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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第98話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 古来より黄金とは人を魅了して止まない。


 その魅力的な黄金も、手にする者によっては神にも悪魔にも姿を変える。突然そのような大金を手にした者はその人生を狂わせてしまうであろう。


「250枚……」


 ユウヒは戸惑っていた。


 彼の目の前には、一枚一枚が大きな金貨250枚で作られた山が置いてある。トルソラリス王国で広く流通している金貨は500円玉より一回り大きく分厚い金貨だ。


「こんなの漫画やアニメでしか見ないよ」


 そんな金貨が250枚、日本円に換算したらいくらになるのか、それがユウヒの受け取ったリステラン家からの報酬である。


 日本でもすでに高額納税者の仲間入りをしているユウヒとは言え、金の塊と言う形で渡されたら戸惑いもする。なにせ高額納税者とは言っても、彼はそのお金の1% もまだ使っていないし手にしてもいない。彼が実際に手にして使ったお金など、目の前の金貨数枚分にも劣るだろう。


「お手柔らかにしてこれってどうなの? やっぱ貴族って金持ってるんだなぁ」


<……>


「そうか、貴族の金庫は金貨が山積みなのか……お金ってあるところにはあるんだね」


 当然砂の海で金の価値が低いわけでは無く、単純にユウヒがしでかした事にはそれだけの価値があったと言うだけである。


 しかしこれはかなり手加減された報酬であり、ブレンブは支払う報酬を低くしなければいけない事で胃を痛めたのは初めてだと、日々綴る日記にしっかりと書き込んだとか。


「でもこれでしばらくお金には困らないね」


<!>


 少し前まで旅費にも事欠く状況であったユウヒは、単純にお金が増えた事で旅が楽になると喜んでいるが、金貨250枚と言うのは下級貴族の資産を軽く超える金額である。ユウヒの中での貴族は、精霊から聞いた上級貴族が基準になっている様で、もし実際の価値基準を知れば変な汗を掻くことになるだろう。


「とりあえずバッグとバイクで分けておこうかな、正直重すぎて扱いに困る」


 それでも早速豪遊だ! とならない辺りは薄給ブラック企業勤めだった為か、貰った金貨の大半を、こちらも貰った革袋に詰めると、すぐには使い辛いバイクの収納の奥底に仕舞い込むために立ち上がるのであった。





 それからさらに数日後、時間は無いと邸宅に二泊したリステラン夫妻は、早朝には王都へ向けて出発。当然ユウヒも護衛としてバイクを走らせ、リステラン伯爵領に入るまでとは打って変って穏やかな道程に戸惑っていた。


「あれが王都かな? ここまでの道のりはびっくりほど穏やかだったな」


「それはそうですよ、王領内は常に巡回の騎士が見回りをしてますから、盗賊なんて出ませんし魔物避けの魔道具もあちこちに設置してあります。むしろ何か問題が起きていれば大問題です」


 これまで砂海近くの砂漠や荒野ばかり見ていたユウヒにとって、スタール周辺の少ない緑でも癒しであったが、王領に入ってからはむしろ茶色い地肌が見えるところなどほぼ無く、その緑豊かな光景に不思議そうな表情を浮かべている。


「そうなんだ」


 ユウヒが不思議に思っている事と騎士の話にはずれがあるが、騎士の巡回や魔道具があるからこそ、豊かな緑が維持されているとも言え、ユウヒは感心した様に頷く。


「他にも騎士貴族が区分けして見回ってますからね。彼らも何かあると色々困るので連携して事に当たるんですよ」


「喧嘩とか押し付け合いとか無いんだ」


「あーそれもまぁありますけど、すぐばれるんでそんなことやってたらあっと言う間に役目を下ろされます」


 さらに王領内は、定期巡回の他にも騎士貴族と言う下級貴族により分担して警備が行われており、ユウヒ達を襲ったような盗賊など早々現れることが無く、魔物の被害も非常に少ない。


 護衛の兵士がバイクと馬で並走しながらユウヒと話しているのを咎められないのも、そう言った安全が前提となっており、その安全を守る騎士貴族が真面に機能している理由は、男性兵士が苦笑しながら話す様に、しっかりとした浄化作用が用意されているからのようだ。


「そう言った者達は王家の査察隊によって辺境のオアシス警備なんかに追いやられます。たまに派閥争いで問題も起きますが、それをやった方も後が続かなくなるので珍しいですね」


「王家がしっかりしてるって事か」


「はい、近隣の国の中では力が強い王家だと思いますよ」


 その浄化作用はトルソラリス王国の王家直属の査察によるものの様で、もし問題が見つかればすぐに裁かれ辺境送りになるのが常の様だ。その為、大半の騎士貴族は自らの身を守る為にも日々真面目に業務を遂行するのだ。


 いくら後ろ盾となってくれる貴族が居たところで、トルソラリス王家を相手に楯突ける王国貴族など居ないので意味がない。その事が良い方向に転がったのが今のトルソラリスと言う国の様だ。


