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悲しみに暮れる少年

ヨムは社会的好幼児であると同時に人当たりが悪い側面もある。特にイーレットのような非常識な者には厳しい。

彼は実力で評価をねじ伏せるものが嫌いだ。何か違うような気がしている。誰にでも機会は与えられるべきだと思っている。

正直ヨムを選ぶよりも自分より人間的に優れている者を選んでほしかったのだろう。彼は非常に後悔をしている。

ヨムが選ばれることで選ばれなかったものもいる。ヨムは自分のせいで他人が傷つくのが大の嫌いだ。

必ず他人のために頑張るのが彼の役割だ。ヨムは自分を犠牲にし他人のためだけに己を殺し続けているのである。

自分自身に残酷な子供がこの世界のどこにいるのだろうか。自分さえ大切にすることが出来ずに他人を本当に親切に出来るのか。

もし誰も彼に親切にしなければ彼にはどのような結末が待っているのだろうか。

広大な蒼い蒼い草原に佇み近くの街中を上から申し訳なさそうに彼は見降ろしている。

悲しみに暮れるのは最後にしたいと彼は嘆く。この美しい景色は一体誰の犠牲があって成り立っているのかと。

自分自身を大切にすることが出来ない愚か者であると彼は考えたくはない。犠牲はゴメンだと運命に抗う。

邪悪な存在を感知することの多い彼が魔族の存在を感知した時、内心彼は喜んでいた。やっと生き地獄から抜け出すことが出来ると。

ヨムは魔族に取りつかれることを望んでいると同時に、幼い彼に取りついた宿命からはい出そうとする意志があった。

生まれた時から意識はあった。その時からの記憶も鮮明に現在まで引き継がれている。

こんな小さな子になんて宿命を負わせてくれたのか、神様。両親の気持ちはヨムには届いていない。

「僕は認めない。イーレットが僕で何かを企んでいるのだ」

「つまらない」

「イーレットはつまらない!」

ひたすらにイーレットの悪口を言っていくヨム。

「ふっ」

「僕だって嬉しいんだよー。イーレットー。返事してくれよー」

ヨムはイーレットに対して何かしらの期待もあるのである。

「うーん。イーレットー!」

「はーい!」

何やらイーレットらしき声が窓の向こう側から聞こえてきた。

「え?」

そしてドアを開けるとヨムの目の前までやってきた人物がいた。

「呼んだ?」

「イーレットさんどうして?」

もちろんその人物はイーレットであった。

「ああ、一度会った子の声や感情と私の耳は密接にリンクするんだ。がっちりね」

「なにか寂しそうな雰囲気出してたね。大丈夫か?」

ヨムを心配するイーレット。

「僕は平気ですよ」

ヨムは自分の弱いところをイーレットには知られたくない。当然知られないように計らう。

「また強がっちゃうのね」

「え?」

ヨムはイーレットに自分の嘘がバレていないと思っていた。

「僕はいつも通りの僕でそれ以上でも以下でもない僕です」

だがヨムはそんなのお構いなしだとイーレットに悟られないようにする。イーレットはそれを見破る。

「そんなのはわかっているから」

ここまで来るとイーレットはむしろ脅威である。悪い噂が立っているというのも間違いではないのかもしれない。

「イーレットさんは僕の存在を否定しているのですか?」

すかさずヨムが一手を繰り出す。

「何でそんな質問をするの?」

「僕の質問にちゃんと答えてください」

もう一手を繰り出すと、ヨムは勝利への道筋が見えた。

「もちろん肯定しているよ。だって仲間になったんだから」

「じゃあ仲間になる前は僕のことを否定していたってことですよね」

ヨムの勝利が現実的になった。

「あーやっぱりかー」

ヨムは押しに押しまくる。

「違う違う。一言も言っていないけど」

イーレットは否定するがヨムの大手が迫った。

「わかってますよ。本人の前では言えないからですよね」

ヨムの勝利が確定した。イーレットを押し負かすことができたのだ。

「なんて疑心暗鬼で人間不信な子なんだろう」

「僕はあなたが来てほんとはうれしかったんですよ。でも裏切られる気がしてならないんです」

ヨムはイーレットに少し話してみようとした。

「もし一度仲良くなったとしても、裏切られたら人を信じる意味なんてないですよね」

「そんなことはないよ、ヨム君。ねえ聞いて、あなたは他の人にはないものすごい才能を持っているの」

イーレットはヨムの才能に気づいている。

「今才能の話はしていないですよ。僕の存在意義の話ですよ。そらさないでください」

