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学長スラッシュロー

「あの爺さん何か偉そうだな」

「だな。俺はこういう大人嫌いだな」

学生らは学長のいい加減な態度を嫌っている。曖昧さは不安材料であり、不確定要素でもあるからだ。

「実力を示すことこそが試合ではないのか?」

「せっかく威力以外にも洗練さとか美しさとか項目用意していたのにな」

これまでの実力主義からの急転換に学生らの中には信じられない者もいた。

「許せねえな。学長だからって許されると思っているのか?」

「これまで実力で決めてきたのに急に路線変更か?」

経験の浅い学生は恐怖心を受け取りやすい。故に世間体に流されることも多い。

「なんか今更感あるよな。早く言ってほしかったよな」

「またあのあほ学長がほらふきやがった。これで何度目か?」

「ポイントで決めるのが面白いんでしょ。そんなつまらないことやっても意味ないでしょ」

数値化による実力測定は学生らに広く受け入れられている。学長の時代に先駆ける主張が受け入れられることはなかった。

「そうだそうだ!」

「やっぱ学長いつも通り叩かれているな」

学生の中には変化に敏感な者や異論を唱えない者もいる。

「いつも急にルール変更してくるからな。怒る人もいるでしょ」

その一方、曲がったことを嫌う者もいる。

もちろん、それは大人でも同様だが、学生は社会的経験が浅く、恐怖心が他の年代よりも大きく受け取りやすい。

また、自尊心が確立していない場合も多い。これは十分なアドバンテージである。

「いいところもあるんだけどな。普通の人には思いつかないことだよ」

変化に対応することのできる人間はある意味貴重である。年齢が若ければ若いほどそれは顕著になる。

「発言力の大きなヤツが怒鳴ってるだけだろ、ほっとけ」

「いつものことだから」

学長は学生らから不審的に思われている。しかし何も彼のことを認めていないわけではない。

彼らは根拠が欲しいのである。なぜこうなのか。どうしてこういうことをすべきなのか。年齢の若い者はある意味繊細で小さなことでも大きな影響を与えられてしまう。

「いい加減うんざりするよな。決めてるなら早く言ってほしいな」

「いいですか皆さん。学長権限でこれは決定とします」

学長の態度に学生らは猛抗議をした。

「ふざけるな!」

「いつもいつもな。いい加減にしろ!」

「おいおいおいおい」

「早く言ってくれよそういう大事なことは!」

ひたすら学長を責めるマキュール魔術学校の学生ら。

「仕方ないんじゃない。そういう人なんだから」

大人は子供にどうのようなことをしてほしいのだろうか。

「では始めましょうか、皆さん」

「じゃあ司会あとよろしく」

学長は審査員席にお邪魔をした。

「改めまして、まず各学校代表者を5名選出してください」

司会が試合を再開した。

「待て」

「学長!」

すると学長はもう一度要求をしてきた。

「代表者を選ぶ場合も多数決じゃないか。それでは駄目だ。イーレット先生!」

「はい!」

「各学校の代表者にふさわしい人物をあなたが選出してください」

「かしこまりました」

イーレットは学長からの要請に応えた。

「エリュドルクス魔術学校からは、君と君と」

「ニコラノラルクス魔法学校からは、君と君と」

「エリュウィーン魔術学校からは、君と君と」

「マキュール魔術学校からは」

「にやっ」

「あなたとあなたと君と君と君」

イーレットは誰かを指名した。その時の顔は少し残念そうな顔をしていた。

学長は気まぐれだ。魔術師は引退済みであるが現役時、一級魔術師のトップを張っていた実力の持ち主である。

時に大きな決断であっても彼はすぐ決断し実行する。即決即行動が彼の特徴の一つである。しかしそれ故に学生らやその保護者、世間から嫌われている。

仮にもカルバーテルの代表マキュール魔術学校のトップなのだから、敬意と誠実さをもって行動してほしいと国民や学生から思われている。

しかし学長スラッシュローも考えがある。彼も魔術師を育てたいとの一心で決断している。事を急ぎ過ぎるあまり、皆には不信感を持たれているようだ。

スラッシュローは皆に誠実に対応しようと心掛けているのだが、胸の高鳴りを抑え込むことが出来ず急に突拍子もないことも起こすことは日常茶飯事レベルである。

それでも彼はマキュール魔術学校を頂点に君臨させてきた実績はある。彼の先見の明は桁外れの高みにある。

ルールをころころ変えながらも、確実にマキュール魔術学校を世界レベルにまで押し上げてきた。

しかし彼は学長として、先生として、そして大人として尊敬されている面もあるが、全体の総意は否定的といった感じだ。

彼にとっては時代に合わせてルールを改変しているだけなのだが、世間は理解のできないものを拒否する。

魔族侵攻による社会不安が国民をより保守的にした。彼の功績は理解できないものだからと隅に追いやられたのである。

だが確実にマキュール魔術学校は変化している。スラッシュローの力量により、保守的な学生や世間を押しのけてしまったのである。

それもありスラッシュローファンクラブというものがつい最近新設された。彼は一部の者に深く刺さったのである。

