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第77話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





「よし、水浸しだな」


<……>


 何もない所から水を生み出す勢いで魔力を使って大量に生成された水は、倉庫の中を水洗いと言うよりは洗濯機に放り込んだような状況にしていた。


 要はやり過ぎである。


「次は乾燥か」


<!!>


 しかし水で蹂躙された倉庫は隅々まで綺麗になり、バイクも一緒に洗浄出来た事で砂一つ付着していない。


 ただ、バイクの継ぎ目や収納ボックスからは水が勢いよく吹き出しており、それを見えないことにしたユウヒは、次の工程を呟き、その呟きに火の精霊が勢い良く反応する。乾燥と言えば火だ、反応した火の精霊の輝きはそう訴えていた。


「乾燥した熱風を循環させてくれる?」


<!>

<!>


 精霊と魔力を使った大型ヘアドライヤー、そんな妄想を受け取った風と火の精霊は元気よく返事を返して魔力を現象に変化させていく。


「さて、俺はバイクを分解するか……サイズも少し小さくしてもうちょっと頑丈にして、あとは今回の事を教訓に完全防水仕様にするか」


 精霊達に髪の毛を弄ばれても気にすることなくバイクに近ずくユウヒは、ずぶ濡れのバイクに手を添えると、作り変えるバイクの姿を想像しながらそのボディを魔法の力で分解して行く。とても簡単に外している様に見えて、実際は高度な合成魔法がバイクのいたるところで作用し、時折何かに反発するような燐光を洩らしている。


<?>


「水の中でも走れるようになれば荷物もこうならないだろ?」


<……>


 不思議そうにユウヒの言動を窺う水の精霊はユウヒの考えをある程度感じ取り、彼の指さす先にある荷物に目を向けると理解を示す。何故ならそこには水と砂と泥で使い物にならなくなった荷物が積まれており、そうならないための完全防水バイクを作ると言われたなら、彼女も理解出来ると言うものである。


「素材系はまだ良いけど、保存食はもう食えないな」


 泥だらけの山は大半が魔物の素材、何かに使えればと思ったユウヒが荷物入れに入れていたものだ。またその山の中には当然食料も入れてあった。保存性の良い乾燥肉はすっかりふやけ、場所を取らない乾燥野菜も水を吸って膨らみ入れ物から溢れている。


<……>


「ん? 何で謝るんだ? こんなの仕方ないだろ気にすんな」


 あまりの惨状を再確認した精霊達は申し訳なさそうにしているが、ユウヒは不思議そうに眉をしかめると仕方ないと言ってバイクの大きなボディパーツ取り外す。


「外装は重いから床に転がしておくか」


 重いと言いつつ軽々と持ち上げるの流線形に加工した鉄板、正確には鉄ではない合金の板であるが重いのには変わらず、損傷した倉庫の壁に立て掛けたらそのまま倉庫が壊れそうになるくらいには重い。


「こういう時に魔法は便利だな、ボルト要らず溶接要らずだよ」


 そんな重い合金は魔法によって接着されており、取り付け部分を見ても削り出しの様な滑らかさである。もし魔法の力が無ければそのような加工は不可能であり、短時間で動かせる形にする事も不可能であろう。


「おっとと、んー……フレームも太くするか、サスも、回転盤も、そうなるとタイヤも」


 てきぱきとバイクをばらしていくユウヒであるが、時折外した瞬間に中から水があふれ出て来ることがあり、さらにはフレームの一部に損傷まで見つかる。どうやらここまで走ってくる間にもそれなりのダメージがあったらしく、難しい表情を浮かべるユウヒは新しく作り変えるバイクの耐久性を上方修正することにしたようだ。


「うん、全部だな! 魔力の活性化装置と補完部分も改良しよう! そうだ水収収集器を組み込んで、携帯型も作って連動させて……ふふ、楽しくなってきた」


 そして暴走する。


 ユウヒはバイクの専門家ではない。しかし傭兵団の仲間と渡り歩いた戦場でそれなりにバイクの整備は見てきているし、右目の力もあって何とか形にする事が出来ている。そこで実際に魔法技術を取り入れ形にし、さらに動かし分解して実機試験を終えた。そうなって来るとよりその思考は洗練されていく。


