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第82話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 十分ほどお説教が行われた治療院の病室、そのお説教する光景を見て日本の両親の姿を思い出すユウヒは、夫婦と言うものの大変さに小さく息を吐いていた。


「これが呪い払いの魔道具……すばらしい細工だ。どう作っているのかまったく分からない」


 しかしそんなお説教タイムが終われば仲が戻る不思議な関係、小首を傾げるユウヒの目の前には、イトベティエが手に持つ魔道具をマジマジと見詰め、感嘆の声を洩らすブレンブの姿があった。


「魔法です」


「どのように使うものなのでしょう? ああ! それより報酬を用意しないと、でもすぐには……」


 どう作ったかと言われたら魔法で作ったとしか言えないユウヒは、舌を伸ばせば舐められる様な距離で魔道具を見詰めるブレンブの新たな一面に驚き、その隣でいつもより落ち着きなく話すイトベティエの姿にも驚いていた。


 彼の知る二人は夫婦であり貴族であったが、今の姿はまるで子供の様で、コロコロと表情を変えるイトベティエや、興奮して目を皿のようにしているブレンブに、少し好感持ったような表情でユウヒは頷く。


「まぁ王家の件もあるので、あとで構わないですよ? 貰えれば」


「いいのですか?」


 現状ユウヒの懐は温かい、何故ならガスターからの依頼は思った以上の収入になっており、他にも賠償金などの収入があった上に消費先が無いからだ。宿に関してはすでに支払い済みであるし、女将もこれ以上は受け取らないと断固拒否、食事も宿で提供されるし街がボロボロで飲食店は閉店状態、と言うより現在のスタールに消費が出来る店自体ない。ほとんどの店が水に押し流されてしまっている。


 商工組合でも購入は出来るが、ユウヒは販売している側であり、同様に薬を買ったりできる治療院にも薬草を卸している始末、使い先が無く溜まるお金は、大半が荷物と一緒に宿の部屋に置いてある。部屋の掃除に入ったサヘラが、あまりに無造作に置かれた銀貨金貨に驚いていたりするが、それはどうでもいい話だ。


「ええ、全然問題ないです。使い方は箱を開けて患部に直接中の光を当てたら良いです」


 なのでユウヒはすぐに報酬を要求するつもりはない。というより新しい素材を使った物作りが出来ただけで割と満足していたりする。


「直接だと? ……光?」


 そんなユウヒの説明に方眉を上げるブレンブ、直接と言う事は素肌を晒すと言う事であり、また暴走しそうになるも少しは落ち着いて来たのか、それとも魔道具が気になるだけなのか光っていない魔道具に目を向け小首を傾げた。


「箱を開けたら光るので、何分くらいかな?」


<!>


「10分も当てれば大丈夫だろうとのことです。時砂5回分? だそうです」


 円柱状の箱を開けると、光封じの箱に収められた光の石が露出する構造になっており、精霊曰く、時砂と言う砂時計5回分ほど当てれば十分だろうとの事、そんな説明を聞きつつブレンブはもう一度魔道具を見詰めた。


「……しかし開け方がわからん」


 まったくどこにも継ぎ目が見えない赤い光沢のある筒状の箱、開けろと言われてもぱっと見どう開けたらいいか分からない様だ。


「この部分をねじって、上下にねじりながら引っ張ればほら」


 ブレンブの疑問に頷くユウヒは、イトベティエから魔道具を受け取ると底部の丸い摘まみを捻りロックを解除、次いで円柱の箱全体を少し捩じる様に引っ張ると箱に隙間が出来て光の石が露出する。


「まぶしい!?」


「これは、なんて光の力なの」


 箱が分離することなく光の石を露出させた瞬間部屋は光に飲み込まれた。そのあまりに強い光にブレンブは驚き目を閉じ、イトベティエは手で目を守りながらも周囲を満たす光に含まれる異常な魔力に驚きの声を洩らす。


「この光で闇属性を払ってついでに呪いを分解するらしい」


 イトベティエが驚くのは当然で、光の精霊お墨付きの解呪アイテムは力こそパワーな脳筋仕様な代物で、強力な光の力を呪いにぶつける事で。呪いを構成している闇の魔力を細かく分解して除去してしまうと言う物だ。


 一見すると力任せな方法であるが、これは利点が多い。先ずユウヒの様な規格外の人間が丹精込めて作る呪いでもない限り確実に払える事、またその場で呪いの構造を完全に分解する為、呪い返しが起きず解呪が気が付かれない事、さらに患部だけでなく辺り一帯まるごと払うので、解呪に対するカウンタートラップが近くに設置してあっても、その構成に闇の属性が使われている以上、関係なく消し飛ばしてしまう。


