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第93話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 石造りの橋と言われれば様々な物があるが、どれだけ荷重を効率よく分散するかによってその強度は変わってくる。石造りだからと一枚岩をどんと置けばいいものではない。


「ふわぁぁ……」


「なんちゅう魔法だ……」


 ないのだが、どんと置かれた石の板は、そのまま周囲の地形に合わせて流動的に動くと綺麗なアーチ状の構造を形成、橋が出来上がる光景に目を奪われているうちに土台となる谷も魔法で強度が上げられていく。


 ユウヒが魔法を使ってアーチ構造の石橋が出来るまで3分、それは装飾も込みの速度である。魔法士だけではなく魔法を詳しく知らない一般人が見ても驚くような光景、魔法士ならより詳細な部分まで深い驚きとなるだろう。


「ああ!? 魔法を使うなら教えてくださいまし!」


「え?」


 もしそんな光景を魔法好きの人間が見れなかったとなれば後悔は一入であろう。長老を筆頭に街の人々が腰を抜かす中、離れた場所で待機していた馬車から文字通り駆け付けたのは、サヘラを伴ったイトベティエ。


 常日頃から魔力の効率的な運用を考えているユウヒは、落ち着いて魔法を使える環境故にいつもより効率の良い魔法が使えたようだ。そのおかげで洩れ出す魔力を感知しそこなったイトベティエが駆け付けた頃には魔法はすでに完了、目の前に濃密な魔力を纏った真新しい石橋ががあれば何が起きたかなど一目瞭然。


 感動に震える街の魔法士の姿を見れば、素晴らしい魔法だったことはすぐにわかる。すぐにわかるがその詳細など解らず、キョトンとした表情で振り返るユウヒの目の前でイトベティエは悔し涙を滲ませるのであった。





 砂の海の街や国を結ぶ街道には休憩場があちらこちらに用意されている。


 巡回の兵士によって管理された休憩場で休むユウヒは、サヘラに淹れてもらったお茶を口に付けていた。


「何も言わずに来てよかったんですか?」


「え?」


 そんなユウヒに笑みを浮かべたサヘラは気になっていたことについて問いかけた。それは純粋な疑問、街にとって重要な橋を修理するだけではなく素晴らしい石橋に変えたユウヒ、街の人々に伝えればそれこそ大歓迎されるだろう。


 普通の人なら自らの偉業を伝える。問いかけたサヘラだってそうするだろうという不思議そうな問いかけに、ユウヒは悩む様に眉を寄せる小首を傾げた。


「きっと街の人たち感謝してると思いますよ?」


「うぅん……別に恩着せようってわけじゃないからなぁ?」


 サヘラが言いたい事は分かるし、目立ちたければそうしたくなる気持ちも分かるユウヒであるが、特にそう言ったつもりがあって橋を作ったわけではない。むしろ楽しく作ることが目的と言っても良いユウヒにとっては、持て囃されることに対する面倒臭さが先に立つ。


「欲が無いと言うかなんと言いますか、次は事前に呼んでくださいね」


「本音が出とるぞ」


 ブレンブが呆れてツッコミを入れる。その隣ではお小言を言っている様で自らの欲望を吐き出すイトベティエが膨れっ面で御茶請けを口に入れている。


 いつもは上品な彼女であるが、干した甘い果物の砂糖漬けを口に放り込む姿は淑女と言うより少女の様で、その姿に呆れるブレンブであるが、その姿が好ましいのか微笑んでいる。


「あんなすごい橋を作る魔法ですよ! 本音が出もします!」


「まぁ分からんでもないが……あの橋は本当にずっとそのままなのか?」


 私は怒っていますよ、と言った表情でお茶に口を付けたイトベティエの言葉に同意するブレンブは、ユウヒに目を向けると一時的な石橋ではないと言う事に対して僅かな懐疑心を持って問いかける。


 せっかく作った石橋を活用されないのは面白くないと思ったユウヒは、街の人たちに石橋について説明しており、その際に壊さない限り勝手に石橋が消えることは無いと伝えていた。それはスタールを守った壁と同じ理屈なのだが、常識を知っているからこそ信じられないのが人と言うもの。


