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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第80話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 スタール西側から北に向かって伸びる決まった名の無い山、その麓に停まるバイクの上でユウヒは唸る。


「山道を少し登ってみようと思ったけど……道どこ?」


 街道を走ればそのまま山道に入る筈であるが、目の前には土が剥き出しになった山と、崩れた土砂に埋もれた街道の名残しか見当たらない。


<!?>

<!!>


「あーヘアピンカーブ何回かあってそのまま北にぐるっと……言われても分からないくらいに何も無いな」


 周囲に集まって来た精霊によるとユウヒが今いる場所から山へと延びていた道は、蛇のように何度も居り返して山の中腹まで伸びており、そこから大きく山を北側に回る様に緩やかな曲がり道が続いていたのだという。


 が、そんな道はどこにも見当たらず、あるのは土と岩が剥き出しの斜面であり、精霊の言うような草木が生い茂った山などどこにもない。


「あるのは剥き出しの土と砂の岩、今にも崩れそうな抉れた崖かぁ」


 じっくり山を見上げるユウヒは、バイクどころか徒歩で登れる場所も確認出来ず、人が立ち入れば瞬く間に崩れて飲み込まれてしまいそうな山を前に困った様に頭を掻く。状況が分かればいいと言われていたとしても、詳細に調べたいというのは日本人の気質か個人の気質によるものだろうか。


「こりゃ無理だな」


<……>


 小さく溜息を吐いてこれ以上の調査を諦めるユウヒに、足元に集まっていた土色の精霊は慰めるように体をやんわりとぶつけるのであった。


「次行くか、次は三叉路に行く街道だな、あっちは道がすぼまっていたから、流れてきた水が収束したと思うんだが」


 足元の精霊に苦笑を漏らすユウヒは、気分を入れ替えバイクのタイヤを回してその場で向きを南に向ける。


 ユウヒが通ってきた三叉路オアシスに続く道は山や谷に囲まれたそう広くない道であり、スタール側から見ると南に行くほど窄まっている為、もし水がそちらに向かって流れたとするなら水は収束して水量も勢いもスタールより酷いことになる可能性があった。


<!>


「だよな、そうなると被害も酷そうだ」


 精霊はユウヒの予想を肯定するように輝き、その反応にユウヒは困った様に眉を顰める。何故ならそれはスタールとスルビルを結ぶ街道が一つ潰れてしまう事を意味し、他の道はどの街道も両都市を結ぶためだけの街道ではないので、スルビルに向かおうと思うと随分遠回りになってしまうからだ。





 今後の事を考えながら北へと向かうユウヒは、ぬかるんだ大地に乾いた道を描きながら走る事数時間、崖の上に立っていた。


「これはひどい」


<……>

<……?>


 ユウヒと付き添う精霊達が見下ろす崖は元々スタールの北部から三叉路オアシスへ伸びる街道、その街道を囲む山々があった場所だが、そこは現在急な崖へと変貌していた。


「道だった場所が崖になってるんですけど」


 三叉路からスタールまでほぼ上り道ではあったものの、バイクでも登れる程度の坂道が途中から周囲の山ごとまとめて抉り取られたような崖となっており、その有様は坂道が途中から地面に飲み込まれた様だ。


「地割れとか生易しいものじゃないな」


 あまりに広い範囲に及ぶ被害は、地割れや山崩れなどと言ったものとは全く違う何かのようで、水が流れ込む崖には滝が出来ていて、その滝の終着点は霧で煙っている。


「なんだろう、何かがごっそり無くなった様な跡だな……」


 あまりに危険なため離れた場所にバイクを停めて崖の縁で四つん這いになり顔を出すユウヒは、何かが無くなったようだと呟き、その背中をたくさんの精霊が心配して引っ張っているがあまり意味は無い。


「何か埋まってたのが押し流されたのか?」


 いくら大量の水が流れ込んできたからと言っても、突然目の前のような断崖絶壁ができるとは思えず、それが鉄砲水発生から数日たっているからと言ってもやはり結論は同じである。


