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第95話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 国から派遣された救援騎士団の長が意識を宇宙に手放した翌日早朝、物資保管用に建てられた大きなテントの中では騎士達が驚愕、高揚、畏れ、歓喜、困惑と言った複雑に絡み合う感情で硬直していた。


「おおおぉぉぉ……」


 そして何かが起きる度に野太い声がざわめき、波のように広がり消える。


「まだいけるのか」


「うそだろ、もう25個目だぞ」


「まったく流れが衰えない」


「奇跡だ」


「奇跡の遺物だ」


 その何かとは、ユウヒが樽に水を注ぐのを止めて次の樽に水を注ぎ始め始めるタイミングであった。すでに24個の中樽に水を満たし終えたユウヒは、まったく流れの衰えない小さな給水タンクから水を注ぎ続ける。


 いくつも樽を用意するならもっと大きな樽に入れればいいのにとも思われそうであるが、被災地で運搬するには中樽くらいの大きさが限界なのだ。どうしても災害があった場所は足元の状態が悪くなり、あまり大きな樽を運ぶと荷崩れや二次被害の原因にもなり、また事故などによって大量の水が一度に損失してしまう可能性まである。


 そのために中樽なのだが、目の前の状況には騎士団の人間であっても、大樽を用意した方が良かったかと脳裏をよぎるのであった。


「団長……これはもう国宝級では?」


「いや、しかし……これは確かに知らぬ方が良い案件だ」


 そんな奇跡を見せる遺物には自然と視線が集中し、誰が飲み込んだのか大きな鍔を飲み込む音が聞こえると、騎士団長はリステラン伯爵から言われた言葉を思い出して神妙な声で呟く。


 知る必要がない事。大中小様々いくつもある騎士団であるが、その団長ともなればそれなりの地位に至った人間の一人である。それでも尚、知る事が危険だと言われ反感を抱いた彼であるが、その忠告は正しかったと自らを戒め、その感情を視線に乗せて部下を見た。


「ええ、そうですね」


 部下も真剣な表情でその視線に頷いて見せると、もう一度団長は頷いて周囲を見渡す。


「いいな! ここで見たものは一切公言してはならん! 私や伯爵様の為でもあるが、何よりお前たちの為にもだ!」


『はっ!』


 騎士たちの心は一つになった。団長が面倒事から全力で逃げると言う判断を下したのだから、彼らがそれに反対する理由はない。騎士と言う役職には日常的に面倒事が付いてくるもの、そこに特級の面倒事など抱え込むだけ馬鹿なのだ。


 そう、彼等の目は語っている。


「……そんなに?」


「当然です……」


 水を注ぎながらその様子を見ていたユウヒは小さく呟き、付き添いとして来ていたイトベティエは、即答すると困った様に小さく溜息を洩らす。


「村と街が少し心配だが、まぁここよりはマシだろうな」


「そうなの?」


 またブレンブも面倒事が起きないようにと付いて来ており、魔法使いであることを伏せている事も含めて騎士団の判断を肯定する。どうやら目の前の騎士団にユウヒが魔法使いであることを伝えるのは遺物を見せるより危険な行為の様だ。


「平民の言葉など信用しない貴族も騎士の言葉なら信じる」


「なるほど?」


「それに平民たちはユウヒ様を崇めていましたから、下手な行動は起こさないでしょう」


 どれだけ平民が魔法使いが来たと騒ぎ立てたところでそれは所詮平民の言葉、一般的な貴族が気にする話題ではなく大抵は戯言として流される。それはそれだけ魔法使いを名乗る詐欺師が多い事も関係していた。


 ユウヒを崇めている平民なら、悪影響になる様な行動は起こさないだろうと言うイトベティエであるが、その言葉に何とも言えない表情を浮かべて水を注ぎ続けるユウヒ。


「下手な、かぁ……妙な予感はするんだよなぁ」


「予感ですか?」


 なにやら彼ら平民の姿を思い出すユウヒに、勘が何かを囁いているようだ。


「悪い事じゃないけど可笑しなことをしそうな予感ですね」


「「?」」


 その囁き声は悪い話ではない様で、しかしユウヒにとっては妙な事になりそうな予感を強く感じさせる囁き声の様である。


「あの、御話中申し訳ありません」


「む? どうされた?」


 小さく唸るユウヒを不思議そうに見詰め首を傾げあるリステラン夫妻、そんな二人に騎士団長は申し訳なさそうに声を掛けた。何か聞きたいことがありそうな彼の表情に、ブレンブは表情を引き締める。