「ふぅん……」


 そんな話を聞きながら少しずつ国への理解を深めるユウヒは、少しその評価を上げつつ、万が一ガッチガチの独裁恐怖政治な国だった場合の事を考え、小さく唸るのであった。





 しかしそんなユウヒの考えは杞憂とばかりに王都の雰囲気は明るい。


 王都と言う事もあって人の出入りは多く、安全の為に検問所は当然設置してあり、スムーズな検問が行われても尚、その列は長かった。


 しかしユウヒが護衛する馬車は伯爵家、当然特別扱いであり、事情を説明することで更に特別扱いで街に入れ、貴族街に進む一行をつい先ほど通った検問所の伝令兵が鱗馬に乗って追いこす。


「大通りだけとは言えバイクで街に入って良いのは助かるな……いいのかな?」


 街に入った後も何ら問題なくバイクを走らせたユウヒは、あまりにあっけなく王都のリステラン家別邸まで付いてしまった事に安心しながらも、一抹の不安を覚える。


「ユウヒ様、何か問題ありましたか?」


「いえ、バイクでここまで入ってこられたので良いのかなと……貴族街ってやつですよねここ」


「私たちといっしょでしたからね。あとで印章をお持ちします。印章を見せればリステランの屋敷までであれば遺物での移動も可能です」


 しかしそこはやはり貴族、その権威があれば街中に怪しい遺物を持ち込むこともある程度は許される。また各家で発行している印章と言う物を所持することで、ユウヒが一人で街を移動する時もバイクの利用が可能になるのだが、それも場合によりけりであり、その場合の範疇は貴族の家格で決まるのだ。


 そう言う意味ではリステラン家は微妙な家格であり、イトベティエが屋敷までと言うのはそう言ったところに起因する。


「なるほど」


「お部屋に案内しますのでしばらくお待ちください。それと、今後の準備に少し時間が掛かりますので、その間は当家に泊まって頂きそれ以外は自由にしてもらって構いません」


「わかりました。遠目から見ただけでも大きい城下町でしたし、あちこち見るのが楽しみです」


 重要な報告だからと言って、いきなり現れて話などと言う簡単な話にならないのが政と言うもので、リステラン家から事前に文を出しているのは当然だが、その確認や事前報告に予定の調整、ユウヒの役目が回って来るにはまだまだ時間が必要なようだ。


 しかし自由であるなら問題ないと笑みを浮かべるユウヒの頭の中は、王都と言う異世界の大きな街の散策でいっぱいである。


「ふふ、確かに色々な物が集まって出来た街ですからね。でも危ない場所もあるのでご注意ください」


「はい」


 王都は大きく様々な物が集まる場所であるが、良いものばかりが集まるとは限らず、上から下まで必ず危険なものも集まってくる為、イトベティエはユウヒに注意を促す。注意を促し真っ直ぐな返事を笑みで受け止めるイトベティエ、彼女の心中はユウヒの機嫌を損なうような出来事や人物が現れないことを願うばかりである。


「何かあればすぐに印章を見せていただいて構いませんので」


「わかりました」


 そのためにも先ずは印章を用意する必要があるのだが、これは直ぐに渡せる物でもない。なぜなら、いつ誰が誰に渡したかなど刻印した金属板を組み込み、魔道具による加工などが必要なためであり、その加工は今から行う必要があるからだ。


 別邸を管理している者達との挨拶も早々に印章を用意したり、城への入場許可など忙しいリステラン夫妻は、メイドにユウヒを任せると家中の者に声を掛けて動き始める。


「部屋が豪華で落ち着かないな」


 一方で、今リステラン家の別邸内にて最も暇なユウヒは、豪華な部屋の豪華なベッドの端っこに腰を落ち着け、周囲を見渡した後に高い天井を見上げながら小さく呟き、その呟きに精霊達は楽しそうに笑い声をあげていた。


「二人とも忙しそうだったし、印章貰ったら街に出ようか」


<!>


 ユウヒの提案に反応するのは精霊達だけ、その反応は肯定的でそわそわとした感情が伺える瞬きである。


 精霊はどこにでも存在しどこにでも行ける為、街に住む精霊にとって王都の散策などさして珍しい事ではない。しかし、認識し合える人と共に街を歩く事など早々ありえる事ではなく、認識してくれる魔法使いに寄り添って歩くことはあっても、砂の海において人とまるで友達のように会話を楽しみながら街を散策するなど、精霊にとっては至上の贅沢とも言える。


「んーとりあえず冒険者組合かな? いい加減依頼も受けておきたいし」


<!!>


 それがどこであれ、ユウヒと共に行動することに意味があるのだ。だからこそ、何か重要な用事でもない限り、ユウヒの下には数の差はあれど常に精霊が訪れ、彼の提案に歓声を上げるのは仕方ない。


「案内してくれるのか、ありがとな」


 そんな精霊はユウヒの役に立つべく声を上げ、王都に詳しくないユウヒを冒険者組合に案内するつもりの様である。


「今後の予定は、冒険者組合で仕事を一件、武器を良いのが無いか探して、宝玉の説明をして……」


 精霊の提案に笑みを浮かべるユウヒであるが、その笑みには苦笑も混じり、真っ直ぐには案内してくれないのだろうとい言う勘はきっと当たっている。その考えの基準が善意であれ、人と精霊の優先する物事と言うのはずいぶんと違うのだ。


