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メリーへの期待

学生らは子供の相手をするのがばかばかしくなっていてヨムの相手をする余裕はなかった。

「君たちの魔法見せてもらいたいなー。僕お兄さんの魔法見たい。だってあの人よりもすごい魔法見せてくれそうだし」

ヨムの挑発に学生は応えた。マキュール魔術学校の学生の力量を示したかったようだ。

「おうガキ。いい目してるじゃねえか。俺たちはあのどこの馬の骨かわからないようなガキよりも優れているのは絶対だ。だろ?」

「おーーー!」

ヨムは冗談そうに驚いて見せた。

「見せてもらいたいなー。だめ?」

「魔法は子供に見せるものじゃないんだよ。さあ親のとこへ戻りなさい」

学生らは冷静になり子供に魔法は見せるものではないと思い、ヨムを保護者に引き渡そうと試みた。

「見せて―」

「困ったな」

「ちょっとやり過ぎたかもしれん」

学生らはさっきの悪口を子供に聞かれたと考え、少し後悔した。

「すみません」

「イーレットさん!?」

そうしているうちにイーレットが彼らの前に現れた。

「うちの弟子が申し訳ありません。何かご迷惑かけませんでしたか?」

学生らはイーレットが目の前に現れて緊張した。まさか自分らに直接

話しかけてくるとは思わなかったからだ。

「とんでもありません。お弟子さんは素晴らしい子でした」

学生らはその子供が弟子だとわかると少し申し訳ない気持ちになる。

「ねーねーあのお兄さんたちネヨさんの事何か言ってたよ」

しかしヨムは遠慮を知らない。イーレットに先ほどの事をばらそうと心掛けた。

「えっとねー」

しかし学生らはヨムの言動を遮る。

「とんでもありません。私はネヨさんのあの素晴らしい技の数々、拝見させていただきましたことをですね、お弟子さんに伝えたわけです」

「へえ」

「ですからっ」

学生らは必死にイーレットに弟子のすばらしさを伝えた。彼らの本心に決して彼らは弟子をバカにしていたわけではないことが明らかになった。

「ヨムと時間をつぶしてくれてありがとうございました。この子一人では何しでかすかわかりませんから」

イーレットに少し引っ掛かりがあった。

「でも、ちょっとおかしいですねえ」

彼らは嘘をついている。イーレットは本心を聞くことが出来る。彼らはヨムを大きく最高の男にしていたのである。

「何がですか?」

冷や冷やしながらイーレットに尋ねる。

「いやなんでも」

「ほっ」

どうやらイーレットからの被害を受けないで済んだようだ。

「またねお兄さん」

「べろべろばー」

ヨムは遠慮を知らずお兄さんに変顔を見せた。

「あっぶねー」

「イーレットさんの弟子だったとは」

「あの生意気な弟子がいたなんてな」

「冗談はいうものではないな」

「お前さあ、イーレットさんにもしバレていたらどうするつもりだったんだよ」

「どういうことだ?」

「さすがに一流魔術師として通ってるし俺たちの心の奥くらい簡単に読めるような気がしてな」

「魔術師ってそんなことまでできるのか?」

「あり得るな」

「あのさりげない威圧感はバレてたんじゃないか?」

学生の一人がイーレットからの威圧に気づいていた。あの恐ろしいイーレットの片鱗を確かに感じ取った。

「悲しい。俺は取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと内心後悔している」

だらしない方の学生はイーレットの恐ろしさなど関係ないと言わんばかりに子供の方のイーレットにご執心だ。

「お前さあちゃんとしろよ。子供にさ優しくしろよ」

「ちょっと気が緩んでな」

「根本的に精神でも鍛えて来い」

「へいへい」

スラッシュローの気まぐれのルール変更でメリーは危機に瀕したが、イーレットの計らいにより難を逃れた。

物事はたまに予想だにしない方向から飛んでくることがある。メリーは見えないところからスナイパーに撃ち抜かれそうになったのである。

しかしイーレットは最低限の常識があったのか、メリーを指すことはなかった。

その後、誰もが設定を忘れている新入生の見合わせ兼魔術学校合同大会は幕を閉じた。何事もなく終了した。

振り返るとメリーもネヨもちょっとしたトラブルに巻き込まれそうになっていた。

二人にとっては大会というものが災難なのだ。観衆に見世物をするというある種の演技行為は二人には向かない。

個人で行動することが彼女らの理想的スタイルなのかもしれない。イーレットも今回の騒動で彼女らの進むべき道を理解した。

メリーはマイペースな性格で他人から指図されるのが嫌いだ。ネヨは自分の進むべき方向に進んでいきたいという思いがある。

どちらも集団的ではなく個人的であることを望む。自己中心的なのではなく、個人の意思を尊重して個人で行動する。

それは一人で動く必要はない。二人や三人。大人数でも個人の意志を尊重してそれぞれで行動して集団は形成できる。

イーレットは彼女らのデータと行動の動機と結果を分析して、魔術師の育成をより加速させることが出来ると確信している。