「そうですね。耐用年数は40年くらいです」


「40年ですか、凄いですね」


 またユウヒの作った石橋の耐用年数を聞いて驚くイトベティエ。元々トルソラリス王国では環境の影響もあって、あまりにお金がかかる様な長い耐用年数を持つ建造物は作られ辛い。その事もあって何かあった場合はすぐ建て替え出来る事やこまめなメンテナンスを前提とした建築物が多く、王族の城や高位貴族ならまだしも、中小貴族以下の者は代が変わる度に建て替えを行うのは割と普通の事である。


「そう?」


「はい」


「大体の橋は普段から修繕しないとすぐ壊れるからな、商人時代はそれで苦労させられた……」


 況してや街が金を出して作る橋など、低コストで何時でも作り変えられる様なものが主流である。これによる物流のルート変更が頻発する為、ブレンブなどの商人は苦労しており、複数のルートを記憶しておくことが商人の必須スキルとなっていたりするのだ。


「ドワーフに頼めば丈夫な橋を作ってくれますが、お金がその分かかりますからね」


「ドワーフか、頑丈な橋を作りそうだ」


「ユウヒ様はその橋に準ずる物を造られてますが?」


 この世界でも物作りに長けた種族であるドワーフ、彼等に頼めば環境の厳しいトルソラリス王国でも丈夫な石橋を作ってくれるが、それでもユウヒが作った石橋と同じ様な耐用年数だと言うイトベティエ。


「いや、ドワーフが作ったって言うだけで200年とか300年とか持ちそうだなと」


「そんな神話に出てくる様な橋が作れるわけないだろ……」


「そうなのか、残念だな」


 その原因は彼らドワーフが作ると満足する者達であり、あまり建築物のメンテナンスと言う行為に魅力を感じない事、また金銭面でも面白い仕事はある程度安く受けるが、つまらない仕事は割り増して来るので余計にメンテナンスを頼み辛く、相当お金に余裕がある者でなければ頼めないのだ。


 結果、しっかりとしたメンテナンスを行う事で100年維持できる橋もトルソラリス王国の技術では長く持たせられない。


 むしろメンテナンス無しでの耐用年数だと考えているユウヒの作った石橋は非常に高耐久な石橋だったりもする。


「魔法使いはズレているとは聞くが」


「そう言うレベルの話ではない気もしますわね……」


 絶妙な認識のずれが発生している会話に困惑するブレンブとイトベティエだが、会話の中の意思を汲み取り本質を見抜く精霊達は唯々可笑しそうに笑い合うのであった。





 くすくすと笑う精霊達から温かい視線を向けられ小首を傾げたユウヒとリステラン伯爵家一行は、休憩を挟みつつ軽快なペースで街道を進み、予定より早く次の目的地に足を踏み入れていた。


「これは、なんと言う事だ……」


「……ハサン領も終わりね。このことも陛下にお伝えしておきましょう」


「そうだな」


 常に高台の街道を使い移動してきたブレンブの目の前には、建物すべてが水の下に沈んでしまった街が広がっていた。そこが今日の目的地であるハサン領の領都、街道の整備にも金を出し渋り守銭奴と揶揄される領主の住む街である。


「もしかして、ここが領都?」


「うむ、ハサン領の領都でゼニール。寂れた小領ではあるが林業が盛んでな、最近は水樽の生産で随分は儲けていたようだ」


「ほーん……」


 縦に長いトルソラリス王国の中央部に広がる一帯は、その地形的特性から森が多く、そう言った領地を持つ領主は林業を主体として経済を動かすことが多い。ハサン領もまた林業主体の産業が多く、最近ではバザールからの依頼で水樽特需の影響下にあったようだ。


 そんな特需の中で守銭奴がやる事と言ったら金銭の溜め込み、沈んだ街の領主館にはきっと大量の金貨銀貨が眠っているのだろう。勘の良いユウヒはすぐそこに行きつくと、日本人特有の勿体ないと言う精神が働き小さく呟く。


