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魔術学校入学

人間と魔族がお互いに協力して彼女への対応を心掛けないといけない。

強調したが、気を付けるべきなのは事実なのだ。それにそれは人間同士、魔族同士でも同様で、嘘は時に善であり、悪である。われわれ人間はそのことについて知っておかなくてはならないのだ。

彼女は特異魔法スーパーアクセルを用い、魔術学校まで3分ほどでたどり着いた。

メリーがそこに足を踏み入れた時、まるでその学校が祝福してくれたかのように、庭に咲いた花が一斉に満開した。

まるで満開の笑み、花バージョンといったような感じだ。

特に、魔術学校は歓迎の意志を持っていたわけではないのだが、花が祝福してくれたのだ。

神サイドでも一応確認はとってみたのだが、全く見当がつかない。なぜこのような現象が起こるのか神でさえもわからなかったのだ。

もちろん神全員をあたったわけではない。神全員に聞き取りをしてみると誰かわかるのかもしれないが、それは現実的ではないということでなしとされた。

とにかく彼女は世界に祝福されていることは間違いないのだ。問題なのはそこからどう転ぶのかだが。

「おはようございます、本学に入学できたことを誇りに思ってください」

「そしてその誇りを胸により豊かな生活を送っていきましょう」

学長らしき外見の人間が新入生の前に立ち、中身の若干濃い長い話をする。

「ありがとうございます。魔術師レモンさんからの祝辞でした」

学長ではなかった。魔術師は魔術学校の講師につく場合が多く、ほとんどが魔術学校の卒業生である。

「えっと、次は魔導士サイダーさんからの祝辞を述べていただきます」

先程の人の髪色は黄色だった、今度は水色みのかかった虹色である。

「おはようございます、サイダーです。本学入学おめでとうございます。本学での授業は決して生易しいものではありません。君たちをより高みへとご案内させていただきます」

「君たちの本学での活躍、心よりお待ちしております」

「魔導士サイダーさん。ありがとうございました」

「では、こちらで祝辞は終了させていただきます」

新入生の中にはこの式に疑問を呈すものも現れていた。

「随分堅苦しい入学式だな」

「し、聞こえたらどうする」

「大丈夫さ、聞こえていないでしょ」

「おいそこ、私語を慎みなさい!」

「ひいっ」

決して周りに聞こえない声で言葉を交わしていた彼らも、肝心な点を見落とした。仕草も考慮に入れるべきだったのだ。

バレてしまわないような立ち回りも重要であるという事実が彼らの教訓になった瞬間でもあった。

「では、最後に首席のメリーさんから挨拶があるそうです。どうぞ」

「ん?」

唐突過ぎるフリに恐怖すら感じたメリーだが、冷静に状況を確認し対処しようと心掛けた。

(聞いていないんだけどー!!)

「どうしましたか?」

「いないのですか?」

しかし対処法を知らない彼女にはどうすることもできなかった。

「ガヤガヤガヤガヤ」

「ドヤドヤドヤドヤ」

考えることはできる。しかし考えることしかできないのであった。

(いやーどうしよー。推薦状とかじゃなかったの!?......)

(名乗り出なければ入学取り消しとかないかな、これ!......)

ピンチはチャンスでもある。ここでメリーは発起すべきである。

「でも、このままじゃ私の評判が......」

「んー、しょうがない!」

「はい、私ここにいますよー!」

メリーは天然である。家族らから指摘されていて当人は知っていた。しかし見ないようにしていたのだった。

(やっちゃったー!!)

(どうしよう、どうしよう)

メリーはこのままではらちがあかないと考え、とりあえず自己紹介してみた。

「えー、私です」

大きな体育館には数秒間の沈黙ムードが漂いメリーは精神的大打撃を受け、よろめいてしまった。

「シーン」

(やっちゃったー!!)

(マジこんなの初めてなんだけど!!)

「メリーです。この学園に来ていい生活を送るよう頑張ります」

だが何とか体制を立て直し、最後まで締めくくることが出来たのだった。

(これでいいの?)

(私やったよね?)

(ねえ誰か答えてよー!!)

