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世代を超えたプロジェクト

「メリー」

メリーの住む寮の部屋の前でネヨは立っている。

「ネヨちゃんどうしたの?」

メリーはドアを開けネヨを案内した。

「ととげに来た」

「食パン焼いてきた」

ネヨは食パンの入ったバスケットを必死にメリーに見えるように見せた。

「ドンッ」

随分大きかったからかバスケットが机の上に置かれた時大きな音が室内に響き渡っていた。

「これが私特製のゴブリンジャム食パン」

(ネヨちゃんっていつも何食べてるんだろう?)

気になるメリーを早速催促するネヨ。

「召し上がって」

彼女の催促に負け、メリーはゴブリンジャム食パンなるものを口に入れた。

「じゃあいただきます」

「パクッ」

ネヨはメリーの口に入った食パンに羨みの念を感じていた。

(美味しい)

メリーはオークの佃煮同様美味で驚いた。

「どう?」

「もちろん美味しいよ」

もちろんメリーは美味しすぎるとは言えないので美味しいとだけ言っておいた。

「当たり前。私の自信作召し上がってくれてよかった」

「ネヨちゃんこのジャムといい、どこで習ってたの?」

これまで不思議なエルフ感を漂わせていたネヨ。

「秘密」

「そう」

「ゴブリンジャムにはいろいろなゴブリンの素材が使われている。ゴブリンからゼラチンを取れる部位がある。そこをきれいにとってから作った」

職人気質に溢れているネヨでもあった。彼女は不思議ながら職人であるネヨである。

「へえ」

「そうそう、甘味料もゴブリンによって全然違くてこのゴブリンとこのゴブリンを組み合わせたら美味しいものが出来上がる」

「......」

「聞いてる?」

ネヨはメリーが無視したので怒ってしまった。

「うん聞いてるよ」

「ほんと?」

「うん」

ネヨはメリーが無視していなかったのを知りとても喜んだ。

「料理は探偵団で毎週開催するから必ずきて。来なかったら向かいに行く」

「料理は探偵団の生命」

そういうことなのである。決してネヨが料理が好きだからだけではないのである。

「探偵団も大変ね」

「そう。でもこれが探偵団の極意でもある」

「難しい発言ね」

「そうともいう」

ネヨはやがて奇妙な笑い声をあげた。

「ふふふっ」

笑い声は姿かたちを変え、メリーに襲いかかる。

「へへへ」

「じゃあ明後日の17時に私の家に来て」

これまでの笑い声はどこへいったのかというようにネヨはいつものネヨに戻った。

「わかりました」

メリーは承諾した。

「じゃあ行く」

「はーい。また呼ぶよ」

ネヨは送り迎えをする。

(うっまー!!)