「火事場泥棒はするでないぞ?」


「しないよ」


 そんな呟く声に商人の鼻が利いたのか、ブレンブは眉を顰めユウヒを見上げるが、返ってきた返事は非常に不服そうな声と顔である。


 どこか信用でき無さそうな表情でユウヒを見詰めるブレンブ、まだまだ彼の心からは完全に不信感が消えたわけではなさそうだ。そも、冒険者と言うのは火事場泥棒に走る者も少なくは無く、回収費用として一部を報酬としてもらい受ける行為はトルソラリス王国で合法である。


 あまり貴族に受けの良い行為ではないが、中小の貴族にとって危険を冒さなければ回収出来なかった物を回収してもらえる事はありがたく、冒険者の仕事では良くある部類の依頼であった。


「アブグはずいぶん貯め込んでいるらしいですからね」


「しないよ?」


 ブレンブと見つめ合うユウヒの姿に微笑むイトベティエは小さく呟く。


 どうやら彼女はハサンの領主の動向に詳しい様で、その貯め込んでいた量もある程度把握できているらしく、しかしその呟きにユウヒは不満そうに呟き今度はイトベティエを見詰める。


 そんなユウヒの反応に彼女はとても楽しそうに微笑む。


「ふふふ、盗賊の心配をしているのです」


「なるほど」


 しかし彼女の心配はユウヒに対するものではなく盗賊に対してである。冒険者が回収に動くなら盗賊だって火事場泥棒に参戦して当然であり、度々そう言った場では盗賊と冒険者が偶発的な戦闘に突入することがあり、そう言った事も貴族が資産回収を躊躇する理由であった。


「もう少し先に進めばゼニールの避難地にも使われる場所があるはずだ。そこまで進もう」


「了解しました」


 しばらくの間、湖の底に沈んでしまった街を見渡していたブレンブは、小さく溜息を洩らすと背筋を伸ばして護衛の兵士に指示を出す。


 その表情からは複雑な感情が洩れており、慰められるようにイトベティエから背中を摩られるブレンブは咳き込む様に喉を慣らしながら馬車に戻る。その後ろ姿を見詰めるユウヒは、視界の隅に視線を向けると周囲を舞い飛ぶ精霊に肩を竦めて見せるのであった。





 時は少し過ぎ、リステラン伯爵家一行は避難所となっている街道の大きな休憩場にやって来ていた。


「やけに人が多いな」


 領境にある関所代わりの休憩場には予想以上の人間でごった返していた。そのほとんどは避難民なのであろう。休憩場の半分以上は雑多なテントで埋まっている。


「止まれ! ……リステラン伯爵家とお見受けしますが、何用でしょうか?」


 その中にはあちこちに金属鎧を身に着けた騎士の姿が見られ、リステラン伯爵家の馬車の車列もその騎士に停められ誰何が行われる。しかし貴族の家紋が描かれた馬車である為、その対応は丁寧なものであった。


「んー……見られてるなぁ」


 一方でユウヒに向けられる視線には明らかな険があり、少しだけ不愉快そうに呟くユウヒの周りでは精霊達が感情を荒ぶらせるも、ユウヒの笑い声を聞くとすぐに不思議そうに瞬く。


「了解しました。誘導しますのでこちらに」


 チラチラとユウヒに視線を向けていた騎士は、胸に手を当て敬礼するとリステラン伯爵家の車列を先導する様に歩き始め、複数の騎士が車列の警護を始める。


「ユウヒ殿」


「はい?」


「どうやら王都の支援隊の様です」


 馬車が進むのに合わせてバイクが走り始めると、すぐに前に居た護衛兵士の一人が馬を寄せてきてユウヒに声を掛けた。


 彼曰く、避難所となった休憩場に居る騎士は王都から派遣された災害支援隊の様だ。しかしその知らせに来た兵士の目的はユウヒに騎士が何者か伝えるほかに、周囲の騎士に対する牽制でもある。