「何だと思う?」


<?>

<??>


 どう考えても水だけの仕業とは思えない目の前の光景に唸るユウヒは、崩れそうな崖の縁から離れると精霊に問いかけた。しかし返ってくる声なき声はどれも困惑したもので、周囲から集まってきた精霊達も突然の事で全く分からないと言った様子だ。


「わかんないよなぁ」


 まるで数千年かけて起きる地殻の変動を一瞬で起こしたかのような光景を、人間程度が理解出来るわけもなく、またあまりに広範囲で起きた現象相手ではユウヒの右目も役に立たず、どんなに視界を塞ぐように輝かせても陥没したと言った事実以外分からない。そんなものは見れば誰だってわかると言うものだ。


「見渡しても土砂しかないし、でも水が押し寄せてこんなに広範囲で地面が陥没するもんかな?」


<!!>


「魔法で? うーん……できなくはないけど、この崩落の原因が分からないから二次災害が怖い」


 いくら見渡しても原因なんて分からないが、どうしても気になるユウヒ。そんな彼に精霊は、魔法の力で元の道に戻せないか問いかける。


 精霊は世界の調和を担う存在であり、強大な力を持っているがそれは調和の力であり、引き起こせるのは自然現象の延長程度、特に小さな精霊の力はそれほど強くない為、ユウヒのように街を囲む様な壁を作ったりなんてことは出来ない。それでもその力は人間に比べればはるかに強大で、大精霊ともなれば目の前のような現象も引き起こすことも可能だ。


<……>


「何もしないでおこう。こう言うのも国や領地の仕事なんだから勝手にやっちゃだめだよ」


 ユウヒの魔法と魔力ならば、この場に新しい街道を作り出すことも可能だ。しかし目の前の状況の発生原因が全く分からない以上、新しい道を作ったところでまた崩れてしまうかもしれない。そも、他人の土地を勝手に弄るなどやって良い事ではなく、スタールの壁も割とグレーな行為である。質の悪い人間ならそこに付け込んで損害賠償でも請求するところだ。


≪!≫


「さて次は、東の草原を見ながら北の街道だな、あっちはまだ川になってるところもあるからこけないように気を付けないと」


 少し残念そうに、しかし元氣に返事を返す精霊達に肩を竦めるユウヒは、ぽろぽろと崩れている崖から離れると、崖に流れ込む川に目を向けながら、離れた場所に停めてあるバイクへと戻る。次に目指すは北側の街道、領都を通り王都へと続く道は未だ川となっている様で、ユウヒは少し緩んでいた心に気を入れ直す。





「うーん、空気が澄んでて気持ち良いな」


<♪>


 しかしそんな気も数時間バイクを走らせるうちに緩んでしまう。何せ周囲は乾燥地帯とは思えないほど湿潤であり、芽吹いたばかりの草木を撫でる風は砂避けがいらないほど澄んでいる。


「新しいボディが良いのか、からだを流れて行く風が穏やかな気がするよ」


 さらにはユウヒの新しい相棒であるバイク2号が切り裂く空気は、そのボディを滑らかに流れユウヒの体を優しく撫でて行く。


「草原は復活したな、前はカリカリでしおしおで茶色かったのに、明るい緑が目に優しい」


 まるでバイクと人馬一体になった様な感覚を覚えるユウヒは、右手側に見える草原に目を向けると目を細める。


 そこは以前、ひょろひょろと背が高く、茶色に枯れた草で覆われていた場所であったが、今は芽吹いたばかりの草木が低く茂る草原となっており、ユウヒが見た時の様な単一の植物が目立つような草原ではなくなっている。


 草原を見ていたユウヒは首に掛けられた物が風で揺れるとその位置を戻す。


「ゴーグルを作る必要なかったな、目に砂が飛んでこないのはありがたい」


 それは目を風や砂から守るゴーグル、スキー用と似た形のそれはスタールに着いてからユウヒが作っていたものであるが、その出番はまだまだ先のようだ。太陽の日を浴びる緑色のレンズは、自らの出番が来るのを心待ちにしている様に光を跳ね返している。