「ら、らしいだと!? そんな適当な、もう閉めてくれ眩しい」


「呪いは専門外だからなぁ? 光の精霊からは花丸貰ったんだけど」


 両手で目を覆うブレンブは眩しいからか、それともユウヒの説明が適当だからか声を荒げるも、ユウヒは呪いの専門家ではなく、魔法属性の扱いに関してのプロフェッショナルである精霊の言葉を信じるほかない。


 肩に乗る光の精霊と、バッグに避難した闇の精霊の呆れたような意思を感じ取り、ユウヒもまた肩を竦めながら魔道具を閉めた。今まで明るすぎた故に暗く感じる部屋で、ブレンブとイトベティエはゆっくりと目を開く。


「あぁ……体が、軽い?」


「ん? ……あぁ、体全体に回ってた薄い呪いが払えたから」


 光が治まり最初に声を出したのはイトベティエ、どうやら彼女の呪いは患部だけでなく全身に回っていた様で、気が付かなかった呪いの影響が消えた事で体の軽さを実感したようだ。


「そんな今の一瞬で!? ……すごいわ」


「そんなお手軽魔道具があるわけないだろ!」


 しかしこれはとても可笑しなことだ。正確にはトルソラリス王国における呪いの常識的におかしい事で、彼等の常識では呪いの解呪はとても時間が掛かるものであり、日本人にもわかりやすく説明するなら湯治に近い感覚かもしれない。


 実際にトルソラリス王国には解呪の泉と言う場所があり、軽い呪い程度ならそこで一月も過ごせば治ると言う。


「そうなの?」


<?>


 そんな常識を知らないユウヒは小首を傾げ、彼が見詰める先の光精霊もまた不思議そうに瞬く。


「あなた、これはそのお手軽が出来るだけの魔道具よ、使用後は陛下に献上しないと」


 彼らの常識は人の世の常識、人ならざる者の世界にそんな常識など存在せず、ユウヒから手渡された魔道具はその人ならざる者の世界の産物であり、人の世に二つとない秘宝である。イトベティエが王に献上しなければと口にするのも当然の品であった。


「あ、でもコレ使ってると光弱くなるんで、そうなると効き目は弱くなります」


「使えなくなるのか?」


 しかし光の石から出る強い光の力は消耗するもの、使った後に献上したとして、もしかしたら力が弱まって使えなくなっている可能性もあり、その事を考えると下手に献上すると言うのは問題である。


「いえ、充填できるよね?」


<?? ……!>


「光の精霊が気が向いた時に補充してくれるそうだけど、分かりやすい所に置いておかないと気が付かないそうです」


「……」


 再充填可能なところが光の石の利点であるが、充填できるのは気分屋な精霊の中でも光の精霊だけ、大体にしてそこに充填可能な光の石があると分からなければ、光の精霊も充填しに来ることも無く、ただ持っているだけでは限りなく低い確率だと言えた。


「教会所有の精霊の祭壇なら可能性はあるかもしれません。あの祭壇は光に溢れる場所ですから、でも彼らはあまり協力的じゃないので……」


 トルソラリス王国には精霊を崇める教会もあり、その教会所有の施設なら可能性もありそうだと話すイトベティエだが、教会と言う組織はあまり国に対して協力的では無いようだ。


「たぶん光が一日中当たる場所に目立つように置いておけば、まぁ効率は良く無さそうだけど、多少は充填してもらえるかな?」


<……>


 結局はユウヒと言う特殊な人間がいてこそ何の問題も無く扱える品であり、ただの人にとっては強力な使い捨て魔道具とそう変わらない様で、ユウヒに問われる光の精霊もどこか気まずそうに瞬き返答を濁している。彼女達精霊は嘘をつかないが、子供のように分かりやすく誤魔化しはするのだ。


「実質使い捨てか……だがどうやって作ったんだこんなすごいもの」


 ブレンブもまた使い捨てであることに少し肩を落とすと、イトベティエの手の中にある魔道具から視線を外しユウヒに問いかける。


 その問いかけにユウヒは困った様に眉を寄せた。何せ魔法で作ったとしか説明できず、詳しく説明できないわけでは無いが、理解するには前提となる知識が多いので、そんな質問をされても困ってしまうのだ。


「ええ、国宝級の魔道具を作れるなんて、魔法使いであれば可能なのでしょうが」


「国宝!?」


「当たり前でしょう。もう少し魔道具についても目を養いなさいね」


「むむむ」


 そんなユウヒの実質使い捨て解呪魔道具の評価は控えめに行ってトルソラリス王国の国宝と一緒に並んでも遜色がないらしく、驚くブレンブに困った子でも見るような目を向けるイトベティエだが、作った本人であるユウヒも驚きである。


 何せ彼はそんな国宝級の魔道具をバイクのヘッドライトに使う準備を終わらせているのだ。少なくともトルソラリス王国では、魔法使いのユウヒでなければ批判は免れない愚行である。


