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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第85話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 砂の海に兎型獣人の存在を確認したユウヒの行動方針に変更フラグが立ってから小一時間、複数種類で大量な苗木を前にテンションの上がったミンテは、当初の緊張はどこに行ったのかユウヒに様々な質問をしながら何枚もの書き板にメモを残して行く。


 白木の板に黒いペンでメモが書かれる様子を見ているユウヒは、興味深そうにその姿を見ていた。


「それでは私はこれで、本当に苗の準備お願いしても良いんですか?」


 そんなやり取りも終わると、少しテンションが正常値に戻って来たらしいミンテが申し訳なさそうな上目遣いで問いかける。精霊が求める苗木のほかに、ミンテはスタールの住人が欲するような樹々についても話し、その苗木の入手も高まったテンションに任せて依頼していたのだ。


「大丈夫だと思うけど?」


<!!>


 テンションのままにお願いした彼女は、今になって申し訳なくなったようだが集めるのは精霊であり、樹の精霊はミンテ以上の専門家、ユウヒの問いかけに任せろと言わんばかり輝き飛び跳ねて見せる。


 どうやら何の問題もないようだ。


「精霊も任せろと言っているので大丈夫だと思います」


「……すごいですね」


 チラリと視線を地面に向けたかと思うとすぐに笑み浮かべて問題ないと返すユウヒであるが、何も知らない人が聞けば詐欺師の言葉である。ユウヒが魔法使いであると知っているミンテは疑う事は無く、唯々驚くばかりで言葉が単調になってしまう。


「ああ、まったくだ」


「ん?」


 ミンテがすごいと言ったのはユウヒの事であるが、ユウヒは凄い事をしている意識は無く、寧ろ名前や特徴を伝えただけですぐ種を見つけてくる精霊の方に感心する。


 妙なすれ違いに小首をかしげ合うユウヒとミンテ、その姿を見ている兵士達は、彼等がどんな話をしているかさっぱりわからず、しかし農耕組合一の秀才が用いる専門用語を何の苦も無く理解しているユウヒに対する認識について上方修正だけはするのだった。





 ミンテと兵士を見送ったユウヒは、すぐに特殊加工された小さな袋を精霊達に配り見送る。


「よかったな、ちゃんと知識がある人が居て」


<!!>


 まだ苗木にしていない種や若芽の加工を再開するユウヒは、周囲を嬉しそうに飛び交う精霊達に声を掛けると彼女達はより一層嬉しそうに輝く。人との接触を好む精霊にとって、本来なら関わり合いを持てない人と間接的にでも対話できることは得難い経験である。


 きっとこの場で起きた事は風の精霊によって各地の精霊に伝播され、各地で羨望の意思が飛び交う事だろう。


「気に入ったって? まるで職人の親方みたいなこと言うなぁ」


 また今回の事でミンテは精霊に気に入られたようで、どこか大工の親方みたいにミンテを評価するのは樹の精霊、他の精霊からも悪くない評価の様で、このことが今後彼女の人生にそう影響するかは不明である。


「それがミンテさんの言ってた樹の種?」


 それからさらに一時間ほど、休み休み作業を続けていたユウヒの下に種でパンパンになった小袋が飛んでくる。樹の精霊だけで採取に行ったはずだが、帰りは風の精霊も伴って勢いよく飛んで帰ってきたようだ。


<!>


<……>


「食べない方の樹の種は見つからないか」


 小袋の中身はミンテが依頼した食べられる木の実の種、細長いドングリの様な見た目の種は、それ自体が食べられるが樹液もまた食用になる為、恵みの浅林が健在だったころは、樹を枯らさないように計画的に採取されていた。


 一方で食べられないが有用な樹も依頼されていたが、そちらは時期が悪いのか種が見つからなかったようだ。水が枯れて餌が無くなったスタール周辺では、小動物がありとあらゆる物を食べた事で容易に食用可能な種が少なくなっている。


 また樹皮なども食べられたことで林の樹々は立ち枯れが加速、鉄砲水の被害が大きかったのはこういった要因もある様だ。


「生きてる枝でも大丈夫だと思うぞ? 魔法で何とかなるだろ」


<!>


 しかしそこは本職が頭を抱えるような魔法を使うユウヒ、生きてる枝があれば苗木に出来ると言って精霊は喜んで飛び立って行く。


 実際に挿し木と言う枝から植物を増やす方法この世界でも行われる技法だが、苗として使うには時間が掛かる。それをユウヒの魔法はあっと言う間に成長させてしまう上に、最近植物成長魔法を多用していたことでその効率も良くなってきているようだ。


