表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/150

第96話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 どこかからか女性の楽しそうな笑い声が聞こえてきそうな気がしてユウヒが見上げる空には、ゆっくりと玉のような雲が流れて行き、澄んだ空気で高台からは遠くまで大地を見通せる。


「リステラン領か」


<!>


 高台の街道から見通せる先は全てリステラン伯爵領、まだ日も高く、強い陽射しを避ける場所もない街道をゆっくりバイクで走るユウヒは、呟きの回答を精霊から貰うと視界に広がる広大な平原に目を細めた。


「長閑だね」


<!!>


 広大な草原と東側に小さく見える森、また街を中心に広がる広い畑では、赤みのある麦が長く幅の広い葉を風に揺らしている。その麦畑には何か作業をしているのか、農民の姿をちらほらと見られ、実に長閑であった。


「砂漠とは言うけどこういう場所もあるんだね」


<……>


「北はこんなところが多いの?」


<!!?>


 砂の海や巨人の砂場と言われてはいるが、その大半が砂海だからそう呼ばれているだけであり、場所によっては彼の目の前に広がる様な一面緑の景色も存在する。ユウヒは精霊に北の植生について教えてもらっているようだが、彼の認識の中の北と精霊が話す様な砂の海の北はだいぶ話が違ってくる。


 それは北海道よりもずっと北に住んでいる人が北に住んでいると言って、その話を聞いた関西人が東北地方を思い浮かべるくらいの差だ。


「場所による、それはそうだろうな」


 そのくらい認識のずれがある会話を精霊と交わすユウヒは、北だから草原ばかりというわけでもなく、必ず草原があるわけでもないと精霊に言われた様だ。


 その精霊の説明に理解を示す彼の頭の中にはどんな光景が描かれているのか、周囲を見渡しながらまだ見ぬ北の地を思い浮かべるユウヒの顔を見上げる精霊の瞬き具合から、だいぶズレた考えを持ってしまった様である。


「この先は? 王都はもっと北なんだろ?」


 何の問題もなく同じ言語で意思疎通をとれる人間同士でも勘違いは発生するもの、いくら便利な魔法があるとは言え、存在の仕方からまったく別ものである精霊と人、その間で交わされる意思疎通は中々に難しい様だ。


<!!>

<!>

<……!>


「いろいろだな、寒い山に湿地に森林に枯れた荒野か」


 勘違いが深まる前にと必死に情報を伝える精霊達の姿に小首を傾げるユウヒ、その頭の中に描かれる光景は伝えたい世界に近付いてるのか、少しほっとした様子を見せる精霊達であるが、その輝きはまだ少し不安そうで、風の精霊が一人飛び立つと空高くどこかへ飛んで行くのであった。


「ドワーフ領には直接行けるんだよね?」


<!>


 突然飛び立つ風の精霊を見上げ見送るユウヒ。精霊が突然どこかに消えることは珍しくないので気にした様子のない彼は、視線を前に戻すと周囲の精霊に問いかける。


 ドワーフの国と呼ばれる場所はトルソラリス王国の北部と国境を接する東にある国であり、ユウヒの持つ地図にも一部描かれているが、その内容は不鮮明だ。それは他国と言うのもあるが、王国との間には森林山脈が連なっている為、街道以外は未知の部分が多いからでもある。


「それじゃ王都の用事が終わったらそっちに行って見ようかな、なんだかこっちで色々やりすぎたし、ほとぼりが冷めるまで他を見て回ろう」


 ユウヒの中で次の目的地は完全にドワーフの国となっている様で、王都から国境までは地図を見ても精霊の声を聞いても遠くはないらしく、トルソラリス王国で色々やり過ぎたと言う認識があるらしいユウヒは、他国でほとぼりを覚ますつもりの様だ。


 そんなユウヒの言葉に好意的に瞬く精霊達だが、その瞬きから感じられる信用と言う感情は薄そうである。


「危険物かと思ったけどそうでもなかったような、それでいて手掛かりもあったし」


 ユウヒの目的は危険物の回収、アミールが直接調べられない特級の危険物を探し出して回収するのが彼のメインミッション。その危険物ではないかと睨んだ宝玉は思っていた物と違い、彼でもどうにか出来る過去の遺産と模造品、しかしそこから読み取れた情報を見る限り、もっと危険な遺物が眠っていそうな砂の海。


「宇宙に達した文明の遺産か」


 宇宙を自由に行き来する事が出来る文明の遺産に目を付けたユウヒは、そう言ったものが集まりやすいであろうドワーフの国を次の目的地にしたのだ。それ以外にも理由はありそうで、寧ろ今のメインミッションはまだ見ぬ未知への探求に変わっていそうでもある。


「前回の神様由来の危険物よりまだマシなのかもしれないね」


<?>


 今回の危険物を宇宙時代の遺物だと睨んだユウヒは小さく息を吐いて呟く。前回の危険物探索で見つけた物は古代の遺物もあったが、一番の問題は管理神由来の物であり、その中には管理神の不正の証拠まで満載と言った厄ネタの塊であった。