≪……≫


 思わず閉口する精霊達の前で、ユウヒは怪しく魔力を渦巻かせより良い愛機を作るために思考を暴走させるのであった。





 それから数日、ユウヒが一日のほとんどを倉庫で過ごしている間にスタールの周辺は緩やかに水位を下げていた。


「ユウヒ殿の想定通りに水はすでに引いたと考えて良さそうです。氷の壁は消えましたが石壁の方は特に損傷も見当たりません」


 その日は朝から兵士が町の外周を確認し、街が浸水しない程度には水が引いたことを確認出来たようで、その際に確認したユウヒの石壁は変わらずそこにあり、損傷も発生していない様だ。それは魔法で発生した石壁としては一般にありえない事でもあった。


「切り出せそうか?」


「石工に見せましたが問題なく切り出せるようです。厚みも誤差があまり無いので切り出しも簡単だろうとのことでした」


 ユウヒの言葉を信じていないわけでは無いが、それでも用心をしていたガスターは、まったく損傷が無いとなると、逆に硬すぎて切り出せないのではないかと言う不安を感じているようだ。しかし石工曰く、切り出すのは難しくない様で、均一な厚さの壁であればその後の加工も容易である。


「補強すると言っていたが、その辺もやってくれたのかもしれんな」


「そう簡単に出来るものでしょうか?」


「そうなってるのだから出来るのだろう……普通の魔法士には無理だろうがな」


 彼らの常識的にはありえない魔法で作られた石の壁、魔法士では不可能とまでは言えないが、あまりに非効率故に作ることがないであろう壁を前に、誰しも呆れとも困惑ともとれる感情を湧き上がらせていたが、ガスターは慣れたのか諦めたのか、疑問を口にする部下に対する返事はどこか投げやりである。


「街を一周囲うだけの壁ですからね、うちの魔法士総出でやるならどれだけ時間が必要なのか」


 事後を調べれば調べるほどに隔絶した力を目の当たりにしていく彼らは、自分たちがいま生きている事が奇跡であることを再認識し、自らの力の小ささに思わず背を丸めてしまう。


「比べる相手が悪い。しかし外の水が引いたならそろそろ周辺調査に出ないとな、各門前の壁を切り出してくれ」


「分かりました」


 しかしガスターが言う通り比べる相手が悪いのだ。そんな意味のない事を考え感じる暇があるならば、今は少しでもスタール復興の為に足掻くべきだと、折角助かったのにここで立ち止まってどうするのかと、すっかり気持ちを切り替えているガスターは一歩前に進むために門前を塞ぐ石壁の切り出しを指示する。





 そんな石壁の切り出しが開始された東門にユウヒの姿があった。


「お疲れ様です!」


「え、あ、どうも?」


 水が引いたことはユウヒも精霊から聞かされており、必要であろう薬草の採取と聖域の様子を見るために出かけるところの様だが、彼を見た兵士は皆一様に胸に拳を当てて元気よく声を掛けている。


「すっかり顔を覚えられてしまったな」


 どうやら完全に兵士から魔法使いとして覚えられてしまったらしいユウヒは、あちこちから飛んでくる元気のいい声に妙な気分を味わいながら門を潜る。潜った先ではすでに石壁が切り出され、小さな馬車が通れるくらいのスペースが確保されていた。


<!>


「まぁ良いんだけどね」


 道が出来ている事にほっと息を吐くユウヒの隣では、兵士がユウヒに声を掛ける度に上機嫌となっていく精霊が瞬いており、彼女達の囁きに苦笑を漏らすユウヒは作業を行う兵士に敬礼で見送られながら石壁の向こうへ足を踏み出す。


「うわ、林が無くなったな」


 スタールを出てぬかるんだ地面をしばらく歩けば林が見えてくるはずであるが、そこに林は無く、見渡す限り荒れて湿った砂地が広がっていた。


「草が一斉に芽吹いたって感じか、こう言う性質なのかね?」


 しかしその砂地には小さな草の芽が無数に顔を出しており、足を踏み入れるには少々躊躇してしまうほどに若々しい生命で溢れている。


<!!>


「あぁ、雨期の草原はいつもこんな感じなんだ」


 その光景はまさに雨期を迎えた草原の姿らしく、立ち枯れていた林の樹々は根こそぎ流されてしまったが、大地から生命が断たれることはないようだ。よく見ると若々しい命で溢れる地面からは時折精霊が姿を見せており、彼女達もまたその光景の一助となっているのだろう。


