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第83話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「と言う事は護衛と言うよりメインは説明をしてほしいと?」


 ニコニコ顔の治療院長が部屋の隅の椅子に座る中で説明されたのはユウヒが今回護衛として選ばれた理由。どうやら本来の理由は護衛としてではなく、王都にて宝玉と言う遺物に関しての詳細な説明をしてほしい為のようだ。


「そうですね。私達だけでは詳しい説明が出来ませんので」


「あらかた説明したんだけどな」


「理解している人と聞いただけの人では齟齬がありますから」


 いくらユウヒが知り得る全てをガスターに伝えたとは言え、専門家でもない彼からの話を聞かされ資料を渡されたところで、リステラン伯爵夫妻がユウヒと同等の説明を行えるわけではない。万が一説明と実際の内容に齟齬があれば、何が起きるか分からないのが遺物である。


 さらにイトベティエは、実際に遺物を使うユウヒからの説明であれば尚のこと説得力があるであろうと言う考えもあり、また魔法使いであるユウヒを王都で接待できると言う思惑もあった。


「それはまぁそうか……」


 イトベティエの思惑を何となく見透かしていそうなユウヒであるが、言われた内容は納得できるものである。彼もまた会社内での無駄な伝言ゲームによって受けなくていい被害を受けた者であり、又聞きと言う物の危険性を知る元社畜なのだ。


「別途褒賞については国と交渉させて貰いますので、どうでしょうか」


「偉い人に会わないのであれば」


 少し拒否し辛そうに眉をしかめるユウヒにとって一番面倒なのは偉い人、と言うより偉そうな人と会う事である。偉くても人格者であればユウヒもそれほど嫌なわけではなさそうだが、面倒な人間はどこにでもいるものだ。


「それはちょっと、難しいですね。権力者はお嫌いですか?」


 ユウヒが考えている事を察しているらしいイトベティエは困った様に微笑み、念の為にと言った様子で権力者に対する考えを聞く。


「んー……権力を笠に色々命令して来る人は嫌いかな」


「……いないとは言えないですね。一定数そう言う者も居ますから」


「でしょ? これまでにもそう言う人結構いたから、人はそんなもんなんだろうね」


 どこに行っても似たような人はいると言うユウヒ、社畜時代も異世界に来てからも、さらには帰ってからも、ユウヒの周りには何を勘違いしているのか自分が誰よりも偉いと思っている只人が多く、権力を振りかざす事に躊躇しない人の面倒臭さを身をもって経験している彼の表情からは深い失望が見て取れる。


「……」


 そんなユウヒの表情を見詰めるブレンブは何とも言えない微妙な顔で肩を落とす。


「説明だけならいいよ、俺もあちこち見て回りたいし」


「ありがとうございます」


 ブレンブが何を思って肩を落とすのか、リステラン夫妻を見比べるユウヒは肩を竦めると、説明だけなら良いと言う言葉を付け加えた上で護衛を了承する。


「出発はいつ?」


「すぐにでもと言いたいところですが、腰の状態を見ながら五日以内には出たいですね」


 決まれば後は行くだけ、というわけにもいかないのがイトベティエの体調。腰を患った者ならわかるかもしれない、体の中心である腰が痛いと全ての行動に制限が掛かる。そんな状態で何日もかかる王都まで行けるかと言えば答えはNOであろう。


 それでも急がなければいけないことから五日以内には王都に向けて出発すると言うイトベティエ、そう決める理由には当然ユウヒに作ってもらった呪い払いの魔道具と言う治療の目途が立ったと言う事もある。


「わかりました。詳細が決まったら教えてください」


「なるべく早くお伝えします」


 また同時に帝国の動きを警戒したためでもあり、ガスターもイトベティエもこの数日まったく身動きが出来なかったことに僅かな焦りを感じていた。その帝国も現在は自国に敗走中なのだが、帝国軍の現状を知る術は彼らにない。


「それで院長さん?」


「アネモネとお呼びくださいユウヒ様」


 ユウヒならば精霊から聞けそうなものであるが、特に気にしていない彼は声を掛けた瞬間目の前に駆け寄るアネモネに引き攣った表情を浮かべている。どうやら彼女の中でユウヒへの好感度が一段上がった様であるが、ユウヒからの好感度は今一つのようだ。


「えっと、アネモネさん」


「はい」


 呪い払いの魔道具を大事そうに両手で包み持つアネモネは、名前を呼ばれると機嫌よく返事を返す。


「その呪い払いの魔道具もう一つ上げるのでお願い聞いてもらえません?」


「お願いですか? と言うか今もう一つって言いました?」


 しかしユウヒのお願い、よりも呪い払いの魔道具がもう一つあると言う言葉に目を見開くとギラギラした瞳で見詰め、ポンチョの内側に入れている肩掛けバッグを弄る彼の手を凝視する。


「ええ、まだあるんで」


 数秒で目的の物を見つけたユウヒは気軽い手付きで取り出し手の平に載せて差し出す。


「そんなほいほいと……規格外にも程があります。それで何でしょうか? 欲し物があればある程度融通利かせますし、権力もある程度自信があります!」


 差し出されたアネモネは、若干の呆れが籠った目でユウヒを見詰めると困った様に微笑み促されるままに布製光封じの袋に入った魔道具を受け取り中身を確認、最初に受け取った物と遜色ない魔道具であることを確認するときりっとした表情で権力を誇示するのだった。


 彼女が何者か詳しくは不明であるが、スタールにおいて彼女が上位の権力者であることはイトベティエも認めているようで、燥ぐアネモネは見詰める彼女は何も言わずに苦笑だけ浮かべている。