「はい、ありがとうございます。これで入学式を終わります」

メリーは精一杯ため息をついた。

幾時がたち、3名の大人がメリーに近づいて話しかけてきた。

「トコトコトコ」

「素晴らしい!!」

大人の中でも大きく時が進んだ人であった。

「あの、どなたですか?」

「こちら学長です。私は総長です」

「あ、こちら魔術の特任教授、イーレットです」

小柄な容姿だが、確固たる意志を秘めていたことをメリーは見破っていた。

やがて学長がメリーをほめちぎることに完全に移行した。空気が変わったのだ。学長が褒めちぎった。

「あなたの立ち振る舞い、素晴らしい!」

総長が学長の褒めに賛同した。

「ですよね、学長!」

「イーレットさんもどう思いますか?」

「魔術の才能は間違いなくあるでしょう!」

「間違いなく、何百年に一人の逸材です!」

(もしかして私、励まされてる?)

学長は宝石の中から宝石を探し出したときのような顔をして、メリーにメリー自身のすごさについて真剣に語りだした。

「あなたの実技試験、目を見張るものがありましたよ。はあ、驚きました。我々としても、ここまでの礼、見たことありません。あれほど正確な角度でお辞儀するとは、才能のある人の典型です!」

「本当ですか、イーレットさん!」

「うむ、間違いありません」

イーレットは言うまでもない事実に無言で頷いた。

(私、そんなに目立ちたくないんだけどなー)

「学長としても、メリーさんを歓迎します」

(ほんとだったらうれしいけど)