「草はすごいねぇ」


 しばらくその場で考え込むユウヒは、【飛翔】の魔法で少し浮かび上がると、ぬかるみを歩く時と同じ要領で若々しい草木の上を静かに歩き、きょろきょろと周囲を見渡す彼の両目は楽しそうに輝いている。


「くっきり森と林で様子が違うな、と言うか流れ着いた倒木が壁みたいになってる」


 そんなユウヒの視線の先には現れたのは、倒木を受け止めてもびくともしない森の入り口、樹の密度が違うからかそれとも根本的に何かが違うのか、洪水の被害を感じさせない森は、受け止めた倒木が大きな壁となって立ち入る者を拒んでいるようだ。


「魔物も森の中に引っ込んだ感じか」


 またここまで歩いてくる間も【探知】の魔法で周囲を調べていたユウヒ、それまで感じなかった魔物の気配を森の奥に見つけて小さく呟く。


 正確には森の奥に居た魔物だけが助かっただけであり、林で身を隠していた魔物や動物は倒木と一緒に流されていた。


「あーでも、地面の薬草は駄目になってるな」


 倒木の壁を飛び越え、ジメジメとした森の中に足を踏み入れたユウヒは、すぐに足元のぬかるみ具合に気が付き、土砂の下に埋もれた薬草の一部を見つけると状況を理解する。森の樹々は太く広く根を地面に張っているから倒れなかっただけで、洪水は地面の草木を確実に蹂躙していた。


「新しい芽が出てるから大丈夫なんだろうけど」


 森の奥なら採取できていた薬草もすっかりその姿を泥の下に隠してしまっていたが、林があった場所ほどではないが森の奥も新しい芽が姿を見せている。しかし日の当たり具合が悪い所為かその成長速度は遅いようだ。


「屋内庭園は大丈夫だろうか?」


<!!>


 周囲の樹々を見渡せば木の幹が同じ高さまで土で汚れており、それによってユウヒの身長よりも高い位置まで水が来ていたことがわかる。高低差のあまりない森であることから、聖域となってしまった屋内庭園も被害は免れないだろうと予想するユウヒの隣で精霊は強く楽し気に瞬いた。


 それから十数分、ユウヒは【飛翔】力で森を飛び跳ね進み、


「……やったな?」


 聖域を前で小さく呟き同道していた精霊達にジト目を向ける。


<!?>


「いやいや、まったく被害が無いなんておかしいだろ?」


 全力で体を横に振って精霊は否定の意をユウヒに伝えるが、どう見てもおかしい光景が目の前に広がっていた。それはまったく被害を受けていない屋内庭園とその周辺に植樹された様々な果樹、そのさらに周囲の地面は見てわかるほどに水に濡れてぬかるんでいて、草木も土砂に埋もれているが、果樹畑や屋内庭園の周りの地面は綺麗な緑に溢れている。


<!!?>


「なに? 精霊達が一時避難場所に使ったから無事?」


 しかし精霊達は本当に何もしていない、ただそこにいただけであった。しかし精霊と言うのはその存在自体が力や恩恵の塊とも言え、そんな精霊が一つの場所に集まってしまえばそれだけで周囲に様々影響を与える。


「……なるほど、みんなでここに引きこもったのか」


<!>


 水害によって逃げてきた精霊が集まっていた聖域は、その聖域自体の力も相まって水害と言う脅威を退けたようだ。水の精霊が集まる場所は綺麗な水が集まるし、風の精霊が集まる場所は年中強い風が吹く。様々な種の精霊が無数に集まった結果、なんの思惑も無い偶然であるが、彼女達を守る強力な結界を聖域に生み出したのだった。


「確かに土っぽいのとか火っぽいのとか多い気がするな、あと樹っぽいの」


 あつまった精霊の中で特に多いのが土の精霊や火の精霊、火の精霊は単純に水が苦手であるし、土の精霊は水害によって地面が抉られ一緒に流されてきたようだ。さらに樹々が押し流されてしまった事で林に住んでいた樹の精霊も聖域に避難していた。