メリーはネヨに悟られないような普通の態度を取っていたのだがあのゴブリンジャム食パンはこれまでのなによりも美味しかったのだ。

オークの佃煮はまあ美味しいというくらいだったのだが、ゴブリンジャム食パンに関しては天下のパンといってもよいくらいの出来だった。

メリーはゴブリンに興味を持った。彼女のパンが美味しすぎたためだ。

「ゴブリンさんには悪いな。私の願望でこんなことをしてしまって」

「ごめんね」

「ドリームサンダッ」

すると人影がゴブリンとメリーとの間に現れる。

「殺生ダメ!」

「ネヨちゃんどうしたの?」

その人影の正体はまさにネヨであった。

「メリーは殺生をしてはいけない」

「殺生は生き物の命なくすこと。命をなくしてはいけない」

「ネヨちゃんがゴブリンとかオークとか狩ってたでしょ?」

矛盾する言動にメリーは黙っていない。

「私はメリーがすることを危惧する。メリーは危険。探偵団の使命、守ってね」

「私が悪かった。メリーはとにかくしてはいけない」

ネヨはどうやらメリーが殺生なるものをしてはいけないと言っているらしい。

「そこまでいうならわかったわ」

メリーはその要求を承諾した。少し心の中のわだかまりはあれど殺生というものは悪くないわけではないからだ。

「それならいい」

「じゃあ私は行く」

ネヨは探偵団を1年前に創設した。当時は誰にも知られていないし今もほとんどの人に知られていない。

ミズは観察好きで謎に包まれたネヨのことに気になり始めたのはつい先日のこと。校舎の裏庭で水をやっていた時の一部始終だ。

水をやっていたのはネヨ。彼女は毎日校舎に隣接された長い長い花壇に丁寧に水をやっていた。

水をやり始めて数分、全くジョウロから水が減らないのだ。何が起きたのかわからなかったのだが水は収まることを知らないのだろう。

気になったミズはジョウロを覗きこんだが何もわからない。通常の魔法ではないことはわかったのだがそれっきり。

「水ですよー水ですよー、お花よ咲けよ、水ですよー」

ネヨが急に歌い始めた。それも水に聞こえるくらいに大きな声で。幸いネヨとミズ以外は聞いていなかったようだ。

「みっず、みっず」

ミズは感動した。水に対する愛が人一倍のミズはネヨの花への愛情、ついでに水への愛情に心を打たれたのか、ネヨのことが頭から離れなくなってしまった。

ミズは実際には水への愛ではなく、誰にでも本当の意味で平等に扱う彼女の人情に惹かれたのかもしれない。変人であるというのも理由の一つなのだろうが。

魔術学校は全部で4つの学年で構成されている。一番下のビギナーから最上級のベテランまで全学年約3000人が一学で学んでいる。

その中でも一際目立つのが教師の存在で、彼らの実力から大体の学校のレベルを推測できる。

格式の高い学校であればあるほど教師のレベルも高くなる。逆もしかりだ。学術レベルが高くなればなるほど可能性を見込まれ多額の支援金を受け取ることが出来る。

しかし近年の魔術業界の需要の高騰から、既存の概念に囚われない学校も全国でちらほらと出現している

マキュール魔術学校は伝統的にマキュールの地の象徴的役割を果たしてきた。どんな時代もマキュールの地を中心に発展してきたのである。

昔から首都マキュールは学術学園で学術レベルは世界の主要都市に肩を並べるほど大きく国中に名を轟かせた。

伝説の魔術師エルドリアもマキュール魔術学校で誕生した。数々の魔族に侵入を許さない確固たる実力を彼は持っていた。

テラバリルは唯一にして最強の必殺技で上級悪魔も一撃で戦闘不能にまで追い込むことで有名だった。

火を吹けば炎竜、風を吹かせれば大翼竜、魅力的な外見、天性の才、絶翼の羽を持ち世界を駆けるあの伝説の竜と比べても大差ない圧倒的戦力。

山の一つや二つをくぐるのは彼の毎朝の散歩の一部。そんな風に揶揄された時代もあった。

彼の寿命が尽きると同時に現れたのが魔族だった。上級悪魔を筆頭に数多くの悪魔が移住地に進出した。

止まることのない濁流を止められる者は残っていなかった。彼がいるから大丈夫と思い込んでいたのだ。

結果は散々だった。見る影もないさらち。何も残っていなかった。

後悔はエルドリアが一生マキュールに居続けてくれると信じていたこと。誰も彼の病気の隠蔽を疑わなかった。エルドリアは皆を安心させたく自らの病気のことを誰にも話さなかった。

実は重い病気だということを彼は隠ぺいしていた。どうしても彼は皆の笑顔を見ながら現世を去っていきたかったのだ。どうしても言えない真実は誰にでもある。

しかしできることはなかったのか。過去の後悔は先につなげていって初めて価値あるものに変わるのである。

そこで魔術業界に新組織が立ち上がった。プロジェクト名はソイト。ソフィとイトゥースが合同で立ち上げた。

世代を超えてプロジェクトは形を変えて語り継がれていった。現在のプロジェクト名はガイア。才能のある魔術師志望に機会を与えようというプロジェクトを魔術業界ではガイアと呼ばれている。

魔術師イーレット、魔術師ガリオン、魔術師アピールなどが務めており、100以上の学校や企業が参加している巨大プロジェクトだ。

どの人物にも素性があり、例外はある。プロジェクトの目的は例外を除外しないことにある。誰にも機会を与えるというものだ。

魔術師イーレットは誰よりも信念を貫いており、プロジェクトに傾倒している。学校のことはお構いなしにプロジェクトに取り掛かっている。

彼女の執念深さは粘りっこい油汚れのような飴のような、もはや煩わしく感じるほどのものである。

しかし、実力というものも兼ね備えており、彼女の評判は落ちることはなく、有名になっていった。それも彼女の算段だったのかもしれない。

見事支援金を受け取るところまでに成長することが出来た彼女は満足そうにしていたが、実はしていない。

なぜならメリーを引き入れることが出来ていないからである。どんなに支援金を貰おうともメリーがいなければせんべいが1枚増量するようなもの。

イーレットはネヨと同様メリーに心酔している。彼女の行動すべてがまるでちょっとした舞台のわき役になったような気分にさせてくれる。

客観的に自身を観察してみると明らかに何かが違うと感じ取っているのは何もネヨだけではなくイーレットも例外ではなかったのだ。

その時にぱっと浮かんだ言葉はまさに劇場のエルフだ。イーレットもその名を知っていたのだった。

同姓である彼女にまともではない好かれ方をしたメリーが本当に恋をする場所はあるのだろうか。それこそ神のみぞ知るというのだが、我々も実は知らない。

知ろうとすれば上位神に怒られるから知ることが出来ないんじゃ。

それはさておきメリーは完全にイーレットに狙われている。あわよくば戦力として守り神化させようとしている。異常な執念がそう望んだのだ。

メリーの敵は魔族なのかはたまたイーレットなのかたまにわからなくなることがある。

イーレットには弟子がいる。ヨムという少年だ。毎日イーレットに扱かれているおちゃめな少年だ。

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