「一つ確認を」


「なんでしょう? 答えられる事ならいいですよ」


 一つだけ確認したいと話す彼にイトベティエはニコリと微笑む。その微笑みからは一つだけですよ? と言った念を押す様な言外の声が聞こえてくるようで、団長は思わず背筋を伸ばす。


「……その、遺物でしょうか? それはリステラン伯爵家所有のものでしょうか?」


「あー……」


 彼が確認しておきたかったのはユウヒが今も水を注ぎ続けている魔道具について、彼等から見れば遺物としか思えないその魔道具の所在がどこにあるのか、それだけは確認しておきたい様だ。


「違いますわ。詳細は話せませんが、彼……ユウヒ様の個人所有物ですので、無用な勘繰りは止めておいた方が良いでしょう」


「なるほど……ユウヒ殿の詳細についても同様と言う事でしょうか」


 その質問一つでだいたいの事は理解できたと言った様子の騎士団長、彼の勘が最も危険なのはユウヒについてであると言っていた様で、遺物の所有者確認を終えた彼は少しほっとしたような表情でイトベティエを見詰める。


「そうですね。身の保証はリステラン家がします。大丈夫ですよね?」


「ああ、問題があると言うなら正式に書面で出してくれ、陛下とも相談の上で返させてもらう」


「それほど‥‥‥了解しました。何かあった際はそうさせて頂きますが、今はただリステラン家からの大口支援として扱わせていただきます」


「それで頼む」


 彼もまた支援を受けた以上報告を行わなければならない。その報告書に記載して良い範囲を探る為にも今の会話は必要であった。


 一番書いてはいけない事、そして暈かしてなら書いて良い事、その理由。理由に国王陛下の名前を書ければ彼の報告書に対する批判の声も随分と静かになるのだ。リステラン伯爵本人から問題時に書面提出を求められるのは騎士団にとって助け舟、煩い貴族の声もその説明一つで大半が消えてしまう。消えなければ消されるのは相手の方なのだ。


「……なんだか大事になったな」


<!!>


 そんな貴族の世界の会話がなされている隣で、ユウヒは他人事のように呟き水を注ぎ、注ぐ水で遊ぶ精霊に微笑む。


「水はまだいけるな」


「……はぁ」


 周囲から何とも言えない視線が注がれる中、ユウヒは我関せずと言った表情で水を注ぎ終えると、タンクの様子を見て呟き、26個目の樽の木栓を開けてまた水を注ぎ始める。


 誰が漏らした溜息だったのか分からない、しかしその場に居合わせた者は皆そのため息が自分の溜息と誤認してしまうのであった。





 他人の溜息を自分の溜息と誤認してしまうほどに可笑しな空気のテントの中とは全く違う整理された綺麗な空間、洗練されたデザインの家具が置かれるその部屋はとても未来的である。


 しかし空気はテントの中と同じような、漠然とした不安が支配していた。


「ふぅ……」


 部屋の主の名はアミール・トラペット。管理神の中でもちょっと特別な存在の彼女は、今日も自らが任された世界の管理に奮闘しているようだが、先ほどから空中に浮かぶディスプレイを見詰めたまま小さな溜息を洩らしている。


 そこにふわりと体を揺らして現れるのは空飛ぶ球体のサポ子さん。


「お疲れ様です」


「ありがとう……これはやっぱりユウヒさんが関係してるわよね」


 ユウヒに命名された彼女がマニピュレータで差し出したマグカップを受け取るアミールは、これと言いながらディスプレイを指さして問いかける。ユウヒが居るであろう地で、大量の水によって引き起こされた災害に彼が関係していると思うかどうかと、ほぼ核心を持って問う。


「情報が不足していますので正確な値は出せませんが、60%の確率で関与の可能性があります」


 ユウヒが関わっていると言えば関わっている大規模な災害、しかしその災害発生の主軸は彼ではなく、それ故に多少関わった程度と言える。サポ子さんの分析で高い確率が出てこないのもその辺のことが影響しているのだろうか、彼女は悩む様に回転している。