「木箱が無くなって来たな、また作らないと」


 効率が良くなっているからかどんどんと増えて行く苗木、林の復興にはいくらあっても良いと増やしていたからか、仕舞っておく木箱が無くなってしまったようだ。


「にしてもスタールの街って獣人系も居たんだな」


 陽射しに弱い苗木は小屋の中の棚に並べられているが、それ以外は木箱に入れて外に置かれている。


 そんな外に並べる用の浅い木箱を魔法で量産し始めるユウヒは、農耕組合の代表を思い出すと感慨深げに呟く。一応ユウヒがこれまで立ち寄った場所でも獣人は居たのだが、砂漠の民はフード付きの外套を着ている事もあり、彼の目には入ってなかったようで、そんな彼に精霊達は不思議そうにしながらも囁きかける。


<!! ……!>


「ずっと東の方に多いのか、そこにも行ってみたいな」


 トルソラリス王国はユウヒと似た背格好の人間が多く、特に人種を選んでいるわけでは無いのだが、獣人にとってはあまり住みやすい場所ではないらしく、それらの種族はもっと東側、森林山脈の向こうに多く住んでいると言う。


 また獣人が森林山脈を越えるのが大変なため、トルソラリス王国にやって来ないと言うのもある。それだけ森林山脈と言う場所は危険に満ちた場所のようだ。


「薬草の種も集まったな、こっちも苗にしておこうか」


 木箱をまた一つ作り終えると精霊の種置き場になっている作業用テーブルに目を向けるユウヒ。そこには彼女達が持ってきた種が積まれており、時折吹く風で崩れると周囲の精霊が集まって楽しそうに積み直している。


「いや、先に木箱と布だな……素材を取りに行って来よう」


 山もいくつかに分けられており、特に多く集まっているのが薬草の種、どうやら聖域から持って来ている物も多そうなその種を手に取るユウヒは、資材を用意する為に必要な材料を集めるためにふらりと小屋を離れるのであった。





 ユウヒが気分のままにふらふらと植樹の準備を進めている頃、治療院の一室からは驚愕の声が漏れ聞こえていた。


「すごい……」


「ど、どうだ?」


「まったく痛くないし、体が軽いわ!」


 声の主はイトベティエ、胸元を布で隠しただけの半裸の彼女は驚き立ち上がると嬉しそうに笑みを浮かべて腰を捻るように歩きくるくると回りながら腰を摩る。どうやらユウヒの作った魔道具によって呪いを払う事に成功したらしいが、その効果はあまりに劇的でブレンブは若干引いた様に彼女を見詰めると、手に持った呪い払いの魔道具を見詰めた。


「そんなに動いて危ないぞ」


 しかしどんなに強力な魔道具でも呪いなどそう簡単に払えるものではなく、心配したブレンブは妻に声も掛けるも返って来たのは満面の笑み。


「動けるのよ! 今までの体の重さが嘘みたい……もしかしたら随分と根の深い呪いだったのかもしれないわね」


「根が深い?」


「何度も繰り返し呪われてたのかも、調べないといけないわ」


 イトベティエ曰く、呪われていたことが嘘だったかの様な体の軽さから察するに、彼女に掛けられていた呪いはずいぶんと根深い呪いだったようで、しかしその呪いはたった一回の魔道具使用によって根こそぎ払われてしまったようだ。


「呪いか……そう言う商品は扱ってこなかったから良く分からないな」


「知り合いに居ないの?」


 呪いを払えて全部解決、と言うわけにいかないのが貴族社会。どう考えても偶然の呪いとは思えない状況に、彼女の頭の中では複数の貴族がしたり顔を浮かべている。きっとその表情は彼女の呪いが解けたと分かった瞬間怒りに染まるのであろう。


「居ないことは無いが、生きてるかどうか」


「闇市関係者?」


「う、まぁ半分くらいだな」


 そんな呪いの道具を扱う人間に真面な者は居ない。少なくとも名の知れた専門家以外でそう言った呪いの道具を扱う商人は、ほぼ真っ当な商売で稼いでいない。なにせ呪いの道具は違法な品が多いが貴族に高く売れるのだ。


 イトベティエの様にそう言った汚い手段を嫌う貴族はそれなりにいるが、そう言うのは大半が大貴族や王族に覚えられる様な功績ある貴族であり、そうではない古いだけの貴族や中小貴族の中には上を蹴落とすために呪いの道具を買い漁る者もいる。


「変な事起こさないでよ?」


「それは大丈夫だ」


 そんな商人と付き合いがあると分かれば貴族社会では白い目で見られ、悪い貴族からは紹介を頼まれることもあり、イトベティエの嫌そうな顔にブレンブは首を勢い良く横に振ると大丈夫だと告げた。