「私だって魔術師イーレットとして全国各地で裏切られてきたわ。でも助けられた部分の方が大きかった。そういうところもあるのよ」

疑心暗鬼なヨムに寄り添うイーレット。彼女にはこのような側面も持ち合わせている。

「でもそれは一部ですよね」

ヨムは自分を肯定することが苦手だ。しかしイーレットはヨムを肯定しようとする。

「いや、助けられたことの方が騙されたことよりも断然多かったよ」

イーレットの思わぬ返しに驚愕するヨム。

「まさかー」

「そのまさかだ」

「ふっ」

ヨムはこのような結末は予想していなかった。自分と同じような境遇を持った人物と出会うことを想定していなかった。

「ヨム君の笑う癖面白いね」

「今人をからかう時間じゃないです」

ヨムはイーレットを内心疑っている。

「そんなこと言わずに、ねえヨム君。絶対に私は裏切らない。どんな結末が待っていたとしても裏切らないことを誓うよ」

イーレットがチャンスを掴み、ヨムを押す。

「いきなりそういわれても返答に困るのですが」

ヨムが戸惑っているのを嗅ぎつけたイーレットはヨムを強烈に押しまくった。

「ちょっと感極まってつい熱烈な話をしてしまった」

「中身の薄い話が永遠に繰り返されていた気がするんですけど」

しかしヨムは折れなかった。彼は折れないのだ。

「ヨム君。空一緒に飛んでみない?」

イーレットが話題を変えた。

「少し困りました。僕、一度も空を飛んだことがないのです」

「私の魔法で飛ばせてあげる」

「少し困りましたねえ」

「どうして?」

「途中で僕を落とすんじゃないんですか。そして気絶したところを変なところに連れて行って」

「どうやらまだ信用されていないみたいね。いいわ、後でたっぷりと信用させてあげる」

「僕は信用させられないように頑張ります」

「もうそんな強がらなくてもいいの。じゃあいくよ」

イーレットはヨムにちょっとした仕掛けをした。時間がたたずに二人は浮かび始めた。

「フワッ」

「浮かびましたね」

「まだまだ序の口よ。これからなんだから」

「フワワッ」

さらに上空まで上がり二人は家々が豆のような大きさになるまでに上昇した。

「ヒュー」

「案外気持ちいいものですね。少し見直しました」

「でしょ」

「ビュービュー」

イーレットはヨムを驚かせようとスピードを上げた。

「なかなかですね」

「ちょっと早すぎないですか?」

ヨムは彼女の計らいに気づいた。明らかに初めより早くなっていた。

「ちょっと目が覚めてきたでしょ。私を見くびらせないように驚かせてあげるから覚悟しときなさいよ」

「うおおっ」

「わーーーー!!」

「早すぎますよ。おーい!」

「これで満足した?」

「まだまだですね。序の口とはこのことですか?」

「序の序の口なのではないのですか?」

「やるわね」

彼女はさらにスピードを上げ、二人はジェット機並みのスピードにまで到達した。

「ビュービュー」

「もしかしてまたスピード上げました?」

「あげていないよ。これでもまだ序の口と言ったよね」

「そうですか。僕には何ら関係のないことなのですが」

ヨムの変わらない態度にイーレットは焦りを感じている。自分がこれまでやってきて全く影響を与えられていないのだ。

「ブチッ」

「ちょっと私少しだって怒っているわよ」

「へーそうですか」

「おりゃりゃりゃー」

「うおおおおおおおおおお!」

ヨムは本気で驚いていた。

「びっくりさせないでくださいよ!

「驚いたね?」

「まあ少しだけ」

「おりゃりゃりゃー」

「うおおおおおおおおおお!」

「がああああああああああ!」

「ああっ!」

「どう?」

「私の魔法の味は?」

「少しだけアクセントがきいていますかね。ちょっと調味料を加え直す方がいいとも考えます」

「はいはい」

幾ら驚かせても所詮驚かしたという事実をつくることが出来るだけで、影響を与えたコトとは全く別である。ヨムは影響を一切受け流していた。

「でも楽しめてよかった。ヨム君はいつもつまらなそうにしているから」

「僕を心配してくれているのですか?」

「当たり前じゃん。この年でこんなにつらそうにしている子は珍しいよ」

「まあ僕は他の人とは違うと思っているんですが」

「少し仲良くなれたかな?」

「まあ少しは」

「でしょ。10日後、また会いましょう。今度は涙をぬぐってきてからにしてくださいね?」

「?」

「まあいいか。家に戻ろう」


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