「どうせ偉い人と会う事になるんだろうな」


<……!>


「いやと言うわけでは無いが、面倒かな? 最悪逃げるからいいけど」


 王都は楽しそうな事で溢れて良そうだが、拒否したい嫌なことは確実にやってくる。


 そんな未来に溜息を一つ洩らすユウヒに、嫌なのかと心配そうに精霊から問われたユウヒは、嫌と言う感情もありつつ、しかし絶対に嫌というわけでは無く、面倒と言った方がより正確で、ユウヒの何とも複雑な感情に当てられる精霊達は不思議そうに瞬く。


「空飛んで逃げるのが一番かな」


 最悪は逃げると言って空を飛ぶという発言に喜ぶのは風の精霊、一方で土色の精霊は落胆する様に光量を落とす。そんな様子に小首を傾げるユウヒは、ドアがノックされる音に顔を上げた。


「ん? どうぞ!」


「ユウヒ殿起きていたか」


「起きてましたよ」


 来訪者はブレンブ。


 返事をしてすぐ開けられた大きな扉から現れる彼の後ろにはメイドが続き、ブレンブを出迎える様に立ち上がって話すユウヒの視線は、彼からその後ろのメイドが持つ豪華なトレーに吸い寄せられる。


「そうか、疲れはないのか?」


「わりとぐっすり眠れていますし、問題ないですね」


「流石は冒険者と言ったところか、私はどうにも気疲れしているよ」


 ブレンブの問いかけに視線を彼に戻したユウヒは、自分の体を確認するように見て問題ないと話す。その返事にブレンブは眉を上げると苦笑を漏らした。


 ここまでの道中、リステラン家と王都の間以外は非常に大変な道のりの連続、それを考えると心身ともに疲れ切っていてもおかしくないのだが、ユウヒは至って元気であり、可もなく不可もなくと言った表情で笑みを浮かべる姿にブレンブは呆れにも似た感情を抱く。


「色々ありましたからね」


「まぁそれもあるがな、そうそうこれが印章だ」


 さらにこれから気疲れしないといけないことが山のように待っていると思えば、ブレンブが何とも言えない困り顔を浮かべるのも致し方ないと言うものだ。


 そんな彼は、自分の後ろに向けられるユウヒに視線に気が付き元々の用事を思い出す。それはトレーの上に置かれたリボン付きの大きなメダルを渡すことである。


「大きなメダル?」


「これを服のどこかに付けておけば常に巡回兵が気を配ってくれる。面倒な場合はバッグにでも入れておけばよい。必要な時に見せれば私へ連絡が入るし、配慮してもらえるだろう」


 金と銀の装飾が美しい木製トレー、その上に布まで敷いて置かれているメダルは、ユウヒが待っていた印章。リステラン伯爵家の紋章に、伯爵家を意味する装飾がデザインされたリボン、手に取ったメダルの裏には魔道具に反応して発光する文字が刻印されたプレートが取り付けられている。


「配慮してもらえないこともあるとか?」


 印章を受け取り右目で見詰めるユウヒは、まるで迷子札の様だという感想を思い浮かべながら、気になる事について問いかけた。


「勘が良いな全く、その印章を見た敵対派閥は良い顔せんだろうな……まぁすぐに別の印章も届くからそれも問題ないだろうが」


「…………」


 ブレンブの説明に感じた違和感は正解であるらしく、どこの世界でも派閥と言うのは面倒なものだとユウヒは肩を竦めると、ベッドの上に置いていたバッグの取り出しやすい場所に印章を仕舞う。どうやら服に付けていた方が面倒なことになると察したようだ。


「すまんな、必要なんだよ」


 それでも印章の利点は大きく、何かまだ隠していそうだとジト目を向けるユウヒに、ブレンブは肩を竦めながら困った様に笑う。


「大丈夫です。最悪は逃げるので」


「それは困るが仕方なしだな……。その時は印章を置いて行ってくれ、意外と高いんだ。登録料とかな」


 疲れを感じるブレンブの笑みに、大丈夫だと言って笑うユウヒの言葉はまったく洒落になっていない。しかしそれでも仕方ないと言って肩を落とすブレンブは、メイドからの視線に気が付くと静かに首を横に振り、その場合は印章をちゃんと置いて行ってほしいと話す。


 この印章、一個作るのに結構な枚数の金貨が必要になるらしく、それは貴族であってもそれなりに痛い出費となり、無くしたともなると普通に作るより金がかかるのだ。


「了解です」


 何となくであるが、無くした時のめんどくささを理解したらしいユウヒは、真面目な表情で頷くと、印章を取り出しやすい場所からもう一つ奥に仕舞い直すのであった。重要書類や身分証、マスターキーなどが無くなった時の大変さは、すでに社会人経験により身を持って体験しているのだ。


 尚、ユウヒはその中心人物ではなく主に被害のとばっちりを受けるポジションである。



 いかがでしたでしょうか?


 なんとなしに扱っている物が、実は無くした時にとんでもない被害額になるってたまによくある話です。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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