「パッシブデータだけで見ても精霊が活性化しているのは明らか、そこで起きた災害……」


「ユウヒ様が心配ですか?」


「いえ、大丈夫だと思うの」


「そうですか」


 初めてワールズダストを訪れたユウヒの身に起きた変化はアミールも把握している為、精霊とユウヒの関わり方もよく理解していた。少し羨ましく思えるほどフレンドリーな関係に思わず苦笑を浮かべる彼女は、ユウヒの身の心配はあまりしていない様だ。


「ユウヒさんの戦闘データを貰って分析しましたけど、人として上位に入る戦闘力にその使いの者も含めれば神の領域です」


 その理由はユウヒの戦闘能力。人である以上不慮の事故はあり得るが、それでも尚無事を確信できるのは、これまでのユウヒを調査した管理神達からのデータから判明した実態。総合的なユウヒの力がすでに神の領域に達していると話すアミールは、微笑みながらもどこか不満そうな表情に見える。


「ご不満ですか?」


「大丈夫だと言いましたが、この戦闘データは心配です。過去の英雄たちもこの領域に足を踏み入れ、そして踏み外した者の方が多い」


「ユウヒ様もそうなると?」


 不満の理由は、ユウヒが過去の英雄と同じ様な道を歩いている様に見えるからのようで、無数に存在する世界、宇宙、その中で無限に繰り返される英雄譚。その大半は華やかで美しいだけではない。


「いえ、させません。させませんが、痛みを伴う事もあります。痛みを伴わない場合は、影響がどこまで広がるか……」


 どちらかと言えば不幸に不幸が重なり、奇跡的な美しさを生むことが多い英雄と言う存在、そんなものにはさせないと冷たい視線でディスプレイの端を見詰め、そこに表示された数値でユウヒの存在確認を行うアミール。


「正直に言って良いでしょうか」


「…………」


 サポ子さんは了承を得ようとしたわけでは無い。ただ一枚クッションを挟んでおきたかっただけだ。言いたい事はアミールも理解していると分かっているからこその優しさである。


「関与した者の規模から、後者で大波を生むかと」


「………………」


 サポ子さんの予測は痛みを伴わない可能性が高く、その影響範囲は人の世に収まらない。それはアミールも理解している事である。


「特に、特定神域到達者との接触は大きいでしょう。とは言え、アミール様と親交を深めた時点で何れはそうなる運命だと思います」


「……軽率だったでしょうか」


 何故ならアミールは管理神、只人が軽率に関わって良い存在ではない、いや関われる存在ではない。無限に広がる世界で管理神と深く関わる人間がどれだけいただろうか、それらは最終的に死ぬか、人でなくなるか、実質的には関わり続ける只人など居ないのだ。


 死で終わらない者には次々超常の者が関わるが、ユウヒを大きく彼女達の世界に近付けたのはとある人物との接触の様で、それ以前にユウヒを人の世界から遠ざけてしまった自らの行いに、アミールは少し落ち込んだように呟く。


「どうでしょか、私が判断するにはまだデータが足りません」


「そう……」


 サポ子さんにはアミールの選択の正当性を判断するデータがまだ足りない様で、率直で優しい返答にアミールは思わず困った様に微笑む。


「ですが」


「?」


「少なくともこの出会いは、二つの脅威から世界を救っていますので、間違いではなかったのではないでしょうか?」


 正当かどうかはさておき、主であるアミールの選択が間違っていないと、少なくとも世界を脅威から二度守っているのだからと話すサポ子さんは、くるりと横に一周回転する。


「……そうですか、なら」


「?」


 気遣いなのだろう彼女の言葉に微笑むアミールは呟き、


「しっかりサポートしないといけませんね」


「そうですね」


 元気な笑みを浮かべて両手を握って気合を入れた。


 眉を引き締め気合を入れ直す主人とカラフルに点滅する従者、果たして二人の気合がどこに向かって何を起こすか、それを知る者はこの場には居ない。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒはそろそろ人の道から外れかもと思いきや、もう外れている判定らしいです。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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