その少女は焦っている。イーレットがここまで強いとは思わなかったのだ。
「ここで潔く捕まってくれれば何も気概を加えるつもりはありません」
「私がここで折れるとでも?」
しかしその少女は諦めない。イーレットを成敗する気だ。
「わかりました。少し痛いですが我慢してください」
「私に攻撃を与えられるとでも?」
「言っときますが、私の魔法はそう簡単にはかわすことはできませんよ」
イーレットはまたもや自身に満ち溢れている。この自身は一体どこから来るのだろうか。
「よくいいますね。先ほど容易にかわすことが出来ましたが」
「ボオオオオオオオオオオ」
イーレット周辺の炎はこの時には完全にイーレットの体内やその周辺にあった。その炎を一斉に解放させ、魔法を行使する。
「ボオッ」
「ビュッ」
「おっと」
その少女は容易にその攻撃をかわす。
「はああっ!」
しかしイーレットは少女の避けた方向に事前に飛び出し、一発の炎を与えた。
「ドオン!」
「ブーン」
その炎が少女にまとわりつき、やがて一つの塊に姿を変えた。
「カンッ」
「なんだこれ動かないぞ。何をした!?」
いくら破壊しようとびくともしない塊。少女の力は人知を超えているのにもかかわらず、傷一つつけられない。
「簡単な魔法ですよ」
「実力は先ほど確認しましたが、これほどに硬い物まで生み出せるはずがありません」
「カンッカンッ」
「まったく破壊できない!」
「攻撃力を8倍に上昇させる特異魔法をかけさせていただきました」
「卑怯だぞ!」
「私には関係のない話です」
「これでどうだ!」
少女は同時討ちを狙おうと、麻痺魔法を再びイーレットに向けて放出した。
「ビリビリビリビリッ」
「より効果のある麻痺魔法だ。魔族であれ大半の者を麻痺させることのできるものだ。いくら一流魔術師といえ、痺れで動けない」
「ん?」
「いない!?」
しかし、イーレットはこれまでよりも何倍も速く動き、攻撃をかわした。
「どんな魔法でも当たることがなければ影響を受けません」
「人間であれば確実に眠らせることのできる必殺技だったのに」
「やはり魔術師イーレットが一流魔術師であるのは本当らしい」
その少女は悟ったようにイーレットを見るが、その目はギラギラとしている。
「だが私の役目はあなたを動けない体にすることだ。決して引くわけにはいかない」
「あなたの意見がどうであれ私はあなたを拘束します」
「よく言いますね。一度も捕まっていないのですが」
少女は絶対に逃げられる確信があるように見える。
「ビュッ」
「な!?」
「先ほどよりも早い!?」
「ギュンッ」
「ボオオオオオオ」
「私を締め付けているこの炎の束は何だ?」
「上級魔法の一種、ファイアウォールです。対象を一定時間拘束させるものです」
「熱い熱い熱い熱い!」
「熱い熱い熱い熱い!」
「あなたには眠ってもらいます。フレイミングスリープ」
「やめてくれ。私が悪かった」
「どうか許してくれないか?」
「そっそうだ。お金をやろう。いくらほしい?」
「あなたが私を拘束するならば、私の仲間が私を取り戻しに来るはずだ。その過程であなたごと滅ぼされることになるかもしれないぞ」
「仲間というのは?」
「私も悪くはないのでここで開放してくれたら仲間には襲わせないように言う。しかし拘束すれば数か月以内には確実に私を取り戻しに来るだろう」
「言っておくが私の戦力とは比べ物にならないヤツもその中には混じれているのだ。よっぽどのことがない限り動かないヤツだが、私の存在が仲間には必要なのだ
「だからヤツは確実に動く。この町ごと消滅させるほどの力をヤツは持っている」
脅しを疑いながらもその少女は嘘をついていないことを見抜くイーレット。
「脅しているのですか?」
「半分脅しだが半分はマジだ。ヤツを見くびらない方がいい」
彼女が嘘をついていないことを見抜き、彼女は解放を選択した。