「林だった場所は草原の草が侵食してきてるな、早めに植樹でもしとかないと面倒なことになりそうだ」


<!!>

<!!!>


 さらにバイクを走らせれば見えてくる元林、今では草原と同じような植生に変わってしまい、草原の一部ですと言われても納得してしまうような有様である。


 しかし林の樹々は精霊にとって必要な存在らしく、ユウヒの体に摑まる精霊達は慌てた様子で対策会議を始めていた。このままでは林が無くなるとか、森とは切り離さないといけないとか、樹の精霊が弱ってしまうなど悲鳴が聞こえてきてユウヒは眉を上げる。


「精霊としてもあの林は必要なの?」


<!>


 少し不思議に思ったユウヒの問いかけに対する返答は肯定、というより当たり前と言った雰囲気であった。どうやらスタールの林は思った以上に重要な場所のようだ。


「あー森が後退してしまうのが嫌なのか」


 その主な理由は森の後退、林と言う緩衝地帯がある事で深い森は維持されていたが、その林が無くなった事で、森は少しずつ後退を始めているという。


 北へバイクを進める道中精霊達はユウヒに助力を求めるように囁き、ユウヒはその声に苦笑いで答える。そんなやり取りから小一時間後、ユウヒの前には川が広がっていた。


「こっちは川で進めないな、街道を行こう」


 そこは元々獣道のように伸びていた古道、昔の人々が使っていた道が鉄砲水で押し広げられて川になっており、まだまだ宝玉から溢れた水はどこかに溜まっているようだ。


「街道は街道で一部がまだ川みたいになってるし、石がゴロゴロしてるけど……歩く分には問題は無いな」


 なるべく周囲の状況からと思って脇道を進んでいたユウヒは主要な街道に戻って来るが、領都との間にあるなだらかな山に近付けば近づくほど、その街道も一部が川のようになっており、どこから転がって来たのか大小様々な石が転がっている。


「馬車でもまぁいけなくはないくらいかな」


 歩く分には普通に避けられる石も、バイクで通るには速度を制限されてしまう。馬なら馬が勝手に避けてくれそうだが、馬車で走るならバイク同様に速度を緩めて気を付けないと車輪が乗り上げてしまいそうだ。


 ユウヒは行けると思ったようだが、実際は街道整備が必要な状況で、もしこのまま馬車を普通に走らせたなら、きっと街道は車輪を壊して動けなくなった馬車で通行止めになってしまうだろう。


「流石にこれだけ水があると地面が速乾することは無いか、うむ安全安全」


 石を避けて走れば自然と川のように水が流れる場所も走る事となるバイク、宝玉を改造して作った水吸収装置を搭載しているとは言え、ユウヒなりのセーフティをしっかり機能しているのか川もその周辺も水が枯れることは無いようだ。


「水吸収装置は半分くらいそのまま使ってるから細かい設定が良く分からんのだよなぁ」


 だがその設定も隅から隅までユウヒの手によるものではなく、超古代文明の遺産を元に作られている為、作った本人も全ては把握していない。


「一応、水槽などの水の誤吸収対策とかそう言う文言は見つけたけど、川もその対象みたいだな」


 川の水が吸収されないという機能も、宇宙船用の水吸収装置に組み込まれていた安全設定らしく、壊れたそれらの内容を補完しながら作り上げたユウヒの思惑はいい方向に働いているようだ。


<?>


「ん? 超古代文明の遺産はすげぇなって話、何か知ってる?」


 だがそれもこれも超古代文明の技術がすごいだけであり、自身の技術は大したことが無いなどと考えているユウヒに、精霊達は不思議そうに瞬く。超古代文明とはいったいどんな文明出たのか、期待が膨らむユウヒであるが、精霊達は弱々しく瞬いたと思うと強く光る。