「ゼニールの支援ですか」


「いえ、ゼニールだけではないようですね」


 伯爵家の私兵である護衛兵士が丁寧に対応している様子を見せる事で、周囲にユウヒの位置づけを教えているのだ。下の者であるなら護衛兵士が同じ目線で話す事は無く、また信頼できない者であれば馬を寄せる事もない。


「まぁ被害範囲が広いですからねぇ」


「ええ、何か聞かれると思いますが、妙な要求をされたら言ってください」


 その様子に周囲の騎士から注がれる視線から険が抜け、好奇の目に変わる中、説明される内容に納得した様な表情を浮かべるユウヒ。しかし続く説明に思わず眉を上げて男性の目を見詰める。


「してくるかもしれないと?」


「騎士はまだそうでもないですけど、王都の兵士と言っても他とそう変わらん者も居ます。人によっては三叉路のお話に出たような兵士もいますから」


「ああ、了解です。助かります」


 王都の兵士の質は、良くも悪くもほかの領やオアシス警備の兵士と変わらないと言う話に全てを察したユウヒは、彼等にも話した三叉路での出来事を思い出し小さく息を吐く。要は真面な騎士が居ても変な言い掛かりを掛けられる可能性がゼロではないと言う事だ。


「あ、誘導が始まりましたね。付いて来てください」


「了解」


 騎士達の見定めが終わったのか、誘導先が決まったのか、先頭で誘導していた騎士が大きな声を上げて早足で進み始める。それに合わせて護衛の兵士は体を放してユウヒに笑いかけた。


「どこの兵士も質はピンキリってことか」


<?>


 隊列に戻る兵士を見送るユウヒは思わず溜息を洩らす。どこも人の質はピンキリであると言うのは真理なのだろう、どんなに洗練された集団にも怠け者はいるものだ。


「精霊はどの子も変わらず無邪気だから分かんねぇかな」


 一方で精霊の性格は大体似たり寄ったりであり、不思議そうに見詰めてくる精霊にユウヒはそう呟いて笑う。


<?>

<??>


「良い事なんじゃないかな?」


 さらに解らないと言った様子で声を上げる精霊達に、ユウヒは良い事なんじゃないかと言って首を傾げる。


 純粋で意思を通じ合わせる事が出来る精霊だからこそ、その性質は自然と均一化され、ストレスを感じてもその感情は伝播しやはり均一化され解消されていく。それは彼女達精霊が共通して持つ調和と言う性質である。


<!>


「それにしても人が多いな、避難場所に指定されてるくらいだから、その為の整備がされてたのかな?」


 ユウヒの感情を読んで嬉しそうに瞬く風の精霊は、急にその場から飛び立つ。その姿を目で追ったユウヒは、その視線の先に広がる大量のテントを見渡し呟く。


 あらかじめ避難用に用意されていたテントなのかと少し感心するユウヒであるが、実態はまったく違い、その大半は慌てて持ち出したり略奪して手に入れたテントで、比較的統一感のあるテントは王都からの救援による支給品である。


 何せここはまだハサン領の領内、守銭奴と揶揄される領主がそんなもの用意するわけがないのだ。


「こっちは貴族用ってことかな? お、睨まれた」


 一方で今案内されている先にあるのは貴族用の避難所として確保された場所、着の身着のままや略奪しないといけないほど切羽詰まっている一般の人々と違い、テントを見ただけでも随分余裕がある様だ。


 しかしそれでも気は立っているらしく、ユウヒの視線に気が付いた貴族の私兵はユウヒに鋭い視線を向けてくる。


「こわいねぇ」


<……>


 その視線には明確な悪意が含まれる視線も混ざっており、怖いとおどけて笑うユウヒの外套の隙間からは、そう言った感情に敏感な闇の精霊が目を向けており、その目は何時も眠そうな目と違い、闇の中でぎらぎらと輝いているのだった。



 いかがでしたでしょうか?


 王都からの災害支援部隊により肥大化した避難所に到着したユウヒ、何事もなければリステラン領まではもう少しである。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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