「やってもらいたい事があるんですよ」


「やってもらいたいこと? ……あ、あの冒険者ギルドの不届き者を殺しますか? 逃げたのですでに見つけ次第殺害可能ですが」


「こわ!? そっちはもうどうでもいいよ」


 やってもらいたい事と言う一言ですぐに特定の人物の殺害に行きつくが、ユウヒが頼みたい事はそんな物騒な事ではない。


「良いのですか? 随分迷惑を掛けられたでしょうにお優しい」


 ユウヒの返答に少し残念そうに眉を下げるアネモネに若干引いているユウヒであるが、この世界では何の問題もない認識のようだ。事実イトベティエも少し驚きつつユウヒに微笑んでおり、それほど罪から逃げる貴族には人権が無いようである。


「興味無いからなぁ?」


「まぁふふふ」


「お願いは押し流された林なんだけど」


 そんなよく知らないおじさん貴族の生殺与奪件などユウヒには全く興味がなく、彼の率直な言葉に微笑むアネモネは、お願いしたい事が林の事だと言われ少し驚いた様に目を見開く。


「東の林の事ですか? あそこは恵みの浅林と言ってスタールの住民にとってなくてはならない場所、差し上げることは無理だと思います」


 スタールの住民にとって生活する上で重要な資源確保の場でもある恵みの浅林、この場でその名前が出てくることにお願いを察したアネモネは、少し困った様に話し出す。欲しいと言われてあげられるものではないと話す彼女にユウヒは驚く。しかしすぐにそう言う考えが出てくると言う事は、過去に似たような要求があったのであろう。


「いやいや、いらないから。と言うか水に押し流されて木が一本も無くなってるんだよね」


「被害が出ていそうだと聞いてはいましたが……そんな」


 しかしユウヒの願いはまったく別、それに貰ったところで現在の林は文字通り更地となっており、思った以上に深刻な恵みの浅林の状況を知ったアネモネは沈痛な表情を浮かべ俯く。


 ユウヒがこの地に訪れた時は宝玉による被害で森は枯れていたが、普段であればスタールの薬品事情を一手に引き受けられる程度には豊かな林であったのだ。それが無くなったとなればスタールはより深刻な状況に陥ったとも言える。


「そこの復興をお願いしたいんだよ。精霊達も困っているらしくて」


「え、ええ……それは我々スタールの民の仕事ですから」


「それを精霊の好みに寄せてほしいんだよね」


「精霊の?」


 そんな更地となった林の復興がユウヒの願いなのだが、ユウヒの願いに驚くアネモネは、目を瞬かせながらスタールに住む者として当然やるべき仕事であると返事を返すと、追加の要求を聞いてキョトンとした表情を浮かべ小首をかしげて見せた。


 ユウヒの要求は恵みの浅林を精霊が好む姿に復興してほしいと言うものだが、精霊と対話できるわけでは無い身としては想像も出来ず、それはイトベティエ達も同様である。そんな中でブレンブは驚きながらも難しい表情を浮かべユウヒを見詰めていた。


「うん、こっちで植樹する樹の苗は用意するから、植え付けをお願いしたいんだ」


「それは、是非もありませんが」


 ユウヒの提案はスタールに住む住民にとってなんら負担にならないものであり、お願いする側であるユウヒにばかり負担がかかる様にしか思えない。実際に普通の人なら大きな負担であろうが、精霊からの全力支援を受けられ、さらに膨大な魔力に物を言わせて魔法を自由に使えるユウヒにとっては痛くも痒くもない。


 そんな要望を離れた場所で聞きながら、ブレンブは頭の中でユウヒがもたらす経済効果を計算していた様で、自分の得意分野故によりその恐ろしさを理解出来たようだ。妻から説明されていたユウヒと言う魔法使いの恐ろしさ、その理解に足りない部分が別方向から補填されたことで思わず彼は背筋を震わせるのだった。


「あと林があった場所にその苗を置いておく場所を作らせてほしい、簡単な小屋だけど」


「そんなユウヒ様のお手を煩わせずとも、ガスターに任せておけばいいのですよ?」


 戦慄に小さく震え目を見開くブレンブが、イトベティエに心配されている中、林についての話は進んでいく。


 スタールの事はスタールの民が、そのまとめ役であるガスターがやるべき仕事である為、アネモネの疑問は尤もである。しかしユウヒが彼らにお願いするのは何も住民の為だけではなく、最もうるさく催促しているのは今もユウヒの頭や肩の上に乗って声なき声を上げる精霊達なのだ。


「早くしてほしいらしくて、森の方にも影響が出ているんだ」


「森に……」


 リアルタイムで精霊達の要望を耳にするユウヒは、心の中で苦笑を漏らしながら森に影響が出ていると話す。


 被害がほとんど出ていないように見えてそうでもない森の樹々、過剰な水の供給は樹々を押し流しこそしなかったが、一部で根が腐り始めたり魔物の死骸が腐敗して毒素を振り撒いたりと言った影響を与えている。また林と言う緩衝地帯が無くなった事で森の樹々は少しずつ後退しており、このままスタールの住民に任せていては、精霊の集まる森はすぐに小さくなってしまうだろう。


「精霊にとって森は大事らしくてね。王都に行くまでに用意しておくから、良いかな?」


 元から森はこの一帯の精霊が集まる数少ない場所の一つで、さらに今は聖域化までしている為、精霊にとっては以前にも増して重要な森となっている。ユウヒと共にこの部屋にいる精霊の早期復興に対する熱量はライブの観客にも負けないだろう。


「わかりました。私の方で調整して迅速な復興をお約束します」


 後にユウヒは語る。この日聞いた精霊の歓声は、かつて悪友に連れられて見たアイドルライブの開幕を告げる歓声にも引けを取らなかったと……。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒのお願いは聞き届けられ精霊は歓喜の声を上げる。その願いの嬉しさは彼女達にしか分からないものなのかもしれない。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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