<!!>


「君らも知らないのか、どのくらい昔なんだろうね?」


 まったく知らないらしい。


 小さいとは言え精霊、人間なんかよりずっと長生きである彼女達が知らないのなら、もう調べようは無いなと諦めるユウヒは空を見上げる。宇宙に進出していた超古代文明の遺産ならもしかしたら宇宙にもあるかもしれない、そう思うとユウヒの胸にはわくわくが溢れてくるのであった。


「うん、ここまで走って来たけど特に問題は無さそうだな今どの辺りだろう」


<!>


 それからしばらく街道を北へ北へと進みながらバイクの上から周囲を見渡したユウヒ、どうやら彼の見える範囲では問題は見当たらない様で、肩掛け鞄から地図を取り出し広げながら呟く声に精霊が集まる。


「この辺か、しばらく坂道が続いてるからこの辺も川になってるんだな」


 サンザバール領の領都は大きな窪地の底にあるのでそこへ続く道はどこもしばらくは緩やかな登り坂多く、現在地はその坂道の始まり辺りのようだ。一体どれだけの水が排出されたのか、まだ流れ続ける足元の水に溜息を洩らすユウヒ。


「サンザバール領都までバイクでゆっくり二日くらいかな、馬車だともうすこしかかるかな?」


 このまま進めば領都バザールまで二日ほどで行けるようだが、ユウヒもそこまで調べる気はないようで、バイクのハンドルを握り締めると車体を傾け、後輪を強く回転させてその場でバイクを旋回させる。


「流石にそこまで見る気にはなれないからね、このくらいでいいでしょう」


<!>


 ずいぶん低い場所まで落ちてきた日を横目に笑みを浮かべるユウヒの言葉の意味を理解した精霊達は、一瞬強く光るとユウヒのバイクしがみ付く。調査の手伝いの為に周囲に目を向けていた精霊達の搭乗を確認すると、ユウヒは一つ頷きハンドルに強く魔力を強く送り込む。





 ユウヒの魔力を受けて回転盤が全力で回り始めて小一時間後、2時間以上かかりそうな道のりをあっと言う間に下り終えたユウヒのバイクは宿の倉庫で休んでいる。


「と言った具合です」


「……本当に全部見て来たのか?」


 一方でユウヒは夜の代官所でガスターに調査結果の報告をしに訪れたのだが、報告を受けるガスターもその秘書も呆れと驚きで顔を引きつらせていた。


「見てきましたけど、大体が近い場所で問題が発生していたので、遠くまで見てこれたのは北の街道くらいですね」


「いや、十分すぎるしあまりに早い。ありがとう流石遺物乗りだな」


 どうやらあまりに早すぎるユウヒの調査に感情が思わず漏れていた様で、咳払い一つ鳴らして表情筋に力を入れたガスターはユウヒを労う。


 元々ガスターが警備兵に調査の見積もりを依頼した時は一週間はかかると見込まれていたのだ。それを一日で終わらせたと言われれば驚きもするし疑いたくもなる。


「それならよかった」


「一応こちらでも兵を派遣するが、今の報告をもとに装備を整えてからになるな」


 だがこの依頼はユウヒを信用してのものであり、疑う余地は元から無く、報酬もユウヒが完了報告に来たという知らせを受けた時点で持ってこさせており、今は机の上、ユウヒの前に袋に入れられた状態で置かれている。袋がサービスで付いてくるくらいには大金のようだ。


「あー……それでだなユウヒ殿」


「はい?」


 布袋を開き報酬を確認して目を見開いているユウヒに、ガスターは申し訳なさそうな表情を浮かべて声を絞り出す。どうやらまだユウヒにお願いしたい事がありそうで、顔を上げた彼はガスター達の表情からは全てを察して困った様に笑みを浮かべるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 調査を終えて判明する被害甚大なスタール周辺であるが、まだガスターのお願いはあるようですね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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[一言] 現状まだ寄り道というか本来の目的である探し物の切っ掛けですら無いんだよな
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