「あなたを拘束した後、情報を聞き出し次第解放します」
「私は何があっても情報は漏らさない。仲間と契約を結んだからだ」
「どうしても拘束はお望みでないと」
イーレットはできれば情報を聞き出したいと思っている。
「もしここで開放してくれれば、今後一切あなたに危害は加えない」
「どうせ口約束でしょう。一方的に破棄することもできますね」
「もし今私があなたを襲うと決めれば時間はかかるがいつでも仲間をここに呼び出すことが出来る。あなたに拒否権はない」
「仕方ないですね。あなたはここで開放します。約束は忘れないでください」
「わかってますよ。必ず守ります」
イーレットはファイアウォールと炎の塊を解いた。
「パリンッ」
「お!」
「ようやく外れましたか。このファイアウォールは少し私には効きました」
「早く去ってください」
「はいはい」
イーレットの忠告でその少女は建物から姿を消した。
「ビュッ」
(あの少女は嘘をついている様子ではなかったですが少し気がかりですね。私を本当に襲わないのでしょうか)
(あの少女は魔術師の中でもレベルの高い方でした。その方が敵わないとはっきりと示していたのですからこの国でも数十人しかいない精鋭なのかもしれません)
(しかし彼女の仲間もどのくらいいるのかもわからないですから無暗に拘束するのは得策ではありませんでした)
(私だけで考えてもらちがあきませんので、一度魔術学校に戻って誰かに話してみましょう)
(生徒を無暗に巻き込むわけにはいきません。私たち教師が解決するべき問題なのです)
(もし私がいなくなれば誰が後継者になってくれるのだろう。私のような役割を進んで引き受けてくれるものは珍しいでしょう)
(今日のような出来事は稀ですが、これまでに一度彼女のような者に襲われたことはありました。彼女も光属性魔法を行使していたのですが)
(つまり天界と何かしらつながりがあるものなのか。しかしそれは傾向の話でそこには確固とした関連はないと言われている)
(地上世界の線もある。光属性魔法と闇属性魔法は表裏一体で闇属性が動き出しているから光属性も動き出している可能性はある)
(しかし光属性同士で仲間をつくることなんてあるのだろうか。同じ属性だけで仲間をつくるのもとても珍しい)
(この世界は3つの世界で構成されていて、お互いに相互の足りない要素を補完し合っている)
(最近魔族が勢いを増しているのに対抗して天界から影響を与えているのだろうか)
(私一人では全く見当のつかない話だ。誰かに相談したいところだが、一体誰が私の話を真面目に聞いてくれるのだろうか)
光属性魔法を操る刺客により、イーレットは被害を受けそうになったが危機一髪で難を逃れ、その者の確保に成功した。
しかし刺客からは仲間がいることが明かされ、宣戦布告されてしまった。
その仲間の中には強力な魔術師がいると言う。挑発に彼女は息をのんでしまい刺客を逃がすことになった。
だが、その仲間がイーレットの戦力に勝るのかもしれないことからイーレットは彼女の要求はのんだ。
襲われて被害を受ければ計画が進まなくなる恐れがあったからだ。何も知らない者の素性よりも、彼女は計画の進行を望んだ。
数年前から始めた計画を邪魔される脅威は彼女の役割に打ち勝った。もちろん魔術師としての役割は町の平和を保つためというのがある。
そのためには何も知らない者の素性を明らかにすることも重要なのである。計画よりも一般的な魔術師にとっては治安を守ることの方が重要である。
生命の危機もあったことや、計画を確実に進めていくために魔術師イーレットは彼女の拘束を解いたのである。
刺客の攻撃で会議室はもちろん、建物全体が倒壊寸前だった。あの少女の実力は本物なのである。
年齢はぱっと見18歳ほどであったが性格な年齢は明らかにはできていない。
仮に18であれば、彼女は学生時代に魔術師試験を突破して魔術師になったということになる。