「そ? ……信じるとしましょう。それにしてこんなに体の調子が良くなるなんて、凄い魔道具だわ」


 そんな夫の様子を不思議そうに見詰めるイトベティエは、彼の手から魔道具を取るとじっと見つめて目を細める。


 彼女の目には何が見えているのか、うっとりとした表情を見せながら微笑むイトベティエにブレンブはどこか不服そうな感情を顔に浮かべた。


「全部が魔道具のおかげというわけじゃないだろ」


「いいえ、魔道具のおかげね。詳しく調べられなかったけど、あの光からは治療系統の魔力も検出されてるもの」


 よく見ると部屋の中には妙な機材が置かれており、ユウヒの薬を調べた機材にも似たそれらは魔道具の特性を調べる装置の様で、それによるとユウヒの魔道具から発せられた強力な光は呪いを払うだけでなく治療まで行っているようだ。


「治癒系統の魔道具だったと言う事か? それなら呪いじゃないんじゃ」


「説明したでしょ? あれだけ強い光の属性をぶつけたら問答無用で呪いが壊れるって」


「そうは言うが、私は専門ではないからな?」


 イトベティエの説明に顔を顰めて呪い払いの魔道具とは嘘なのでは無いかと疑うブレンブであるが、呆れた様に見詰められ説明されるとまた不貞腐れた様に視線を逸らす。何が気に入らないのか常に疑ってかかる彼に、イトベティエは困った様に微笑み小さく溜息を洩らした。


「専門だったら今頃泡吹いて倒れてるんじゃないかしら? 知り合いに見せてあげたいわ。どんな反応するかしら?」


「……」


 専門家であればあるほどにユウヒの魔道具は評価される物なのか、コロコロと楽しそうに笑い話すイトベティエを見上げるブレンブは、その表情の中に質の悪い感情を見てしまい小さく震える。どうやら彼女には泡を吹かせたて倒したい相手がいるようだ。


「とりあえず準備を前倒ししましょう。明日ユウヒ様に連絡を入れて明後日の朝に移動開始よ」


「急だな……」


「事が事よ、帝国の動きも気になるし……。そうだ! お姉さまにも紹介しておいた方が良いわね」


 一頻り楽しげに? 微笑んでいたイトベティエは王都行きを早めると言い出しブレンブを驚かせる。魔法使いユウヒにこれでもかと気を使っている彼女にしては珍しい行動の原因はユウヒの齎した物と帝国、特に帝国に関しては未曽有の災害を引き起こして何もないとは思えず、少しでも早く自領に戻って指示を出しておかなければならない。ただでさえ混乱しているトルソラリス王国内で後手に回るのは貴族社会的にも危険であった。


「え、いや権力者……」


「公爵の後ろ盾は大きいわよ、どうせ有象無象がちょっかい出して来るんだから、名ばかり貴族は面倒なの」


 そんな中で、彼女はユウヒを権力者に会わせる計画をしてるらしく、ユウヒが嫌だと言っていたことを計画している妻に流石のブレンブも驚きの顔を隠せず、しかしそれもユウヒの為であると話すイトベティエは、貴族としての経験が浅いブレンブと違って貴族社会の事を理解している。


「うっ!?」


「貴方も名に恥じぬように頑張ってね?」


「ぅ……はい」


 今も痛い所を突かれて声を詰まらせるブレンブに微笑むイトベティエ、彼女は現在伯爵夫人であるが、結婚する前はリステラン女伯として貴族社会でも一目を置かれていた人物であった。そんな彼女がブレンブの妻になった理由は色々あったようだが、長くなりそうなので割愛しておく。


 ただ少なくとも、今も一目置かれていた彼女は、夫を尻に敷く形で健在のようだ。





 日も落ち静かな時間に入った王都のとある一室で、夜風に当たりながら書類を整理する女性。


「あら? 二人そろっての手紙だなんて珍しい」


 面倒な書類の中に嬉しく珍しい手紙を見つけた彼女は微笑みながらナイフを手に取る。


「あらあら、凄いわね」


 一枚は格式ばった紙の封書に彼女もよく見覚えがある封蝋が押され、もう一通の封書は周囲に置かれた封書とは少し毛色の違う薄桃色にリボン付きの可愛い封蝋が押されていた。


 丁寧に封を開けた女性は中の手紙を一喜一憂しながら読み終え微笑む。


「私も会いたかったなぁ魔法使い」


 手紙には魔法使いの事が書かれていた様で、羨ましそうに呟く彼女は手の届かない星を見上げる。物欲しそうな微笑みを浮かべる女性は、星空を落とし込んだような瞳を見開くと、好奇心が見て取れるようなぎらぎらとした笑みを浮かべるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 なにやら色々動き出しそうな感じですが、この先どんな出来事がユウヒを待っているんでしょうね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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