魔術学校は人間、エルフで構成されている。エルフは元来正直者で、人間に度々接触を図ったが、交わる機会が少なかった。

各々はエルフの存在を認めているものの、総合では人間はエルフのことを心からは認めていないという結論に帰着した。

正直者のエルフと人間では分かり合うことは難しいということだ。物事はそう簡単にはいかないようになっている。

しかし、学校に現れた一人のエルフ、メリーはおなじエルフなのだが、頭一つ抜けていた。学校の誰もが彼女の存在を観測すれば、瞬時に心を展開した。

エルフの誰もが夢見た、人間との共存。メリーは何事もなくそれを達成していたのだ。

誰であれエルフは特殊なものではない限り、人間との共存を望んでいる。そのためにエルフ族一丸となり趣向を凝らしているのだが、なかなかうまくはいかない。

そこに現れた天才エルフ、劇場のエルフの異名を持つメリーは人間を虜にし、共存関係を築けそうにあった。それだけで異常なのだが、彼女は魔術学校からも必要とされた。

魔術学校という場においてエルフ族と人間族のある種の共存関係が展開されつつあった。

もちろん、メリーはそのことについては何も知らない。皆が当たり前に知っている事実を彼女が知っていないということは何も不思議ではない。

非常識な彼女だからこそ、才能の使い方に気を張らなければならない。当然人間もそのことについては十分承知であるのだろう。

そこにもまた、エルフ族と人間族との共感を呼んでいるというのだ。なんと脅威なことであるのか。

昔からエルフが望んできては、望みが消えていった人間との共存をこうもたやすく成し遂げそうにする彼女。これこそまさに劇場のエルフである。

彼女はまさにハリウッド映画のように不可能なことを実現させているのだ。

目に見えるところ以外でも影響を与えるシンパシーを持っており、受ける側も同様のシンパシーを持っている。人間と同様のシンパシーを与えることのできるエルフは稀である。

劇場のエルフとはこのような面でも垣間見ることが出来る。外面だけでなく、内面もまさに劇場である。

彼女はエルフ族の期待の星なのだ。しかし、彼女は世間の評価を好いているわけではない。

流石に皆から期待されていやがる人間は少ないが、量と質が問題なのである。

彼女の名は世界中に知られているので、各々から少々の期待をとっても集めれば莫大な量になる。

その期待が彼女一人に集中するとしたら、恐ろしいことであることは言うまでもない。

しかし、悪い面だけではない。世界中から期待されるので少なからず期待のエネルギーが変換されることになる。

変換されたエネルギーがなんらかのエネルギーとして、彼女に伝達される。

期待されるから強くなる。強くなるから期待される。本人らは決して望んでいないのに自然的にこんなサイクルが生成される。

しかしメリーの望んでいることはスローライフである。彼女は豊かな自然の中、ゆったりとした生活をしていきたいのである。

彼女は周りの反応で自らの才能は自覚しているのだが、認めるわけにはいかない理由がある。理由としてはまさに彼女のモットーはスローライフだからである。

人生の先輩から話を聞けば、才能のある人はロクな人生を送っていないらしい。誰でもゆったりとした生活を望むのは言うまでもないだろう。

しかし周りから漏れ出す天才との声。これが彼女を少しずつ、真綿で首を絞めるようにゆっくりとじわじわと締め付けていく。もちろん当の本人は自覚していない。

なので、彼女は才能を自覚しているが、認めようとはしない。それは自分の存在を否定することになるからだ。

自分のアイデンティティーを保持するためには、認めようとしない努力も必要なのである。特に彼女は。

しかし彼女も活躍したいと思う気がさらさらないという訳ではない。できれば誰かの助けになりたいと心から思っている。

であるが彼女もエルフ族の望みを全く知らないわけではない。なんとなくそういうものが自分に向けられていることはわかっていはいた。認めようとはしないものの。

メリーは魔術学校に直列に繋がれている寮に部屋を借りているので、入学式を終えると部屋のベッドに真っ先に向かった。

「なにか思っていたのと違うな―」

魔術学校での予想だにしない人々の対応に驚かされたメリー。

「もっとわーっとした盛り上がりのある式だと思っていたんだけどなー」

「こんなんで大丈夫なんかな私」

想像とは180度違う結果であっても彼女は楽しむことをあきらめない。なぜなら彼女の夢はスローライフなのだから。

「プルルルル……」

寮でゴロゴロしているところ、メリーの部屋に一件の電話がかかってきた。

「電話だ」

そういってメリーは受話器を取り、耳をかざした。

「はい!」

「1学年3組の代表のセレンだ。この寮は10階建ての構造で1階と2階は学生の部屋になっていて3階に食堂、4階に図書室、5階に魔術訓練所、6階には大衆浴場が完備されている」

「7階から9階も学生の部屋で10階、最後にはお待ちかねのトレーニングルームが完備されているぞ。ちなみに俺はここに3時間入っているけどめちゃくちゃ気持ちいいぜ」

自分に酔った人に図々しさを感じてしまったメリー。

「はいはい」

そう返答した。

「お、なんか機嫌悪いのか?」

「いやいいですよ」

「そりゃよかった。それで明日の授業時間なんだが、10時に始業開始だから」

「そうですか、わかりました」

「でも気を抜いているとライバルに置いて行かれるぞ。図書館にはとても有益な情報の書いてある書籍に溢れているらしいんだ」

「それに月に一度、試験で学年全員の序列を決めるらしいんだ。そこで上位を取ると、天才魔術師、イーレットが週に一時間だけ家庭教師についてくれるらしいんだ」

「イーレットっつったら滅びかけの都市を何度も救ったという最強の魔術師だ。そんな人が教えてくれるだけで一大イベントなのだがもっとすごいのがある」

「なに?」

メリーは純粋に興味があり、聞いてみた。

「これぞ、魔術師試験免除の切符さ。通常、学校を卒業すると魔術師試験を受けて魔術師として働くことが出来るのだが、魔術師試験は超難関で倍率は100倍なんだ」

「魔術師志望が弱いという訳でもなく、むしろ魔術師志望は一般人の比べ物にならない実力を持っている中での倍率100倍だから恐ろしいだよ」

「でもそこまでして魔術師試験に通るメリットはあるの?」

「それは魔術師というのはとても価値のある職業だからだよ。魔術師は国から助成金が出て普通に働くだけでも飢えることはない。しかも皆から尊敬されているから恨まれることもなくむしろ気持ちいいからな」

「そんな職業なりたいに決まっているじゃん。この学校に入ったのも、魔術師志望になったのもすべて魔術師という切符を手に入れるためさ」

「へえ、いいこと知ったありがとうね」

「どうも」

「具体的に上位何パーセントが魔術師試験免除なの?」

「この制度は最近できたもので、才覚のある魔術師をたくさん生み出そうという企画の一つなんだ。だから明確な基準はないんだけど、基本的には上位10名~15名までかな」

「へえ、結構難しいのね」

「でも俺はやるぜ。必ず上位10名までの枠に入ってやる」

「頑張ってね。私も頑張るね」

「おう、お互いに頑張ろうぜ」

彼らは固い誓いを立てた。二人とも内心嬉しそうだった。

「じゃあな」

セレンの誠実な態度に惹かれたメリーだった。

「うん」

「プープープープー」

「ガチャ」

電話を切り、再び彼女はベッドに横になった。

「だいぶ厳格な学校だと思ってたけどそんな制度があるのね。ワクワクしてきたー!」

ベッドで寝転がりながら彼女は飛び上がった。2メートルくらい飛び上がってしまったが、案外頑丈な素材でできているベッドだから壊れなかった。

「やってやるぞー!」


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