「前回はとんでもないことになったからね、今回は観光の余裕ぐらいあるだろ」


 その結果ユウヒ達は管理神に狙われる事になったが、今回はそんな事にはならなさそうだと息を吐くと、周囲の長閑な雰囲気で心に余裕が生まれたのか笑みを浮かべ、これからの予定に希望を膨らませるのであった。





 それから数時間後、リステラン伯爵領の街に到着した一行は大いに歓迎され、街一番の宿に宿泊が決まり、ユウヒも冒険者が泊まるには豪華すぎる部屋に通される。若干腰が引けながらも大きなベッドの端っこに腰を下ろし、夕食の時間まで体を休めたユウヒは、夕食の席でリステラン夫妻にお願いがあると話し始めた。


「観光ですか?」


「ええ、王都を見て回りたいなと」


 そのお願いは観光について、王都に到着したらきっとすぐに宝玉の説明などで時間をとられると思ったユウヒは、折角なので王都観光をする時間も欲しいようだ。


 観光など勝手にしたらいいとも思えるが、勝手にし過ぎて何か問題が発生するのも面倒だと考えたユウヒの勘は当たっている。彼は現在リステラン伯爵家の客人であり、国全体を揺るがす騒動に関する情報を持つ重要人物、伯爵家や王家に恨みがある者にとっては弱点の様に見え、同時に特大の地雷。


 あまり好き勝手に動かれても、いろんな意味で困ると言うのが伯爵と言う貴族ブレンブの感情である。


「それは、大丈夫ですが」


「お主には王都の我が家に泊まってもらうからな」


 かと言って彼を拘束など出来るわけもなく、少し困った様に呟きブレンブに目を向けるイトベティエ。妥協点と言うより、決定事項だと言いたそうな困った表情を浮かべるブレンブにユウヒは眉を上げる。


「それは決定事項ですか?」


「当たり前だ。魔法使いを普通の冒険者と同じ扱いにしたなど知れれば家が潰れかねん」


「そう言うもんですか」


 宿にでも泊ればいいのかと、少し王都の宿屋を楽しみにしていたユウヒであるが、それは魔法使いと言う呼び名が邪魔をした。


 宿に泊まっていると連絡にも遅延が発生するだろう、だからこそ事前にその辺りを決めておければとも思っていたユウヒは、少し呆れも見えるブレンブの言葉に思わず呟く。その声に含まれた感情は大変そうだと言うまるで他人事のようなもので、テーブルの上で寛ぐ精霊は彼の顔を見上げると可笑しそうに笑いだす。


「特に貴族や王家にとっては、ですね」


 他人事のような呟きに苦笑を漏らすイトベティエが言うように、魔法使いは王家や貴族にとって特別な意味を持つ。それ故にその真偽をはっきりさせたいと思う者は多く、ブレンブの様な疑いを持つ者も少なくはない。


 一方で平民層にとっては、少し現実的な物語の登場人物みたいな感覚であり、王都の民にとってはもう少しだけ現実的な存在である魔法使い。その在り方を明確に理解している者は少なく、その事がより周囲を身構えさせてしまう。


「魔法使いよりもう少し理解されやすい称号が欲しいな」


 それ故、ユウヒが悩む様に呟いてしまうのも当然の感情であろう。


「……魔法士を名乗っていればいいんじゃないか?」


「うーん、魔法士とかよく分からないからなぁ」


 砂の海における大半の魔法使いは、一度は魔法士を経て魔法使いへと成るもので、大抵は魔法士を名乗って生活する者が多い。


 一方でユウヒは名乗るとしたら冒険者、社会の下から数えた方が良い仕事と認識されている冒険者では魔法使いとの落差があまりに大きく、それはかえって問題を引き起こしやすくもある。


「魔法士の資格を持っているわけでは無いのですか?」


「ないですね。冒険者くらいで、そっちも別に魔法士や魔法使いと言うわけでは無いし」


「冒険者か、登録も簡単である程度の身元は保証されるが、基本的に下に見られるからな……」


 異世界の人間であるユウヒは魔法士ではないし、砂の海で通用しそうな資格も無く。彼のことを詳しく知らない人間からしてみれば、実績も乏しいただの底辺冒険者でしかない。


 そんな社会の底辺を周囲が敬うわけもなく、ぞんざいに扱われることも多いだろう。それが魔法使いだったなどと知られたら、ぞんざいに扱った者にとっては特大の地雷でしかない。それはユウヒにとっても相手にとっても周囲の人間にとっても不幸でしかない。


「どんな内容の冒険者として登録したのです?」


「身分証みたいなものだから特にこれと言っては、うーん……しいて言うなら槍使い?」


 自らの過去の行動も踏まえて最悪の未来を想像し、困った様に唸るブレンブを他所に、イトベティエは登録した内容について問いかける。


 ユウヒは砂の海で最初に訪れた冒険者組合で魔法使いを名乗っている。しかしそれは冒険者組合で正式に登録されることはない情報であり、それ以外となると受付嬢と雑談をする中で話した得意な武器などについての話題くらいだ。


 得意武器などに関しては冒険者組合で人物データとして記録される範疇であるが、魔法使いは詐欺師も多く、冒険者になる者も居ないので不確かな情報と言う事で記録されることはない。