「まぁ別に何してても良いんだけどね」


 どこかそわそわとした様子でユウヒを遠巻きに見詰めていた精霊達は、ユウヒの言葉にパッと明るく輝く。勝手に人の庭に入って遊んでいた子供の様な申し訳なさを感じていたらしい精霊達は、家主の許可が出たとばかりにのびのびと振舞い始める。


「中も特に変わってないな」


 そんな精霊の考えなどユウヒには分からない。解っているのは精霊にとって聖域の居心地が良いと言う事ぐらいで、屋内庭園の扉を大きく開いて中に入るユウヒは、特に変わった様子が無いことにほっと息を吐く。


「薬草がすごいことになってる……だいぶもっさりしてるな」


 ただ、しばらくの間来ていなかったので薬草の植えられた花壇は鬱蒼としており、いくらでも薬草が採れそうだとユウヒは目を見開き小さく鼻から息を吐く。あまりに鬱蒼とした花壇を見て少し呆気にとられた様だ。


「治療薬とが解毒とか、そんな感じの薬草メインで刈って行こう」


 魔法の力で育てられた薬草は自然の薬草よりも安定して高品質であり、ユウヒの一言によって宙を舞い始める薬草からは青々とした強い匂いが香り立つ。


「ベッドは完全に占拠されてるな」


 ユウヒの手伝いを始め薬草を刈り始める精霊の一方で、ユウヒのベッドの上はカラフルに輝いている。それは無数の精霊であり、静かな寝息を立てるように瞬いている。


「あとこれだな、帰ったらバイクに使ってみよう」


 今日は泊まる予定ではないのでベッドを精霊に明け渡すことにしたユウヒは、少し声を抑えて呟くとバエランの身を手に取って洗っておいた搾り器の中に放り込んでいく。どうやらバイク用の機械油に使うつもりの様で、搾り器に実を放り込み終えると魔力を込めて回転盤をゆっくり回し、その間に遠心分離機まで用意しだすユウヒ。


「こんなもんか、今日はさっさと戻って各種整備の続きをしないと」


 それから小一時間後、どれだけ機材を作っているのか、いくつもの機材や器具が広げられた机には陶器製の瓶が並べられ、籠の中にはすでに選別された薬草が詰められている。どうやら大量生産には道具を使った方が楽なようであるが、彼の魔道具の生産能力はこの世界でもちょっとした工場並みであり、その道の人がこの部屋を見たら興奮すること間違いなしだが、そんなことユウヒは知らない。





「……ふーむ?」


「院長どうしたんですか?」


 スタールの治療院長アネモネは小さく唸る様に声を洩らす。その視線の先にはユウヒが今日収穫したばかり薬草が置かれている。


 彼女の側で薬草の下処理をしていた薬草管理の女性職員は、薬草管理室に現れてユウヒが居ない事に落胆していた院長の妙な様子に小首を傾げた。


「ユウヒ君が持って来てくれた薬草の品質がね」


「品質良いですよね!」


「そうなんだけど……」


 ユウヒの持ってくる薬草の品質は常に良質であり、薬草のエキスパートでもある管理担当の職員にとってその薬草を扱うのは楽しい一時でもある。しかしそんな良質な薬草が今の状況で手に入るとは思えない院長、事実として森の中の利用可能な薬草は壊滅している。


「何でも森の奥は被害なかったそうですよ」


「不思議な話ね」


 そんな不思議な話があり得るのだろうかと眉を寄せる院長は、不思議の塊の様なユウヒの姿を思い出すと少し納得してしまう自分が居て思わず苦笑してしまう。


「ですよね! 私も聞いたんですけど精霊が何かやったのだろうと話をはぐらかせれてしまいました……」


「精霊ですか……ふむ」


 大体の事は精霊に押し付けるユウヒ、魔法使いと精霊のつながりは非常に強く、そう言われてしまえば納得せざるを得ない。そう言う存在である魔法使いであるが、院長にはユウヒがもっと別の何かのように感じられて仕方ないようである。


 この女性は、存外勘が鋭いようだ。



 いかがでしたでしょうか?


 少しずつ生活が戻りつつある街でユウヒは何を作っているのか、そしてそのバイクはユウヒをどこに連れて行くのか……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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