準備段階は完了している。魔術師育成プログラムは完成しつつある。ヨムを1年前に分析した時、データ結果に驚きが隠せなかった。

プログラムの完成を祝してパーティーを開こうと思っている。大会の当日の夜である。実験結果のお世話になったヨムとメリー、ネヨを呼んで大胆なパーティーを仕掛けている。

そこでも分析する。彼女は魔族を恨むあまり自分の生徒を利用しようと考えている。迷惑はかけないからという理由で。

確かに迷惑をかけなければストレスはない。しかし倫理上大きな問題がある。

もし倫理的観念が破壊されたとしたら、彼女らは本当に実験されるのかもしれない。彼女の執念は一般人のそれとは違う。

早く分析しなければ魔族が我々の町にもという恐怖がより彼女を実験へ誘導する。睡魔にも勝る実験欲。

彼女らがパーティーをしている間、イーレットは実験をする。実験は最終段階に入っている。裏を返せば本当に必要な材料がそろっていないのである。

メリーとネヨは大会の最後、魔術師イーレットと約束を交わしていた。今日の10時、私の家に来て、と。その時に地図を渡して。

彼女らは渋ったがイーレットの誘いなので簡単に断ることが出来ずにパーティーへ参列した。

イーレットの家はさすが魔術師といっていいくらいの面白い道具に満ち溢れている。奇妙な魔女のコレクションや天使の像がところどころに飾られている。

美しさに満ち溢れたキャラクターが特徴の魔女ソリティアーナの人形は暖炉の上にそっと置かれている。まるでこちらに眼光を向けているかのような威圧感を放つ。

魔術師イーレットが男性に言い寄られた時のような威圧感をその魔女人形から感じ取っている3人。ヨムは内心めんどくさそうにしているがわざと怖がっているふりをしている。

イーレットは手を広げてみた。

「これを見なさい」

ヨムは疑いの心があったので見なかったのだが、メリーとネヨは手のひらをじっくりと見た。

「何もないじゃないですか?」

イーレットは訪ねた。

「何が見えましたか?」

イーレットはどうやら3人のことをもっと知りたいと思っているらしい。人は興味のない者に自分から何かをするのはほとんどない。

「じゃあパーティーでもしましょうか」

彼女はパーティー用具一式を大きな長机に一杯に広げ、3人にそれぞれお土産を渡した。

「これパーティーの記念にもらって」

嬉しそうに体を傾けうなずいたネヨの近くにイーレットはじっと近づき、観察した。

「この袋の中に何が入っているのかわかる?」

彼女はあらかじめ袋の中に特殊魔法をかけた。彼女が3人の座っているテーブルから姿を消した先には準備していた袋たち。久々に弟子にプレゼントを贈れると胸を躍らせていたのだった。

「ああ、置物ですね」

ヨムが無属性魔法を行使し中を見るとさっきの魔女の人形と同じような外形をしていたので置物と答えた。

「ヨム君やるね!」

ヨムの解答を待っていたかのように彼女は応えると首をネヨの方に回して彼女をじっと見た。

「あなたの袋の中には何が入っているでしょうか?」

イーレットの挑戦的な煽りに彼女はきっちりと答えた。

「これは私の人形ですね」

イーレットはこれまた展開を予測していたかのような口で彼女の言葉を訂正した。

「残念。ヨム君に入っている物と同じものでした」

メリーの方を向いてくるのかと思ってメリーは待っていたのだが、こちらの方を向くのに少し時間がかかった。

「じゃあメリーさん」

魔術師イーレットはメリーのような者を見たことがなく、いくら実験を繰り返しても彼女のデーターだけは分析することが出来ないのだ。

彼女のデータがそろえば完全に魔術師育成計画は終了することが出来るのに、肝心のメリーのデータは幾ら分析しても無関係で終わってしまう。

驚きを隠せないイーレット。もしこのまま分析することが出来なければ、計画はとん挫するのかもしれない。

この恐怖心がまたイーレットの心を活発にし、喜びになる。理屈はわかっていないが、メリーのことになると不安で心配で希望に満ち溢れて楽しくて仕方がない。

まるで自分が別世界にいるかのような感覚になるイーレット。余りの違和感にむしろ心を預けたくなるのである。

実際はここに心のよりどころがあるのだ。現実は虚ろであるのがちょうどいい。純粋であり少し虚ろな輝きこそ天命の導きであり、私だけを癒してくれる。

魔術師イーレットはこのような心地を生涯で一度も体験したことがなかった。絶対に未体験だと世界中に証明できるくらいに。

高級ベッドは買えば手に入るがこの気持ちは買うことはできない。あの場所でしか味わうことができないのだ。

あそこに行かなければこの気持ちは味わうことが出来ない。これこそまさに劇場のハリウッド映画であり、劇場のエルフなのである。

ますますあの劇場のエルフだという確信が強まっていくと同時に、何とかしてメリーのデータを分析しなければという思いが強まっていく。


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