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魔術師育成計画

「失礼ですね、先生。何も入ってないじゃないですか」

彼女の返答を聞き、イーレットは驚愕した。彼女のものには2人のものとは異なる特異魔法をかけていたからだ。並みの魔術師では一切見破ることはできない

並みの魔術師からはこの袋の中には何も入っていない解答は万が一にも帰ってこないだろう。それほどまでに魔術師イーレットの特異魔法は群を抜いている。

この特異魔法は少し特殊で袋ではなくそれにふれた者に魔法をかけて騙す。魔法をかけられたものはクマのぬいぐるみが入っているように見えるのだ。

メリーは騙されなかった。イーレットはメリーの力量を確かめるためにパーティーを開いた。もちろんついでに2人のデータについても分析するつもりだろうが。

ところがメリーは何かに気づいてしまった。魔術師イーレットがこの袋に特異魔法をかけたことを見破っていたのだった。

これにイーレットは気づかなかった。まさか魔術師にもなっていないメリーが見破れるものではないと思い込んでいたからだ。

この特異魔法は解読するには基本的に魔術師試験の試験とそれに基づく経験が必要だ。メリーはまだ魔術師試験を受けていないので、彼女には解読は不可能だとみていた。

メリーは確かに魔術師試験は受けていない。それに準じる知識の大半も身についてはいない。普通に考えれば解読は不可能だった。

しかし彼女は世間で一般的に用いられる魔法辞書を用いず、下級魔法、中級魔法、上級魔法を会得した。

だがこの所業はセンスがない者も然り、センスのあるものでも難しい。魔法辞書を見らず独学だけで下級魔法はともかく中級魔法や上級魔法を会得するのはまず不可能。

魔法辞書は魔術師試験の表面的なものを一冊の分厚い本にまとめた魔術師試験のエッセンスのようなもの。それを使うことなく魔法を行使できた時点で彼女は普通ではないのだ。

すなわち魔術師試験の知識を使わずに全く違うアプローチで魔法を会得したのがメリーで、魔術師試験を受けていないからといって特異魔法を見破られないということはないのだ。