「どうやってか……光封じの箱の中に土台を入れてその中に精霊に休んで貰っただけだからな」


「は?」


 作り方自体は簡単である。なんの石でもいいので形を整え、魔法で石の性質を整え、光封じの箱の中に入れた後蓋をして、その状態で光の精霊に入って寝て貰えばいいのだ。惜しむらくは工程が簡単でもほぼ人間には不可能な作業が多いと言う所だ。トルソラリス王国の一般的な魔道具技師で可能な作業は石の性質を整える工程まで、光封じの箱などは一流技師の領分であり、精霊にお願いなど不可能である。


「そそ、それは教会の揺り籠と同じ秘儀なのでは!?」


 しかしそんな精霊を使った工程を教会は可能としている様で、それなりに知られた話ではある様だがその詳細については教会の秘儀らしく、関係者以外誰も知らない。


「さぁ? え? あーそうなの?」


<!!!>


「?」


「まぁそれとは違うよ」


 のだが、精霊と深く意思を交わして話せるユウヒには秘密にできるわけがなく、また彼に声を荒げる精霊を見る限り、その秘儀と言うのは真っ当な技術ではなさそうだ。


「そうですか……」


 彼の表情から状況を察したイトベティエは神妙な顔で返事を返すが、その心の内では様々な考えが渦巻いていた。しかしそんな困惑など吹き飛ばされるような言葉がユウヒの口から零れ出る。


「国に渡すんなら使ってないのがいいだろうから、もう一個渡しときますね」


「へぁ?」


 もう一個。


 国宝級の解呪魔道具がもう一個、そう言いながら気軽にバッグから取り出されたのはイトベティエが大事に持つ赤い魔道具とは違い石で作られた立方体の箱。


 流石のイトベティエも変な声が洩れて表情が崩れ、隣のブレンブは目玉が飛び出んばかりに目を見開いて固まっている。


「治療院にも上げるつもりでいくつか持って来てるし」


「は? いくつか?」


 驚き固まるブレンブの手を取り、その手の平に卵ほどの大きさをした石作りの解呪魔道具を載せるユウヒ。組み紐付きの魔道具を渡しながら話すユウヒの言葉に驚くブレンブは、困惑したまま震える手で魔道具を抱えると、恐ろしいものから逃げるように後退る。


 あまりに理解不能な言葉に驚き過ぎて腰が抜けそうになっているようで、部屋の入り口近くに置いてある備え付けの椅子に座ろうとしている様だが、その瞬間


「その話聞かせてもらいましたわ!!」


「ぬお!?」


 部屋の扉が勢い良く開く。


 現れたのは治療院の院長であるアネモネ。


「あら? ごめんあそばせ」


 椅子に座ること叶わず床に尻餅を着いたブレンブを見下ろした彼女は、恥ずかしそうに謝罪するとすぐにその目をユウヒに向けて潤ませる。


「びっくりした」


 一方、ユウヒはまさか盗み聞きしていても突入して来るとまでは思っていなかったようで、少し遅い【探知】の警報に目を向けて引き攣った笑みを浮かべていた。彼の視界には赤い文字で『突入警戒』や『想定外』や『申し訳ない』などの文字が躍っており、絶対ではない魔法の力に言いし得ぬ恐怖を感じるのだった。


「ユウヒ様ユウヒ様ユウヒ様?」


「はいはいはい?」


 『慢心ダメゼッタイ』と言う赤文字を最後に、クリアになる視界いっぱいに飛び込んでくるのは治療院長の緩んだ笑み。何度も名前を呼ばれる事に対してどこか御座なりに返事を返すユウヒ。その対応の仕方は某友人たちに向けるような適当さが伺えた。


「その魔道具、頂けると聞こえたのですが?」


 一方でアネモネはどこから盗み聞きしていたのか興奮で乱れる呼吸を整えながら確認する様に問いかけ、問いかけた後もハァハァと荒く熱い息を洩らしている。


「盗み聞き耳はいけませんよ? バレバレです」


「…………罠に掛けました?」


 しかしユウヒの返答に表情を窄めると、ジト目で見詰めながら罠にかけたのかと、先ほどの言葉は嘘だったのかと恨めしそうに問いかけ始めた。彼女は大人の女性であるが、今の言動も見せる表情からも大人の威厳は感じられず、膨れっ面も相まって幼く見える。


「いえ、こっちが治療院用です。袋から出して使ってくださいね」


「まぁまぁまぁ!!」


 しかしそんな顔もユウヒから手を取られると驚きの表情に変わり、手の平に置かれた白と黒の刺繍が美しい布袋を目にすると目を輝かせ、確かに感じる手の平の重みに喜ぶ姿は少女のそれであった。



 いかがでしたでしょうか?


 治療院長が大変喜んでいるようですが、どこから聞いてたんでしょうね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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[気になる点] 対価を提示せずに貴重品クレクレなのはいくら必要な物と言えちょっとどうなんやろ
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