「槍ですか」


「もっとらんの」


「槍代わりの杖だったけど、壊れちゃったから」


 その為、ユウヒの人物データが更新されているとすれば槍使いと言ったところだが、杖が壊れて何の武装もしていない彼がそう言ったところで、誰も本当のことだとは思わないだろう。


 と言うより、何の武器も持たず旅する遺物使いなど、冒険者として見られるかも怪しい所である。スタールの街で一応は商人の登録もしているが、その登録ランクの所為で余計に怪しまれかねない。


「用意しましょうか?」


「材料があれば自分で作るんで、それを探しに行こうかなと」


 現状のユウヒにとって一番ベターな選択が冒険者とは言え、その為にも槍なり杖なり新調する必要があるのだが、そこは彼の性格とも性質とも言える拘る部分なのか自作を優先するようだ。


「材料か、どんなものを探すつもりだ? これでも商人だったからな、大体の産地は分かるぞ」


「金属? 鉱石? 後はインスピレーションで」


「……もう杖作る気ないだろ」


 そんな彼の脳内にはもう杖と言う選択は薄れて行っている。もとよりワームの素材から槍に近い杖を作って使っていたユウヒ。強度に問題があって破損したのならより耐久力を重視してしまうのは当然とも言える。


「強度が重要だから、杖なくても魔法は使えるし」


「魔法士が聞いたら膝を付きそうな言葉だな」


 呆れて肩を落とすブレンブに笑って返すユウヒにとって、長い杖は魔法使いらしいと言う意味で作った装備であって、今後魔法使いとあまり見られないようにするなら杖は必要な要素ではない。


 何故ならユウヒの魔法に杖は必要ないのだ。正確には彼も杖となる魔法の触媒が有った方が魔法の精度は上がるし、事実彼の作ったワームの杖の性能は高く、魔法士なら是非手に入れたい逸品であった。


「いえ」


「む?」


 砂の海の魔法士は基本的に杖が無ければ大した魔法は使えない。ユウヒが問題なく魔法が使えるのはその魔力量でごり押ししているからであって、その在り方は精霊や神に近く、もしその事を魔法士が知ればショックを受けるんじゃないかと言うブレンブに、イトベティエは静かにその言葉を否定する。


「むしろ興奮するでしょうね。杖を使わない大規模魔法は魔法士にとってのロマンですから」


「そうなの?」


「しらん」


 どうやら杖を使わない大魔法は、魔法士や魔法を愛する者にとってロマンであるらしい。


 らしいのだが、そうでない者にとっては理解に苦しむ考えらしく、不思議そうに小首を傾げるユウヒにブレンブは呆れたように首を横に振って答えるのであった。


「ですからユウヒ様の魔法はもっと見たいのです! どうして私の居ない場所でばかり……」


「……気を付けろ、ロマンどうこうは知らんが魔法士は大体このタイプが多いらしい」


 イトベティエはロマンを愛するタイプの魔法士である。


 特に彼女は、強い力を持つと言うよりは技術に優れたタイプの魔法士であり、ブレンブの言うこのタイプと言われる困った性質を持つ者は、技術魔法士と呼ばれる彼女のような者に多く、周囲が呆れるほど魔法に対する好奇心が変質的である。


「そうなの?」


「魔法の残滓を見るだけでも興奮するやつも居る。あの水の魔法士は大人しい部類でも特に大人しかったのだろう」


「なるほど」


 だが彼女は貴族である為、その辺りの分別はしっかりしている方であり、道中で出会った水の魔法士も大人しい部類であったようだ。そう言う意味ではユウヒは運が良いのかもしれない。たとえ到着早々乗り物ごと撃ち落とされ、巨大な魔物と遭遇したとしても、運は味方してくれいるようだ。


「せめて小さな杖でも持っていた方が良いかもな」


「補助具かぁ……何か考えておくか、武器らしい武器も無いからなぁ」


 しかしそんな運がこれから先もずっと続くとは限らない。その為にも偽りの道具として小さな杖の一本くらい持っていても良いのではと言うブレンブにユウヒは頷く。


「それはそれでどうなんだ。冒険者なら剣の一本でも持っておくべきだろ」


「その辺は吹っ飛んだからな、何か作っておくか」


 これと言って必要が無く、邪魔と言う理由で用意してなかった装備であるが、バイクのおかげで荷物もある程度持てるようになった今なら、改めて装備を拡充するのも悪くないと思い始めるユウヒに、ブレンブは小さく数度頷く。


 しかしそこはユウヒ、基本的に気分が乗った方向に動く癖がある彼が、一般に真面とされる装備を用意する可能性はあまり高いとは思えない。まだまだ作りたいものが多そうなユウヒの中で武器の優先度がどの辺りにあるか、そしてその方向性や品質の想定がどこにあるのか、それは彼自身ですら把握出来ないかもしれないのだ。



 いかがでしたでしょうか?


 認識のずれはどこでも誰にでも発生し、後々問題になるがその場で判明することは少ないんですよね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コレは俺様が使ってやらフラグ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