イーレットは彼女の普通ではない知識と技術にますます興味を持つ結果となった。

結果的にイーレットはメリーの情報を入手することはできなかったが、彼女の欲望を満たしてくれたメリーに感謝している。

満足そうにパーティーを終え、3人を家まで送り届けた。彼らがいれば魔族侵攻にも対抗できるかもしれないという淡い期待を胸に。


「イーレット。魔族侵攻に対抗する魔術師を育成できますか?」

謎なる人物がイーレットに問いかける。

「心配いりません。魔術師育成計画は成功するでしょう」

「確かな根拠みたいなものはあるんでしょうか?」

また謎なる人物はイーレットに問いかける。

「殆どデータの収集は終わっております。後は最後のデータを得るだけです」

「最後のデータと言ってから何か月がたったというのか。肝心なところまで進んでいるんだがな。あと一歩で何事もうまくいかなくなるものだ」

その謎なる人物はある計画を実現することを望んでいる。

「私には最後のデータがそろう確信があります」

「本当か?」

謎なる人物が問いただした。

「はい」

「具体的には?」

「詳細にはお教えできませんが、最後のデータの調査を進めておりまして現在70%ほどまで完了しております」

謎なる人物は計画の実現が近づいているのを知り、大いに喜んだ。

「我々も最後のデータは全く解読が出来ず、納得のいく計画を練ることが出来なかったのだが」

「おっほんっ」

謎なる人物が咳払いをした。

「ここ一か月なにかあったのでしょうか?」

「詳細はお伝え出来ませんがある人物が調査に協力してくれるようになりまして、順調に進みつつあります」

「しかし70%とは。あまりにも大きな進歩である。これからも頼みます」

「わかりました」

この魔術師育成計画は10年ほど前から始動していたこともあり、多くの魔術学校の学生や講師が参加した。

累計人数は1万人以上に上る。その中には一流魔術師や魔導士が積極的に参加したという背景がある。

魔術師育成計画は国や魔術学校には受け入れがたく、裏舞台でしばしば進められてきた。

この計画はデリケートなもので関与していたことが明らかになった魔術師の資格がはく奪された事件もあった。

裏で行われていたこともあり大々的に計画を実行できずに、それぞれのメンバーが個人的に資格失効覚悟で参加していた。

その中の代表もこれまた魔術師イーレットである。魔術師が資格失効の話を聞いたときこれまでの魔術師の大半が去っていたのだが、彼女は残った。

もし知り合いがいなくなっても魔術師として役目を果たそうとした。計画がどれだけ非現実的でも世間から否定され続けてもやり続けようと誓った。

彼女は嫌われている。しかし嫌われ役を自らが買ってまで役割を果たすことに注力している。

これほど執着している理由は、彼女の生い立ちに問題がある。魔族により、両親が被害を受けたことにある。

この計画は一定数の信者が存在する。絶対に計画を世間に認めさせる気概を持った者が信者には多い。

近年は魔族が勢力を拡大しており、魔術師育成計画は絶対に必要との意見だ。

しかしこの意見は世間では否定されている。国や魔術学校が倫理上の観点や不確実性から禁止にしているところが多いことから、広くは認められていない。

しかし彼らはそれにお構いなく計画の重要性を説き、世界中に声を上げ続けている。魔術師育成計画という爆弾を。

イーレットも元々は彼らの声を聞き計画に参加した。彼女の傷ついた心に染みたのだ。これまでの魔族を恨み続ける生きがいは変わってしまった。

彼女は魔術師育成計画の参加者でもあり、信者でもある。彼女ほどの天才魔術師が世間的に認められていない計画に参加しているのだから。

イーレットのほかにも様々な魔術師も裏舞台で参加している。彼らには共通点がある。

皆世間に対する不信感を共通に持っている。絶対的な安心を世間に感じていないのである。

そこには不遇な状況に遭遇した者や世間に恨みを持つ者が多い。彼らは世間の裏の顔を知っている。

「会議は終わります。お疲れさまでした」

ほぼ謎なる人物とイーレットだけが発言していたのだが会議が終わった。

「あのイーレットさんですか?」

ドアを開け会議室を出たところにイーレットに明らかにイーレットに用がある風を装った者が通路に沿って立っていた。

「はい」

イーレットはこのような状況は日常茶飯事なので動揺しなかった。

「あなた様の日々の活躍は陰ながら見守らせていただいています。応援しています」

「気を使わせて申し訳ありませんね」

「またまたー。計画もあなたのお陰で順調なんですよね」

意気揚々にかわされる会話は、小さくも会議室と隣接した通路に響いている。

「私の奮闘のせいではありませんよ」

「謙虚なんですからー。じゃっ頑張ってください」

ようやくイーレットと話せて満足したのか、その人物は去っていった。

後ろに立っていた少女がたどたどしい言動で少女に語り掛けた。

「あの、あ、魔術師、イレートさんですか?」

「あ、そうですね」

「あ、あ、」

その少女のたどたどしさはなにか違和感があった。演技をしていたかのような何か不穏な感じがした。

「どうしたんですか?」

「応援しています。わたしも、頑張ります」

「ちょっと落ち着いて」

「ごめんなさい!」

その少女は丁寧に謝罪をする。

「全然ですよ。私は大丈夫です」

イーレットは謝罪を受け、少し警戒心を解いた。

「あ、今日はお願いがありまして......」

「ほう」

「私を弟子にしてください!」

「弟子は難しいですね。私の弟子になりたい人は多いですから」

イーレットは弟子になりたいものが全国にいて、毎日毎週のようにイーレットの元にやってきて、弟子につくことを懇願する。

「そこをなんとか!」

「難しいですね」

しかしイーレットは忙しく、既にヨムという弟子がいて、取らないことに決めている。

「ふっやっぱりか......」

「え?」

その声と同時に光の光線が手のひらから粒子状に噴出離散し、その粒子の集合体はイーレットに直撃した。


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