ものすごいファンが彼の元に集まり、様々な議論を交わす。お互いに心が通じているからか、深い議論を展開できている。

スラッシュローは特に女性から人気で少女でさえ彼を本当に尊敬している者もいる。

ファンクラブの活躍により、スラッシュローの影響範囲は格段に大きくなった。ボランティアの活躍により、スラッシュローは世間での注目の的になっている。

男性のファンももちろんいる。おじさんが大半で中には若年も紛れている。

ファンクラブの台頭で彼の名が広まった代わりにアンチというものも当然ついた。

理由は彼のいい加減な態度が気に入らないとのことが大半だった。中にはファンクラブをつくるなんて舐めている、偉そうとの意見も混じっていた。

その意見を見て彼は心を入れ替えようと思ったみたいだが、自分には無理だと判断してやめた。

ファンクラブを全く違う組織にしようと志した時期でも、明日にはファンクラブ継続という命令を部下に出した。

部下は新組織の立ち上げに尽力していたこともあり、不満が止まらずファンクラブを去ってしまったことも多かった。

他にもスラッシュローは自身が主催するサロンも定期的に開催しており、毎週数百人が参加する。そのサロンは魔術師が3割ほどを占めている。

その他にはマキュール魔術学校を中心の魔術師育成の企画に多数参加している。その企画には魔術師イーレットも参加しているときもある。

魔術師育成のスローガンは、”才能を一ミリも漏らさない”である。かっこ悪いタイトルだが、スラッシュローはセンスがない。

とってつけたようなタイトル設定だが、魔術師イーレットは企画に次々と参加し次々と魔術師候補を呼び出しては何かをしている。

呼び出された候補者は皆不思議そうな顔をしながら彼女について行った。見方によれば誘拐ともとれるように見えるが、一応両親から許可を取っている。

魔術師イーレットという看板を使えば、誰でも合法的に誘拐まがいのことが出来るのである。もっともこの看板を得て誘拐を考えるのが究極にコストパフォーマンスに優れていないのだが。

もちろん誘拐された候補者たちは望んでイーレットについて行ったものしかいない。彼女は人の考えていることを大体読むことが出来る。

しかし例外もある。例えばメリー。彼女は規格外なので彼女の考えていることを読むと頭がおかしくなってしまう恐れがあるからだ。

前にメリーの授業中に彼女のノートを見ているふりをしてみようとしたのだが、イーレットの脳が拒否してしまった。

ヨムにおいてもその例外だ。彼の頭は幾重ものバリアが張られていて、イーレットはそのバリアを突破することは敵わないだろう。

たとえ突破できたとしても徒労に終わるのがヨムなのだ。常識が通用しない人こそが魔術師として大成しうる。

非常識な人間は非常識である必要があるから非常識なのだ。人は不必要なことは自ら好んで行わないのである。

既定の概念に囚われない者こそが魔術師として大成する事ができる。

魔術師イーレットは自身を参考に魔術師として大成できる人材を数多の村や町から探してきた。ヨムには偶然出会ったわけではなく、イーレットの候補探しの一環だったのだ。

彼女との出会いが彼を人生をどのような形に導くのか。魔術師として、イーレットとして、彼女は候補生を一流魔術師に成長させてやると企んでいる。

未だにヨムからの本当の願いを聞いていないイーレットはこのままでいいのだろうか。きっと心残りはあるだろう。

「ネヨさん、よろしくお願いします」

イーレットはメリーではなくネヨに振った。

「わたし?」

「ネヨ・トルネーヨさん、代表者に選ばれました」

「私でいいの?」

ネヨがイーレットに聞く。

「ネヨさんがいつもやってるやつでいいから」

「わかった」

ネヨは自分のすべきことを理解した。メリーのためにやってみようとした。

「お主、なかなかやるやつだろ。楽しみだ。君も楽しんで来い」

スラッシュローがネヨに激励した。ネヨは少しうれしそうな態度をとった。

「うん」

「じゃあ始めよ」

ネヨは普段通りの常時技の構えをした。

「ドリームサンダー!」

「ピシャッ」

「ドオオオオオオン!」

会場にはものすごい音が鳴り響き、皆困惑していた。

「もう一度いく」

2度目の常時技の準備はほんの数秒だった。

「ピシャッ」

「ドドドオオオン!」

「すばらしい!」

ネヨの技を見てスラッシュローは褒めた。

「あなたの技はすばらしい。見栄えもよく、しなやかなキレがある」

「100点!」

「おおっと100点一発目から出たー。ネヨ・トルネーヨさんありがとうございました」

100点とは100点満点中の100点である。つまりこれ以上はない。この審査に当然学生らからの異論は絶えなかった。

「確かに威力はあったようだが、100点か?」

「視野が狭いよな」

とある学生のグループに話しかけた者がいた。

「威力は抜群だろ。お前あの攻撃を喰らってたら確実に病院送りだ」

「何様だてめえ!」

「ヨム・マリロリ。よく覚えておけ」

ヨムであった。正式名称はヨム・マリロリである。

「なんだこのガキ」

「ヨム・マリロリ。何回言わせるんですか?」

「ちっ」

「行こうぜ」


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